2016年 03月 20日
心因性視覚障害(学校医講習会) (922)

学校医講習会へ行ってきました。今回は心因性視力障害がテーマで、最近風格が半端じゃなくなってきて、とても後輩とは思えない保倉先生が講師なのと、色覚異常について、勝手にホームページで勉強させてもらってる滋賀医大の村木先生の話が聞けるので、滅多に行かない講習会ですが、頑張って出席してきました。
1、大阪における心因性視覚障害の傾向 保倉透
大阪府の眼科医に症例調査を依頼した結果報告: 6から13歳までで、9歳がピーク。男女比は1:3と女性に多い。診断時の視力は中等度の視力低下がメインと思っていたら、「0.3未満」が46.9%と一番多く、ついで「0.3~0.7」が41.4%でした。治療については、チョット驚きでしたが、①点眼(だっこ点眼を含む) ②抱きしめ ③眼鏡 ④ミドリンM ⑤コンタクト処方の順で、点眼(抱っこ点眼を含む)が断トツでした。これは、点眼の薬理作用を期待したものではなくて、精神的効果を狙ったもののようです。特に『だっこ点眼』とは、親が抱っこしながら、優しく声をかけつつ点眼するという、プラシボ効果+心のケア的な効果を狙ったもの(?)のようで、結構行われているようです。 発症原因は、両親・兄弟姉妹・友人関係・・・・とありますが、真の原因推定はなかなか困難かもしれません。眼科への受診理由は、やはり学校検診での視力低下がメインのようです。学校への報告はするが60%程度と微妙な数値でした。
2,心因性視覚障害 村木早苗 滋賀医大
滋賀医大眼科の色覚外来の充実したホームページで時々勉強させてもらっているので、できれば色覚の話が聴きたかったのですが、今回は心因性視覚障害の話。定義は、『視力の低下を説明するに足る器質的病変を認めず、視力低下の原因として精神的心理的要因を考慮せざるを得ない症候群』。眼心身症とヒステリー盲(眼転換性神経症)とがあるが、我々が通常遭遇するのは前者。
6-15歳の女性に多くて両眼性で、自覚はないか不明瞭で、心的ストレスも自覚がなくて、おとなしく自己抑制的な我慢強い子供に多い。7-10歳ぐらいにピークがあって、男女比は1:4以上。ただ、以前の調査と比較すると男が増えていて、低年齢化している。
受診動機は、学校検診の視力低下のようで、積極的受診は殆どない。個人的にも学校検診以外で受診されたケースは殆ど記憶にありません。診療の流れとしては、視力検査で視力がでなければ、通常通り眼位・眼球運動を見た後、前眼部・中間透光体・眼底の検査を行い、何もなければ、精密検査ということになるのでしょうが、何となく心因性を疑った時の有効な検査が、『打ち消し法による視力検査』。レンズを交換しつつ、声をかけて励ましながら最終的に±0のレンズで視力が出るように誘導する方法で、これで4-5段階視力がアップすれば、ほぼ心因性視覚障害と診断していいようです。ただ、必ずしも上手く行かない事も多いようで・・・。あと遠見視力と近見視力の乖離もしばしば。
初診時視力は0.1~0.5程度が多いですが、以前の調査(05年以前)と比較すると0.1未満のケースが増えている。屈折値はほぼエンメで、打ち消し法による視力は、1.0以上が55%ですが、裸眼視力が悪いと打ち消し法による視力も悪い傾向があるようです。従って、過去の調査と比べると打ち消し法で良好な1.0以上のケースは減少している。
視野検査では、ゴールドマン視野なららせん状視野・求心性視野狭窄が有名で、静的視野では水玉状や花環状を呈し、偽陰性が多い。79%に視野異常あるそうです。CFFは有用で、安定していて良好な数値なら視神経疾患は否定できるし、心因性の場合は、値がバラついたり、矛盾する結果が出たり・・・・。色覚検査結果も、非定型的・デタラメ・再現性のない結果。
心因性でもなさそうで、どうしても原因がわからないなら、器質的疾患を除外するためにOCT、ERG、VEP、MRI・・・などに加えて、ERP(http://www2.oninet.ne.jp/ts0905/erp/erpsemi.htm)、PETやSPECT(多分研究レベルだろうが・・)も使える?一見器質的変化に乏しい疾患との鑑別に注意:スタルガルト・XLRS・LHON・ADOA・MEWDS・AZOOR・CAR・・など(病初期特に難しい)。
原因は、家庭問題が50%、学校問題が23%、その他外傷・眼鏡希望・・・などですが、基本的に『寂しい』という気持ちの表れ。治療としては、しっかり問診して、家庭の問題・学校の問題・環境の変化などを聞き出して、原因と思われるものを推定し、解決に向けて努力してもらう・・・のが建前でしょうが、眼科医としては、なかなか難しいと思われます。
症例1:小2女児。両眼視力0.3(n.c.)。どうやら弟が生まれてから、母親の関心がそちらに集中したのが原因?4か月の経過で視力改善・・
症例2:小3女児。石原式で誤読あり。学校での視力0.4/0.3。受診時の視力が0.6~0.9.打ち消し法で1.0。1歳年下の双子がいて、母親の関心がそちらへいったのが原因?ヒアレインを『だっこ点眼』。2ヶ月後に両眼1.5に。
症例3:小3女児。学校で色覚異常指摘。近医で視力(0.4p)/(0.8p)。滋賀医大色覚外来へ。視力は打ち消し法でアップ。色覚検査は石原で誤読あり、分類不能。パネルD15もフェイルで分類不能。ただしアノマロスコープが正常。保育園時に両親離婚。母とは別居。同じクラスの男子にストレス?算数嫌いなのにそろばん塾へ・・→解決難しそう・・
http://takeganka.exblog.jp/6809532/
今回、気になったのは、①打ち消し法による視力検査 ②ERP ③だっこ点眼
①打ち消し法による視力検査:レンズを交換しつつ、声をかけて励ましながら最終的に±0のレンズで視力が出るように誘導する方法で、これで4-5段階視力がアップすれば、ほぼ心因性視覚障害と診断していい。
②ERP(Event RelatedPotentals;事象関連電位):これを利用すれば脳波で見えているのかいないのか判別可能?P300 潜時の延長?⇒視覚刺激に対しての情報処理能力に遅延?
http://www2.oninet.ne.jp/ts0905/erp/erpsemi.htm
③だっこ点眼⇒親が抱っこしながら、優しく声をかけつつ点眼するという、プラシボ効果+心のケア的な効果を狙ったもの(?)