第466回大阪眼科集談会 その3 (1347) 実録!眼感染症クリニック
2025年 06月 24日

<特別講演> 座長:江口 洋 先生(近畿大学)
「実録!眼感染症クリニック」鈴木崇 先生(いしづち眼科・東邦大学)
演者から、仕事が楽しくて仕方ない・・って雰囲気が伝わってくる素敵な講演だった。
すべての結膜炎で確定診断がきるわけではない。通常は、問診と所見から病名を推定し、治療を開始する。ただ、眼感染症の専門家であっても、どうみても肺炎球菌結膜炎だと思ったものがEKCだったり、その逆だったりすることもあると・・ 臨床所見だけでは診断が難しいことも多いらしい。今では自信がないとさえ・・・
しっかりと問診して、先入観を持たず、特徴的な所見を見逃さず、診断を推定して、治療を開始することが重要。
トリアージと対応
- レベル0:経過観察
- レベル1:自施設で治療
- レベル2:自施設で治療し、悪化したら紹介
- レベル3:すぐに専門機関へ紹介
※すべての疾患に言えることだが、一人で開業していると、この疾患のトリアージと対応は重要で、自分がそれぞれの疾患に対して、どこまで責任を持って治療できるのかを把握した上で、対応しなければいけないが、それは簡単なようで、非常に難しい問題でもある。何も知らないのに、何でもわかったような気になっている場合もあれば、勉強すればするほど、実はまだまだ十分理解できていないことが分かってくることもある。自分がどこまでできるのかを把握することって、意外に難しい・・
※恩師の「山また山」って言葉が浮かんできた^^;
https://takeganka.exblog.jp/30564642/
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眼瞼炎
1)眼瞼皮膚炎:皮膚科との境界領域なので、症例によっては、当然皮膚科へコンサルトすべき。乾燥・アレルギー・感染・皮膚特有の疾患・・
※眼瞼ヘルペス⇒アシクロビル眼軟膏、伝染性膿痂疹⇒抗菌剤軟膏
2)前部眼瞼炎
- 睫毛根部付近の細菌感染:抗菌剤、lid hygiene?
- Demodexの関与?
- https://takeganka.exblog.jp/37713631/
3)後部眼瞼炎
- マイボーム腺炎(アクネ菌・ブドウ球菌):抗菌剤
- MGD:lid hygiene
- https://takeganka.exblog.jp/36379135/
症例16歳男性
アトピー性皮膚炎に合併した眼瞼皮膚炎+マイボーム腺炎 ※培養でMSSA(+)
⇒レボフロキサシン+ベストロン点眼、オフロキサシン眼軟膏、ミノサイクリン内服
※ここまで徹底した処方はなかなかできそうにないが・・・・細菌性の眼瞼皮膚炎の原因菌としては、ブドウ球菌、コリネ、アクネなどで、基本的には眼軟膏を使うと(個人的にはあまり軟膏は使わないが、基本眼軟膏だとは驚き)。ブドウ球菌にはオフロキサシンが有効で、アクネにはエコリシン。コリネにはどちらも有効?ただ、殆どの場合、オフロキサシンでOK。子どもの場合、アクネ菌が原因で、エコリシンが有効。自分の乏しい経験では、ベストロン点眼が最も幅広く効いている印象があるのだが・・・・
※水疱、臍窩があれば、ヘルペスを疑う。当然ステロイド禁忌。
症例75歳女性
前部眼瞼炎(カラレット(+))とMGD
※カラレット培養して、グラム陽性球菌(ブドウ球菌)
⇒ベストロン点眼+lid hygiene
※原因菌に有効な点眼を処方するけど、 重要なのは清拭、そして補助的にフルオロキノロンかセフメノキシム点眼を使うのだと。
眼瞼清拭
- ① ぬるま湯で洗う
- ② 界面活性剤入りの洗浄液・洗浄綿で目の縁を洗浄
- ③ ぬるま湯で洗う
販売されている洗浄液や洗浄綿
※高齢の患者さんは、ネットでの注文に不慣れで、アマゾンなら簡単に入手できるのだが、近所のドラックストアーに売ってないことが多いようで、困ってます。まあ綺麗にすればいいので、私も前述の眼瞼清拭方法をおすすめしています。女性なら慣れ親しんでいるクレンジングフォームでもいいのかな?
①アイシャンプー(メディプロダクト)
https://eyeshampoo.com/shopping/eyeshampoo.html
②ティーツリーフォーム(ホワイトメディカル)
https://www.eye-care-select.com/teatree/index.html
https://www.sanwa-mall.com/products/detail/188
③マイボシャンプー(イナミ)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BXNXVZT9?ref_=cm_sw_r_apin_dp_GQ1BQ4F6JWTE9BSKE40Z&th=1
④Mesiru(ロート)
⑤オキュソフト
https://www.eye-care-select.com/ocusoft/index.html
眼瞼炎 レベル2
症例3 67歳男性
マイボーム腺開口部閉塞、発赤、結膜充血
⇒後部眼瞼炎(マイボーム腺炎)、MGD合併 ⇒アジマイシン点眼
※アジマイシン登場前まで、あまり積極的には治療していなかった疾患。少し前から、心を入れ替えて、積極的に眼瞼清拭を指導し、アジマイシン処方して、ファイティングポーズ取ってます^^;
24歳女性
眼痛・コンタクトレンズできない・眼瞼腫脹
マイボーム腺炎、角膜フリクテン、SPK・・・・
⇒マイボーム腺炎角膜上皮症 ⇒アジマイシン点眼
※後部眼瞼炎とは、マイボーム腺内のアクネ菌・ブドウ球菌感染で、所見としては、眼瞼縁の充血・腫脹、MGD、瞼結膜充血、そしてSPK。マイボーム腺内の病巣なので、脂溶性の高い有効な薬剤の投与が必要で、アジマイシン点眼、クラリスロマイシン・ミノマイシン内服など。
※開業医にとって、ミノマイシン内服を効果判定しながら、長期間使うのは、ハードル高かったけど、アジマイシン点眼を2週間なら可能。まず、アジマイシン2週間点眼して、治りきらなければ、エコリシン軟膏塗布。再発繰り返す場合は、内服も。
※かつて、タリムス点眼が処方できるようになって、春季カタルがレベル3からレベル2になったように、アジマイシン点眼が使えると、レベル2の眼瞼炎が拡大するかな。
眼瞼炎 レベル3
眼窩(眼瞼)蜂窩織炎
https://takeganka.exblog.jp/31096421/
※眼窩蜂窩織炎の場合は、視機能に重大な影響が出ることもあり、すぐに専門病院へ
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結膜炎
症例1 24歳男性
肺炎球菌による結膜炎 ⇒キノロン系点眼で治癒
※典型的アデノウイルス結膜炎:濾胞・充血・漿液性眼脂などが特徴だが、演者は瞼結膜の点状出血が特徴的所見だと・・。
※演者は最近、EKCに違いないと思ったのに肺炎球菌による細菌性結膜炎だったり、アレルギー性結膜炎と思ったらEKCだった・・というような紛らわしい症例が多くないかと・・。感染症の専門家でさえ、臨床所見のみから、細菌性かウイルス性か診断する自信が全くないと告白。専門家をして、そう言わせるのなら、我々が迷う・間違う・・のはある程度仕方ないのかも(ちょっと安心)。演者は、なるべく塗抹をして顕微鏡で確認していると。
- 好中球・細菌 ⇒細菌性
- リンパ球 ⇒ウイルス性
- 好酸球 ⇒アレルギー性
採取・スライドに塗布・染色・鏡検・・・簡単にできますと。
(顕微鏡のカタログを見始めました・・・^^;)
症例 83歳女性 キノロン系点眼効かない結膜炎・・
塗抹⇒好中球に貪食されるグラム陽性杆菌 ⇒コリネバクテリウム
コリネはすぐに耐性化しやすい。セフメノキシムかトブラマイシンへ。
60歳女性
左眼濾胞性結膜炎、リンパ節腫脹。ウイルス性結膜炎と判断して、ステロイド点眼いれたら、樹枝状病変出現した。ヘルペス性結膜炎も稀に経験する。演者は家族歴のない10歳代の片眼性濾胞性結膜炎は要注意で、ステロイドを使用しないように・・と言われるが、自分の感覚ではEKC100人にヘルペス1人以下だけど・・。開業して25年以上になるが、EKCだと思ってステロイド点眼入れて、ヘルペスだったのは、1-2例だけ。頻度的には、極めて稀なんですよね。
71歳女性
抗菌剤効かない慢性結膜炎だが、涙点あたりの腫脹あり。
涙点からグラム陰性桿菌(ほぼ放線菌)⇒涙小管炎。菌石摘出して、その後アジマイシン処方
31歳男性
充血とクリーム状膿性眼脂 (個人的にはレベル3)
塗抹でグラム陰性双球菌⇒淋菌、キノロン無効で、セフトリアキソン投与が必要。
※クラミジア:眼科的は保険内で診断困難。婦人科キットなら可能だが・・
※Direct Strip PCR 感染性各結膜炎キット、今後普及するかも・・
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角膜炎
24歳女性 円形細胞浸潤 ⇒キノロン6回点眼
(こんな症例すごく多いです。若いコンタクトレンズ装用者に・・。)
64歳男性 上皮型ヘルペス ⇒アシクロビル6回
60歳女性 カタル性角膜浸潤 ⇒ステロイド点眼と抗菌剤だが、迷ったら、抗菌剤のみ。(ただ、ステロイドは著効するので、なるべく使うようにしています。)
84歳男性 水疱性角膜症で経過観察中、角膜浸潤
塗抹⇒肺炎球菌⇒モキシフロキサシン+セフメノキシム点眼
※角膜浸潤を見たとき・・
- 単発浸潤⇒キノロン6回
- 多発浸潤、角膜潰瘍、前房内炎症⇒抗菌剤2種類を6回
グラム陰性桿菌疑い ⇒ キノロン+アミノグリコシド (レボフロキサシン+トブラシン)
グラム陽性球菌疑い ⇒ キノロン+セフェム系 (レボフロキサシン+ベストロン)
24歳女性
カラコン装用したまま就寝、翌日見えない。浸潤と伴う浮腫混濁が広範囲に。
コンタクトレンズによる角膜上皮障害パターンで様々で、しっかり問診できなければ、結構大変かも。ただ、ここで、安易にステロイドを入れてはいけない。コンタクトレンズ装用者の角膜疾患の場合、アカントアメーバの可能性が否定できなければ、ステロイドを入れるのは危険。
※コンタクトレンズ非装用者の非感染性角膜病変なら、ステロイドOKだが、コンタクトレンズ装用者の非感染性病変(点状混濁、輪状浸潤など)は、ステロイドを使わずにコンタクトレンズ中止して経過をみる。万が一アカントアメーバだったら大変。
症例 12歳男性 シンガポールから一時帰国した少年の角膜炎(角膜の顆粒状浸潤)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%AE%E8%83%9E%E5%AD%90%E8%99%AB
MicrosporidiaによるMicrosporidial keratitis。東南アジアに多くて、現地では有名。土壌が眼に入って発症するようで、サッカーで泥を浴びて発症するケースが多い。Microsporidiaは、菌より大きく、カンジダより小さい(単細胞真核生物の一群)。薬剤あまり効かなが、擦過したらよくなるし、自然に治ることも。シンガポールの日本人にアウトブレイクしていて、最近日本でもサッカー選手で報告あり。何故か日本ではまだまだ報告少ない。
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質疑から
これからはAIの時代なのか・・
AIがあれば塗抹・PCR不要になるのか・・・
⇒ CorneaAIは優秀らしい。専門家でも負けると。ただ、結膜炎は、まだAIでは無理。複雑な問診、複雑な治療歴があると、AIでは少し難しいらしい。塗抹のAIができるかも。眼瞼炎のAIは作成中
※塗抹のAIができたら、塗抹するので、診断してほしいな。
非常に興味深い質疑
介護施設・寝たきりの患者さんの繰り返す結膜炎について
⇒当然、免疫落ちている状態で、上を向いていて、涙がたまり、瞬きが少なくて、閉じていることも多い。38度ぐらい、グルコースがたまる → つまり、殆ど最高の培地と言ってもいい状況で、抗菌剤使って一時的に治っても、再燃しやすいし、MRSAも増えやすい。どうしようもない。サンヨード、クロルヘキシジン、オスバンなどで消毒に努め、周囲の人が手袋テクニックしっかりと・・