第418回 大阪眼科集談会 その3(1027)
2017年 06月 16日

BRVOは眼科領域の中においては、それほど厄介な疾患でもなく、昔は、FAして、網膜光凝固。あとは、止血剤とか抗凝固薬出して終わりだったのですが、その後治療に対する考え方は、二転三転して、チョット勉強しないと、今のトレンドというか、現時点でのコンセンサスが何なのかわからなくなります。また、医師によって、必ずしも治療方針は一定でなかったりして、同業者の集まりにおいても、今はどんな治療が最新なの?網膜光凝固はしないの?注射だけ・・などと疑問が噴出することもしばしばです。そんな中、貴重なお話でした。
特別講演
網膜静脈閉塞症の病態理解と治療のアップデート
辻川明孝 京大教授
- BRVO、CRVOの基礎知識
- BRVOの黄斑浮腫
- BRVOの網膜下出血
- BRVOの網膜出血
- BRVOの最新治療戦略
- 抗VEGFと網膜虚血
※聞いたことがある気がしたのは、今年の2月に香川大教授の肩書でCRVOの話をされていたから・・
http://takeganka.exblog.jp/27561131/
1,BRVO、CRVOの基礎知識
BRVO所見:問題はnon-perfusionarea(NPA)で、黄斑部では感度低下し、周辺部に広範囲にあれば血管新生(BRVOではあまり考えにくいが)。
BVOスタデイ。今では絶対不可能な無治療で経過をみた群が含まれている貴重なスタデイ。この中で3年間無治療で経過をみていて、視力2段階アップが37%。低下が6%。つまり基本的には改善する疾患。
BRVOについては、あまりFAしなくてもいい?その結果が治療方針に影響しないので、少なくともすぐにする必要はない。①非虚血型なら光凝固不要だし、黄斑浮腫があれば注射。②虚血型だったとしても、出血が引いてから光凝固すればいいので、すぐにFAしなくていい。つまり、黄斑浮腫があれば注射するし、なければ様子見。NPA広範囲の場合のみ光凝固。BVOスタデイでは、光凝固で、新生血管↓、硝子体出血も↓だが、周辺のNPAに光凝固しても視力には関係ない。
※ただ、CRVOはFA必要。非虚血型なら光凝固不要で、黄斑浮腫(+)なら注射だが、虚血型なら早急にPRPが必要になるので。どの程度NPAがあれば虚血型と判断するのかは難しいが、10乳頭面積程度?黄斑浮腫はあとで対応すればいい。CVOスタデイ(Arch Opthalmology 1997)によれば、最初の視力が悪いと予後不良で、良いと(0.5以上)予後良好。その中間は悪化することが多い。
2,BRVOの黄斑浮腫
黄斑浮腫の評価(OCT):外節、EZが視力に関わる重要な所見。
急性期のME:CME、外網状層の浮腫、外層のダメージは少ない。SRD、ミュラー細胞の柱・CME内出血(慢性化すると消失)。治療は形態を戻すこと。ME(-)の時にEZ(+)だと視力良い。CME(+)で視力良いことも(中心窩視細胞外節がきれいだと・・)。
3,BRVOの網膜下出血
★ 最も視力に影響する重要な所見。急性期に中心窩下に出血があれば、視力予後悪い。放置すれば、やがて線維化・網膜色素上皮萎縮などで視力低下。すぐに抗VEGF治療を。これが新しい出血を止めるので、出血は急速に吸収される。
4,BRVOの網膜出血
一般にアーケード内は神経線維層があるので刷毛状出血となり、アーケード外は斑状・しみ状。ただ、アーケード内が斑状出血なら、その部位はNPAの可能性高い(虚血があり網膜内層が壊死に陥ってしまうと、出血があっても刷毛状にならない。内層が保たれていれば刷毛状になるが・・)。この状態を定量的に評価するためのツールとしての「Parallelism」? ⇒ https://www.nature.com/articles/srep28554/figures/2
Parallelism as a novel marker for structural integrityof retinal layers in optical coherence tomographic images in eyes withepiretinal membrane. Uji A Am J Ophthalmol. 2014Jan;157(1):227-236.
Parallelism for quantitative image analysis ofphotoreceptor-retinal pigment epithelium complex alterations in diabeticmacular edema. Uji A, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014May 8;55(5):3361-7.
http://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2129002
周辺部の出血は?斑状だが、小さな出血は非虚血型、大きな出血が虚血型の事が多い。非虚血型は平均859、虚血型は2827μm。BRVOよりも、CRVOにおいては、この所見は重要で、出血が大きければFAして速やかに光凝固が必要かも。またCRVOは、途中で状況が変化することもあるので、注意が必要。非虚血型で経過中に、再閉塞が生じて、虚血型になることもある。途中で出血が増加すれば、要注意。
OCT所見:非虚血型は、CMEにミュラー細胞の柱、SRD少し、内層きれい・・。虚血型だとSRDが明らかで、内層の構造が不明瞭で、反射も亢進。網膜色素上皮が写らなくて、網膜内層に空隙所見
※prominent middle-limiting membrane sign (p-MLM sign) ⇒ deep capillary layerの虚血、視力予後悪い。⇒ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5189968/
5,BRVOの最新治療戦略
抗VEGFをまず何回?大規模スタデイは6回だが、そんなに必要?『3回+PRN vs 1回+PRN』の比較では差がなかった。つまり1回でいい。BRVOスタデイは、治療前視力悪いと改善度大きい・・・という結果だが、視力予後を考えると早く治療すべき。視力が良いうちに治療開始すべき。視力0.5以上なら、1回+PRNで十分なこと多く、0.5以下なら3回+PRNの方が少しいい?
★ BRVOの黄斑部浮腫は早期に治療すべき。一端変視症が出てしまうと、浮腫が消えて、視力が戻っても、変視症は残る。何故変視症が出るのかはよく分かっていないようで、単に黄斑部網膜が腫れていたり、剥がれていたりするのが原因ではなく、視細胞レベルで配列が乱れるのが問題なのかも。その点、ERMの変視症とはメカニズムが異なる可能性。
急性期MEは治療を継続するが、慢性化してきて、治療に対する反応も乏しくなってきたら、治療中止を検討。再発MEで、ミュラー細胞の柱やSRDがなかったら、判断難しいので、注射して効果を見て判断してもいい。
6,抗VEGFと網膜虚血
黄斑部の出血:アーケード内の出血は、視力障害の原因になりにくい(BRVO)が、NPAは深い暗点となり、視野欠損(+)。抗VEGFをしても、しなくてもNPAは増える事が多い。FAで見ているのは、浅層毛細血管のみだが、OCT angioは、深部の毛細血管も浅層の毛細血管も両方見ることができる。ただ、通常深層・浅層ともに障害される(深層の方が範囲大きいが)。
★ 動静脈交差部の解析:動脈が上のようだが、意外と静脈が上の事も多く、ダメージ大きい。
『BRVOの障害交叉部において、動脈が静脈の上を走行する場合は、静脈は動脈の下を深く走行、時に視細胞層にまで潜っており全例で交叉部の静脈管腔は保たれていた。静脈が動脈の上を走行する場合は、交叉部の静脈管腔は内境界膜と動脈との間で圧迫され括れていた。』Ophthalmology120:91-99, 2013.