2018年 02月 10日
第422回大阪眼科集談会 その3 (1035)
特別講演
網膜色素変性症に対する遺伝子治療の臨床応用 池田康博 九州大学
1,網膜色素変性症とは
日本では、失明原因の2位の疾患で、遺伝子に問題があるのだが、その数は70種類以上と言われていて孤発例も多い。ゆっくりと進行するものの、確実に進行して、60歳ぐらいでは高度の視機能障害をきたし、日常生活は困難になる。九州大学の通院患者さんも、矯正視力0.1以下は20%。60歳以上の平均視力は0.1以下に・・。治療法はなく(??)、通院目的は、経過観察・リハビリ・疾患に対する理解・自分の視機能に対する理解・生活環境準備への助言などだけ・・・?
※夜盲に対するアンケートを行うと、90%が自覚していて、視野が悪化すると更に増加。おおよそ30歳で自覚し始めるが、小学生以下でも23%が自覚。当然暗いと外出を控える人は多く(80%)、若い人でも夜間は外出しにくい。そこで開発中なのが、暗視野歩行支援装置(HMD)。シースルーヘッドマウントディスプレイを用いた装置。当初エプソン製からHOYA製に。かなり改良されて、販売へ。(もう少し安くて、助成の対象になればいいのだが・・)
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1082206.html
https://www.tbsradio.jp/189063
2,網膜色素変性症の合併症は?
原疾患に対する治療はまだまだ困難だが、様々な合併症に対しては治療が可能。
①白内障
加齢性白内障の平均手術年齢が72.5歳に較べて、網膜色素変性症では47.5歳と若い。後嚢下混濁が多く、勿論手術して、視力改善がえられることも多いのだが、そうでないことも(不変が半分ほど・・)。OCTでEllipsoidlineを見て手術適応を決めるが、中々難しい。そんなに積極的にしなくていいのかも?
②黄斑浮腫
黄斑合併症も多い。ERM、ME、MHなど。ERMは10-20%程度。MEは10-40%?MEは早めに見つけると治療可能。MEに対しては、以前ダイアモックス内服の有効性が確認されているが、副作用が多いが、ドルゾラミド点眼が有効なことがあり、早いと1ヶ月で効果が出るらしい。CMEに対して77.8%が有効。中断すると再燃する。CME消失すると黄斑感度アップする。試みていい治療の一つ。
3,網膜色素変性症の病態は?
遺伝子に問題があり、杆体細胞が変性するのが本態。ただ、この遺伝子異常は多岐にわたり、細胞死に至るメカニズムも様々。やがて錐体細胞死をまねくと視力低下する。細胞死に至る病態としては、①慢性炎症 ②酸素ストレス ③網脈絡膜循環障害 などが推定されている。
①慢性炎症:硝子体中にマクロファージやリンパ球がある。前房フレア値は上昇し、視力と負の相関がある。前房・硝子体に炎症性サイトカイン上昇・・・・・など炎症が関わっている証拠(+)?
②酸化ストレス:8-oxo-dG(DNA酸化損傷マーカー)は、網膜色素変性症で上昇(硝子体中)。
※①と②はセットらしい。
③網脈絡膜循環障害:LSFGで黄斑部のMBR低下していて、これは視力・MD・中心4点感度などと相関あり。
※錐体細胞死は①②③ともに関連。
※ある薬物がこの疾患の進行抑制に効果あるらしい(KoyanagiYら)。
4,遺伝子治療
有効な治療方法が存在しないのが現実だが、①人工網膜 ②網膜移植 ③網膜再生(ES・iPS) ④遺伝子治療などが試みられている。この遺伝子治療には、『遺伝子の治療』と『遺伝子による治療』の2種類がある。
網膜色素変性症の類縁疾患のレーベル先天盲は、遺伝子治療が開始されていて、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、網膜色素上皮へ正常RPE65遺伝子導入(硝子体手術して、網膜下へ投与)が、イヌ・小型動物をへて、ヒトに行われ、その効果が確認されている。コロイデレミアでは、硝子体手術しあいで、網膜下へ投与。
岩手大の富田らは、『緑藻類ボルボックス由来のチャネルロドプシン チャネルロドプシン-1 (VChR1)*2 遺伝子を改変し、青~赤色に応答する光受容タンパク質を作製することに成功しました。この改変型VChR1遺伝子を盲目ラットの網膜細胞に導入し、盲目ラットの視機能を調べたところ、盲目ラットは青~赤色の光に応答できることが確認されました。また、青-黒、緑-黒、黄-黒あるいは赤-黒の縞模様をラットに呈示し、ラットの行動を観察する行動学的評価で、これらのすべての色の縞模様を認識できることが分かりました。以上の結果から、改変型VChR1遺伝子を導入することにより、青~赤色までのすべての色を感知できる視機能を作り出せると考えられます。』 また、視細胞保護:網膜色素上皮に神経保護因子を遺伝子導入することで、視細胞死を抑制することも確認。
九州大学では
「神経栄養因子(ヒト色素上皮由来因子:hPEDF)遺伝子搭載第3世代組換えアフリカミドリザル由来サル免疫不全ウイルスベクターの網膜下投与による網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療臨床研究」
SIV(サル免疫不全ウイルスベクター)(サル由来のレンチウイルス)を使用(国産のベクターで、何かと使いやすい?)。眼科領域では、世界初。PEDF(色素上皮由来因子)を使用。神経の分化・保護、血管新生抑制
RCSラットに導入(SIV-hPEDF)。次にカニクイザルで・・。その後臨床試験に。平成25年3月にやっとスタート。びとして、41G針で網膜下に注入(鼻上・下、耳上・下の4箇所に)。2年間視力維持できた。5例とも視力維持できて合併症なし。前房内のPEDF濃度は5例中3例で上昇し、経時的に更に上昇。もっと軽症例で行えたら、遺伝子治療が現実的に・・・?
http://www.eye.med.kyushu-u.ac.jp/patient/clinicaltrial/index2.html