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オルニチン  (597)

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最近、年に一度、所属していた大学の若手の研究者の論文をのぞき見る機会ができました。今年もその季節がやって来てしまい、少しだけ勉強する事になりました。

Induction of arginase II mRNA by nitric oxide using an in vitro model of gyrate atrophy of choroid and retina. Ohnaka M, Okuda-Ashitaka E, Kaneko S, Ando A, Maeda M, Furuta K, Suzuki M, Takahashi K, Ito S. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2011 Mar 18;52(3):1493-500.

生体にとって、有毒なアンモニアを尿素に変えて無毒化するシステムの一つに尿素サイクルがあります。Gyrate atrophy of the choroid and retina という稀な疾患があり、眼底に特有の脳回転状の脈絡膜網膜萎縮を示します。先天的にオルニチンアミノ基転移酵素が欠損し、結果として高オルニチン血症を来たし、眼科的には前述のような眼底疾患をつくるのです。そして、この眼底所見の形成過程は、オルニチンが網膜色素上皮に対する毒性が引き金と考えられていて、私も、以前微量のオルニチンをサル眼の硝子体内に投与する実験をしたことがあります。

[Retinal degeneration after intravitreal injection of ornithine. 1. Early change after administration]. Takeuchi M, Itagaki T, Takahashi K, Uyama M. Nihon Ganka Gakkai Zasshi. 1990 Nov;94(11):1012-23

  形態学的な判断ですが、見事に網膜色素上皮だけが障害されました。ただ、私には、なぜオルニチンが網膜色素上皮に対して毒性を持つのかは不明のままでしたが・・。この論文では、オルニチンの上流にあるアルギニンの代謝産物NOの過剰産生が網膜色素上皮障害の原因であろうと推測しています。
  ところで、最近このオルニチンがサプリメントとして登場しています。かつて、微量のオルニチンをサル眼の硝子体内に入れて網膜色素上皮を破壊していた私としては、かなり意外なのです。ただ肝細胞の尿素サイクルはエネルギーを消費しながら常に回転していて、アンモニアを解毒しています。オルニチンの摂取は、このサイクルを促進させることで、アンモニアの解毒作用を高め、それが疲労回復にも有効だと宣伝されています。そうかも知れませんし、そうでないかも知れませんが、本当に網膜に害はないのでしょうか・・・と、思っていたらこんな論文が。

Retinal risks of high-dose ornithine supplements: a review. Hayasaka S, Kodama T, Ohira A. Br J Nutr. 2011 Sep;106(6):801-11.

やはり、短期間・少量のオルニチン摂取は問題ないが、長期間・大量の摂取が、高い血中オルニチンレベルを維持すれば、流石に網膜毒性に配慮すべきだと警告されています。サプリメント販売会社は、安全性を謳っていますが、オルニチンの網膜色素上皮に対する毒性を支持する私としては、やはり長期間投与には賛同しかねます。高齢者の眼底を見ていると、広範囲にわたって周辺部の網膜色素上皮が何となく汚いものの視機能に異常がない人や黄斑部にドルーゼンが多発しているものの加齢黄斑変性を発症していない人は沢山おられます。こういった人を含め、網膜色素上皮は加齢と共に痛んでいくのです。最近はやりの自発蛍光写真を見れば、加齢と共に網膜色素上皮内にリポフスチン顆粒が蓄積する事が観察される筈です。
多分大丈夫だとは思うのですが、長期にわたってオルニチンを摂取し続ける人の安全は確保されていないのでは。
Commented by ルナママ at 2013-01-20 09:32 x
はじめまして。
光視症から網膜剥離にならないか心配し、この記事を偶然拝見いたしました。
幼少から光に弱く30代前半、太陽光で飛蚊症になり、40代の今光視症です。オルニチンをのみはじめてから光視症になりました。
薬物代謝酵素が少ない病気もあります。
オルニチンはそれらを考慮し、メーカー提示の半分以外の量しか飲んでませんが代謝できない場合は危険ですよね、その場合、光視症になりますか?
難病で外出が困難で眼科にはまだかかってません…
飛蚊症がわたしの場合、紫外線が原因だったので光視症も紫外線や眼精疲労が原因と思ってました。
もしよろしければ…回答していただけると有り難いです。
Commented by takeuchi-ganka at 2013-01-20 13:33
眼球内には硝子体と呼ばれるゼリー状の物質が、眼底の網膜と軽く接着しています。加齢に伴い硝子体が変性し(小さくなる)、眼底と接着していた硝子体が網膜から分離すると、硝子体内に濁りが発生し、網膜に影が映るので、飛蚊症を自覚するようになります。同時にまだ眼底と接着している部分の網膜が牽引されると、光を感じる(光視症)ようになります。これが通常の症状のメカニズムで、オルニチンは無関係と考えます。
Commented by ルナママ at 2013-01-21 09:14 x
回答ありがとうございます。
オルニチンは関係ないのですね、ありがとうございました。
飛蚊症は仕事で西日を直視後、目が激痛になりその後すぐになりました。
同じ仕事している仲間は眩しいことも訴えず、目の痛みなく…だったので
幼少から日常的に異常に太陽光に弱かったのでそのせいかと思ってました。
発症が31歳だったので…
オルニチンは飲み続けてみます。
メーカーにも念のため問い合わせ中です。

お忙しい中、ありがとうございました。
Commented by 明日天気になあれ at 2015-05-26 18:50 x
30代後半で両眼白内障の手術をして、その直後に片眼が網膜剥離となりました。「幼い時にアトピー性皮膚炎だったので当時のステロイド剤の影響」との説明がありましたが、30年前の事が原因とは腑に落ちませんでした。
網膜剥離になった当時、「疲れが取れる」というので「しじみ1000個分のオルニチンが摂れるという味噌汁を朝晩飲んでました。」私の中で、なんとなく不気味な感触があり、纏め買いしたその味噌汁は処分した記憶があります。
もしかしたらオルニチンが・・・?と今日ネットで調べていたら先生のサイトに辿り着きました。
サプリメントの効用ばかりが出回っていて、副作用についての警鐘が少ないのは、危険な傾向だと思います。
by takeuchi-ganka | 2012-03-25 18:17 | その他 | Comments(4)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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