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ためしてガッテン? (645)

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 先日、某国営放送の人気番組『◯×でガッテン』のタイトルが『5日でメガネいらずに!? 新・視力回復法の正体』などという、国営放送らしからぬ怪しげなタイトルだったので、放送を見られた方も多かったのではないでしょうか。私は、見そびれてしまい、後になって友人から聞かされたのですが、番組の主たる内容は、ドライアイ。じゃ、なんで番組タイトルが『5日でメガネいらずに!? 新・視力回復法の正体』なんて刺激的なものになるのでしょう?某国営放送の番組制作担当者は、どんな人なのか知りませんが、何だか3流週刊誌か日刊紙のタイトルみたい・・
 で、問題は、実用視力という耳慣れない言葉です。ドライアイの定義は、2006年の診断基準によれば、『ドライアイとは,様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う』となっています。つまり、①涙が少なくて、②角膜や結膜の上皮障害があって、③それらに伴う不快な症状や視機能異常がある場合、ドライアイと診断されます。

 簡単にドライアイ診断に至るまでの過程を紹介します。
 涙が少ないかどうかは細隙灯顕微鏡で見たらわかります。通常下眼瞼縁と眼球の接する場所に涙は貯まります。その部分を涙液三角とか涙液メニスカスと呼び、その高さ・ボリュームを見て、涙が多いか少ないか判断すると共に、角膜をフルオレセインで染色し(この場合涙を染色しているのですが・・)、瞬目した直後から涙液層がブレイクするまでの時間(涙液層破砕時間BUT)、或いはブレイクする形態・部位などを観察します。(専門家に怒られそうですが、シルマー試験は、なんとなく結果が不安定なので、あまり積極的にやってません。)
 ここまでで、涙の量的・質的異常の有無を確認します。明らかなドライアイの人は、涙液三角が明らかに低く、瞬目した直後に、角膜上を滑るように上がってくる涙液の粘稠度も高そうな印象を受けます。涙液層のブレイクも線状のブレイクがじわじわ出てくるタイプと、丸いブレイクが瞬目直後から出ているタイプとあり、後者は問題のムチンの異常の影響が強いと言われています。
 次に、フルオレセイン染色してあるので、角膜・結膜に上皮障害があるかどうか確認します。通常ドライアイの場合、角膜の両サイドの結膜上皮に障害が出やすく、角膜障害は下方に出やすい印象です。この角膜より結膜に障害が強いパターンを見たらドライアイを強く疑います。ここでは、あっという間で終わりますし、特別な器械も不要です。

 これらの涙の異常・角結膜上皮の異常に加えて、関連した自覚症状があれば診断確定となる訳です。ただ、日常診療においては、①②の異常が強いのに③自覚症状が乏しい人が多く、ドライなアイであっても06年診断基準ではドライアイと診断できないケースも多く、逆に、①②がごく軽度なのに、③症状が強い場合も、①②が③の原因なのかどうか判断がつきかねて、ドライアイと診断しにくいケースも多いのが実状でしょう。

 ちょっと宣伝ですが、最近、当院のオートレフを入れ替えたのですが、新しい機種はトーメーのレフトポと呼ばれるオートレフとトポグラフィーが合体した機種です。通常のオートレフ機能に加えて、角膜トポグラフィー機能があり、その角膜トポの機能を活かして、TSAS(Tear Stability Analysis System)というドライアイの検査が可能になりました。
http://www.tomey.co.jp/Products/Refraction/RT-7000.html

 どうも私の話は、回りくどくていけないのですが、◯×してガッテンから、やっとTSASの話にたどり着きました。実用視力まで後少し我慢して聞いて下さい。

 このTSASは、要するに角膜トポグラフィー写真(マイヤーリング画像)を撮るのですが、例えば、ドライアイの人に10秒ほど瞬目を止めてもらって、毎秒1枚写真を撮っていくと、ドライアイがあって涙液膜が不安定な人で、涙液層がブレイクするとマイヤーリング画像に変化が生じます。結果として、
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1,RBUT(Ring Breakup Time):涙液層の乱れによりマイヤーリング画像に変化が起きるまでの時間。
2,Ring Breakup Map:マイヤーリング画像の変化が起きた位置と時間をカラーコードマップ表示
が示されます。こんな器械が無くてもわかるのですが、数値化・画像化してくれるので、便利です。つまり、眼を開けてすぐは、綺麗な涙液層(乱れのないマイヤーリング)ですが、時間が経てば涙液層はブレイク(マイヤーリングの乱れ)していきます。この事が原因で生じる見えにくさを実用視力の低下と呼んでいるのでしょう。でも瞬目すれば、視力回復する訳で、だからドライアイの人は瞬目が多いのです。

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※TSASと呼ばれる時間の経過と共に涙液層が破壊される状態の解析

 そのドライアイの原因の一つに、ムチン不足があると考えられ、新しい点眼薬、参天製薬のジクアホソル点眼(ジクアス)や大塚製薬のレバミピド(ムコスタ)点眼にムチンの増加作用が期待されています。有用な目薬ですし、効果も確実にあるのですが、しみる・かすむ・目やにが増えるなど・・副作用もあり、使いやすい目薬とは言いにくい面もあります。
 番組では、この他に眼瞼痙攣の話もあったようですが、『5日でメガネいらずに!? 新・視力回復法の正体』ってタイトルはどうでしょう。実用視力と言っても、普通は無意識に瞬目する訳で、瞬目しない状態の視力が実用とは言い難いし、それで困っている人が、5日間ジクアスやムコスタ点眼するだけで回復するケースが某国営放送で言うほど多いのでしょうか・・・
by takeuchi-ganka | 2012-10-28 12:07 | 涙について | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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