2007年 08月 02日
レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症について
この写真は、緑内障発作眼の反対の眼のUBM(超音波生体顕微鏡)写真です。前房は浅く(1.5mm前後)、瞳孔ブロックは強く虹彩は前方へ膨隆し、隅角開口部(房水の出口)は非常に狭くなっています。ただし、閉塞していないので、眼圧正常です。本人は、全く自覚症状なしです。
写真2:緑内障急性発作眼
この写真は、急性発作眼で、眼圧は60ほどあり、治療には緊急を要します。前房は浅く1.5mm前後、虹彩の前方への膨隆は軽いですが、少し散瞳し、隅角は完全に閉塞しています。写真1のような眼が2のようにならない為に、レーザー虹彩切開術を行うのです。ただ、そのために、水疱性角膜症を発症し、角膜移植しなければ失明に至る頻度が多いようでは困ります。そのために、どうすればいいのでしょう?
これについては、最近やかましく議論がなされるのですが(日本でのみ)、実は、それほど根拠のあるデータに基づいていないのです。つまり、日本で、レーザー虹彩切開術がどの程度の件数行われていて、どれくらいの頻度で水疱性角膜症が発生しているのか。そのデータがないのです。レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症が発症することは確かなのですが・・。加えて、レーザー虹彩切開術の条件は適切なのか、レーザー虹彩切開術前の状態はどうだったのか?情報は非常に乏しいのです。ただ、この漠然とした恐怖により、レーザー虹彩切開術の適応を狭くせざるをえないことは、ここで述べたと思うのですが、先日、あたらしい眼科が、このテーマを特集に取り上げてくれたので、データを頂きながら、もう一度検討してみます。
※文献:あたらしい眼科 Vol24,No7,2007
レーザー虹彩切開術に関わる諸条件
1、対象症例に関して
①緑内障急性発作眼、急性発作眼の僚眼、慢性型のPACG、狭隅角眼、その他、不明
②角膜内皮疾患の有無、角膜内皮細胞数
③その他
2、レーザー条件
①アルゴン単独、ヤグ単独、併用
②照射数
③照射時間、照射サイズ
3、その他
諸条件を箇条書きにするとこの程度なのですが、具体的に述べてゆきます。
レーザー虹彩切開術は、通常2段階照射で行います。私は少し違うのですが、アルゴンレーザーの場合、教科書的には、最初のステップは、スポットサイズ200μm、パワー200mW、照射時間0.2秒で数発、その後、スポットサイズ50μm、パワー1000mW、照射時間0.02秒で300発前後と記載されています。ただ、肝心なのは、レーザービームを目的とする場所に効率良く集めて虹彩に孔をあけることです。通常は、虹彩の10時か2時付近の可能なかぎり周辺部に孔をあけます。
※教科書的な条件だと、照射エネルギーは、6.4J
※水疱性角膜症に至ったケースで、レーザー虹彩切開術の条件が分かっている16眼の内訳は、
~10J 8眼
10~20J 5眼
20~ 3眼
つまり照射エネルギーという切り口だけでは、解明できないようです。
※ヤグ主体の韓国・シンガポールでは、問題になっていないので、レーザーの種類の問題も大きいかもしれません。
ここからが問題で、
急性発作眼であれば、既に角膜内皮はダメージを受けている上に、角膜は混濁しているので、エネルギーが効率よく虹彩に行かず、角膜にもダメージを与えることになります。
急性発作眼でなくても、角膜周辺部は高齢になるほど混濁しており(老人環)、周辺部に効率よく孔をあけることが難しくなります。照射部位の前房深度も浅ければ浅いほど、レーザーは、角膜内皮にもダメージを与えます。人によっては、固視が悪く、ターゲットが動けば、思わぬ場所に誤照射することもあるでしょうし、効率は低くなります。もともと角膜内皮が弱かったり、他の疾患で内皮数が減少しているかもしれません。
このように、照射環境(条件)は様々なので、時に照射数が予想以上に多くなったりするかもしれません。勿論、術者の技量も影響します。だからと言って、照射条件が悪い場合、すぐに水疱性角膜症が生じるならいいのですが、レーザー虹彩切開術から水疱性角膜症発症までは、平均7年弱だそうで、しかも、元の病院を受診することが少ないこともあり、レーザー虹彩切開術前後の状況が解明不可能なのです。百歩譲って、大まかな条件が分かったとしても、本当に問題となるかもしれない細かな状況(上述)は、不明なのです。ただ、水疱性角膜症は最終的に、角膜移植を多数手がける病院に集まります。そこからレーザー虹彩切開術に対して、危険信号が発せられます。この警告をどの程度深刻に受け止めたらいいのでしょうか。
今後、レーザー虹彩切開術は、全例、登録制にして、細かな条件を全て記載することにすれば、10年以内に答えが出るかもしれませんが・・・・
レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の頻度:推定1.8%??
※文献:あたらしい眼科 Vol24,No7,2007
レーザー虹彩切開術対象眼
瞳孔ブロック解除後の眼
上の写真が、レーザー虹彩切開術対象と判断した眼です。大よそ、黄色の線の当たりをレーザーで撃つのですが、チョット危険な気がしますが、実際は、下の写真のように、ピロカルピン点眼で瞳孔ブロックを解除し、虹彩を平坦化し、虹彩との距離も十分確保してから行います。プラトー虹彩や水晶体の膨化・前方移動の要素が強いと、角膜内皮と虹彩の距離を十分確保できないかもしれませんが、この写真のような場合なら、虹彩だけをレーザーすることが可能でしょうし、ヤグも併用すれば、それほど危険じゃないような気がするのですが、答えはまだまだ闇の中?
対応策を調べますと、今後、内皮細胞の顕著な現象が見られたら、白内障手術を受けることで、内皮細胞減少を食い止める方法しかないのではと考えています。
とても心配なので、コメントを頂けると有りがたく存じます。
全く経験ないですが、若い人で近視眼ならワンデイアキュビュー・デファインのような周辺部が着色してあるSCLを装用すれば若干症状軽減するかも・・・。ただ、レーザー虹彩切開術の対象となる人は、若くもなく近視でもない事が殆どですが・・。
先日、その医院に新しく隅角検査の装置が入り検査した結果のデーターは10項目ほどのうち△が3つ、ほかは全部×でした。
データーの結果からすぐレーザー虹彩切開術を行った方がいいと言われたのですがネット等で調べると水疱性角膜証の発生、またそれは最終的に角膜移植が必要となるなどと知ると怖くてためらっております。
セカンドオピニオンとして他に2件の医院で診てもらいましたが今すぐの手術は必要ないと言われました。今の私の年齢(45歳)を考慮すると現状では発作のリスクより角膜症を発症するリスクの方をとると。
が、当初の医師は、身内が私のような状態だったら絶対手術をする。と言います。そのくらい危ない。と言います。角膜症の患者を出したことも無い。と言います。
狭隅角眼患者さんの気持ちが痛いほど分かります。
実際、症状は無いのだから無理に行うより腹をくくった方がいいのか?何を信じればいいのか?誰を信じればいいのか?
この半月、悩み続けてコメントを投稿させていただきました。
ご助言よろしくお願いいたします。
なかなか手術に踏み切れないのも信頼関係が問題なのでしょうか。
今回、旅行前ということで再受診したのですが、飛行機、電車のトンネル等、気圧の変化が起こる時に起きやすいとも言われ、海外で発作が起きた時の不安から一度は手術の予定を入れたのですが、レーザー治療の後遺症として水疱性角膜症を発症するかもしれないという事はネットで調べて分かり、事前の説明はありませんでした。
ただ角膜浮腫が起こらないよう検査してから行う。と説明書に書いてあるだけでした。
もしかしたら一生、発作を起こさないかもしれない。
自分の目の状態を知らず視力を失う方が多いと伺えば、発作を起こした時に眼の検査もして欲しいと伝えられれば・・・という気もします。ただ海外でききちんと対応してもらえるかということも不安です。運を天に任せるしかないのでしょうか。
本当に正しい答えにありつくことは難しいのですね。
人生最大の決断ですが、決断できないまま旅行に行くことになりそうです。
とても親切な回答をいただき本当にありがとうございました。
今後も参考にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
手術の話が出た時、不安でいろいろ伺っていたら「後は説明してあげて。次!」と、看護婦さんに投げられてしまいました。
手術の説明書、同意書も帰りがけに渡され、あの時きちんと説明頂いていたら不安を抱くことなく手術をしていたと思います。ネットで調べることも無く、セカンドオピニオンを探すことも無く。
ネットは便利ですが先生がおっしゃるとおり怖い面もあります。が、狭隅角眼患者さんや私のような患者側の訴え、気持ちをお医者さん側が受け止めてくれていないのも事実です。だからあえて公開コメントにしました。
先生には診察いただいていないのに丁寧な対応を頂いて、ありがたく思っています。新幹線を使っても通院に片道4,5時間かかることがとても残念です。