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第387回 大阪眼科集談会 その2 (604)

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 集談会の演題が8題しかないもので、特別講演の時間はたっぷりありました。一風変わった演者紹介をクールに受け流して講演はスタート。今回も勉強になりました。途中情報量に圧倒されて、オーバーフローしてしまいましたが・・。


特別講演
最近注目の視神経疾患 中尾雄三 近大医学部 客員教授


予備知識:折角なので、ちょっとネットで予備知識のお勉強。アクアポリンは、92年にPeter Agre教授が発見したタンパク質で、ちょうど水分子を通す大きさの孔が開いていて、名前の示すように『体内の水を運ぶ』働きをもつタンパク質。教授は03年にノーベル化学賞が授与されています。このタンパク質のおかげで、水は細胞膜を効率良く通過することができるのです。当然、大量の水移動が発生する腎臓でその研究が進んでいるようですが、アクアポリンは12種類もあり、今回のテーマは、AQP4。分布は、脳、腎臓、眼、肺、消化管、骨格筋で、ノックアウトマウスの表現型は『尿濃縮力低下、難聴、視力障害、脳浮腫軽減』だそうで、やはり視力には関連あり。

1)抗AQP4抗体陽性視神経炎の治療
長年、視神経炎の治療(その効果)は少し謎を含んでいて、すっきりしませんでした。
A randomized, controlled trial of corticosteroids in the treatment of acute optic neuritis. The Optic Neuritis Study Group.  N Engl J Med. 1992 Feb 27;326(9):581-8.
少し古いですが、この論文は衝撃的で、メチルプレドニゾロン注・プレドニン内服・偽薬、どれでも1年たてば皆同じ?というものでした。ただ、特発性・MSと違って、治療してもその効果が僅かしか無く、さらにその効果が減弱する場合や、効果が最初から殆どゼロに近い場合もあり、どうやら、それが抗AQP4抗体陽性視神経炎だったと。この事を踏まえて、視神経炎を分類すると・・・

①特発性視神経炎(65%):1度のみ。再発なし。
ステロイドのパルスをやって(通常1-2回)、内服。改善したら終わり。
※通常1クールはメチルプレドニゾロン0.5g~1gを3~5日間連続して投与
②MSの視神経炎(25%):再発を繰り返し、他の麻痺を合併。
治療は特発性と同じで、同じように改善するが、再発する。それを抑える為に
1)インターフェロン:ベタフェロン皮下注・アボネックス筋肉注(ともに大変な苦労を伴う)
2)分子標的薬・免疫抑制剤、そしてFTY720
※最後のFTY720は、1日1回の内服薬でMS患者さんには朗報!ただME起こしやすいので要注意だと。
※http://www.mt-pharma.co.jp/shared/show.php?url=../release/nr/2010/MTPC_FTY101220.html
③NMOの視神経炎(10%):重症。病型として、視神経炎があり、その後脊髄炎を来す場合と、視神経炎のみを繰り返す場合がある(こっちの方が多いらしいが)。このタイプが抗AQP4抗体陽性視神経炎
治療
1)ステロイド・パルス無効
2)血液浄化療法(重症のMG、ギランバレー・劇症肝炎などが適応)
 ・単純血漿交換(リスク高い)・二重膜ろ過血漿交換・免疫吸着療法など
有効だが問題点も多い:高齢ではリスク高く、眼科医には対応が困難(透析室との連携・凍結血漿・アルブミン確保、大血管ルート確保など)。脊髄炎を伴わないケースも多くて、神経内科医の協力を得にくい・・。
3)免疫グロブリン点滴静注(IVIG): IVIgG 400mg/kg/day×5
副作用少なく有効らしい。
※治療の流れ:ステロイドパルスが無効なら、抗AQP4抗体陽性視神経炎を疑い、抗AQP4抗体を調べる。これが陽性で、MRI造影効果(+)なら視神経炎は活動性と判断、つまり治療が間に合うと判断して、IVIG。再発したら再度IVIG。
Treatment of corticosteroid refractory optic neuritis in multiple sclerosis patients with intravenous immunoglobulin. Tselis A, Perumal J, Caon C, Hreha S, Ching W, Din M, Van Stavern G, Khan O. Eur J Neurol. 2008 Nov;15(11):1163-7.
※この論文のステロイドパルス無効のMSは、抗AQP4抗体陽性視神経炎の事のようで、IVIGで78%視力改善。

ここまで話盛り沢山で、チョット疲れてきたので・・・あとは簡単に。
MSのついての情報はここに詳しく書かれています:http://www.ms.med.tohoku.ac.jp/index.html

2)変わった症状を示す抗AQP4抗体陽性視神経炎
 AQP4が脳内の何処に局在するのか、知りませんが、水の移動に関わるタンパク質なので、脳内であれば脳脊髄液に面している部分に局在しているのでしょう。抗AQP4抗体による反応が、その局在部位で、何らかの働きをしていて、それが抗AQP4抗体陽性視神経炎発症前に、しゃっくり、過眠など少し変わった症状を示すことがある・・・と言うことでしょうか。延髄や視床下部あたりに秘密が・・。ナルコレプシーはオレキシンという視床下部から分泌される神経伝達物質の欠乏だが、脳室の上衣や脈絡膜叢にアクアポリンが多く。そのあたりに関連性があるらしい・・・・という話でした。

3)抗AQP4抗体陽性視神経炎と間違えやすい疾患
比較的高齢の女性で、視神経萎縮があり、両耳側半盲・水平半盲、再発し、ステロイドパルス無効・・・
虚血性視神経症、EB視神経症、鼻性視神経症、脳腫瘍(鞍結節髄膜腫)、肥厚性硬膜炎・・・など。

4)IgG4関連視神経症
昔から眼窩炎性偽腫瘍という何となく曖昧な概念の疾患があります。
実は全身に自己免疫性の炎症性疾患で、組織中にIgG4(+)形質細胞があり、血中IgG4高値で、ステロイド有効な疾患があり、IgG関連疾患と呼ばれています。今まで、
IgG4-related sclerosing disease(Kamisawaら)、Systemic IgG4 plasmacytic syndrome(SIPS,Yamamoto ら)、IgG4-related multi-organlymphoproliferative syndrome(IgG4+MOLPS,Masaki ら)
などと様々な名前で呼ばれていたが、IgG4 関連疾患(IgG4-related disease)で統一。
 眼科でも『眼窩リンパ増殖疾患(☆)の約4分の1がIgG4関連疾患である』らしく、これらをIgG4関連眼症と呼ぶ?部位は涙腺・外眼筋・上眼瞼・後部強膜・・・など眼窩内・眼窩先端など様々。IgG4関連視神経症は、ステロイドに反応するが、減量すると再発し、長期継続が必要。ステロイド離脱には、免疫抑制剤やリツキサンなどの分子標的薬が必要らしい。また、IgG関連疾患からの移行するMALTリンパ腫もある?(☆悪性リンパ腫、反応性リンパ過形成、特発眼窩炎症、炎症性偽腫瘍などを含む。)


※粘膜とリンパ球の複合組織(Mucosa-Associated Lymphoid Tissue:MALT、マルト)から発生するB細胞性リンパ性腫腫瘍をMALTリンパ腫と呼ぶ。胃と小腸が有名だが眼にもある。眼の場合眼窩と結膜原発のMALTリンパ腫があり、後者は予後が良く、副作用の大きな放射線療法を避けて、リツキサンなどで治療。


疲れたので、チョット癒しに・・
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by takeuchi-ganka | 2012-04-17 13:58 | 学会報告 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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