第471回大阪眼科集談会 その4(1368)
2026年 04月 19日
特別講演> 「遺伝の考え方と実際」 辻川 元一 先生(大阪大学)
第1章 考え方
予想通りの難解な講演。いつも、遺伝と聞いただけで、腰が引けるのだが、ちょっと頑張ってみようかな。
有名なメンデルの法則というのがある。メンデルは有名学者ではなく修道院の司祭だったので、彼の発表は、ほぼ黙殺され、30年以上経過した彼の死後、有名学者が再発見するまで埋もれていたらしい。(知らなかった^^;) メンデルの発見から100年以上経過しているが、私はこの遺伝の原則の理解さえ危うい。中高生に戻ったつもりで再勉強。
メンデルの法則とは、形質が親から子へ伝わる仕組みを説明する3つの基本法則(優性・分離・独立)。ただ、遺伝はこのメンデル形式に従うものと、そうでないものがある。
ある形質が「1つの遺伝子座の2つの対立遺伝子」で決まり、それぞれの遺伝子が「別々の染色体上」にあり、互いに独立に分配され、環境要因などの影響が小さい場合、メンデル遺伝形式に従った遺伝形質となる(らしい)。富士額・耳たぶ・耳垢・手を組むと左が上・舌を丸められか・酒に強い・ABO血液型などはメンデル遺伝形質とされている。
※離散量と連続量
この言葉が出てきた瞬間、木が遠くなったが、
離散量というのは、「あるか・ないか」「1個・2個…」のようにとびとびの値。
連続量というのは、身長・体重のような理屈の上ではどんな中間値も取りうる「滑らかな」量
1,分離の法則
単純に言えば、「対になっている遺伝子が、減数分裂のときに分かれて別々の配偶子に入る」という規則」
「父由来と母由来で1組になっている、形と大きさが同じ染色体のペア」(相同染色体)において、遺伝子は「アレル(対立遺伝子)」として2つ存在する。この2つのアレルは減数分裂の時に分かれて、一つの配偶子(精子や卵子)にはひとつのアレルが入る。離散分布をとる形質例えばABO血液型などは、メンデル遺伝の法則の説明モデルとして使われることが多い。
※こんな事をメンデルは遺伝子という概念がなかった時代に見つけていたらしい。
2,独立の法則
「2組以上の対立遺伝子は、それぞれがお互いに影響せず、独立に配偶子の中に分かれ入る」⇒「AaBb という個体が減数分裂でつくる配偶子は、AB・Ab・aB・ab の4種類が同じ割合でできる」
※染色体の数は23対46本だが、受け継がれる形質は、染色体の数より遥かに多い。つまり一つの染色体にいくつもの遺伝子がある。ざっくり1本に1000個ほど。基本的には、同じ染色体に存在する遺伝子たちは、同じように受け継がれていく(連鎖する)筈。ただ減数分裂の時に、同じ染色体の近い部位に存在する遺伝子は、ほぼ同じように受け継がれていく(強い連鎖)が、同じ染色体でも少し離れた部位に存在する遺伝子は、乗り換えで同じ組み合わせで受け継がれないこともある(recombination)。
※1%の確率で組み換えが起こる距離を1cM(センチモルガン)と呼ぶらしい。
※『乗り換え』:減数分裂の初期に、父由来と母由来の相同染色体がぴったり対になって並びます。その接している部分で、2本の染色体が交差し、DNAの一部を互いに交換します。この「DNAの区間を交換する」ことを、「乗り換え」あるいは「組換え」と呼びます
https://www.kazusa.or.jp/dnaftb/11/animation.html
3,支配の法則(優性の法則(優劣の法則))
「対立遺伝子のうち片方が、もう片方の表現型を“支配して”隠してしまう」。遺伝子型が「AA」のときに現れる形質⇒A、遺伝子型が「aa」のときに現れる形質⇒a。この二つを交配してできた遺伝子型が「Aa」のときに現れる形質⇒A(a型の形質が隠れてしまう)。この場合Aの方を優性遺伝子(顕性形質を支配する遺伝子)、aの方を劣性遺伝子と呼ぶ。
機能喪失型変異
変異によって、遺伝子が本来持っている機能が弱くなる(Hypomorphic Allele)、機能が失われる(Null Allele)場合がある。
例えば酵素欠損病の場合、「片方のアレルだけが機能低下(hypomorph)程度なら発病せず、両方が重度の機能低下〜欠損になって初めて発病する」ため、常染色体劣性遺伝形式をとるものが多数となる(場合が多い)。
逆に、 野生型アレル1本ぶんの産生量では生理的に足りないため、ヘテロ接合の時点で症状が出る場合をハプロ不全と呼び、優性遺伝形式をとる。代表例としては、PAX6という、眼と脳の発生を司る転写因子をコードする遺伝子があり、眼発生のマスター転写因子で、機能が半分になるだけで眼形成不全(無虹彩、小眼球症など)を起こすことが知られている。
機能獲得型変異
我々でも偶に遭遇する顆粒状角膜ジストロフィー(granular corneal dystrophy, GCD)は、TGFBI遺伝子の機能獲得型変異で、正常より沈着しやすく・蓄積しやすい性質タンパク質を産生するため、角膜に沈着する。この場合は、ヘテロでも軽症だが発症し、ホモなら重症となる。優性遺伝形式をとる。
dominantnegative effect
「変異タンパクが正常タンパクの働きを邪魔して、全体として機能を潰してしまう現象」
ALDH2は、「アルコール代謝で生じるアセトアルデヒドを酢酸に分解する主要なアルデヒド脱水素酵素(アルデヒド脱水素酵素2型)」で、サブユニットが4つ集まって1つの酵素として機能している。ただ、「4つのサブユニットのうち1つでも不活性型が混ざると、その4量体全体がほとんど働かない」という性質がある。この一つの不活性型サブユニットが他の正常サブユニットの活性まで損なってしまう効果を『dominant negative effect』と呼んでいる。
ALDH2遺伝子エクソン12の一塩基多型 rs671:塩基 G→A では、成熟タンパク質 487番目のアミノ酸が Glu(E)→ Lys(K) に置換される。野生型アレルを ALDH21、変異型アレルを ALDH22** と呼ぶ。野生型アレル2本を持つものがNN型(正常ホモ接合体)、野生型と変異型アレルを1本ずつもつものが、MN型(ヘテロ接合体)、変異型アレル2本もつものがMM型(変異ホモ接合体)と呼び、NN型は酒に強く、MM型は全く酒が飲めないタイプとなり、日本人に多いのは、MN型で少し飲めるけど、顔が真っ赤になるタイプということになります。
MN型のアルデハイド酸化酵素4量体は、①正常4個、②正常3+変異1、③正常2+変異2、③正常1+変異3、④変異4個の4パターン。どれがどれくらいの割合になるのかは、神のみぞ知る?決まってないようですが、正常4個の4量体ができる確率は1/16のようで、ヘテロ(MN)の酵素活性は、正常ホモ(NN)の1/16だそうです。私のクリニックの飲み会で、いくらでもRed Flushなく飲めるモンスターがいますが、彼女はNN型なのでしょう。私は完全なMN型。太刀打ちできない筈です。
因みに、産生されるアルデヒドは毒性があり問題視なのですが、MM型は全く飲めないで問題ない。NN型は飲んでもすぐ代謝できるので、問題ないですが、MN型は、中途半端に飲んで中間代謝産物アルデヒドの血中濃度が高くなり、顔も赤くなり(RedFlush)、これが食道がんのリスクを高めると言われています。今更遅いですが、MN型で酒がやめられない私は、食道がんリスクがかなり高いと思われます^^;
第2部:実際
多様性 Clinical heterogeneityを司るもの
網膜色素変性に限らないですが、同じ遺伝子異常があっても、眼底所見やERGがかなり多様性を示すのは、何故でしょうか。様々な要因があるのでしょうが、その一つが例えば光(環境要因)。EYS変異を持つゼブラフィッシュモデルでも、光刺激により視細胞の細胞死が増加することが示されており、「光曝露が病態進行に促進的に働く」のは確かなようです。
https://www.riken.jp/press/2024/20240423_2/index.html
一つの原因遺伝子変異以外に、「修飾遺伝子」が表現型を変えることがあるようです。ゼブラフィッシュ(S334Xfish)を飼育していると、軽症のラインがある。軽症からは軽症が生まれ、重症からは重症が生まれる。軽症もラインでも、遺伝子異常は同様に存在していた。この重症・軽症の差はどこからか?軽症のラインでは、一部異なる遺伝子(上流の3塩基)がみつかり、それが修飾遺伝子として働き(cis-element)、毒性のあるロドプシン産生が抑えられていた。また軽症のラインから重症に戻るものと、軽症のままのものがあった(1:1で)。重症に戻るものは、cis-elementをキャンセルする修飾する遺伝子(trans-element)が存在していた。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41961469/
※演者のこの論文は発表されたばかり・・






