2016年 11月 27日
第9回 Osaka Ophthalmology Forum その1(980)
2016/11/26 @ ヒルトン大阪5階 桜山華の間
教育講演 眼症状から分かるアレルギー 島根大学医学部 皮膚科 千貫祐子
個人的な話だが、娘が島根大の看護科に4年ほどいたもので、何度か出雲に行く機会があり、島根とか出雲とか聞くと、勝手に親しみを感じています。大学の中に入った事はありませんが・・・。
他科の先生の話というのは、興味深そうで、実は面白くなかったり、難解でついていけなかったりすることが多いのですが、今回は、非常に興味深い内容で、有名教授お二人には申し訳ないですが、この皮膚科の先生の話が、今回のフォーラムの白眉?千貫先生、素敵な講演ありがとうございました。
最初に提示された写真は、左の眼瞼がパンパンに腫れた症例。これを見てどう思うか。なんらかのアレルギー。虫にさされた?・・・・
話は、食物アレルギー。正確には食物依存型運動誘発アナフィラキシー。最も重篤なのはアナフィラキシー。IgE依存型即時型アレルギーで、抗原に感作されるステップと、次に抗原でアレルギーが誘発されるステップとがある。食物アレルギーがいつどこで感作されるのか。食物なので、経腸管感作?
『あきらめないで』・・・で有名になったあの石鹸の話。一体何が問題だったのか。
https://www.yuuka.co.jp/info/news20110520.action
http://jsall-web.sharepoint.com/Pages/default.aspx
このあたりのHP参考にしつつ話をまとめます。『2009年頃から、全身性の膨疹を特徴とする小麦の運動誘発アナフィラキシーではなく、眼瞼の発赤・腫脹と顔面の皮膚のかゆみの発赤・蕁麻疹を主要な臨床症状とする、これまでの臨床経験からすると非典型的な女性の成人小麦アレルギー症例が多数報告され・・・』社会問題になったのですが、実はあの石鹸が問題になったのは、中に含まれてた『加水分解コムギ末(水解小麦末)(グルパ-ル19S』』という成分。あの石鹸で洗顔することで、眼瞼皮膚で感作が成立して、その後小麦を含む食物を摂取することで、アレルギー反応が誘発されたらしい⇒ 食物依存型運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:Food Dependent Exercise Induced Anaphyaxis)
症例提示:眼瞼浮腫。片眼だったり両眼だったり・・・毎朝パンと珈琲を摂取していて、月に1回ぐらいアレルギーを起こしている。ω5グリアジンに対する特異的IgE(-)。小麦のブリックテスト(-)。⇒食物依存性運動誘発アナフィラキシー誘発試験:アスピリン+うどんで、顔の浮腫↑↑
原因は、あの石鹸が原因だった。
※小麦の蛋白には、グルテン(不溶性蛋白)が85%、非グルテン(可溶性蛋白)が15%含まれている。あの石鹸は、グルテンの加水分解産物のグルパール19S(加水分解コムギ)を含んでいた。この成分が、石鹸使用で顔面皮膚(眼瞼皮膚?)を通して感作され、その後小麦を含む食物摂取で、FDEIAを誘発。この場合の主症状は、眼瞼浮腫。全身ではなく眼瞼。界面活性剤を含むので皮膚のバリアが破綻して、経皮膚・経粘膜感作が成立しやすい?
次の話題は、花粉-食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome:PFASまたはPFS)
シラカバ・ハンノキなどの花粉とリンゴ・モモが交差反応?
症例提示
1)24歳女性で、豆乳摂取後、眼のかゆみ・眼瞼浮腫
食物アレルギーのようだが、症状が眼に出るというのは、眼の近くで感作?⇒実は、花粉症(アレルギー性結膜炎)があって、原因はハンノキ花粉だった。これと豆乳が交差反応?
※大豆のアレルゲンコンポーネントの中で、大豆で感作されるのは、Gly m5,m6、花粉ではm4・・・と異なるコンポーネントなので、いわゆる大豆特異的IgE陰性になるので注意が必要。
2)30歳女性。モモ摂取後、眼瞼浮腫・鼻閉・・・
これも眼瞼が感作部位?⇒ハンノキ花粉アレルギーだった。モモ特異的IgE(-)だが、生モモのプリックテスト(+)。ここもモモアレルゲンコンポーネント解析が重要ということ。
口腔アレルギー症候群の原因食物
(口腔アレルギー症候群の中で感作アレルゲンが花粉の場合、花粉-食物アレルギー症候群)
- スギ・ヒノキ⇒トマト
- ハンノキ⇒バラ科(リンゴ・モモ・ナシ・ビワ・サクランボ・イチゴ)ウリ科(メロン・スイカ・キュウリ)ダイズ(主に豆乳)・キウイ・オレンジ・ゴボウ・ヤマイモ・マンゴー・アボカド・ヘーゼルナッツ(ハシバミ)・ニンジン・セロリ・ジャガイモ・トマト
- シラカバ⇒バラ科(リンゴ・モモ・ナシ・洋ナシ・スモモ・アンズ・サクランボ・イチゴ)ヘーゼルナッツ(ハシバミ)・クルミ・アーモンド・ココナッツ・ピーナッツ・セロリ・ニンジン・ジャガイモ・キウイ・オレンジ・メロン・ライチダイズ(主に豆乳)・香辛料(マスタード・パプリカ・コリアンダー・トウガラシ)
- オオアワガエリ・カモガヤ⇒メロン・スイカ・トマト・ジャガイモ・タマネギ・オレンジ・セロリ・キウイ・米・小麦
- ブタクサ⇒スイカ・メロン・ズッキーニ・キュウリ・バナナ
- ヨモギ⇒ニンジン・セロリ・レタス・ピーナッツ・クリ・ピスタチオ・ヘーゼルナッツ(ハシバミ)・ヒマワリの種・ジャガイモ・トマト・キウイ 香辛料(マスタード・コリアンダー・クミン)
皮膚科医が見る眼症状
- 湿疹・皮膚炎(接触性皮膚炎):Ⅳ型アレルギー⇒ステロイドの外用 ⇒皮膚の浅層
- 蕁麻疹・血管性浮腫:Ⅰ型アレルギー(真皮)⇒抗ヒスタミン薬内服 ⇒皮膚の深層
症例提示
①70歳女性 両眼の眼瞼皮膚に鱗屑を伴う紅斑。原因はリンデロンAに含まれる硫酸フラジオマイシンだった。これが原因の接触性皮膚炎。非常に多い。できれば硫酸フラジオマイシンを含まないものを使用すべき。
②40歳女性 結膜充血・眼瞼皮膚発赤。点眼は、フルメトロン・アレジオン・ケトチフェンPF・・・・など8種類にも及んでいた。ただ結局原因はバックフリーで大丈夫だと思っていたケトチフェンPFだった。バックじゃなくて、フマル酸ケトチフェンとのものと、プロピレングリコールが原因の接触性皮膚炎。
③15歳男性 アトピー性皮膚炎の重症例。
デニーモルガン徴候・ヘルトゲ徴候があれば、ステロイド軟膏でしっかり治しつつ、プロトピック軟膏へ移行し、その後保湿に努める。
※ステロイドは、強いⅠ群から弱いⅤ群まであるが、皮膚科医が最も使うのはⅣ群(アルメタ・ロコイド・キンダベート)。眼軟膏は通常弱すぎる?
食後の眼瞼浮腫を見たら、重篤な遺伝性血管性浮腫のルールアウトは必要で、ACE阻害薬の使用をチェックすべきだが、FDEIAを念頭に置くべき。
眼瞼は感作が成立しやすい場所。眼瞼浮腫を見たら、食物アレルギーも考慮すべき。09年にあの石鹸は販売中止になっているが、感作されている患者さんは残っているので、まだ要注意。