関西glaucoma update その1 (673)
2013年 03月 31日

身内の緑内障勉強会がありました。4回目なのですが、今回は集まりが悪いなあ・・・・。忙しいのかもしれませんが、もっと勉強することにハングリーでないと・・・・・
まず協賛メーカーから
製品説明 デュオトラバ
トラバタンズ同様、BACフリー点眼。気になったのは、他社の同系統配合剤からのスイッチで眼圧が2mmHg下がったというスタデイの結果。2mmHgとは凄い・・。気になったので、質問してみると、原因は2つ。ひとつは、トラバタンズのトラフ値が優れていること、もうひとつはPHの関係で、配合されているチモロールの眼内移行が優れているから・・?
※配合剤は、今後、かなり増加すると思われる緑内障を有する被介護者の点眼数を減らすのに貢献できる。新たなセールスポイントですね。
1,閉塞隅角緑内障の病態 琉球大 酒井寛先生
話が難しすぎて、私などには理解出来ない部分が多かったので、朦朧としながらメモったキーワードを元に、閉塞隅角緑内障について、再度勉強してみることにしました。当然講演内容と大きく逸脱しています。また、この手の話は、なかなか客観的な事実に基づいた科学的な検証に堪える内容・・・・・には、ならないことが多いので、悪しからず・・・。
※最近、年のせいもあってか、長年常識と考えていた事を覆す柔軟性を失っている気がする。
緑内障ガイドライン 第3版 から抜粋
原発閉塞隅角緑内障
定義:『原発閉塞隅角緑内障は,他の要因なく,遺伝的背景,加齢による前眼部形態の変化などで惹起される隅角閉塞により眼圧上昇を来し,緑内障性視神経症に至る疾患である.』
付記1) 原発性の隅角閉塞の診断は,第一眼位において対光反射による縮瞳に伴う隅角開大,隅角鏡による圧迫を可能な限り排除して行う静的隅角鏡検査(static gonioscopy)によって行うことが推奨されている.
※まず、スリット光をあまり絞らずに見ます。当然ですが、スリット光が幅広で明るければ、対光反射によって縮瞳と共に瞳孔ブロックが減弱して、隅角は開きますし、スリットを限りなく細めて行くと、徐々に瞳孔ブロックが強くなり、隅角は狭くなります・・・が見えにくくなります。限りなく光量をゼロに近づけても、隅角が閉塞していないことを確認し、逆に思いきり光を当てて縮瞳させて、更には少し圧迫して、器質的PAS(或いはITC)が発生していないかどうかを確認する・・・・これが通常の隅角鏡検査だと思っています。
隅角鏡診断による隅角閉塞を欧米では occludable angleと呼ぶ.隅角閉塞は,線維柱帯色素帯が隅角全周の 3/4(270 度)以上にわたり観察されず虹彩線維柱帯間の接触が推測される( iridotrabecular contact : ITC )として定義することが提唱されているが,範囲を 180度以上または少しでも閉塞があれば,と定義すべきとの意見も存在する.超音波生体顕微鏡や前眼部光干渉断層装置などによる画像診断の位置づけも未だ明確でない.
※前房が浅い、隅角が狭い、虹彩が膨隆している眼において、第一眼位で線維柱帯が観察できないケースは結構多いが、少し隅角鏡を傾けると、毛様体帯まで見通せることが殆どで、そんな場合、第一眼位の見え方にかかわらず、ただ狭いだけの隅角(PACS)と判断しています。問題は、隅角鏡をどんなに傾けても、患者さんに眼球を動かしてもらっても、どうしても、隅角底が覗けない場合です(基準に客観性が乏しいですが・・)。この場合、PASが発生しているかも・・・・と考えます。現在の定義では、ITCありと考えるのでしょうか。その後、サスマンなどの圧迫隅角鏡を使って、隅角を押し広げて、器質的PASの有無を確認する事になります(PASがなければ、線維柱帯と虹彩根部が接触した証拠と判断されるような色素沈着?)。オールドファッションな私は、この最後の作業によって確認される器質的PASこそが、流出抵抗になっていると信じていました。少し譲るなら、器質的になる一歩手前の、密着して水も通さないITCが流出抵抗に・・・。ただ、この非常に見えにくい隅角において、広範囲に明らかなPASがある場合を除いて、房水流出抵抗があるかないかの判断は、そう簡単ではない気がします。
隅角閉塞機序の分類
(と言っても、これらの原因は独立している訳じゃなく、互いに関連しあっていると思われるが・・・)
(1) 相対的瞳孔ブロック(relative pupillary block)
瞳孔領における虹彩―水晶体間の房水の流出抵抗の上昇に引き続く虹彩の前方膨隆により隅角閉塞を来す.殆どの原発閉塞隅角緑内障において、関与していると思われる。
※レーザー虹彩切開術で解除されるのは、この要素のみ。
(2) プラトー虹彩(plateau iris)
虹彩根部が前方に屈曲し,散瞳時に直接隅角を閉塞する虹彩の形態異常である.
※厳密な定義がないので、人によってバラバラ?UBMで見れば、プラトー虹彩形状の眼は意外と多いが、その昔、極めて稀と言われていた如く、この機序単独による隅角閉塞・眼圧上昇はやはり稀なのでは・・・(個人的見解)。
(3) 水晶体因子(lens factor)
水晶体の前進,膨隆,加齢による増大も原発性の隅角閉塞発症に関与している.
※瞳孔ブロックがなくても、水晶体が前進・膨隆・増大すれば、隅角は狭くなるし、当然瞳孔ブロックも増大するので、更に狭くなる筈。
(4) 毛様体因子
画像診断においてのみ診断可能な微少な特発性の毛様体脈絡膜滲出(ciliochoroidal effusion,uveal effusion)が、隅角閉塞に関与していると推測されている。
※かつて(医師になりたての頃)、網膜剥離に対して輪状締結術後に難治の閉塞隅角緑内障を何度か経験した。UBMで明らかな脈絡膜剥離が発生していて、これによって、毛様突起の方向が前方に向かい虹彩根部を押し上げると共に、水晶体も前進し、瞳孔ブロックも強くなり、結果解除困難な隅角閉塞を来していたのだが、UBMでスリット状に確認される程度の僅かなUEに、どれほど病因としての意味があるのだろうか・・・。私にはなかなか理解しがたい。
網膜剥離の強膜内陥術後に生じた毛様体脈絡膜剥離 河原澄枝:日本眼科学会雑誌(0029-0203)104巻5号 Page344-348(2000.05)
国際分類:ISGEO分類・WGAコンセンサス
PACS ただ単に狭いだけでなく、客観的な基準が提示されていて、隅角鏡検査で、後部線維柱帯が3象限以上見えないと書かれている。多分、これは第一眼位での話。このPACSの所見に加えて、PASや眼圧上昇、線維柱帯への著しい色素沈着があれば、PACとなる。ただ、これが客観的な基準かどうかと言われると、難しい問題で、現実問題としては、人によって判断はかなり異なる気がします。
※エビデンスを示せないので、根拠に乏しいですが、個人的な見解を言えば、前房深度が浅く(1.6mm程度)、瞳孔ブロックが中等度以上で、PACSからいきなり急性PACに至るケース。前房深度がやや浅い程度(2.1mm程度)で、瞳孔ブロックはあまり強くないが、プラトー虹彩形状・虹彩根部の付着部の形状・虹彩厚など諸要因が重なり、隅角が非常に狭くて、徐々にPASが形成されて慢性型のPACとなるケースなどが、PACの典型像だと妄想しています。
最近、OCTの普及と共に、手軽さもあって、前眼部OCTはUBMより普及しているようです。ただ、どうやら前眼部OCTは固視灯による対光反射が避けられず、若干瞳孔ブロックが弱まった状態を見ているようで、UBMより隅角が広めに見えるらしい。もう、20年ほどUBM検査していますが、確かに面倒な検査です。しかも、客観性に乏しい。ただ、虹彩の裏側の情報がないOCTに比べて、隅角の広さに関わる要因を全て知ることができるUBMは、閉塞隅角緑内障の診断において、圧倒的に優れた器械であると確信しています。
正常眼圧緑内障やPOAGと異なって、閉塞隅角緑内障は、例えばレーザー虹彩切開術や水晶体再建術によって、早期に介入すれば、その進行をほぼ完全に止められる疾患ですが、現実問題としては、重症化するケース、失明に至るケースが多く、多治見スタデイでは緑内障による失明ゼロであったが、久米島スタデイでは4名あり、うち3名が閉塞隅角緑内障。緑内障と言えば、NTGが圧倒的に多いと思いがちだが、実は失明に至るような重症ケースは閉塞隅角緑内障の方が多い?沖縄だけじゃなく、本土でも?
The number of people with glaucoma worldwide in 2010 and 2020. Quigley HA, Broman AT.
Br J Ophthalmol. 2006 Mar;90(3):262-7.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1856963/
プラトー虹彩について
厳密な定義などないので、実は玉石混淆?、コンセンサスなし?
Prevalence of plateau iris in primary angle closure suspects an ultrasound biomicroscopy study. Kumar RS, Baskaran M, Chew PT, Friedman DS, Handa S, Lavanya R, Sakata LM, Wong HT, Aung T. Ophthalmology. 2008 Mar;115(3):430-4.
Kumar RS の『UBM診断基準:①隅角閉塞 ②毛様体前方回旋 ③毛様溝消失 ④虹彩根部の急峻な立ち上がり ⑤平坦な虹彩・・・これが4象限中2象限以上。』
この論文では、PACSの30%ぐらいにプラトー虹彩。ただ、実は毛様体の関与のないケースも多いらしい・・。
Uveal effusion
かつて、恩師の宇山教授が、この疾患に対して積極的に手術を行なっておられた関係で、何度も目にすることがありました。真性小眼球に伴うこの疾患の強膜は、非常に分厚くて固く、強膜開窓術の際、尖刃刀の刃を何度も交換しないと切開できない・・・と言われていたのを覚えています。勿論脈絡膜も厚い。急性発作の眼にしばしば見られるという、スリット状のUEが同じ原因なのだろうか。また、このスリット状のUEが隅角閉塞機序に関わりを持つのだろうか・・?
通常のスタデイでは、原発閉塞隅角緑内障の診断は従来の方法(隅角鏡)で行い、OCTやUBM検査結果を含む様々なパラメーターを検証する。最終的な診断が隅角鏡であれば、いくら新しい器械が登場しても、その価値判断は制限されてしまう?更に言えば、UBMで見る限り、隅角が閉塞しているように見える眼は、PACなのかという問題。通常、UBMでは上方・下方が狭く、耳側・鼻側は広く見える。上下で見かけ上閉塞していても、その他の象限は開放している場合が多い。暗室にすると、散瞳と共に瞳孔ブロックが強まり、隅角が狭くなる。この時に、上下の象限に加えて、耳側・鼻側までも見かけ上閉塞すれば、ハイリスクと判断して、時にレーザー虹彩切開術を考慮していましたが、どうも、演者はこのあたりでPACと診断するスタンス?私なら、NTG with narrow angle/PACSと判断しそうな眼が、PACGに・・・?
オールドファッションな私は、隅角が突然広範囲に閉塞する急性発作を除けば、徐々に奥の方から閉塞して、徐々にPASが広がるか、一時的に隅角閉塞(ITC)が広がる事で、慢性的眼圧上昇や間欠的な眼圧上昇が生じ、その結果GONに至ると考えてました。隅角鏡で何ら痕跡のない、UBMでのみ見かけ上閉塞している眼がGONを来すとは信じ難い・・・・
※原発閉塞隅角緑内障においても、ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study ; GWAS)が行われ、次々と関連遺伝子が見つかりつつあるらしい・・・
