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第471回大阪眼科集談会 その4(1368)

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自宅前の公園の藤が満開になりました

特別講演> 「遺伝の考え方と実際」 辻川 元一 先生(大阪大学)

第1章 考え方

予想通りの難解な講演。いつも、遺伝と聞いただけで、腰が引けるのだが、ちょっと頑張ってみようかな。

有名なメンデルの法則というのがある。メンデルは有名学者ではなく修道院の司祭だったので、彼の発表は、ほぼ黙殺され、30年以上経過した彼の死後、有名学者が再発見するまで埋もれていたらしい。(知らなかった^^;) メンデルの発見から100年以上経過しているが、私はこの遺伝の原則の理解さえ危うい。中高生に戻ったつもりで再勉強。

メンデルの法則とは、形質が親から子へ伝わる仕組みを説明する3つの基本法則(優性・分離・独立)。ただ、遺伝はこのメンデル形式に従うものと、そうでないものがある。

ある形質が「1つの遺伝子座の2つの対立遺伝子」で決まり、それぞれの遺伝子が「別々の染色体上」にあり、互いに独立に分配され、環境要因などの影響が小さい場合、メンデル遺伝形式に従った遺伝形質となる(らしい)。富士額・耳たぶ・耳垢・手を組むと左が上・舌を丸められか・酒に強い・ABO血液型などはメンデル遺伝形質とされている。

※離散量と連続量

この言葉が出てきた瞬間、木が遠くなったが、

離散量というのは、「あるか・ないか」「1個・2」のようにとびとびの値。
連続量というのは、身長・体重のような理屈の上ではどんな中間値も取りうる「滑らかな」量

1,分離の法則

単純に言えば、「対になっている遺伝子が、減数分裂のときに分かれて別々の配偶子に入る」という規則」

「父由来と母由来で1組になっている、形と大きさが同じ染色体のペア」(相同染色体)において、遺伝子は「アレル(対立遺伝子)」として2つ存在する。この2つのアレルは減数分裂の時に分かれて、一つの配偶子(精子や卵子)にはひとつのアレルが入る。離散分布をとる形質例えばABO血液型などは、メンデル遺伝の法則の説明モデルとして使われることが多い。

※こんな事をメンデルは遺伝子という概念がなかった時代に見つけていたらしい。

2,独立の法則

2組以上の対立遺伝子は、それぞれがお互いに影響せず、独立に配偶子の中に分かれ入る」⇒「AaBb という個体が減数分裂でつくる配偶子は、ABAbaBab 4種類が同じ割合でできる」

※染色体の数は2346本だが、受け継がれる形質は、染色体の数より遥かに多い。つまり一つの染色体にいくつもの遺伝子がある。ざっくり1本に1000個ほど。基本的には、同じ染色体に存在する遺伝子たちは、同じように受け継がれていく(連鎖する)筈。ただ減数分裂の時に、同じ染色体の近い部位に存在する遺伝子は、ほぼ同じように受け継がれていく(強い連鎖)が、同じ染色体でも少し離れた部位に存在する遺伝子は、乗り換えで同じ組み合わせで受け継がれないこともある(recombination)。

1%の確率で組み換えが起こる距離を1cM(センチモルガン)と呼ぶらしい。

※『乗り換え』:減数分裂の初期に、父由来と母由来の相同染色体がぴったり対になって並びます。その接している部分で、2本の染色体が交差し、DNAの一部を互いに交換します。この「DNAの区間を交換する」ことを、「乗り換え」あるいは「組換え」と呼びます

https://www.kazusa.or.jp/dnaftb/11/animation.html 

3,支配の法則(優性の法則(優劣の法則))

「対立遺伝子のうち片方が、もう片方の表現型を支配して隠してしまう」。遺伝子型が「AA」のときに現れる形質⇒A、遺伝子型が「aa」のときに現れる形質⇒a。この二つを交配してできた遺伝子型が「Aa」のときに現れる形質⇒Aa型の形質が隠れてしまう)。この場合Aの方を優性遺伝子(顕性形質を支配する遺伝子)、aの方を劣性遺伝子と呼ぶ。

機能喪失型変異

変異によって、遺伝子が本来持っている機能が弱くなるHypomorphic Allele、機能が失われるNull Allele場合がある。

例えば酵素欠損病の場合、「片方のアレルだけが機能低下(hypomorph)程度なら発病せず、両方が重度の機能低下〜欠損になって初めて発病する」ため、常染色体劣性遺伝形式をとるものが多数となる(場合が多い)。

逆に、 野生型アレル1本ぶんの産生量では生理的に足りないため、ヘテロ接合の時点で症状が出る場合をハプロ不全と呼び、優性遺伝形式をとる。代表例としては、PAX6という、眼と脳の発生を司る転写因子をコードする遺伝子があり、眼発生のマスター転写因子で、機能が半分になるだけで眼形成不全(無虹彩、小眼球症など)を起こすことが知られている。

機能獲得型変異

我々でも偶に遭遇する顆粒状角膜ジストロフィー(granular corneal dystrophy, GCD)は、TGFBI遺伝子の機能獲得型変異で、正常より沈着しやすく・蓄積しやすい性質タンパク質を産生するため、角膜に沈着する。この場合は、ヘテロでも軽症だが発症し、ホモなら重症となる。優性遺伝形式をとる。

dominantnegative effect

「変異タンパクが正常タンパクの働きを邪魔して、全体として機能を潰してしまう現象」

ALDH2は、「アルコール代謝で生じるアセトアルデヒドを酢酸に分解する主要なアルデヒド脱水素酵素(アルデヒド脱水素酵素2)」で、サブユニットが4つ集まって1つの酵素として機能している。ただ、「4つのサブユニットのうち1つでも不活性型が混ざると、その4量体全体がほとんど働かない」という性質がある。この一つの不活性型サブユニットが他の正常サブユニットの活性まで損なってしまう効果を『dominant negative effect』と呼んでいる。

ALDH2遺伝子エクソン12の一塩基多型 rs671:塩基 G→A では、成熟タンパク質 487番目のアミノ酸が GluE→ LysK) に置換される。野生型アレルを ALDH21、変異型アレルを ALDH22** と呼ぶ。野生型アレル2本を持つものがNN型(正常ホモ接合体)、野生型と変異型アレルを1本ずつもつものが、MN型(ヘテロ接合体)、変異型アレル2本もつものがMM型(変異ホモ接合体)と呼び、NN型は酒に強く、MM型は全く酒が飲めないタイプとなり、日本人に多いのは、MN型で少し飲めるけど、顔が真っ赤になるタイプということになります。

MN型のアルデハイド酸化酵素4量体は、①正常4、②正常3+変異1、③正常2+変異2、③正常1+変異3、④変異4個の4パターン。どれがどれくらいの割合になるのかは、神のみぞ知る?決まってないようですが、正常4個の4量体ができる確率は1/16のようで、ヘテロ(MN)の酵素活性は、正常ホモ(NN)の1/16だそうです。私のクリニックの飲み会で、いくらでもRed Flushなく飲めるモンスターがいますが、彼女はNN型なのでしょう。私は完全なMN型。太刀打ちできない筈です。

因みに、産生されるアルデヒドは毒性があり問題視なのですが、MM型は全く飲めないで問題ない。NN型は飲んでもすぐ代謝できるので、問題ないですが、MN型は、中途半端に飲んで中間代謝産物アルデヒドの血中濃度が高くなり、顔も赤くなり(RedFlush)、これが食道がんのリスクを高めると言われています。今更遅いですが、MN型で酒がやめられない私は、食道がんリスクがかなり高いと思われます^^;

第2部:実際

多様性 Clinical heterogeneityを司るもの

網膜色素変性に限らないですが、同じ遺伝子異常があっても、眼底所見やERGがかなり多様性を示すのは、何故でしょうか。様々な要因があるのでしょうが、その一つが例えば光(環境要因)。EYS変異を持つゼブラフィッシュモデルでも、光刺激により視細胞の細胞死が増加することが示されており、「光曝露が病態進行に促進的に働く」のは確かなようです。

https://www.riken.jp/press/2024/20240423_2/index.html

一つの原因遺伝子変異以外に、「修飾遺伝子」が表現型を変えることがあるようです。ゼブラフィッシュ(S334Xfish)を飼育していると、軽症のラインがある。軽症からは軽症が生まれ、重症からは重症が生まれる。軽症もラインでも、遺伝子異常は同様に存在していた。この重症・軽症の差はどこからか?軽症のラインでは、一部異なる遺伝子(上流の3塩基)がみつかり、それが修飾遺伝子として働き(cis-element)、毒性のあるロドプシン産生が抑えられていた。また軽症のラインから重症に戻るものと、軽症のままのものがあった(1:1で)。重症に戻るものは、cis-elementをキャンセルする修飾する遺伝子(trans-element)が存在していた。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41961469/

※演者のこの論文は発表されたばかり・・


# by takeuchi-ganka | 2026-04-19 18:18 | Comments(0)

第471回大阪眼科集談会 その3(1367)

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7 強膜レンズにより就労継続が可能となった円錐角膜の一例

松本佳保里、新開陽一郎(医誠会国際総合病院)、北澤耕司、外園千恵(京都府立医大)

https://ophtecs.co.jp/products/vueuno-supreme/practitioner/products_medical

強膜レンズというのは、角膜の本では、見たことがある・・・程度だったが、製造販売承認を受けた強膜レンズは日本で初めてらしい。昔からよく名前だけは聞いたことのあるボストン強膜レンズはFDA承認だが、日本では未承認で、限られたクリニックが個人輸入で扱っているだけらしい。

『ビューノ®Supremeは、オフテクス社が開発した日本初の承認取得済み強膜レンズで、従来の眼鏡・ソフト・通常HCLでは十分な視力が得られない角膜乱視・角膜形状異常眼に対する視力補正を目的とした医療用ハードコンタクトレンズです。角膜には触れず強膜で支持し、レンズ下の涙液層で角膜を保護しながら不正乱視をマスキングする設計で、HCL不耐の患者でも装用しやすいことが特長です。』

詳細は承知していないが、処方もそれほど難しくないらしい。値段はひとつ10万ぐらいと高価だけど、他に手段がなければ価値ありそう。

円錐角膜を視力矯正する場合、通常は、ハードコンタクトレンズ、多段階カーブハードコンタクトレンズ(ローズK2など)などで、対応しつつ、角膜クロスリンキングで進行を抑制するが、それでは対応出来ない時の次のステップとして、ビューノ®Supremeが選択肢になりそう。円錐角膜が更に重症になればボストン強膜レンズや角膜移植・角膜内リングへ。

※ボストン強膜レンズは個人輸入で片眼25万以上らしい

8 前房に後房用眼内レンズ挿入数年後に悪性緑内障を発症した1

寺尾まどか、森山まゆ、石田 理(大阪暁明館病院)、喜田照代(大阪医薬大)

白内障手術にトラブルがあったからと言って、後房用に入れるIOLを前房に入れていい筈はないけど、時にこんな事もあるようで・・。このIOLが何故緑内障を引き起こしたのだろうか。そのメカニズムがはっきりしない。明確な説明はなかった気がする。眼圧上昇して、内皮減少も相まって、水庖性角膜症になりかかっていたけど、行われたのは周辺虹彩切除術。それで前房が深くなって眼圧下降したのなら、悪性緑内障ではなく、瞳孔ブロックが原因の緑内障の筈。前房に入ったIOLが瞳孔ブロックの原因になるだろうか。むしろ、残存している水晶体皮質・前嚢・硝子体などと共に前房に入ったIOLが瞳孔付近で房水の流れをブロックするのならありうるかも。瞳孔ブロックがあれば、通常虹彩は前方へ膨隆するはずだが、それを前房IOLがマスクしているような状況なのか・・・・と妄想する。なら悪性じゃないな。

69歳のX連鎖性先天性網膜分離症

山本有貴、湯川知恵 飯田知子(第一東和会病院)

XLRSは、RS1遺伝子変異を原因とするX連鎖性若年網膜分離(網膜分裂)症で、主に男児に発症し、黄斑の嚢胞性変化と網膜層の分離を特徴とする遺伝性網膜疾患。

小児期早期に両眼性の視力低下、読書困難、弱視として発見されることが多く、視力低下は屈折矯正では十分に改善しないことが多い。眼底では黄斑部の放射状嚢胞性変化(「車輪状」分離)や周辺網膜の分離がみられ、全視野ERGではa波保たれb波著減の陰性型が典型的である。昔何度か、黄斑部の車軸状網膜分離を見せてもらった。今回の69歳で発見されたということは、中心視力が比較的保たれ、OCTで軽度の黄斑schisisのみ、周辺部病変・合併症に乏しいタイプだったのかな。

10広角眼底画像における網膜裂孔・網膜剥離検出AIの性能評価

西 浩之、西 悠太郎、佐方弘哲、境 友起夫、中江玲子、福田宏美、西 佳代、西 起史 (西眼科病院)

自動化する必要があるのかなあ・・と思って聞いてたけど、飛蚊症の有無に限らず、いちいち散瞳して周辺部まで精査しなくても、広角眼底画像をとってAIで判断する時代が来るのかも。

11網膜復位に網膜下索状物の外科的切除を要した若年者の増殖性硝子体網膜症の2例

大島佑介、大須賀 翔、櫻井寿也(八尾市)、庄田裕美(高槻市)、溝口 晋(松原市)

12眼瞼手術後早期に甲状腺眼症と診断された2

岩﨑莉佳子、北口善之、河本晋平、森本 壮、下條裕史、藤野貴啓、西田幸二(大阪大)

眼瞼皮膚弛緩の手術をした69歳男性。眼瞼下垂の手術を2回した55歳女性が、術後早期に甲状腺眼症が見つかった。手術が誘発することはないので、ちょっとマスクされていた所見が明らかになったということなのだろうか。

13小児陳旧性閉鎖型眼窩骨折の1例

佐藤陽平、藤田恭史(大阪市)、鹿嶋友敬(東京都)、中村 聡(明石市)、南 愛(豊中市)

眼窩骨折には、開放型(open door)と閉塞型(trap door)があり、前者は待機手術でもいいけど、後者は遅くとも48時間以内の緊急対応が必要。今回は前医でプレートが入れられた陳旧性の閉鎖型症例だが、瘢痕を取り除くと改善が得られたらしい。


# by takeuchi-ganka | 2026-04-10 11:46 | Comments(0)

第471回大阪眼科集談会 その2(1366)

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18年前の又兵衛(多分今頃散り始めてる筈)

4 乳癌に対してtrastuzumab emtansine 投与中に両眼の角膜の急峻化を認めた1

武市有希也、田尻健介、喜田照代(大阪医薬大)

単なる一例報告なのだが、その一つの演題を理解するにも、その前段の基礎知識が色々必要で・・・。いきなりリンカーとかペイロードと言われても^^;

ADC:抗体薬物複合体(Antibody‑DrugConjugate)とは、①がん細胞表面抗原に特異的なモノクローナル抗体 ②強力な細胞傷害性薬(ペイロード) ③両者をつなぐリンカーから構成される。つまり、①抗体:標的(例:HER2)をピンポイントに認識し、薬をがん細胞まで運び、③リンカー:血中では安定だが、がん細胞内(エンドソーム/リソソーム)で切れて、③ペイロード(微小管阻害薬やDNA障害薬など)ががん細胞内で放出される。トラスツズマブ エムタンシン(T‑DM1)は「抗HER2抗体トラスツズマブ」+「ペイロードDM1(マイタンシノイド系微小管阻害薬)」+「MCCリンカー」からなる代表的ADCです。HER2シグナル抑制とDM1による細胞障害の二重の機序で抗腫瘍効果を示します。

HER2は、細胞表面にある受容体型チロシンキナーゼで、ヒト上皮成長因子受容体2Human Epidermal growth factor Receptor 2)。乳がんでは全体の約1520%がHER2陽性とされ、HER2陽性乳がんでは増殖が速く、本来は予後不良のサブタイプだが、HER2を狙い撃ちする分子標的薬トラスツズマブ、ペルツズマブ、T‑DM1T‑DXdなど)により、予後が大きく改善したらしい。

基本的な作用ステップ

1. HER2への特異的結合:トラスツズマブ部分がHER2受容体に高親和性で結合し、HER2シグナル(特にPI3K/AKT経路)を抑制、ADCC誘導、HER2外ドメインのシェディング抑制など、元来のトラスツズマブ作用を保持します。

2. エンドサイトーシスと細胞内移行:HER2に結合したT-DM1は受容体とともにエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれ、エンドソームを経てリソソームに移行します。

3. リソソーム内での分解とペイロード放出:リソソーム内で抗体部分が分解され、Lys MCC DM1などの代謝産物の形でDM1が細胞内に放出されます。

4. DM1による微小管阻害とアポトーシス:DM1はチューブリンに結合し微小管重合を強力に阻害、紡錘体形成を妨げて細胞周期を主にM期で停止させ、結果としてアポトーシスを誘導します。

複雑なメカニズムを有する強力な抗癌剤だが、角膜上皮障害を含む眼毒性を起こしうる抗HER2抗体薬物複合体で、微小嚢胞様変化や偽樹枝状病変などが報告されています。

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12718967/ 

この論文では、⇒『細隙灯顕微鏡検査では、両眼の角膜に多数の上皮下微小嚢胞様上皮変化(MEC)が認められ、傍中心リングを形成していた。トポグラフィーでは、両眼に中心部の平坦化が認められた』 今回の発表は、よくわからないけど、角膜トポがsteepening。何故?浸潤病巣があるのは何故?結局よく理解できませんでしたが、とりあえずこの薬剤を使用する場合は、視力、屈折、角膜トポグラフィーの定期的なモニタリングが必要。少なくとも、飛び込みで来院されても診断不可能なので、この手の薬剤を投与する時は、関連する診療科への連絡は必須だと思う。

5 濾過術後に再発性穿孔を来した前部ぶどう腫の1例

藤野貴啓、松下賢治、森本 壮、河嶋瑠美、岡﨑智之、臼井審一、西田幸二(大阪大)

そもそも濾過手術の適応があったのか・・・なんて思ってしまう。内皮もデスメもなく、眼圧上昇に伴って眼球が拡大してしまうような眼。最終的に眼球内容除去・・

6 テブダック®により角膜穿孔が生じた一例

山下正奈、堀田芙美香、岩橋千春、江口洋、日下俊次(近畿大)

このテブダックも、進行または再発の子宮頸がんに用いられる抗体薬物複合体(ADC)製剤

①標的抗体:抗ヒト組織因子(tissue factorTF)ヒト化モノクローナル抗体(チソツマブ)

②ペイロード:モノメチルアウリスタチンEMMAE)-微小管重合阻害薬

③リンカー:プロテアーゼ切断型リンカー(細胞内で分解されMMAEを遊離)

角膜炎:全症例の約1819%で報告されており、重大な眼障害として位置付けられています。

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CTCAEver5.0 角膜炎(Keratitis

Common Terminology Criteria for Adverse Events 有害事象を「名称+重症度(Grade 15)」で統一的に評価するための国際基準)

Grade 1:症状なし、または臨床所見・検査所見のみ。⇒治療を要さない軽微な所見のみ。※僅かなSPKのみ?

Grade 2:症状あり。⇒中等度の視力低下を伴う(最高矯正視力0.5以上、または既知のベースラインから3段階以下の視力低下)。SPK多数?角膜びらん?

Grade 3:症状あり。⇒顕著な視力低下(最高矯正視力0.5未満かつ0.1超、またはベースラインから3段階を超える視力低下)。または角膜潰瘍、または身の回りの日常生活動作の制限を伴う場合。

Grade 4:罹患眼の穿孔または最高矯正視力0.1以下の重度視力障害。

Grade 5:死亡(角膜炎が直接死因となる例は通常想定されず、定義上は記載のみ)。

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53歳女性。充血・SPK出現・SPK悪化・角膜びらん・角膜穿孔に・・つまり、グレード1から始まりグレード4に。両眼の角膜中央から下方に大きな浸潤病巣があって左眼穿孔したようだが、眼科医と密接な連絡が必要な薬剤。このADCの副作用を熟知していたら、SPKが増加してきた段階で、中止勧告したくなりそうな・・

眼障害を引き起こす可能性のあるADCを調べたら、今回の集談会で登場したもの以外にも結構多くて、今後フォローが大変かもしれない。


ADC

標的

ペイロード

主な報告眼障害の例

ベランタマブ マホドチン

(多発性骨髄腫)

BCMA

MMAF

角膜上皮微小嚢胞様変化、霧視、視力低下hpcr+1

ブレンツキシマブ ベドチン(CD30陽性リンパ腫)

CD30

MMAE

角膜障害・ドライアイなどの報告hpcr+1

エンホルツマブ ベドチン(尿路上皮がん)

Nectin‑4

MMAE

角膜炎・結膜炎・ドライアイhpcr+2

ミルベツキシマブ ソラブタンシン(卵巣がんなど)

FRα

DM4(メイタンシノイド)

角膜上皮変化、視力低下hpcr+1

サシツズマブ ゴビテカン(乳がん)

Trop‑2

SN‑38

角膜表層障害などの眼毒性シグナルhpcr

トラスツズマブ デルクステカン(T‑DXd)(乳がん・胃がん)

HER2

トポイソメラーゼI阻害薬

角膜・結膜症状の報告あり(頻度は中等度)hpcr

トラスツズマブ エムタンシン(T‑DM1)(HER2陽性乳がん)

HER2

DM1(メイタンシノイド)

角膜微小嚢胞様変化、偽樹枝状病変などhpcr

チソツマブ ベドチン(テブダック)(子宮頸がん)

TF

MMAE

結膜炎、角膜炎、ドライアイ、視力低下(失明例リスクも)

ブーレンレップ(多発性骨髄腫)

Nectin‑4

MMAE

角膜障害・ドライアイ等に対し専用の眼障害マネジメントガイドあり




# by takeuchi-ganka | 2026-04-07 11:22 | Comments(0)

第471回大阪眼科集談会 その1(1365)

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オンデマンドで聞いてもいいのだけど、春雨の降る中久しぶりにオーバルホールへ。最後まで聴くのは辛いので、難解な特別講演はオンデマンドでじっくり聴こうかな。せっかくオーバルホールまで来たので、いつものように、出入橋のきんつば屋できんつばを買いました。あのおばあちゃんがいなかったけど、大丈夫なのかなあ・・

第471回 大阪眼科集談会プログラム

日時:令和8年4月4日(土)14:00-17:00  場所:毎日新聞オーバルホール

1 片眼硝子体出血と両眼性虚血性網膜動静脈炎を生じた結核性ぶどう膜炎の一例

竹島由樹、藤本聡子、林 信(大阪大)、白木多賀子(市立貝塚病院)、前野貴俊、 西田幸二(大阪大)

結核は網膜静脈炎/網膜静脈周囲炎(結核性網膜血管炎)の原因として古くから知られており、医師になりたての頃も病棟で何例か経験した記憶がある。病因は①結核菌の血行性播種による直接感染、②結核菌抗原に対する遅延型過敏反応など免疫学的機序の両方が想定されいて、①には結核治療、②にはステロイド投与。通常は併用するのだろうか・・。

65歳女性に両眼にBRVOがあって、その後硝子体出血をきたしたと・・紹介受診。ただ、この時点でグラアルファ点眼しているので、恐らく両眼とも眼圧上昇していたのだろうが、その時に隅角鏡入れてたら、NVPASが見つかって、もう少し早期に診断に辿り着いたきがするなあ。FAしたら、広範囲に無血管野があって、クオンティフェロン陽性で、結核による閉塞性網膜動静脈血管炎とそれによる血管新生緑内障を強く疑い、結核治療を行って改善へ・・

2 抗AQP4抗体、抗MOG抗体陽性視神経炎の臨床経過

林 真衣、春名優甫、田上瑞記、坂井 淳、三澤宣彦、伊藤義彰、本田 茂(大阪公大)

AQP4抗体陽性:視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の一表現型で、比較的中年以降、女性に多い。視神経炎は長い連続病変(ロングセグメント)になりやすく、視交叉~視索を巻き込むことも多い。

MOG抗体陽性独立した「MOGADMOG antibody-associated disease)」の一表現型で、小児~若年成人に多く、性差は目立たないか軽い。視神経炎では視神経の肥厚・造影が目立ち、しばしば前部視神経優位。脊髄病変はAQP4ほど長大でないことが多い。

※抗AQP4抗体陽性視神経炎の方が、抗MOG抗体陽性視神経炎より明らかに視力予後不良と報告されており、MOG-ONMS-ONに近いレベルまで回復することが多い。

3 肺腺癌に対するアテゾリズマブ投与後に発症したぶどう膜炎の1例

友田彩子、三木克朗、尾辻 剛、西村哲哉(関西医大総合医療センター)、今井尚徳(関西医大)

免疫関連有害事象(irAE Immune-Related Adverse Event)とは、免疫チェックポイント阻害薬によって免疫が過剰に活性化された結果、自己免疫反応のような形で全身の臓器障害として現れる副作用の総称らしい。免疫機能をうまく操作して癌細胞を叩こうとしているのだが、簡単ではない・・・

https://chugai-pharm.jp/product/irae-compass-plus/whats-irae/index/ 

肺腺癌にアテゾリズマブを使用した段階で、irAE発症は覚悟している筈で、発症したら、臓器別にその重症度をグレード分類して、免疫チェックポイント阻害薬(ICIを中止するかどうか判断することになる。虹彩炎(ぶどう膜炎)の場合は、

CTCAEv5.0「ぶどう膜炎」グレード基準

  • Grade 1:わずかな(trace)炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎。
  • Grade 21+ 2+ の炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎。
  • Grade 33+ 以上の炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎、または中等度の後部ぶどう膜炎、もしくは全ぶどう膜炎。
  • Grade 4:罹患眼の最高矯正視力 0.1 以下。
  • Grade 5:なし(ぶどう膜炎単独では定義なし)。

※提示症例は、グレード3なので、ぶどう膜炎の治療しつつ、原則ICI中止なのだが、ちょっと中止しにくい・・気がするけど。


# by takeuchi-ganka | 2026-04-06 11:31 | Comments(0)

初期の老眼 (1364)

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専称寺の枝垂れ桜(久しぶりに感動(^^))

最近ちょっと気になっている、初期の老眼症状について、だらだら書いてみます。

この初期の老眼と言っても、症状は結構多彩で、対応も少し難しいこともあります。その症状を決める要因について考えてみようと思います。

  1. 年齢
  2. 屈折異常
  3. 環境

主に、この3つ要因が初期老眼の症状を決めている(気がしています)。

一番単純なケースから。
元々遠くが見えていて、眼鏡を使用していない人でも、45歳をすぎると、徐々に手元にピントが合いにくくなります。最近はスマホを見ることが非常に多いので、初期の老眼を実感する機会は少し早いかもしれません。初期の老眼というのは、焦点が合わないということもあるのですが、焦点をあわせるのに時間がかかったり、疲れてくると焦点があいにくくなったり、近くを見たあと遠くを見ると、今度は遠くに焦点が合わなくなったり、最後には、どこにも焦点が合わないような状況にもなります。調節力が衰えるとともに、調節力をうまく操れなくなる感じでしょうか。オートフォーカスカメラのオートフォーカス機能がポンコツになってきた感じ^^;

この一連の症状は、加齢に伴う調節力の低下によって生じるのですが、45歳だと調節力は3D程度まで下がってきます。10歳だと10D以上ありますから、寝ながらスマホや本を見る状況で、その距離が10cm以下(⇒調節近点)でもピントが合うのです。若くても徐々に調節力は低下して、20歳になるとこの調節近点は10cm以上となり、流石に7-8cmの距離にはピントがあいません。ただ、徐々に調節力が低下したとしても、それなりに調節力がある年齢では、極端な近距離で見ようとしない限り、不便を感じることはありません。問題は、45歳です。この年齢の調節力はおおよそ3Dですから、元気な時でもギリギリ30cmの距離が焦点をあわせる限界距離(調節近点)となります。スマホも読書も通常30cm程度で見ることが多いので、45歳ぐらいから、この距離に不便を感じるようになる訳です。皆、そろそろ来たなあ・・・と感じる訳です。

 症状が単純でないのは、近くを見て、すぐに遠くを見ようとしても、すぐに焦点が合わないとか、調節がうまくできなくなったり、朝仕事開始時は、大丈夫でも午後になると症状が強くなるとか、調節力が一定でなかったり、内服した風邪薬や花粉症の薬に抗コリン作用成分が含まれていると、調節力が更に低下してしまいます。ここまで長々と述べたように、ごく単純なケースでも、それなりに複雑な症状を呈するわけです。

この状況に①年齢、②屈折異常、③環境の3つの要因が加わります。

①まず年齢から

初期の老眼症状を訴えてこられた患者さんが、45歳だとして、その症状は徐々に悪化します。例えば60歳ぐらいになると、調節力は0-0.5Dとなり、ここまでくると、見えたり見えにくかったりとかはなくなり、近くは、老眼鏡なしでは見えないので、逆に疲れることも少なくなります。調節性眼精疲労ですから、調節力そのものがゼロに近づけば、それに起因する眼精疲労もなくなるわけです。ただ、45歳から50歳すぎぐらいまでは、確実に調節力の低下に伴う症状の直撃を受けます。これはもう仕方ありません。諦めて、対策を考えることになります。

②次に元々の屈折異常について

元々近視がない、眼鏡なしでも遠くが見える場合について。このケースは、二通りあって、本当に近視も遠視もない場合と、軽い遠視がある場合。前者であれば、前述の一番単純なケースに相当しますが、軽い遠視がある場合は、この通常45歳から味わう初期老眼症状が、その遠視の程度に応じて前倒しでやってきます。+2.0D程度の遠視なら30歳代半ば、+1.0D程度の遠視でも40歳ぐらいから症状が出そうです。軽い遠視の人の場合は、単純に眼が良いと思っている人も多いので、説明に一工夫必要となります。

次が近視がある場合です。これも軽い近視(-1-2D程度)と中等度(-3-4D程度)と高度近視(-6D以上)で、話が変わってきます。更に言えば、この近視があっても、眼鏡もコンタクトもしていない場合と、ほぼ完全矯正している場合、弱めの矯正をしている場合で話が変わってくるのです。

近視で完全矯正のメガネを掛けている場合、当然近視がない人と同じ状況なので、同じように症状が出てきますが、弱めの眼鏡をしてたり、眼鏡を掛けていない場合は、45歳では症状がでなくて、50歳ぐらいから症状がでるかもしれません(50歳になっても老眼がないと自慢の方に多いかも)。-1D程度の近視なら、眼鏡なしでも日常生活不便がないことも多く、初期老眼症状は遅くなるでしょうし、-6D以上の高度近視で、元々少し弱めの眼鏡をしている場合も、初期老眼症状は、遅いと思います。

③環境要因について

仕事をしているか、していないか。していない場合は、どんな趣味があるのか。パソコン・スマホを見る頻度はどの程度なのかを聞き出す必要があります。仕事をしている場合は、その仕事にデスクワークが占める割合はどの程度なのか。これは、症状の原因を探り、対策を考える上で非常に重要となります。つまり、その人の生活環境の中で、どの程度調節力が重要な役割を担っているかを知る必要があるのです。

患者さんが来院されて、オートレフ・眼圧・細隙灯顕微鏡・眼底検査・OCT・視野・・・・など様々な検査をしても、これは初期老眼以外の眼疾患がないかどうかを見極めているだけで、環境要因を探らないと対策は見つけられません。環境要因によって対策が全く異なってくるのです。外勤ばかりで、あまり手元作業がない人と、一日中デスクワークでパソコン画面とにらめっこしている人では、当然対策は異なります。患者さんが、どんな状況で働いていて、一番どんな事に不便を感じているのかを聞き出す必要があります。患者さんは、老眼になったから、老眼鏡を作ればいい、今まで眼鏡かけていたけど、遠近両用にすればいい・・とか、簡単に思い込んで来院されますが、単純に解決する場合もあれば、そうでない場合も多いのです。

 デスクワーク中心の会社員だとしても、パソコンはノートなのかデスクトップなのかは重要で、ノートなら、視線を落とすことができるので、遠近や中近の眼鏡が使えるが、デスクトップの場合、正面にモニターがあれば、視線はまっすぐになるので、遠近・中近の眼鏡は使いにくく、単焦点の仕事用眼鏡の方がいいかもしれない。デスクワークの比率が少なければ、仕事用と通常の遠近の使い分けが必要になるかもしれません。

 もうひとつの大きな問題は、コンタクトレンズ装用者です。デスクワーク中心の人においては、コンタクトレンズ装用そのものが、眼精疲労の原因になるので、コンタクトレンズをやめて、眼鏡に切り替えてくれると話は少し簡単になるのですが、特に女性の場合、そうは問屋がおろさない。対策は、①遠近両用のコンタクトレンズにする、②コンタクトレンズの度数を下げる、③コンタクトレンズの上から老眼鏡をかける。この3つぐらいでしょうが、遠近両用コンタクトレンズは、単焦点のコンタクトレンズほど見え方がシャープではなく、満足が得られないことも多い。すると、②か③となるでしょうか。

100%完璧な対策はなくて、どこかで妥協点を見出す必要もあるが、妥協したくないという性格に方の場合、更に苦労することになる。

 多分、ここに書ききれていない様々な要因もあるでしょうが、たかが初期老眼といっても、簡単ではない事もあるのです。


# by takeuchi-ganka | 2026-04-01 10:23 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka