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小さな眼科クリニック@城北公園(竹内眼科医院)

タグ:レーザー虹彩切開術

  • レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症について
    [ 2007-08-02 12:17 ]
  • レーザー虹彩切開術の適応の変化に伴って
    [ 2007-02-08 21:12 ]
  • 第60回日本臨床眼科学会8
    [ 2006-10-22 17:04 ]
  • レーザー虹彩切開術後に発症する水疱性角膜症
    [ 2006-03-08 23:09 ]

写真1:緑内障急性発作眼の僚眼


この写真は、緑内障発作眼の反対の眼のUBM(超音波生体顕微鏡)写真です。前房は浅く(1.5mm前後)、瞳孔ブロックは強く虹彩は前方へ膨隆し、隅角開口部(房水の出口)は非常に狭くなっています。ただし、閉塞していないので、眼圧正常です。本人は、全く自覚症状なしです。









写真2:緑内障急性発作眼


この写真は、急性発作眼で、眼圧は60ほどあり、治療には緊急を要します。前房は浅く1.5mm前後、虹彩の前方への膨隆は軽いですが、少し散瞳し、隅角は完全に閉塞しています。写真1のような眼が2のようにならない為に、レーザー虹彩切開術を行うのです。ただ、そのために、水疱性角膜症を発症し、角膜移植しなければ失明に至る頻度が多いようでは困ります。そのために、どうすればいいのでしょう?







 これについては、最近やかましく議論がなされるのですが(日本でのみ)、実は、それほど根拠のあるデータに基づいていないのです。つまり、日本で、レーザー虹彩切開術がどの程度の件数行われていて、どれくらいの頻度で水疱性角膜症が発生しているのか。そのデータがないのです。レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症が発症することは確かなのですが・・。加えて、レーザー虹彩切開術の条件は適切なのか、レーザー虹彩切開術前の状態はどうだったのか?情報は非常に乏しいのです。ただ、この漠然とした恐怖により、レーザー虹彩切開術の適応を狭くせざるをえないことは、ここで述べたと思うのですが、先日、あたらしい眼科が、このテーマを特集に取り上げてくれたので、データを頂きながら、もう一度検討してみます。
※文献:あたらしい眼科 Vol24,No7,2007

 レーザー虹彩切開術に関わる諸条件

1、対象症例に関して
   ①緑内障急性発作眼、急性発作眼の僚眼、慢性型のPACG、狭隅角眼、その他、不明
   ②角膜内皮疾患の有無、角膜内皮細胞数
   ③その他
2、レーザー条件
   ①アルゴン単独、ヤグ単独、併用
   ②照射数
   ③照射時間、照射サイズ
3、その他

  諸条件を箇条書きにするとこの程度なのですが、具体的に述べてゆきます。
  レーザー虹彩切開術は、通常2段階照射で行います。私は少し違うのですが、アルゴンレーザーの場合、教科書的には、最初のステップは、スポットサイズ200μm、パワー200mW、照射時間0.2秒で数発、その後、スポットサイズ50μm、パワー1000mW、照射時間0.02秒で300発前後と記載されています。ただ、肝心なのは、レーザービームを目的とする場所に効率良く集めて虹彩に孔をあけることです。通常は、虹彩の10時か2時付近の可能なかぎり周辺部に孔をあけます。

※教科書的な条件だと、照射エネルギーは、6.4J
※水疱性角膜症に至ったケースで、レーザー虹彩切開術の条件が分かっている16眼の内訳は、
  ~10J 8眼
10~20J 5眼
20~  3眼
 つまり照射エネルギーという切り口だけでは、解明できないようです。
※ヤグ主体の韓国・シンガポールでは、問題になっていないので、レーザーの種類の問題も大きいかもしれません。

  ここからが問題で、
  急性発作眼であれば、既に角膜内皮はダメージを受けている上に、角膜は混濁しているので、エネルギーが効率よく虹彩に行かず、角膜にもダメージを与えることになります。
急性発作眼でなくても、角膜周辺部は高齢になるほど混濁しており(老人環)、周辺部に効率よく孔をあけることが難しくなります。照射部位の前房深度も浅ければ浅いほど、レーザーは、角膜内皮にもダメージを与えます。人によっては、固視が悪く、ターゲットが動けば、思わぬ場所に誤照射することもあるでしょうし、効率は低くなります。もともと角膜内皮が弱かったり、他の疾患で内皮数が減少しているかもしれません。
  このように、照射環境(条件)は様々なので、時に照射数が予想以上に多くなったりするかもしれません。勿論、術者の技量も影響します。だからと言って、照射条件が悪い場合、すぐに水疱性角膜症が生じるならいいのですが、レーザー虹彩切開術から水疱性角膜症発症までは、平均7年弱だそうで、しかも、元の病院を受診することが少ないこともあり、レーザー虹彩切開術前後の状況が解明不可能なのです。百歩譲って、大まかな条件が分かったとしても、本当に問題となるかもしれない細かな状況(上述)は、不明なのです。ただ、水疱性角膜症は最終的に、角膜移植を多数手がける病院に集まります。そこからレーザー虹彩切開術に対して、危険信号が発せられます。この警告をどの程度深刻に受け止めたらいいのでしょうか。
  今後、レーザー虹彩切開術は、全例、登録制にして、細かな条件を全て記載することにすれば、10年以内に答えが出るかもしれませんが・・・・


レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の頻度:推定1.8%??
※文献:あたらしい眼科 Vol24,No7,2007

レーザー虹彩切開術対象眼

瞳孔ブロック解除後の眼


  上の写真が、レーザー虹彩切開術対象と判断した眼です。大よそ、黄色の線の当たりをレーザーで撃つのですが、チョット危険な気がしますが、実際は、下の写真のように、ピロカルピン点眼で瞳孔ブロックを解除し、虹彩を平坦化し、虹彩との距離も十分確保してから行います。プラトー虹彩や水晶体の膨化・前方移動の要素が強いと、角膜内皮と虹彩の距離を十分確保できないかもしれませんが、この写真のような場合なら、虹彩だけをレーザーすることが可能でしょうし、ヤグも併用すれば、それほど危険じゃないような気がするのですが、答えはまだまだ闇の中?







by takeuchi-ganka | 2007-08-02 12:17 | 緑内障 | Comments(15)

問題提起1

 レーザー虹彩切開術の合併症が喧伝され、水疱性角膜症の恐怖によって、レーザー虹彩切開術の適応が狭められるのは避けられないと思います。私も、制限せざるを得ないと思うにいたりました。というのも、大丈夫だと強く反論できる根拠がないからです・・・残念ですが。
ただ、1980年以降、気軽にレーザー虹彩切開術が行われたことで、複雑な原発閉塞隅角緑内障が非常に減少したのは事実だと思います。それまでは、瞳孔ブロックを解除する唯一の手技は、周辺虹彩切除しかなかったのですから。レーザー虹彩切開術によって、ハードルは思い切り下げられたのです。
 20年ほど前に緑内障外来(関西医大)に入った時は、まだまだ様々なケースの原発閉塞隅角緑内障がありました。急性発作後、慢性経過から急性発作したもの、慢性経過で進行したもの、どう見てもプラトー虹彩だと思ったケース、周辺虹彩前癒着が8割を越して薬物コントロールの限界付近をさまよっている症例など・・・非常にバラエティーに富んでいて、これらを隅角鏡所見を頼りに診断し、治療方針を立てるのです。これによって、腕が磨かれたといっていいと思います。つまり、20年以上前は、予防的に瞳孔ブロックが解除されることなく、様々な形で発症し、その後治療された症例が多かった訳です。今と全く異なります。
 ところが、その後レーザー虹彩切開術全盛となり、予防的に或いは早期にレーザー虹彩切開術が行われることで、複雑な緑内障は激減しました。最近は、ちょっと複雑な原発閉塞隅角緑内障があると、若い医者は、緑内障経験の結構多い人でさえ、特殊な閉塞隅角緑内障だと思ってしまうほどです。そんな時代にあって、時代を逆行させて、レーザー虹彩切開術の適応を大幅に縮小せざるをえないかもしれないのです。欧米化?したといっても日本人には、まだまだ狭隅角眼は多いと思うのです。予防的レーザー虹彩切開術の敷居が高くなれば、複雑化した原発閉塞隅角緑内障が増加するのは確実です。水疱性角膜症と引き換えだというのなら仕方ありませんが・・・。
 この状況は、不謹慎ですが、旧世代にとっては、面白いといえば面白いのです。複雑な隅角鏡所見を読める世代だから?私は、今年50になりますが、50歳以上?の緑内障専門家にとって、この分野は若い医師に比べて大きなアドバンテージがあるかも・・・しれない。ないかもしれないけど・・
 若い眼科医諸君。かかってきなさい・・?

by takeuchi-ganka | 2007-02-08 21:12 | 緑内障 | Comments(0)

10月8日 日曜日
最終日です。もう、体力・気力が残っていませんが、この日は、
1、インストラクションコース60:閉塞隅角緑内障の治療戦略
2、インストラクションコース61:眼科画像診断
学会終了後は、平成18年度医療機器・販売業等の管理者に対する継続的研修を受けてきました。

体力気力のこっていないのですが、このインストラクションコース60:閉塞隅角緑内障の治療戦略だけは、聞いておかないといけません。緑内障治療が大きく変わろうとしているのです。聞き捨てならん内容を含んでいる筈ですので・・

インストラクションコース60:閉塞隅角緑内障の治療戦略
1、隅角閉塞のメカニズムと治療の考え方(神戸中央市民の栗本先生)
2、原発閉塞隅角緑内障の新しい国際分類(PACS,PAC、PACG)(京大の田辺先生)
3、瞳孔ブロックの解除と周辺虹彩切除術の実際(倉敷中央の岡田先生)
4、急性閉塞隅角緑内障に対する白内障手術(和歌山日赤の萩野先生)
5、慢性閉塞隅角緑内障に対する白内障手術(永田眼科の広瀬先生)
6、隅角癒着解離術の実際(永田眼科の黒田先生)
7、レーザー虹彩切開術のあるべき適応をさぐる(神戸中央市民の野中先生)



1、隅角閉塞のメカニズムと治療の考え方(神戸中央市民の栗本先生
一番問題点を含んでいる内容でした。
原発閉塞隅角緑内障は、確かにマルチメカニズム。
①瞳孔ブロック
②プラトー虹彩形状
③水晶体前面の前方移動
レーザー虹彩切開術は、①のみにしか効かないし、合併症も重篤。原発閉塞隅角緑内障の原因は、殆どが①と考えていたが、その割合は意外と小さい。だからレーザー虹彩切開術しても追加治療が必要。だから、白内障手術を基本術式として、治療を組み立てましょうということらしい。
 問題点
1)水晶体前方移動とうのは、瞳孔ブロックを強くする要素なので、独立した要素じゃない。
2)レーザー虹彩切開術しても眼圧が下がらない、つまり瞳孔ブロックを解除しても眼圧が下降しないのは、既に、眼圧上昇の原因が、広範囲の周辺虹彩前癒着だから。勿論、その原因は、瞳孔ブロックが主。
3)瞳孔ブロック以外の要因(特に水晶体前面の前方移動?)が大きいというが、もしそうなら予防的レーザー虹彩切開術された眼が、プラトー虹彩形状のみで、水晶体前面の前方移動のみで、周辺虹彩前癒着が悪化、眼圧上昇することは、非常にまれだと思うのですが。

2、原発閉塞隅角緑内障の新しい国際分類(PACS,PAC、PACG)(京大の田辺先生)

この分類は、海外にそろえないといけないので採用せざるを得ないのでしょうが、病名とステージ分類を混同しているように思えてならない。また、続発緑内障はどうするのだろう。


3、瞳孔ブロックの解除と周辺虹彩切除術の実際(倉敷中央の岡田先生)

なつかしい、外科的周辺虹彩切除の話です。
レーザー虹彩切開術が危険なので、時代を逆戻りさせようというのでしょうか。

4、急性閉塞隅角緑内障に対する白内障手術(和歌山日赤の萩野先生)

発作眼こそ、水晶体亜脱臼による続発緑内障などを含んでいる可能性もあり、緑内障の評価も不十分で、いきなり手術というのは、大問題。全く賛成できません。自分の病院だけにしていただきたいものです。

5、慢性閉塞隅角緑内障に対する白内障手術(永田眼科の広瀬先生

長期にわたって、いつも、我々に緑内障治療の指針を示し続けておられる永田先生が、レーザー虹彩切開術の適応を大きく変えられたのでしょうか。レーザー虹彩切開術件数が、5年前に年間169眼から昨年は14眼に減ったのです。慢性閉塞隅角緑内障なので、発作眼とは異なって、GSL単独よりも水晶体とってしまった方が、良く効くのは確かなのでしょうが・・・。神戸発じゃなくて、永田眼科発のレーザー虹彩切開術の適応基準を示してほしいものです。

6、隅角癒着解離術の実際(永田眼科の黒田先生)
実際の手術のポイントを説明されていました。

7、レーザー虹彩切開術のあるべき適応をさぐる(神戸中央市民の野中先生)
いま、レーザー虹彩切開術には、猛烈な逆風が吹いています。でも、一体、どの程度危険なのでしょうか?全く、数字が出てこない。日本全国で膨大な数のレーザー虹彩切開術が行われている(確かに、やりすぎている病院やクリニックがあると思います。噂も聞いたことはあります。この点は、猛省を要するでしょうが・・・・)。発生率が非常に低いとしても、角膜専門病院には、かなりの数の水疱性角膜症患者さんが訪れているのでしょうが、発生率は不明なまま。恐怖感のみが煽られているような気がします。怖い怖いばかりで、どの程度怖いのか全くわからないまま・・
 また、狭隅角眼の10%が閉塞隅角緑内障になったするLoweの古い報告がありますが、今の基準で、どの程度の狭隅角眼の何%が閉塞隅角緑内障になるのかは、不明なままです。
 レーザー虹彩切開術は、適応も不明、合併症も不明なまま彷徨っています。

この講演で提示されたのは、

急性閉塞隅角緑内障予防の必要性
    中心前房深度(角膜後面から水晶体前面まで)(UBMで測定)
  ~1.6mm :急性閉塞隅角緑内障のハイリスク、予防必要
             ①暗室うつむき試験で、6mmHg以上上昇
             ②UBM画像上虹彩の前方膨隆が高度(0.3mm以上)
1.7~2.0mm :急性閉塞隅角緑内障を起す可能性あり、症例により予防必要
2.1~      :急性閉塞隅角緑内障のリスクは非常に低いため、予防不要

※確かに、急性閉塞隅角緑内障を起すのは、多くの場合、非常に浅い前房で、1.6mmあたりで区切るのは妥当かもしれません。ただ、閉塞隅角緑内障は、前房深度がかなり深くても発生しています。その場合、レーザー虹彩切開術に消極的になる理由を慢性閉塞隅角緑内障にレーザー虹彩切開術の効果が低いから・・・と言われているのですが、ここが問題で、もともとの原因は、瞳孔ブロックで、周辺虹彩前癒着が発生するのです。眼圧上昇は、この周辺虹彩前癒着の範囲が広くならないと生じません。レーザー虹彩切開術が行われたとしても、周辺虹彩前癒着が外れる筈もないのですから、たいして眼圧が下がる筈はないのです(眼圧がスパッと下がるのは、隅角閉塞が器質的なものでなかった場合のみだと思います)。だから意味がない・・・・のではなく、瞳孔ブロックが継続する間は、周辺虹彩前癒着を増加させる可能性(止まるかもしれませんが)があり、それが、閉塞隅角緑内障を難治にしていくわけです。だからレーザー虹彩切開術していた訳です。決して、眼圧を下げる為にしているのではない(現実は、少し下がるのですが)。
レーザー虹彩切開術が効かないからといって、慢性閉塞隅角緑内障は、原因が瞳孔ブロックじゃなくて、他の要因が大きいだなんて・・・・・
例えば、前房深度が深くて、プラトー虹彩要素が絡んで、隅角が非常に狭い場合はどうでしょう。周辺虹彩前癒着が20%あって、IC値は、0.2mmと中等度の瞳孔ブロック。この眼は、PPT陰性なら、レーザー虹彩切開術適応外なのでしょうが、確実に、慢性閉塞隅角緑内障へと進むと思います。原因は、マルチですが、容易に解除可能なのは、瞳孔ブロックのみです。この眼に白内障がなくても、白内障手術をするのでしょうか。疑問が残ります。更に言えば、こういった、少し深めの前房深度、既に周辺虹彩前癒着が発生、ICが中途半端というのは、チン小体の脆弱性が危惧されます。瞳孔ブロックは、変動し、今日は、IC 0.2でも、別の日には、0.3かも0.4かもしれません。たまたまその日は、PPT陰性でも、別の日には、陽性かもしれません。PPTなんてそんなもの。でも、周辺虹彩前癒着があるのは、瞳孔ブロックがもっと強い時があったから・・・。我々は、周辺虹彩前癒着をみて、そう判断して、瞳孔ブロックを解除に行っていたのでしょう?違いますか?
かつて、レーザー虹彩切開術が導入される以前は、瞳孔ブロック解除手段は、外科的虹彩切除術(PI)だけでした。臨床的に初めてレーザー虹彩切開術が行われたのが、1971年。Abrahamのレーザー虹彩切開術の報告が1975年。白土先生の報告が1981年。この頃から普及しはじめたのだと思います。Rivera AHらの報告では、虹彩切除術とレーザー虹彩切開術の合計数は、1970年代に約20として、1980年からレーザー虹彩切開術が増加し、1981年に約40、1982年には約80と毎年倍倍と増加したことを報告しています。当時と比べて、今では、どれほどの数になっているのでしょうか。つまり、気軽に、あぶなっかしい眼の瞳孔ブロックを解除できたから、こじれた緑内障が減ったのではないでしょうか。もし、本当にレーザー虹彩切開術が危険だというなら、瞳孔ブロック解除の敷居をかなり上げることになる訳で、慢性閉塞隅角緑内障の大量発生は確実ではないかと危惧します。
何でもかんでも、気軽にレーザー虹彩切開術しろと言っているのではありません。将来閉塞隅角緑内障発生の可能性を十分に考慮した上で、慎重にレーザー虹彩切開術の適応を決める必要があります。やたら、レーザー虹彩切開術している人もいるようなので、そんな人達は言語道断ですが、だからといって、急激なレーザー虹彩切開術の適応基準の変更は、問題じゃないでしょうか。



by takeuchi-ganka | 2006-10-22 17:04 | 学会報告 | Comments(3)

 原発閉塞隅角緑内障の急性発作は、怖い病気で、発症後すぐに瞳孔ブロックを解除しなければ、失明に至る可能性が高い疾患です。ただ、本当に怖いのは?、この慢性型ともいえる形態で、瞳孔ブロックが原因の周辺虹彩前癒着が徐々に進行し、眼圧上昇、視神経障害、視野欠損へと進むタイプの方でしょうか。これは原発開放隅角緑内障同様に自覚症状に乏しく、手遅れになりやすい。(残念ながら、誤診もしばしばです・・・。)
  原発閉塞隅角緑内障には、この二つタイプがあり(中間的なものもあるが・・・)、共に出発は、相対的瞳孔ブロックという機序であり、この段階では、全く視機能に問題ありません(視力・視野・眼圧・視神経所見全て正常)。もし、安全確実に、この瞳孔ブロックを取り除くことができれば、原発閉塞隅角緑内障は、完全に葬り去ることが可能です。
  かつて、瞳孔ブロックを取り除く手段は、観血的治療:周辺虹彩切除術しかなく、手術対象は、発作を起こした眼か、かなり進行した原発閉塞隅角緑内障の慢性型だったと思います。レーザーの登場によって、レーザー虹彩切開術が普及するようになり、原発閉塞隅角緑内障が予防可能となりました。これによって、放置すれば緑内障で大きく視機能を損なう可能性のあった多くの眼を救ったことは間違いないと思うのですが、ここにひとつ落とし穴がありました。
  レーザー虹彩切開術後、角膜が白く濁ることがあるのです。私も、大学時代、1眼経験しました。何年も前に、レーザー虹彩切開術が行われていた眼で、その後の経過を見ていたのですが、角膜が下方から徐々に白くなってきました。最初いったい何が起こったのかわからなかった、最後には、全面的に白くなり、所謂『水疱性角膜症』になったのです。15年以上前のことで、当時、何故、このような事態になったのか解らなかったのですが、後に、症例が数多く報告され、実は、レーザー虹彩切開術後、角膜内皮細胞が減少し、水疱性角膜症になることがあると解ったのです。その後、我々は、レーザー虹彩切開術の適応に慎重になりました。術前に角膜内皮をスペキュラーマイクロスコープでチェックするようにもなりました。特に、角膜内皮疾患があったり、緑内障発作眼においては、既に角膜内皮が強く障害されている場合があり、レーザー虹彩切開術よりも、内皮に優しい観血的手術の方が選択されるべきとも考えるようになりました。
  ただ、このレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症については、いくつかの謎があり、まだ完全には解明されていません。例えば、緑内障発作がすぐに緩解されなくて、内皮の状態が悪く、レーザー虹彩切開術で非常に大きなエネルギーを必要とした場合に、後に水疱性角膜症が発症したのなら容易に理解できるが、全くサイレントな眼で、角膜内皮も問題なかったと思われる眼に、予防的に行われた後にも発症するとの報告が見られるようになりました。これは、大きな謎です。今回、角膜カンファレンスで、この謎に挑むシンポジウムがあったので報告します。謎のポイントは、

1、日本人に多い。欧米では殆ど知られていない。
2、レーザー虹彩切開術から発症まで何年もかかることがある。
3、通常レーザー虹彩切開術は、上方に行うが、水疱性角膜症は下方か起こることがある。
などでしょうか。

1、愛媛大の宇野先生
 房水ジェット噴流説:レーザー虹彩切開術の孔からの房水ジェット噴流が内皮を蝕む
 前房内の房水の流れは、角膜内面を下方へ0.18mm/s 、虹彩前面を上方へ 0.068mm/s 程度で、レーザー虹彩切開術を行うと、その孔から初速 45mm/s 平均3.3mm/s のジェット噴流が角膜内皮に向かって噴出している。通常の200倍以上の速度です。また、その速度は、レーザー虹彩切開術の孔が小さいほど速くなるそうです。彼らの言葉によると、この荒れ狂う異常な房水動態が水疱性角膜症の発症に大きく関わっているという。
 ちょっと計算してみると、この45mm/s というスピードだが、時速0.16km程度で、これでジェットと言えるかどうか・・・

2、独協医大の妹尾先生:レーザー虹彩切開術後の前房内温度及び活性酸素の変化について
Argon laser を、Size 100μm、Power 1000mW, Time 0.05sec で、500発打つと、
前房内循環状態で     11.64±0.35℃ 上昇
前房内循環停止状態で、 21.78±0.96℃ 上昇
 ただ、レーザー虹彩切開術部位から離れると殆ど温度変化はない。
ヤグで行うと、どの部位でも温度変化なし。
だから、Argon でやると水疱性角膜症が起こる??。 ただ、かつて眼科で一般的だった温罨法で、この程度の温度上昇は起こっていて、全く問題ないことが証明されているのである。

3、筑波大の加治先生:
角膜内皮創傷治癒説―終わりのない角膜内皮創傷治癒が水疱性角膜症へとつながる

 難しい数式を操る先生ですが、要点は、

レーザー虹彩切開術の孔からの噴流が角膜内皮面へぶつかり、その噴流は角膜内面を下方へ向かう。この内面に与える圧力は、大きくても0.007mmHg。これは僅かな値だが、下方へ向かう水の流れが(??)、内皮細胞を引き剥がす力剪断応力は、0.1~1dynes/cm2。この値というのは、角膜内皮が健常であれば、問題ないが、レーザーによって 大きめのthermal burn があって、内皮がある程度以上広範囲に脱落し、周囲の内皮が遊走するという治癒機転が働くと、その接着不良な内皮は、高まった剪断応力に引き剥がされる。すると、遊走・剥離というサイクルが繰り返され、内皮減少は終わらない・・・・?
 一番説得力のありそうな意見であった。レーザー虹彩切開術の孔、ジェット噴流、高まる剪断応力、これにレーザーによる直接の内皮損傷がある程度以上加わると(あるいはその時点で存在する内皮障害の程度)、遊走・剥離のサイクルが動き出す・・・。

4、東大の山下先生:マクロファージ説

 レーザー虹彩切開術によって、焼かれた虹彩組織が前房内を飛び散り、角膜内面に付着する。
レーザー虹彩切開術によって、虹彩の血管透過性が亢進し、マクロファージが遊走
このマクロファージは、アルゴンで焼かれた虹彩組織断片を貪食。引き続き、角膜内皮を貪食する??
 少し説得力に乏しい意見のような・・・


私としては、筑波大の加治先生の説に軍配を上げたいが、ただ、適切に行われたレーザー虹彩切開術において、どれくらいの頻度で、水疱性角膜症が発症しているのだろうか。角膜専門医の立場とすれば、角膜移殖の対象疾患の中に占める、レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の比率が高いので、このようなシンポジウムとなったのだろうが、ただ、頻度的には、非常に低い訳で、この低い発生率をも説明できるような議論ではなかったようが気がする・・・。私は、今までどおり、慎重に適応を決めて、ぽつぽつとは、レーザー虹彩切開術しようと思っています。

by takeuchi-ganka | 2006-03-08 23:09 | 学会報告 | Comments(0)