da Vinci支援手術と緑内障(続) (1000)
2017年 03月 02日

白梅はピークを過ぎたが、もうしばらく梅の香りが楽しめそう・・
da Vinci支援手術と緑内障との関連について、眼科医が書いた論文を見つけたので(英語だが・・・)、チョット勉強してみました。
BJO Online First, published onSeptember 24, 2013
The effect of steep Trendelenburg positioningon intraocularpressure and visual function during robotic-assistedradical prostatectomy
http://bjo.bmj.com/content/early/2013/09/24/bjophthalmol-2013-303536.full
患者31名(緑内障・網膜血管障害は除外、角膜疾患も除外)54から74歳(平均66.15歳)。視力・眼圧・スリット・眼底検査・OCTなどの検査に加え、隅角検査、van Herickも。OCTではcpRNFLをチェック。術中の眼圧測定は、トノペンXLで。眼圧チェックポイントは、下記の如く、T1~T10まで。(眼圧は左のみ)
- T1 全麻導入前(仰臥位で覚醒)
- T2 全麻導入直後(仰臥位)
- steep Trendelenburg position(23°頭低位)になってすぐT3
- steep Trendelenburg position(23°頭低位)になって1時間T4、2時間T5、・・・・・、5時間T8
- 仰臥位に戻してT9
- 覚醒後30分してT10
前房深度・隅角の広さに関しては、van Herick 法で、Grade4が93.5%、Grade 3が6.5%。Grade2・1はゼロ。Scheie分類のGrade0(開放隅角で隅角のすべての部位が観察できる)が87.1%、GradeⅠは12.9%。GradeⅡ・Ⅲ・Ⅳはゼロ。※つまり問題になるような狭隅角眼はない。
平均手術時間は、4.57時間(3時間47分~6時間9分)と結構長い。出血量は364ml(80-810ml)。
平均血圧は、徐々に低下傾向あり、104.8±12.1/56.4±5.8 mm Hg at T4、95.9±11.6/51.8±6.0 mm Hgat T5、94.3±13.7/52.0±6.9mm Hg at T6、91.0±9.6/49.8±5.6 mm Hg at T7、86.7±5.8/48.8±2.9 mm Hg atT8。
LogMAR 視力 0.088(術前)、0.089(術後)で変化なし。平均RNFL厚 91.0(前)、92.1μm(後)、下方NFL厚手術前後で同じ値 117.2μm。他に眼合併症(-)
平均術前眼圧13.2 mm Hg (8–20 mm Hg)/術後平均眼圧 13.2 mm Hg(8–18 mm Hg)
問題のsteep Trendelenburg position(23°頭低位)での眼圧は、
- 18.0 mm Hg (9–29 mm Hg) at T1 全麻導入前(仰臥位で覚醒
- 9.8 mm Hg (4–15 mm Hg) at T2 全麻導入直後(仰臥位)(※眼圧下降)
- 18.9 mm Hg (5–28 mm Hg) at T3, 頭低位すぐ
- 21.6 mm Hg (15–31 mm Hg) at T4 頭低位1時間
- 22.5 mm Hg (14–36 mm Hg) at T5 頭低位2時間
- 22.3 mm Hg (9–33 mm Hg) at T6 頭低位3時間
- 24.2 mm Hg (12–33 mm Hg; N=18) at T7 頭低位4時間
- 24.0 mm Hg (14–34 mm Hg; N=4) at T8 頭低位5時間
- 15.7 mm Hg (10–25 mm Hg) at T9 仰臥位に戻して
- 17.9 mm Hg (8–26 mm Hg) at T10覚醒後30分して
ベースラインと比較:T2低い、T4・T5・T6・T7高い。T3との比較(頭低位にしてすぐの眼圧):T5・T6・T 7は高い。T8はサンプルが少なくて解析不可。
RARP中の全麻下の患者において、スティープなトレンデレンブルグ体位後時間の経過とともに眼圧が上昇することが示された。しかし、視機能(視力やRNFL厚)は有意な変化を示さなかった。平均眼圧は、24.2で、最高眼圧は36に達した。眼圧30以上の割合は、T3で0%、T8で25%に。15mmHg以上の変化が12.9%で見られた一方、合計25.8%の眼が10mmHgのIOP変化を示した。視力とRNFL厚は術前後で変化しなかった。
2007年、Weberらが初めて、62歳男性患者の症例報告。6時間35分を要し、1200ml出血したダビンチ支援手術後の後部虚血性視神経症。今回のスタデイは、平均手術時間4.57時間で、出血は平均364ml。
決定的な証拠は不足しているが、長い手術と大量の出血は、虚血性視神経症の発症に関連していると思われる。
このスタデイでは、IONを含む、眼圧上昇に関連した眼合併症はなかった。しかし、眼圧は、時間依存的に上昇している。今までの報告に加えて、この事は、より長い手術は危険な眼圧上昇リスクを大いに作り出すことを示唆。上昇した眼圧のより詳細な検討は、手術時間が5時間を超えたら、アセタゾラミドが考慮される。眼圧は、頭を下げるほど大きく変化する。更に、進行した緑内障をもつ患者は、この手術の良い適応でない。:眼合併症リスクの為に、ダビンチ支援手術前に、徹底したインフォームドコンセントが重要。
※このスタデイが示しているのは、開放隅角眼でも、この体位でMax36mmHg程度眼圧上昇の可能性があり、今回の手術時間4.57時間(3時間47分~6時間9分)では、何も問題なかったが、かつて、6時間35分を要し、1200ml出血した症例(62歳男性)で虚血性視神経症を発症した報告もあり、安全性を考慮すると、進行した緑内障は適応外で、手術時間が長引く場合に、ダイアモックスの予防投与を考慮すべき。
※個人的感想⇒ 緑内障眼も気になるが、眼底血圧を測定して、これが低いとハイリスクと判定すればいいと思うのだが。