2015年 05月 04日
眼血管閉塞性疾患における一過性黒内障 ― 有病率と病因 (822)

※イネ科雑草が咲きだしてます。河川敷沿いにお住まいの花粉症の方はご注意を・・・
- Amaurosisfugax in ocular vascular occlusive disorders: prevalence and pathogeneses.
- Retina. 2014 Jan;34(1):115-22.
- Hayreh SS1, Zimmerman MB.
http://www.medicine.uiowa.edu/eye/hayreh/
今回は、多分あの有名な人の論文です。色々な内容が詰まった論文なので、ちょっと読み込んでみました。最初にHayreh SSの名を聞いたのは、医師になって間もない頃、網膜中心静脈閉塞症が、その臨床像から、出血性網膜症と静脈うっ滞網膜症に分類される・・・という話が最初だったと思います。あれから40年近く経過して、まだお元気なのでしょうか。昭和2年生まれで、今年88歳だそうです。凄いインド人・・・・・
l Hayreh SS:So-called“central retinal vein occlusion”. Ⅰ. Pathogenesis;Terminology,clinical features. Ophthalmologica 172:1-13, 1976
l Hayreh SS:So-called “central retinal vein occlusion”. Ⅱ. Venous stasis retinopathy. Ophthalmologica 172:14-37, 1976
様々な眼血管の閉塞性疾患における一過性黒内障についての論文です。対象疾患は以下の9つ。
- CRAO (271眼)
- BRAO (169眼)
- CRVO (864眼)
- CRVO+毛様網膜動脈閉塞 (37眼)
- HCRVO (67眼)
- BRVO (271眼)
- 眼虚血症候群 (39眼)
- NA-AION (946眼)
- 巨細胞性動脈炎 (147眼)
※1973年から2000年の間のアイオワ大学の眼循環外来の患者さんが対象。
※AFとは、後に回復する、突然の一過性の視機能喪失、或いは一過性の霧視、朦朧(基本的に視野全体の及ぶ症状)。
Prevalence of Amaurosis Fugax in Various Ocular Vascular OcclusiveDisorders
※BRVOの0.4%からcilioretinal AOを伴うCRVOの37.8%まで・・
Diagnosis | No. Eyes | With AF | Prevalence (%) | 95% CI (%) |
CRAO | 271 | 33 | 12.18 | 8.53, 16.67 |
BRAO | 169 | 24 | 14.20 | 9.32, 20.39 |
CRVO | 864 | 42 | 4.86 | 3.53, 6.51 |
CRVO+CLRAO | 37 | 14 | 37.84 | 22.46, 55.24 |
HCRVO | 67 | 9 | 13.43 | 6.33, 23.97 |
BRVO | 285 | 1 | 0.35 | 0.01, 1.94 |
Ocular ischemic syndrome | 39 | 6 | 15.38 | 5.86, 30.53 |
NA-AION | 946 | 24 | 2.54 | 1.63, 3.75 |
Giant cell arteritis | 147 | 39 | 26.53 | 19.60, 34.44 |
様々な眼閉塞性疾患の中でAFの症状に差はなかった(BRAOを除いて・・)。
AFから血管障害発症までの時間経過は様々で、一定のパターンなし。
Prevalence of Amaurosis Fugax inVarious Ocular Vascular Occlusive Disorders
文献はあまりない・・が、今回、眼障害のある巨細胞動脈炎の32.4%、障害眼の26.3%にAFの既往あり。眼虚血症候群では15%・・
Pathogeneses of Amaurosis Fugax inVarious Ocular Vascular Occlusive Disorders
文献あまりない・・
著者の今までの研究から推論すると・・・
1)Amaurosis Fugax in Nonarteritic Central Retinal Artery Occlusion
非動脈炎性CAROにおけるAFの最も一般的な原因は、網膜中心動脈における塞栓の一過性の影響である。塞栓の最も一般的な原因は、内頚動脈のプラークか心臓弁膜症である(CRAO或いはBRAOにおいて、頸動脈ドップラー或いはエコーで異常が検出されなくても、除外することはできない)。これ以外に、著しい動脈圧の低下や眼圧の上昇があれば、灌流圧低下しAFの原因となることも・・・
2)Amaurosis Fugax in Branch Retinal Artery Occlusion
BRAOの原因はCRAOと同様。いつも同じ分枝が障害される?障害された部位が中心窩の固視点を含めば視機能は低下するし、固視が外側で行われると視機能低下は一過性?
※高血圧において網膜動脈の痙攣があると言われているが、見かけ上のものかもしれない(サルの実験から)。見かけ上狭細化していても、FAではそうでもない・・・。
3)Amaurosis Fugax in Central and Hemi-Central Retinal Vein Occlusion
網膜中心静脈に血栓があり、完全閉塞に移行して、強い循環障害が生じると視機能は低下する。ただ、静脈が閉塞しても、動脈が血液を押し込むので静脈内圧が上昇する。動脈圧レベルまで内圧が上昇すると、塞栓が移動し(シャンパンコルク現象)、静脈が再開通してAFが改善することもある。静脈圧が著しく上昇している時に、一過性の動脈圧低下は、網膜虚血・AFの原因となる。
4)Amaurosis Fugax in Branch Retinal Vein Occlusion
BRVOでは、AFは非常に稀(285眼中1眼のみ)
5)Amaurosis Fugax in Central RetinalVein Occlusion With Cilioretinal Artery Occlusion
毛様網膜動脈がある眼の網膜の動脈供給、静脈還流システムに差がある。毛様網膜動脈がある眼では、網膜への動脈供給は、2つの独立したソースがある。網膜中心動脈がメインで、毛様網膜動脈は網膜の小範囲のみへ供給する。網膜中心動脈と毛様網膜動脈は生理学的に異なった動脈システム。毛様網膜動脈は脈絡膜血管系に属し、それ故、以下の2つの全く異なるメカニズムが、CRVOの眼の毛様網膜動脈循環で働いている。1)脈絡膜血管床には、オートレギュレーションがない。脈絡膜血管床での灌流圧は網膜中心動脈の灌流圧より低い。2)CRVOの眼では、渦静脈閉塞はない。
網膜中心静脈の突然の閉塞は、全網膜毛細血管床において、血管内圧の著しい上昇を示す。血管内圧が、毛様網膜動脈圧より上昇すると、毛様網膜動脈で血流動態が止まる。網膜中心動脈とくらべて低い圧なので・。AFのない症例では、実際には血流動態ブロックはない。一方、AFのある場合、毛様網膜動脈の一時的な血流動態ブロックがある。殆どのケースで毛様網膜動脈は、黄斑部をサプライする。それで、一時的な毛様網膜動脈のブロックは、黄斑部虚血とAFを発症する。
6)AmaurosisFugax in Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy
NAAIONでは、AFは稀。946眼のNAAIONでたった2%。1)後毛様体動脈への一時的な塞栓による事が一般的。塞栓の原因は一般的には頸動脈(58%)、心臓(23%)。塞栓でないNAAION眼は視神経乳頭陥凹がないか小さい。塞栓のある眼は正常に近い陥凹。まれにTIAのヒストリーあり。2)他の稀な原因に、初期のNAAION(8眼)、片頭痛(1眼)、白内障術後の急性の眼圧上昇(1眼)がある。初期のNAAIONのAFのメカニズムは、以下の如く・・灌流圧は、平均血圧―眼圧。初期のNAAIONで、無症候乳頭浮腫がある。視神経乳頭で毛細血管を圧迫し、血管抵抗が上昇する・・視神経乳頭毛細血管での灌流圧の一過性の低下は、眼圧上昇(屈みこむ、眼の圧迫、その他)或いは血圧の低下(例 起立性低血圧)、或いはその両方が原因。血管抵抗上昇と灌流圧低下の組み合わせは、一過性の視機能低下を引き起こす。頭蓋内圧上昇による乳頭浮腫に見られる・・・通常のNAAIONの古典的な所見を呈しているなら、起床時の視機能喪失の発見、視神経乳頭陥凹がない、FAGで後毛様体動脈閉塞の所見がない、塞栓に対するどんなスタデイも必要ない。頸動脈評価やエコーのような・・患者に大きな陥凹があるなら、視機能喪失の発症は、睡眠と関係なく、and/or FAGは、後毛様体動脈閉塞の存在を示す。
7)Amaurosis Fugax in Giant CellArteritis With Visual Loss
巨細胞動脈炎のAFは、視機能喪失の不吉なサインで、視機能喪失を防ぐための緊急かつ積極的な大量ステロイド投与が必要である。AFは、殆ど常に視神経乳頭虚血(動脈炎性AION)の結果。動脈炎性AIONにいては、NAAIONと対照的に、AFは非常に稀(2.5%VS32.4%)で、巨細胞動脈炎による後毛様体動脈の血栓が原因である。後毛様体動脈は視神経乳頭に供給。後毛様体動脈の血栓は、視神経乳頭毛細血管で著しく血圧を下げることになる。そんな状況では、眼圧の僅かな上昇でさえ、視神経乳頭での血流を阻害して、AFを呈する。そんなケースで、AFは、屈んだり・目をこすったり・他の様々な原因による僅かな眼圧上昇によって引き起こされる。
8)AmaurosisFugax in Ocular Ischemic Syndrome
内頚動脈の100%閉塞か80-90%狭窄が原因で、眼動脈の圧を著しく低下させる。1)後極部において、網膜・視神経乳頭、脈絡膜において著しい血圧の低下を来す。2)前眼部において、血管新生、血管新生緑内障を引き起こす。
眼虚血症候群において、網膜・視神経乳頭での著しい血圧低下があり、僅かなかつ圧低下や眼圧上昇でさえ、血流障害を引き起こして、AFの原因となる。AFがいつも網膜虚血の原因で、視神経乳頭虚血が同様にAFを引き起こすというのは、共通の間違った考え。
結論
様々な眼血管閉塞病変におけるAFの頻度や病因は多岐にわたる。AFはこれらの異常でありうる症状で、常に緊急の検査を必要とする。例えば、巨細胞動脈炎において。AFは、視機能喪失が切迫している不吉なサインで、視機能喪失を防ぐ為に、大量ステロイド投与を急いで精力的に必要とする。