2007年 10月 28日
第61回日本臨床眼科学会-8
学会最終日最後の時間帯のインストラクションコースの1つです。
細隙灯顕微鏡の診かた-PartⅦ
何を今更と言うなかれ、眼科医の仕事は、細隙灯顕微鏡に始まり細隙灯顕微鏡に終わる。この器械で得られる所見を如何に読むかは、どんなに大切だと力説しても言い過ぎることはありません。この初心者向け?の講義をキャリア20年以上の私が聞きにいくってどういう事?と思いつつ、気がつけば、ルームEのいい席を確保しておりました。まだまだ、初心を忘れたらあかん・・・。
講師陣は、人気絶頂、阪大の角膜3兄弟? といっても、皆さん、大変立派な教授なのですが、とりわけ、話が分かりやすくて、非常に有用であるのに加え、3人の微妙な人間関係を巧みに利用しつつ進行係をされる大橋教授の手腕により、いやがうえにも盛り上がります。怒涛の1時間、あっという間でした。
今回は、井上教授が角膜混濁、大橋教授が角膜内皮障害、木下教授が角膜上皮障害を担当されました。
Ⅰ角膜混濁(井上先生)
レベル (※混濁しているレベルを判断する)
上皮・実質・内皮
種類 (※混濁している理由を判断する)
沈着性・炎症性(感染性/非感染性)・瘢痕性・腫瘍性
1、沈着性混濁
硬い・境界明瞭・炎症なし・沈着物の性状による独特の形態・位置
①lipid keratopathy(脂肪)
②アベリノ型顆粒状角膜ジストロフィー(ヒアリン+アミロイド)
③帯状角膜変性(カルシウム)
2、炎症性実質混濁
柔らかい・すきまの無い均一混濁・炎症強いほど白い
※部位 感染性は中央、非感染性は周辺
①浸潤:リンパ球が多い(ウイルス・免疫)
②膿瘍:好中球が多い(細菌・真菌)
3、瘢痕性実質混濁
硬い・すきまのある不均一混濁・濁りの中に線が・・・表面が平坦
※炎症性混濁から瘢痕性混濁に移行するが、見極めが難しい。反帰光線を利用して判断?
※意外なものの沈着:細菌・真菌によるバイオフィルム、薬剤毒性角膜症
※濁った角膜に、いきなり診断名をあてはめる作業をしがちですが、このような切り口で追い込んでいって診断にたどり着く作業の方が、間違いが少ないし、楽しそうです。
Ⅱ角膜内皮障害(大橋先生)
角膜内皮細胞は年0.4%のスピードで脱落(減少)している。
スペキュラー所見について
面白い考え方ですが、緑内障の進行の程度を判断する指標として、ハンフリー視野データを解析する時に、MDスロープを利用します。視野の障害の程度を表す指標のひとつのMDが少しずつ悪化している場合、横軸に時間、縦軸のMD(dB)をとってグラフ化し、MDの傾斜(スロープ)を見て、安心していいのか、途中失明の危険性があるのかの判断材料にします。内皮細胞もできれば、同一機種で?経時的に細胞数をチェックし、グラフ化してみる。グラフの傾斜角度の程度によって、年0.4%以上の脱落かどうか(つまり、悪化が病的かどうか)の判断材料になるし、グラフを右に伸ばして、1500や1000を下回る年齢が平均余命以下なら、途中失明の危険性があると判断する?
角膜浮腫の原因
1、敵状角膜 corneal guttata (写真は自験例)
内皮面に生じる多発性疣状突出
※局所的なECMの蓄積(内皮へのストレスの証拠)
原発性 VS 二次性(外傷・内眼手術など・・)
2、嚢胞状病変(PCV) (写真は自験例)
片眼性、非家族性 ⇔PPDの類縁疾患?
内皮側に帯状の病変
症状なし
非進行性(角膜内皮密度↓)
3、デスメ膜破裂
分娩時(鉗子分娩)・先天緑内障・円錐角膜
4、浅前房(レーザー虹彩切開術後)
※虹彩分離症、Fuchs
5、周辺部浮腫
角膜内皮炎(※意外と多いかもしれませんと・・)
Ⅲ角(結)膜上皮障害(木下先生)
1、SPK
2、角膜上皮欠損
3、再発性皮びらん
4、角膜潰瘍
5、異常上皮の被覆
角膜上皮障害の病態
1、角結膜上皮幹細胞の疲弊
角膜上皮細胞の幹細胞は、角膜周囲(輪部)、POV
結膜上皮細胞の幹細胞は、結膜内に点在
・角膜上皮幹細胞疲弊症:上皮再生遅延、結膜侵入
・結膜上皮幹細胞疲弊症:結膜嚢が浅くなる。
2、上皮細胞への直接障害或いは増殖抑制
・最表層上皮脱落型
・細胞膜・TJ障害型(delayed staining)
3、角膜上皮の接着不良
・Epidermolysis Bullosa Dystrophica
・再発性角膜びらん
症例1 角膜真菌症:アスペルギールス(72歳女性)
角膜ヘルペスを疑われた症例だが、血管進入がない。上皮欠損が少ない。
角膜擦過物より、Aspergillus fumigatus と判明しても、まだ種々の治療に抵抗→治療的角膜移植へ
※ステロイドが入っている場合、中止すると、真菌が爆発的に増加する危険性があると・・
症例2 難治性強膜炎:レミケードで治療(50歳女性)
ステロイドの結膜下注射、内服で対応不可能になった症例
シクロスポリンも無効。追加ステロイドも一時的な効果しかない。
→レミケードが有効。
※眼科では使いにくい。整形か内科に依頼。
※複数回必要?10回程度?
※保健適応の問題がある。
症例3 点眼毒性による角膜上皮障害(65歳男性)
高眼圧、デタントール、トルソプト点眼、角膜上皮障害、人工涙液投与、改善せず来院。
→原因薬剤の中止(これ基本)
ステロイド(0,1%フルメトロン)点眼、クラビット点眼、に加え、リンデロン2錠7日間。
※このステロイドの使い方が要諦。
症例4 角膜ヘルペス、角膜潰瘍(36歳女性)
アトピー性皮膚炎に伴う角膜潰瘍、虹彩炎、角膜の菲薄化、穿孔・・
→病巣が2つに分かれている(真菌・細菌じゃない)、病巣の一部にdendriticな部分あり。
加えて涙液から4.9×10の5乗コピー、角膜上皮から9.5×10の6乗コピー(Real time PCR)
→単純ヘルペス(+黄色ブ菌の混合感染の可能性)
→バラシクロビルを長期に入れつつ、タリビッド眼軟膏、圧迫眼帯、その後SCLへ
→ベストロン、コリマイC点眼など
※ヘルペスの穿孔の場合、厚さは戻るらしい。
症例5 春季カタル(24歳女性)
アトピー性皮膚炎、春季カタル、ステロイド点眼、内服・・・・次は乳頭切除?と言われて
処方:ザジテン、フルメトロン、パピロック・ミニ、チモプトール、トルソプト、ヒアレイン点眼、ブレドニン内服
→瞼結膜所見が軽いのに、角膜上皮障害強い。原因と結果が合わない?!
→だいたい点眼多すぎ!
→パピロック、フルメトロン、ザジテン続行
チモプトール、トルソプト中止
ヒアレインは、ソフトサンティアに変更。
症例6 マイボーム腺炎角膜上皮症(21歳女性)
詳細不明だが、
Pアクネスが原因のマイボーム腺炎の増悪と関連した角膜上皮障害。10:1で女性に多い。
Pアクネスの治療:フロモックス内服、クラリス内服、ベストロン点眼
マイボーム腺で検出される細菌は、
20歳代:Pアクネス
40歳代:Pアクネス、CNS
70歳代:ブドウ球菌属、Pアクネス