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トラベクレクトミーについて

トラベクレクトミーについて(以後レクトミー)

 緑内障の薬物治療は、種類も豊富になり、作用も強力なものが増えてますが、まだまだ手術が必要な局面は多いのです。今回は、開放隅角緑内障に対する手術の紹介ですが、種類は実に様々で、ざっとあげてみますと、

  トラベクレクトミー (東の横綱)
  NPT(非穿孔トラベクレクトミー)
  advanced NPT


  トラベクロトミー(西の横綱)
     With sinusotomy
  ビスコカナロストミー
  Suture canalization


こんなものでしょうか。他にもまだあるかもしれません。ただ、やはり、主流は、東西の横綱でしょう。

トラベクレクトミー
※おおよそこんな感じだと思います。
トラベクレクトミーについて_f0088231_1772121.jpg


トラベクロトミー
※オリジナルとは大きく変貌しているので、間違ってるかも・・
トラベクレクトミーについて_f0088231_7274248.jpg



  現実の相撲においては、東の横綱は何処かへいってしまいそうな気配ですが、レクトミーは、私が眼科医になる前、20年以上前から緑内障手術のGold Standardであり、紆余曲折があったものの、現在でもその地位を失っていません。簡単に言えば、眼球に孔をあけて、水を徐々漏らすことで、眼圧を下げようという試みで、様々な変法を繰り返しながらも、結局は、この単純な目的にそれほど込み入った手技は必要ではなく、代謝拮抗剤(MMC)を併用した普通のレクトミーが、眼圧を大きく下げることが必要な場合の標準術式として現在も存在しています。
  この術式が1980年代以降に代謝拮抗剤を併用するようになり、治療成績、つまり眼圧が十分下降する確率が飛躍的に向上するようになって以降、術後感染の多さは指摘されていましたが、どうやらその頻度は、3-5%(5年)というとんでもなく高い数字と推定されています。この9月に岐阜で行われる緑内障学会でも詳しく議論されると思いますが、この数字は凄い。現在の小切開超音波白内障手術の場合の術後感染は、万が一じゃなく、万が五程度と説明しています。つまり、0.05%程度です。手術の性格が違うといっても、白内障手術の100倍危険というのは、大問題です。
  ただ、この濾過手術の適応は、この手術しか選択肢がなく、今手術をしなければ、早晩失明の危険性が高い眼に限定して行われるのであれば、ある程度仕方ない事でしょうが、実態はどうなっているのでしょう。一時的には、広く行われた筈ですが、今は、かなり限定された適応になっていると思います。

  関西には、永田誠という眼科手術の神様のような方がおられ、全国的には、殆どレクトミーしか行われなかった時代から、流出路手術であるトラベクロトミーという手術を啓蒙されてきました。このロトミーは、主に永田門下生によって、日本中に広められ、濾過手術の術後感染問題が大きくなってくると、この手術の存在価値が更に高まりを見せています。勿論、この手術単独では、必要十分な眼圧下降が得られないのですが、1でも2でも低い術後眼圧を達成すべく、様々な工夫を行われています。ロトミー単独、+深部強膜切除、+シヌソトミー、+内皮網切除、+MMC?・・・・ただ、どんなに複雑な手を使っても、眼圧15の壁を下方に大きくブレイクスルーすることは中々困難なようですが。どちらがより好ましい術式なのかということについて、ある例えでもって、個人的な見解を述べておきます。学会終了後は、変わっているかもしれませんが・・・

  私は、緑内障ではないですが、もし50歳の私が、原発開放隅角緑内障で、平均眼圧25(キサラタン、チモプトールの2剤使用にて)、視野はハンフリーでMD-15dB程度、しかも、中心の測定点4個の内2個が明らかに感度低下しているという危機的状況だったとして、どちらの手術を受けるでしょうか。(勿論、徐々に進行していて、次の一手が必要である場合ですが)
年齢的には、まだ20年くらいは仕事せんといかん、ローンもたっぷり残っている。片眼でも、中途失明するときつい。その片眼が、もし右眼だったら、仕事に大きく影響してしまいます。だから、眼圧は、できれば、15以下を、出来れば10に近い値を確実にキープしたい。だけど、ゴルフで汗をかいたり、プールで泳ぐ楽しみも捨てきれない。また、5年で3-5%の感染危険率に怯えたくはない・・・。どうしましょう。

  今までの緑内障経験を総動員して判断するなら、大阪に住んでいるということも考慮して、やはり、関西医大枚方病院(M教授)か、ひらかたY眼科でロトミー系の手術を耳下側でしてもらい、単独で無理ならキサラタン+αを追加して、15以下を目指すというのが私の選択でしょうか。
  でももし、平均眼圧が20だったら・・・・・・やはりまだロトミー系を。
  平均眼圧が15だったら・・・、最高眼圧が20前後なら、ロトミー系。
  平均眼圧が15以下で、さらに最高眼圧も15程度なら、レクトミー?それとも手術しない?かなり、迷うと思いますが、手術しないかもしれません。これが、現時点でのこの手術に対するスタンスです。
Commented by いち患者 at 2007-09-01 20:12 x
失礼します。緑内障に詳しい先生とお見受けし、質問させていただきます。
私は現在20代前半、大学生なのですが、先日正常眼圧緑内障と診断され、しかも右は後期でありました。左も中期です。
正直、日常生活に支障が出つつあります。
ハンフリーでは、MDは右が-16dB、左が-12dBという値でした。
現在はキサラタンの点眼治療を始めたところです。

きちんと治療すれば進行は止まる、緑内障で失明する人はごくわずか、などと励まされますが、はっきり言って嘘ではないかと最初から考えておりました。
先生のブログを拝見し、その考えも強くなって参りました。

就職が近いのですが、今後の自分の身の振り方をよく考えています。
自分の世話が最低限できるくらいの視力・視野は何年くらい持つのか、わからないのかな…と考えています。
この程度の書き込みではありますが、もし何かアドバイス等いただけましたら幸いです。
Commented by 管理者 at 2007-09-03 13:58 x
 コメントありがとうございます。
 20代前半で、正常眼圧緑内障で、しかも進行しているケースというのは、非常に稀です。本当の正常眼圧緑内障かどうかが先ず問題ですね。そうでないと、それ以上のコメントが難しいです。視神経乳頭の形成不全かもしれないし、眼底疾患かもしれない。
もし、正常眼圧緑内障だとしても、通常とは異なるケースですので、個別の判断が必要で、一般論があてはまらないかもしれない。竹内眼科のHPから問い合わせていただければ、もう少し詳しい返答ができるかもしれません。
Commented by HS at 2007-09-04 10:26 x
はじめて投稿します。39歳の男性です。
今年の正月明けに左眼のトラベクレクトミーを受けました。
ぶどう膜炎を原因とする続発性の緑内障とのことでした。術前の眼圧は40を超えていましたが、術後は10~13で安定しています。
術後、クラビットとフルメトロンの点眼を続けていますが、先日、そろそろこの2本の点眼を切って、非ステロイド系の消炎剤に切り替えましょうと主治医に言われました。
ところが、先生の上記記事を拝見すると、感染症のことがやはり気がかりで、抗生剤の点眼を切ることに不安があります。
かといって、いつまで続ければ感染症の心配がなくなるというものでもないでしょうし、続けることでかえって耐性菌の問題を引き起こす心配もあるみたいで、正直どうすればよいか悩んでいます。
もし何かアドバイス等がいただけましたら幸いです。

Commented by takeuchi-ganka at 2007-09-04 16:17
 投稿ありがとうございます。
 通常の術後と違って、ぶどう膜炎が元の原因なので、ステロイドをどうするかは、元の疾患によって異なってくると思いますし、抗菌剤をどうするかは、術創の状態と、主治医の術後感染に対するスタンスによります。一定の基準がある訳じゃありません。ただ現時点では、主治医の意見より、自己判断が優れているとは思えない・・・としか申し上げられません。
Commented by OSUMI at 2007-09-28 11:01 x
 初めましての投稿です。よろしくお願いします。
 34歳女性です。24歳の頃、両眼視神経乳頭陥凹と言われ、毎年定期検査を受けています。眼圧は14~19程で、視野も正常で、今までは特にコメントはありませんでした。しかし今回、「眼を動かした? …動いてないね~。けど、正常範囲内だから」と、気になるコメントでした。
 学校に通っており、検査結果と診断書を提出しなければならず、頂いてきました。前回(年末)と今回のを見てみると、外側が黒くなっている部分が出てきて、数値も変動があります。
 どの項目がどういう意味かも分からず、不安です。
 このまま次の定期検査まで放っておいても良いでしょうか。
 よろしくお願いします。
Commented by takeuchi-ganka at 2007-09-28 20:59
OSUMIさんへ 投稿ありがとうございます。
視野検査結果のことですよね?
推定でしか申し上げられませんが、検査中眼が動いたりすると、データの信頼性の指標が悪くなります。だからと言って、よほど動かない限り、大丈夫でしょうが。
主治医の『正常範囲だから・・』というコメントなら、心配ないのでしょう。データの解析は、眼科医に任せないと、自分でデータを見て、数値の変動やグレースケール表示の変動に一喜一憂しても仕方ないですよ。視野のデータは結構変動します。それを悪化と判断するのか、正常の変動の範囲内と判断するのか、今回の一見悪化に見えるのは、検査の仕方に問題があったのか・・・などを判断するのが我々の仕事なのですから。心配なのはわかりますが、主治医み任せるべきだと思いますよ。
Commented by OSUMI at 2007-09-28 22:36 x
 さっそくのコメントをありがとうございます。視野検査結果のことです。書き漏らしまして失礼しました。
 1年半前、引越したので、新しい近隣の医院(年末)で視野検査を受けました。その時は、特別何もありませんでした。
 今回、10年前からの医院で視野検査をしてきて、上記のように話だけされました。初めての事で不安になり、近隣の医院でも検査を受け、結果を見てみて、ショックを受けました。
<右> ちゅうしんか:40dB → 36dB
 MD:-0.25dB → -4.64dB P<1% PSD:1.00dB → 4.22dB P<1%
<左> ちゅうしんか:38dB → 34dB
 MD:+0.35dB → -1.97dB P<5% PSD:1.16dB → 2.29dB P<10%
 血液検査と違って、正常値や平均値が分からないので、この数値がどれぐらいのものなのか、今回は初めての結果なので様子見という意味なのか、本当に大した事がなく安心して良い程度なのか、不安に感じている所です。
 細かい事で申し訳ございませんが、よろしくお願いします。
Commented by takeuchi-ganka at 2007-09-28 23:37
少し難しい話になりますが、ご了承を。
視野検査の判断というのは、結果の数値だけで判断してはいけないのです。

ハンフリーの場合、通常使う30-2のプログラムの場合、76+1の測定点があります。
この『ちゅうしんか(中心窩)』というのは、網膜の一番中心の感度のことで、36でも34でもまあ正常範囲と考えてもいいでしょうか。
MDは、76+1の測定点の平均網膜感度と正常人の平均値データとの比較で、『-4.64dB<1%』を額面どおり受け取るなら、正常人では、1%以下にしかありえないことなので、異常だと断定していいということになるのですが、実は、そんな事さえ、正常人でもよくあることなのです。変でしょ。
PSDというのは、各測定点の網膜感度と正常人平均網膜感度との差の標準偏差のことで、MDよりも、より早期の緑内障の変化を反映する数値として注目しています。右眼の『4.22dB<10%』なら、MDと同様、異常だと断定していい・・・・・となります。
Commented by takeuchi-ganka at 2007-09-28 23:37
続き
ただ、この結果を『異常である』、『初期の緑内障である』と、額面どおり受け取るには、前提があります。
1、 検査の信頼性の指標が高い。
2、 76+1の測定点の中で、明らかな異常を示す測定点が眼底所見の異常(神経線維層欠損)と一致する。
このふたつでしょうか。つまり視野検査が信頼してもいいレベルで行われていて、眼底に示されている緑内障性変化と視野変化が一致していることが必要なのです。これがあって、更に、あなたの右眼のMD、PSDを評価しろと言われたら、あなたは、初期の緑内障とうことになりますが、そうでなければ何も言えないのです。つまり最初にもどりますが、視野変化は結果の数値だけで判断できないのです。眼底所見とセットなのです。
長くなりましたが、これが精一杯の答えです。
Commented by OSUMI at 2007-09-29 05:07 x
 詳しいコメントをありがとうございます。
 「正常人でもよくあること」なのですね。少しホッとしました。
 数値だけで判断できないこと、理解できました。
 定期検査を続けていこうと思います。ありがとうございました。
Commented by 田中慎三 at 2015-07-05 21:54 x
失礼します。ステロイド緑内障で苦しみながら色々と勉強しております。
ロトミーはあまり効果が無いそうですし、SLTを受けてみましたが、効果がありませんでした。
最後のレクトミーは怖くて進めません。
ただ今「エイソブト」で眼圧19です。と言うことは、繊維柱帯は目詰まりしてないように思います。
悪人はシュレム管ではないのでしょうか?。房水が静脈へ流れ込ませる作用が悪いのでは?。
対策として、繊維柱帯を触らずに、シュレム管から外方へろ過胞を作ってはいかがでしょうか?。
繊維柱帯に穴を開けないので、MMCを使わなくて済み、ろ過胞の毛細血管も退化しないのでパンクの恐れも無し、レクトミーの恐怖からも開放され、万々歳のように思いますが、専門家の竹内先生のご意見はいかがでしょうか?。
Commented by takeuchi-ganka at 2015-07-10 19:39
ステロイド緑内障は、線維柱帯の流出抵抗が増大するタイプと理解しています。一般的にトラベクロトミーに代表される流出路手術が有効とされていますし、私の乏しい経験上もそうです。
by takeuchi-ganka | 2007-08-27 16:04 | 緑内障 | Comments(12)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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