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第17回京阪沿線勉強会 その3 (784) 近視予防

第17回京阪沿線勉強会 その3 (784)  近視予防_f0088231_14493832.jpg


「特別講演」
座長 関西医科大学 眼科学教室 主任教授    髙橋 寛二先生
『学童の近視予防研究-アップデート』
川崎医科大学 眼科学教室2 教授  長谷部 聡先生

何度も話を聴いていますが、徐々に話が複雑になってきて、若干消化不良気味だったので、とてもいい復習に。今回は、岡山大学ではなく、すぐ近所の川崎医科大学眼科学2教室の教授として来阪・・・。座長は寛ちゃん。世話人は山岸先生。小さな勉強会でないと出会う事はないであろう3名かも・・・

1,近視予防は必要か
緑内障の機械説VS血管説じゃないが、近視の原因も水晶体屈折説(佐藤)VS眼軸説(大塚)が長い間続いていたようですが、現在はほぼ眼軸説で結論が出たようです。レーシック、オルソK、IOLなどは予防ではない。通常の近視と病的近視は異なるものか?近視の強さを横軸に、近視性の黄斑変性有病率を縦軸にすると、その有病率はなだらかに上昇し、どこかで急激に上昇している訳じゃない。つまり、病的近視は特別なものじゃない。近視発生全体を抑えることで、最も問題となる近視性黄斑変性の発生も抑えることができる筈?

2,PALによる近視トライアル
第17回京阪沿線勉強会 その3 (784)  近視予防_f0088231_14512568.jpg馬の眼。無限遠からの平行光線の後極網膜までの眼軸と下方からの光の上方網膜までの眼軸では後者が短い。これは、地面付近を見る上方の眼軸が延長し、前方(無限遠)を見る眼軸が延長しなかったから?このような長軸と眼軸の差は、小さな動物で、地上までの距離が短いほど大きい。
 Earl SmithⅢさんの実験。6匹の子ザルに、-6Dから+9Dまでのレンズを装着させると、+3~+9のレンズでは遠視のままだが、-3、-6のレンズでは、近視になった。Lens induced myopia! 発達段階の眼は、眼軸をのばす能力があり(visual regulation of axial length)、凹レンズでdefocusすると眼軸が延長する。
 調節ラグ仮説(Jane Gwiazda) : 調節安静位は66㎝(1.5D)で、それより調節刺激が強い(副交感神経領域)と調節ラグ(調節が不足する?)が発生し、眼軸延長の引き金となる。つまり近業が近視の原因。66㎝より近方を見る場合に、調節ラグが発生するので、1.5D加入したPALを装用する。これなら、33㎝でも3D-1.5D=1.5Dの調節刺激となり、調節ラグが発生しない・・・筈。勿論、10㎝の距離で寝ながら本を読めば別ですが・・・。これで、近視トライアル(パート1)開始。
約100人の小学生の半数にSVL(単焦点レンズ)、半数にPAL(Progressive addition lens)(近視予防用の累進屈折眼鏡)を装用させて、18ヶ月、その後眼鏡を取り替えて18ヶ月。離脱率は7%と少ない・・。結果、結果は、最初の18か月で差がでるが、後半の18か月では差があまり出ない。結局0.17D(15%)抑制。その程度は僅かだった・・。
PALを使った様々なスタデイが行われていて、SVLに対する近視抑制率は11-17%で、有効なのだが効果は弱い。もっと有効な手段はないか?
※現在上記スタデイで使ったPALは、ツアイスから販売されているようです。
http://www.soj.co.jp/mc/
Effect of progressive addition lenses on myopia progression in Japanese children: a prospective, randomized, double-masked, crossover trial.
Hasebe S, Ohtsuki H, Nonaka T, Nakatsuka C, Miyata M, Hamasaki I, Kimura S.
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008 Jul;49(7):2781-9. doi: 10.1167/iovs.07-0385.


3,PA-PALによる近視トライアル パート2
PALをしていると、眼軸方向の光はジャストフォーカスだが、周辺からの光はデフォーカスしてしまう。そこで、RRGデザイレンズが考案され(Radial Reflective Gradient: 0.5D/line)、positively aspherized – PAL(軸外収差防止眼鏡)を2年間装用させたトライアルが行われたが、PALのスタデイを越える結果は得られなかった(0.27D、抑制率20%)。ただ、抑制の大部分は1年目に見られ、若い群(10歳未満)ほど効果が大きく、家族歴のない群では1年間抑制効果が持続した。
※ここまで頑張っても、抑制効果はさほど大きくならない(光学的予防治療の限界?!)・・・そこで

4,点眼による近視トライアル
薬物による予防は可能なのか?
ピレンゼンピン(http://takeganka.exblog.jp/10697852/)、サイプレジン、アトロピンなどが有効とされています。
昔から使われているトロピカミドや眼圧下降による効果を期待したチモロールの効果はゼロだったが、アトロピン点眼による予防効果が大きい事が証明されている。抑制率90%!単に調節麻痺効果というよりは、毛様体に作用して、眼軸長の視覚制御に影響する?ただ、1%とか0.5%では副作用が大きく、継続使用が困難なので、0.01%にまで下げると実用可?これで、約60%抑制。散瞳効果も殆ど無くや調節力低下(16⇒12)も許容範囲で近見障害ない。濃度が高いと点眼を中止した時のリバウンドが大きいが、0.01ならそれもない。
※この0.01%アトロピン点眼という、企業にとっては、面白くもなんともない安価な点眼が、ここまで大きな効果を上げるとすれば、日本での実用化を急ぐべきではないでしょうか。面倒かPALを装用することも、危ないオルソKを使うこともなく、将来高度近視による黄斑変性に陥る人を救えるのだとすれば・・・

http://www.ganka.gr.jp/kinshi_yokusei_intro.htm
※現在京都府立医科大学で、小学生を対象に低濃度アトロピンを用いた近視予防トライアルが行われるようです。
Atropine for the treatment of childhood myopia: safety and efficacy of 0.5%, 0.1%, and 0.01% doses (Atropine for the Treatment of Myopia 2). ⇒ATOM2
Chia A, Chua WH, Cheung YB, Wong WL, Lingham A, Fong A, Tan D.
Ophthalmology. 2012 Feb;119(2):347-54. doi: 10.1016/j.ophtha.2011.07.031. Epub 2011 Oct 2.
Atropine for the treatment of childhood myopia: changes after stopping atropine 0.01%, 0.1% and 0.5%.
Chia A, Chua WH, Wen L, Fong A, Goon YY, Tan D.
Am J Ophthalmol. 2014 Feb;157(2):451-457.e1. doi: 10.1016/j.ajo.2013.09.020. Epub 2013 Dec 4.

⇒これが真実なら、低濃度アトロピン点眼は、累進屈折眼鏡やdual focus SCL、ましてや危険なオルソKよりも遥かに安全で有効な手段となるかもしれない・・・。京都府立医科大学のトライアルの結果に期待大。

以前どこかで聴いた長谷部先生の私案ですが、今回の講演を聴いて手直しすると・・
近視治療のガイドライン
1.効果的かつ安全な近視予防法ない。アトロピンなら効果あるが・・当然リスクあり。⇒0.01%ならリスクなく、期待大・・。15-16歳の眼軸延長が鈍る時期まで頑張る?
2.生活指導としては、近業距離を十分にとること、そして屋外活動しっかり行う。
3.過矯正眼鏡は×、低矯正眼鏡も意味ないかもしれない。(⇒その昔、所先生の低矯正のススメが広く伝わっているが、完全矯正VS低矯正のランダムトライアルで、完全矯正のほうが近視進行遅かった。)
4.近視進行は遺伝的要因大(努力してもダメなものはダメなことも多い)
5.調節麻痺剤点眼・調節緩和訓練の科学的エビデンスは乏しい。
by takeuchi-ganka | 2014-09-16 14:52 | 近視・遠視 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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