アルカリバーン   (469)

 最近、アルカリ眼外傷を経験しました。と言っても、放置すれば失明を免れないほどの重症例ではありませんでしたが・・・。実は、医師になりたての昭和59 年、集談会での最初の演題がアルカリ眼外傷についてでした。当時、助教授だった三木先生に指導して頂きながら、ワープロもない時代で、何度も原稿用紙に書き直した記憶があります。その原稿の残骸の中から、今でも役に立ちそうな情報をピックアップしてみます。

 酸とアルカリの一番の違いは組織浸透性です。酸が接触した部位はタンパクが凝固しそれバリアとなりそれ以上奥に酸のダメージが及ばないですが、アルカリは、組織浸透性が高いうえに、組織を溶解・壊死に至らせ、更に深部への移行を許し、深部の組織障害が数日以上にわたって持続する。眼外傷の場合、アルカリは10-20秒程度で前房へ達すると書いています(根拠は?)。

※この図は、現在とっても偉くなった同期の先生が26年前に書いてくれたものです・・・。
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 治療としては、とにかく洗うことです。ただ、どれくらい洗えばいいのか、具体的には、どれくらいの時間、どれくらいの量の水で洗うべきなのか・・・・客観的な基準がないのが問題ですが、洗い足らないよりは、洗い過ぎた方が害が少ないので、迷っている間は洗い続けるべき?
 25年ほど前の治療の一例を紹介しますと、45%苛性ソーダを顔・上半身に浴びた症例。直後に体は洗ったものの、眼は洗っていない。眼科到着は1時間半ほど後。視力は両眼ともHB。眼瞼高度に腫脹、一部壊死。球結膜は下半分が高度の浮腫。しかも血管が見えず虚血状態。角膜も下半分が浮腫混濁。前房にも炎症。
 そしてここから洗眼です。ただ、洗眼といっても、ざっと水をかけるのではなく、生食の点滴のセットを用意して、角膜の上にポタポタと落とします(持続洗眼)。深部に浸透したアルカリに何処まで効果があるのかわかりませんが、とにかくこの作業を長時間行うことが重要です。当時メディフローと呼ばれるコンタクトレンズにチューブのついたような持続洗眼用のツールがあり、これを使えば、24時間連続持続洗眼も可能です(より重症の左眼には前房穿刺併用)。先ず両眼に生食5リットルの持続洗眼、その後24 時間連続して生食18リットルの持続洗眼を両眼に。その後8日間毎日生食2リットルの持続洗眼を両眼に・・・。少しやり過ぎ感がありますが、不足するよりずっといいという判断だったのでしょう。
 この症例は最重症例で、とにかく洗っています。アルカリ眼外傷の場合、とにかく洗いながらその後の対策を考えるべきと考えます。この症例は、治療が十分だったのと?、角膜の上方(輪部を含む)のダメージが少なかった為に最終視力が良好でしたが・・。

当時のまとめのスライドから

アルカリバーンの治療

1、原因物質の除去
  1)受傷直後の洗眼
  2)持続洗眼(30分~1時間、重症なら数時間以上、2リットル以上の生食で・・)
  ※固形物は丹念に除去。
  ※重症例:前房穿刺・前房洗浄
2、感染予防
3、角膜潰瘍・穿孔防止
  1)collagenase inhibitor(cystein, acetyl cystein, 自己血清・・)
※犬猫用には千寿から『パピテイン』点眼(acetyl cystein)が発売されていますが、ヒト用はない。
  2)collagenase 産生抑制(medroxyprogesterone)
  3)再生上皮の保護:SCL
  4)アスコルビン酸、FAD、グルタチオン・・・
4、消炎
  1)アトロピン点眼
  2)ステロイド点眼・内服
5、緑内障治療
6、手術
  1)瞼球癒着の防止
  2)ドライアイ・角膜瘢痕の治療

※最も恐れるのは、角膜輪部の幹細胞が全滅し、角膜に強い混濁を来たし失明することです。ただ、25年以上経過して、再生医療の角膜への応用が進み、他眼の輪部細胞、或いは口腔粘膜上皮細胞を培養して、培養上皮シートを作成し、これを移植することで、透明治癒率90%以上に・・。この点は格段に進歩しています。
by takeuchi-ganka | 2010-06-27 12:29 | その他 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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