第21回大阪緑内障研究会 その3(905)
2016年 01月 31日

特別講演 構造と機能:謎の相関関係 中村誠 神戸大教授
とっても面白い話だったが、少し難しかった。緑内障においては、構造と機能の一致・不一致については、永遠のテーマである(永遠ということは、答えに辿りつかない・・・て意味?)。構造変化の検出については、OCTの登場で、今年阪神タイガースに起こると信じられている『超変革』が行われた。OCTもタイムドメインからスペクトラルドメイン、そしてSS-OCTへと進化し、それにより、評価項目も激増。単にRFNLの解析のみなら、SS-OCTとSD-OCTで診断能力に差が出ないが、『optic disc pit, APON(後天性ピット)、MC or parapapillary schisis, PICC, choroid thickness, LC傾斜角度(乳頭傾斜角度)、PPAγ、SSOH, overhanging RPE・・・・』 これらを解析することが、GCC/cpRNFLと一致しない視野変化の解析に有用。
※乳頭傾斜角度は、眼軸が延長するほど、また緑内障が進行するほど大きくなる。
※耳側の感度低下(視野欠損)⇒乳頭低形成、nasalsegmental opticdisc hypoplasia (NSOH):鼻側のNFL減少、overhanging RPE!
緑内障視野進行に伴う乳頭変化の検討(第2報) 定量的検討(原著論文) 大久保潔(神戸大), 溝上国義 日本眼科学会雑誌 (0029-0203)88巻2号Page332-337(1984.02)
※もう30年以上前の論文だが、視神経乳頭における形態の変化と視野変化(機能)との検討が詳細に行われている。ただ、OCTもHRTもなかった時代だし、視神経乳頭がかなりの程度まで変化しないと、視野は動かない・・。
症例:71歳女性 右眼の方がadvanced で、明瞭な視野欠損がある。視野変化解析では、右眼の進行が早い。ただ、OCTによる視神経・黄斑部網膜内層の形態学的変化は、左眼の進行速度が速い。さあ、どちらの眼の治療を優先させるのか?悩ましい問題。右眼の緑内障が進行して、既に神経節細胞は大幅に失われていて、残り少ない神経節細胞が少し失われるだけでも、視野は悪化するので、視野進行速度は速い。左眼はまだ大量の神経節細胞が残っているので、同じ速度で神経節細胞が失われたとしても、視野変化はまだないが、形態学的な変化はこちらの方が速い・・。
新しいインデックス。combinedindex of structure and function (CSFI) の登場。画期的インデックス?眉唾?Weinrebの提唱のようだが、本当は、Harwerthの仕事らしい・・。
- Linking structure and function in glaucoma. Harwerth RS, Wheat JL, Fredette MJ, Anderson DR. ProgRetin Eye Res. 2010 Jul;29(4):249-71.
- A Combined Index of Structure and Function for Staging GlaucomatousDamage FelipeA. Medeiros, Renato Lisboa, Robert N. Weinreb, ArchOphthalmol. 2012 September; 130(9): 1107–1116
サルの実験的緑内障眼での研究:RGC数と網膜感度にリニアな関係、RGC数(←SAP)とAxon数(←OCT)にリニアな関係。Weinrebは、RGC数(←SAP)とRGC数(←OCT)のリニアな関係を・・。
⇒ Weighted RGC=(1+MD/30)×OCT rgc + (-MD/30)×SAP rgc
WRGC(正) – WRGC(患)
CSFI = ――――――――――― ×100
WRGC(正)
※なかなか怪しいインデックスで、彼らが言うほど診断能力は高くない?『 OCT derived RGC < SAP derived RGC 』が一致しない。①WeinrebはStratusの時代、演者らはシラス。②Axon直径を0.9μmと仮定していたが、実際は、0.5-0.7μm。0.75だと数が合うらしい・・。
Evaluationof a Method for Estimating Retinal Ganglion Cell Counts Using Visual Fields andOptical Coherence Tomography Ali S. Raza, Donald C. Hood InvestOphthalmol Vis Sci. 2015 April; 56(4): 2254–2268.
⇒RGC数予測シミュレーションの論文。ただ、①中心窩からの距離とRGC数 ②年齢とRGC数の問題などから、推定困難・・
Regionalrelationship between retinal nerve fiber layer thickness and correspondingvisual field sensitivity in glaucomatous eyes. Kanamori A, Naka M, Nagai-Kusuhara A, YamadaY, Nakamura M, Negi A. Arch Ophthalmol. 2008Nov;126(11):1500-6.
※視野セクターとcpRNFLとの相関。相関があまり高くないのは、検査点がまばらだから・・・?
※チョット驚いたのだが、ハンフリー視野の30-2をして、上方の鼻側階段があったとして、水平線での階段があいまいで、上方の感度低下部位につながるように下方の感度低下が時々見られるのだが、この感度低下に一致する上方のNFLDや視神経乳頭の変化が検出されないケースに遭遇する事がある。何故?乳頭と中心窩を結ぶ線は、水平線より下方に傾いている。ただ、temporal rapheが、その延長線上にはない。ある論文(※)で、このThe raphe-fovea-disc angle was 170.3° ±3.6°とあった。しかもバリエーションがある。しかも眼軸によっても変わるらしい・・。
※In vivo adaptive optics imaging of the temporal raphe and itsrelationship to the optic disc and fovea in the human retina. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014 Aug 21;55(9):5952-61. Huang G1, Gast TJ1, Burns SA1.
中心窩と乳頭の角度は、眼軸補正しても、相関上がらない・・
Effectsof ocular rotation on parapapillary retinal nerve fiber layer thicknessanalysis measured with spectral-domain optical coherence tomography. Kanamori A, Nakamura M, Tabuchi K, Yamada Y,Negi A. Jpn JOphthalmol. 2012 Jul;56(4):354-61.
眼底写真の補正で使われるLittman補正は、OCTでは上手くいかないし、他にも様々な要因があって、補正も上手くいかないし、バリエーションも多く、OCT(形態)から視野(機能)を正確に推定することはなかなか難しい・・・と。
※さらに問題を投げかけるひとつの例として、視神経炎。抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎では、緑内障に似て、神経線維量とMDは相関するが、抗アクアポリン 4 抗体陰性の視神経炎では、相関しないらしい。
※局面をつくる網膜、特に高度近視なら局面は強くなり、歪み・捻じれが加わる。それに生体そのもののバリエーションもある。そんな網膜に現れる緑内障性変化が、平板な視野検査結果として表現されるのだから、かなり無理な仮定をしなければ、構造と機能の高い相関は得られないのかも・・・