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第53回大阪眼科手術の会 その3 (937)

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センダンの花が満開・・



『甲状腺眼症の手術治療』 兵庫医科大学眼科 木村亜紀子先生

若い先生のようだが、この分野でかなりの仕事されている第一人者らしい。

甲状腺眼症は、眼瞼浮腫・上眼瞼後退・眼瞼の遅れ・・・などで発症。兵庫医大の診断基準は、主項目①甲状腺機能異常の合併、②眼瞼浮腫・上眼瞼後退・眼球突出・眼球運動障害・視神経症のどれかひとつ、②眼窩冠状段MRIで一つ以上の外眼筋の肥厚(>視神経の直径)の内2つ以上と、必須項目:甲状腺関連自己抗体(TBⅡ・TSAb・抗TPO抗体、抗TG抗体のいずれかが陽性。

炎症期には消炎につとめ、非炎症期に手術を。

 MRISTIRで炎症が確認されたら、ステロイドのパルス(with内服漸減)で消炎を図る。消炎できたらなるべく早く手術した方が結果がいい。よくあるケースとしては、下直筋後転と鼻側移動併用。(下斜視は偏位2.7°で1mmぐらいで、鼻側移動は1筋腹で7°の回旋矯正効果?)。手術後、上下逆転していたりすると、微調整(手術)をするらしい。基本的には、罹患筋後転と回旋偏位は上下直筋の移動。数式があるらしく、詳細聞き逃したが、Y=2.43X+0.36なんて式が提示されていた。提示69歳女性では、3クールパルスして、6ヶ月後手術。左下直筋が罹患筋で上記の式から12mm後転。結局左眼下直筋を5.5mm後転、鼻側1筋腹移動して、右眼上直筋を3.5mm後転。その後上限逆転したので、微調整手術を。

 難治症例・・・というのは、初期治療が不十分(働き盛りの人が多いのでそうなりやすい・・・)、全身合併症があってステロイドが十分投与出来ない場合。経口ステロイドVSパルス⇒経口は漸減に失敗しやすい

パルスも甲状腺眼症の場合の1クールは、メチルプレドニゾロン1g×3日の後、プレドニン30-40mg×4日。治療は、ステロイドに数ヶ月、入院手術は3-5日だが、その後安定するのに、数ヶ月かかるので、年単位の時間が必要と覚悟すべき。※特に働き盛りの男性は初期治療が不十分になりやすい。

炎症の程度を判断するスコア:MouritsClinical activity score (CAS) 疼痛①最近4週間の球後痛・圧迫感、②最近4週間の眼球運動痛 充血③眼瞼充血、④すくなくとも1象限以上の結膜充血 腫脹⑤眼瞼腫脹、⑥結膜浮腫、⑦涙丘部腫脹 機能障害⑨1~3ヶ月の間に5°以上の眼球運動制限、⑩1~3ヶ月の間に1段階以上の視力低下 ⇒3/10以上で炎症(+)

 より早期手術(炎症期の手術?)も報告あるが、やはりしっかり消炎してからの方が結果が良い。まずステロイドを投与するのだが、その前に、①euthyroid condition(甲状腺機能を正常化する) ②全身的な問題(ステロイド投与可能)。パルスによる死亡率0.6%という報告(劇症肝炎・心血管機能不全)もある。パルスが出来ない場合は、球後かテノン嚢下投与。1/2Aを両眼に2週毎に4回。

 複雑な提示症例では、全身的な問題があって、パルス出来なくて、全外眼筋肥厚し、最終的に両眼の内直筋6mm後転と右上直筋7mm、左上直筋3mm後転などという手術も。結果複視の状態は両眼単一視野で評価。すべての眼位で複視が消えるわけじゃないが、正面視や読書視で消失。かなり満足度の高い手術らしい。

甲状腺眼症のquality of life (QOL)

視機能に関する質問⇒①自転車②車の運転③家事④戸外の散歩⑤・読書⑥テレビ鑑賞⑦趣味/娯楽⑧したいことができない

社会心理面に関する質問⇒⑨顔貌の変化⑩街路でジロジロ観られる⑪他人が不快に振舞う⑫自信の喪失⑬社会的に孤立⑭友達が出来にくい⑮写真に写りたくない⑯顔貌の変化を隠したい

これで評価すると、手術の効果が高いことがわかる。高度の上下偏位があれば、積極的に手術を。消炎したら早めに手術を。上下のバランスを・・・(微調整も大切)

http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou.pdf 

※複視を自覚している患者は自然と複視を打ち消す代償頭位を呈している。甲状腺眼症の患者では顎上げ(chin elevation) の頭位異常を見逃さないようにしたい。

甲状腺眼症の誤解

半数以上がeuthyroid、半数が片眼性。また甲状腺機能亢進症は、1:6で女性が圧倒的に多いのだが、甲状腺眼症となると、1:1.6と女性が少し多いレベルで、手術になるのは、1:1.3と女性が僅かに多いレベル。つまり、男性は重症化しやすいと言える。

★リスクファクター:喫煙は明らかなようで、まず禁煙だと。

※同じ甲状腺機能亢進症でも、若いと眼窩脂肪に炎症が、中高年では外眼筋に炎症が強い?

※眼窩放射線照射も有効らしいが、若いひとにはやらないほうが・・


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近寄ると甘い香りが・・


by takeuchi-ganka | 2016-05-19 08:44 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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