2009年 06月 21日
眼科に関するQ&A その3(めばちこ) (369)
~ものもらいMAP~
※このマップにあるように、麦粒腫というのは、全国で様々な名前で呼ばれています。私は、小学校2年の時に京都から大阪へ引っ越しましたが、この短い距離でさえ、『めいぼ』から『めばちこ』へと変化しました。大阪では、『めばちこ』が圧倒的主流ですが、東京では、圧倒的に『ものもらい』のようです。その他、北海道は『めっぱ』、名古屋は『めんぼ』、熊本が『おひめさん』・・・・など、様々で、地方から出てこられた学生さんに、『めばちこ』も『ものもらい』も通じなかった事さえありました。
この通称『めばちこ』は、麦粒腫と言います。これは、2種類あって、睫毛の根元にある皮脂腺や汗腺の化膿性炎症を外麦粒腫、マイボーム腺の化膿性炎症を内麦粒腫と言います。発赤・腫脹し、やがて膿が貯留し、最後に自潰して膿が外へ出てきます。外麦粒腫は皮膚が破れて、内麦粒腫は結膜が破れるのが普通です。
ここからの見解は、あくまで個人的な印象ですが、
①この最初の段階、まだ明らかな膿貯留が生じていない初期の段階であれば、抗菌剤の内服・点眼・軟膏(私は内服の使用頻度が高いですが・・・)で、抑え込む事が可能な事が多いと思います。
②ただ、既に膿貯留が始まっていると、なかなか抗菌剤投与で押えこむ事が困難となります。この場合、膿貯留が生じている部位が皮膚表面に近いか、結膜表面に近い場合は、膿点として見えてきた段階で、穿刺して排膿すれば、経過を短縮することが可能となります。
③ただ、この膿点が確認できず、眼瞼全体が強く発赤・腫脹しているような場合は、少し長引くこともあります。膿点が見えないのに、深い切開を加えると眼瞼蜂巣炎を生じても困るので、手は出せません。
患者さんによっては、切ってほしくない人、早く切って治してほしい人とおられますが、私の考えでは、最初は薬だけですし、途中からは膿点が見えれば、切開・排膿しますし、そうでなければ、再び薬だけとなったりで、治療法は様々なのです。つまり、どのくらいで治るのかと聞かれた場合、①なら数日、②なら排膿後数日?③なら、正確な予想は困難でしょうか・・。
実は、ここで話は終わらないのです。実は、患者さんは、眼瞼に違和感を覚えたら、何でも『めばちこ』が出来たといって来られる事が多く、本当にめばちこ(麦粒腫)のこともあれば、霰粒腫、マイボーム腺梗塞、眼瞼縁炎、眼角眼瞼炎、眼瞼ヘルペス、異常なし・・・など様々です。ただ、患者さんは、区別がつかないので、薬店で『ものもらい(めばちこ)』用のメグスリを購入されることも多いようです。実は、この薬、本当に『ものもらい』だったとしても、およそ有効とは考えにくいしろもの(個人的印象)で、放置して治るもの以外には無効? 結局少し時期が遅れて眼科へ来られる事になります。どうして、売ってるのでしょうね・・・。前述のように、麦粒腫も①の時期に抗菌剤の内服・点眼を併用すれば、治癒へ向かうのに、時期が少し遅れると②や③の経過となることもあります。
更に、話を複雑にしますが、この『めばちこ』に似た、実は全く異なる霰粒腫という疾患があります。これは、マイボーム腺内にできる無痛性の腫瘤です。通常、『めばちこ』とは全く異なるのですが、その初期に少し発赤・腫脹することもあり、また経過中に、急に発赤・腫脹を来すこともあります。そうなると、『めばちこ』との鑑別が難しくなりますし、特に急性霰粒腫と呼ばれるような、一部に化膿性炎症を伴った場合、一部に麦粒腫ができたといってもいい状態です。この場合は、当然ながら先ず麦粒腫として対応します。切開排膿することだってあります。ただ、気をつけるべきは、急性炎症が消退しても、肉芽腫が残る訳で、当然この部分は、手術して摘出しなければ治りません。
つまり、所謂『めばちこ』として来られた患者さんに、いつ頃治りますかと聞かれて、8-9割方は推定可能でしょうが、1-2割は、若干予想外の経過をたどるのではないでしょうか。こんな場合、信頼を失ってしまうのかもしれません。気をつけないと・・・・