抗コリン薬で近視予防? (346)

 自律神経には、交感神経と副交感神経があり、そのバランスが、我々の体調を維持してくれています。眼科領域においても、交感神経優位になれば瞳孔が開き(散瞳)し、副交感神経優位になれば、瞳孔は小さく(縮瞳)なります。眼科の検査で使用する散瞳剤は、交感神経を刺激するネオシネフリンや副交感神経を抑制するトロピカミド、アトロピンなどがあります。我々が散瞳剤として使用しているミドリンPという点眼は、このネオシネフリンとトロピカミドの合剤です。
 副交感神経の神経伝達物質は、アセチルコリン(オビソート)で、白内障術者なら、この薬剤で縮瞳させた経験があると思います・・・。このアセチルコリンの受容体は、神経節受容体がニコチン受容体とよび、効果器受容体はムスカリン受容体と呼ばれています。このムスカリン受容体には数種のサブタイプがあり、M1、M2、M3と、3種類あるそうです。
 通常、神経終末から放出されたアセチルコリンは、すぐにアセチルコリンエステラーゼによって分解されます。副交感神経刺激剤と呼ばれるものは、このアセチルコリン様作用をもつ物質(コリン作動性薬剤)か、アセチルコリンコリンエステラーゼを阻害するものです。眼科領域では、コリン作動性薬剤としては、ピロカルピンが有名で、若い緑内障専門医はあまり使い方も知らないでしょうが?、我々は閉塞隅角緑内障に限らず非常に世話になった頼もしい薬剤です。また、コリンエステラーゼ阻害剤としては、ネオスチグミンという薬物があり、どの程度効果があるのか知りませんが、調節機能を改善する・・・などと効能がうたってある点眼に入っていることがあります。
 逆に、副交感神経遮断剤というのは、ムスカリン受容体にアセチルコリンと競合して結合する薬剤で、アトロピンが有名です。トロピカミド(ミドリンM)も同様の薬物です。この手の薬物を抗コリン薬と言います。
 さて、長いふりは、ここまでで、実は、この抗コリン薬の中に、胃酸分泌抑制作用があり、胃潰瘍治療薬として知られているピレンゼンという薬があります。アメリカにはUS Pirenzepine Study Groupがあり、いつくか報告があります。この薬物は、M1受容体を選択的に遮断する作用があり、これが眼科領域において、毛様体に作用するのだと思うのですが、この2%Pirenzepineのgel製剤を2回/日投与することで、調節機能を抑えて、近視の進行を抑制しようとするスタデイがあり、ある程度の効果があったようです。少し古い論文ですが・・

Safety and Efficacy of 2% Pirenzepine Ophthalmic Gel in Children With Myopia A 1-Year, Multicenter, Double-Masked, Placebo-Controlled Parallel Study R. Michael Siatkowski, MD; Susan Cotter, OD; Joseph M. Miller, MD; Colin A. Scher, MD; R. Stephens Crockett, PhD; Gary D. Novack, PhD; for the US Pirenzepine Study Group Arch Ophthalmol. 2004;122:1667-1674.
近視進行度 ピレンゼピン治療群0.26D(対照0.53D)

Two-year multicenter, randomized, double-masked, placebo-controlled, parallel safety and efficacy study of 2% pirenzepine ophthalmic gel in children with myopia.
Siatkowski RM, Cotter SA, Crockett RS, Miller JM, Novack GD, Zadnik K; U.S. Pirenzepine Study Group. J AAPOS. 2008 Aug;12(4):332-9.


-0.75~-4.00Dの近視の8-12歳の子供に2%ピレンゼピンgel ×2/日
1年後0.26D進行(対照0.53D)
2年後0.58D進行(対照0.99D)
つまり有効だったと・・・。実は、このピレンゼピンgelがどんな作用・副作用を示すのか知らないので、何とも言えませんが、アトロピン点眼や更に遠近両用眼鏡よりは低いハードルなんでしょうか。ただ、あまり現実的でないのか、日本ではそれほど盛り上がっていないようで・・・。
by takeuchi-ganka | 2009-04-03 07:57 | 近視・遠視 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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