第379回大阪眼科集談会 その3  (505)

鞍馬寺
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 個人的に最も話を聞きたかった先生の講演です。今回も為になりました。

特別講演:学童期の近視進行抑制への挑戦 岡山大学・長谷部聡先生
関西の屈折の大御所に気を使いながら話はスタート。
何故、近視が進むのは、眼軸長の過伸展の為。屈折矯正は可能でも、過伸展は防げない。特に高度近視による黄斑変性は大きな問題になっている。

1、エビデンスのレベルと近視研究 
病気の治療として、医学と民間療法・宗教との違いは、科学的根拠があるかどうか。
~2000年までの近視予防法の報告:訓練・バイオフィードバック・低周波刺激・超音波刺激・低矯正眼鏡・過矯正眼鏡・二重焦点眼鏡・トロピカミド・アトロピン・レベトール・チモロール・・・・全て比較対照試験以下のレベル。2000年以降エビデンスレベルの高い研究がおこなわれている。古いスタデイはあまり信用できない?

2、コホート研究
①Orinda StudyⅡ n=3889
②Singapore Cohort Study of Risk Factors for Myopia n=5094
③Sydney Myopia Study n=2353

⇒これらのスタデイによって、小児期の近視進行は、1)遺伝の影響が強く(両親ともに近視だと、両親ともそうでない場合に比較して8倍近視になりやすい・・) 2)都市部で速い 3)近業の程度が強いほど速い 4)戸外活動により抑制 5)IQや学歴が高いほど速い。
※従来から言われていたことが支持された。つまり3)4)は、よく学びよく遊べ!? 

3、ランダム化比較試験
ここでは眼鏡のランダム化比較試験。その前に、理論的な事を・・・
①眼軸長の視覚制御(Earl Smith)⇒クリアな網膜像が眼軸延長のストップシグナル。
※眼球の成長は、角膜・水晶体・眼軸長が調和を保ったまま成長(proportional development)
⇒網膜像のボケ(オクルーダー・凹レンズ)は眼軸長過伸展を引き起こす。
②眼球のオートフォーカス機能は、若干悪い。調節刺激に対する応答は少し不足する(調節ラグ)。
調節安静位は66cm(1.5D)。これ以上近くになるほど、大きな調節ラグが発生。この調節ラグによる網膜像のボケ(本人はクリアに見ていていると感じている)が眼軸延長を引き起こす。(Gwiazda)

そこで、理論的には、66cmより近くを見ると、近視進行のレッドゾーン。それを防ぐ為に、PAL(progressive addition lens :累進屈折レンズ)を使用。加入度数は1.5D。これだと、33cmでも+1.5D加入なので、調節は1.5Dで済むので、調節安静位を越えず、調節ラグが発生しないので、網膜像のボケがなく、眼軸長伸展を抑えることができる?
岡山大学のスタデイ:小学生92名。眼鏡は、小児の近視予防用の累進屈折眼鏡 MC-lens™(Sola社)を使用。累進帯10mm。近用部が大きい。グループ1と2に分けて、PALとSVLを1.5年使用、スイッチしてまた1.5年の計3年。これでPALの近視予防効果は?3年間で7%の離脱率という優秀さ。結果は、最初の18か月で差がでるが、後半の18か月では差があまり出ない。結局0.17D(15%)抑制。その程度は僅かだった・・
http://www.okayama-u.ac.jp/user/opth/kinshi/kinshi01.html

4、システマチックレビュー
Leung(1999) -0.29Dと近視抑制効果大きく、期待されたが、その後、Shih(2001) -0.14D、Edwards(2002) -0.07D、COMET(2004) -0.07Dは、あまり大きな効果ない。岡山(2007)は、 -0.11D。平均すると、-0.14D/年、眼軸-0.054mm/年抑制。つまり、スタデイとしては有意な結果だが、臨床的には有意とは言えない。
長らく信じられてきた近視の低矯正について:低矯正眼鏡のメタ解析は、1965年の所先生の報告以降、近視進行を抑えると言われていたが、Chung(2002), Adler(2006)の報告ではむしろマイナス効果。結局低矯正で近くはいいとして、遠方でのボケが眼軸延長に働いている可能性(があるらしい・・・・)。つまり、態々低矯正に拘る必要はないようです。
周辺部網膜での焦点ズレ。近視の眼底は後極部はスティープになっているので、周辺部ほど後方への焦点ズレが大きくなり(relative hypertropic defocus)、これも眼軸延長のトリガーになっている可能性。これを防ぐ為に、周辺部網膜における屈折矯正を意図したレンズ:Myovision™ Lens(ツアイス)が作られた(
Peripheral Vision Management Technology )。これにより、0.97D⇒0.68D/年に。30%抑制。期待していい?



近視治療のガイドライン(私的)
1,効果的かつ安全な近視予防法ない。アトロピンなら効果あるが・・当然リスクあり。
2,生活指導としては、近業距離を十分にとること、そして屋外活動しっかり行う。
3,過矯正眼鏡×、低矯正眼鏡も意味ないかもしれない。
4,近視進行は遺伝的要因大(努力してもダメなものはダメなことも多い)
5,調節麻痺剤点眼・調節緩和訓練の科学的エビデンスは乏しい。

質疑
・就寝時のナイトライトが近視進行?あまり差がないというのが結論らしい。
・近視進行予防に関わっているのは、欧米ではオプトメトリスト。
・年にどれくらい進行するのが許容範囲なのか?⇒0.7D/年(@岡山)。地域差あるかも・・・
・スタデイでの眼鏡装用は、なるべく一日中装用が原則だが。
・不同視の場合。調節がどのように左右で使われいるか推定しにくい。対応難しい。
・PALの処方の仕方:自覚的屈折力に完全矯正で遠用をあわせる。遠近とも最もシャープな像にする為。実は遠用は若干落としている?PALは鼻メガネになると効果が期待できないので、要注意。
・Myovisionは、日本ではまだ入手困難らしい。オプトメトリストがいないので?
by takeuchi-ganka | 2010-12-12 17:41 | 学会報告 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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