第5回 OCULAR INFECTION FORUMを聞いて-2

第5回 OCULAR INFECTION FORUM


眼球という直径2cm少しの小さな球形組織ですが、部分によって、疾患によって、勉強会、学会があります。前眼部の角膜・結膜を扱う人たちと、緑内障や網膜を扱う人たちのキャラクターが大きく異なるのは、以前から感じていましたが、前者は明るく軽い、後者は暗く重い?。この日の特別講演は教授2名、他1名ですが、皆明るく、でも軽すぎず?、かつ十分アカデミックな講演会でした。

特別講演

1、術後眼内炎対策 筑波大学眼科教授 大鹿

 20世紀初頭 術後眼内炎が10%であったのが、20世紀末には、0.02~0.57%。
 新しい調査では、10万件中52件、0.05%だそうです。随分少なくなったもんです。
 最近10年でも減少傾向にあります。術後眼内炎というのは、このように、非常に稀にしか起こらないので、確固たる証拠に基づいた、つまりエビデンスのある対策を立てることが困難なのです。でも、少しづつ、確実に効果のある対策を積み重ねることで、ここまで、減らすことができた訳です。その地道な積み重ねとは、

Ⅰ術前の対策
 ①まず、外眼部の菌の量を減らす。
勿論、この部に感染性疾患(涙嚢炎、麦流腫、眼瞼縁炎・・・)があれば、しっかり治しておく。当然ですね。
 ※アトピー性皮膚炎は特に要注意です。皮膚に常在する菌量が格段に多いと心得るべきです。
 ②術前の滅菌
  1)術前の抗菌薬点眼は、クラビット点眼を3日前から
  2)ポピドンヨード(イソジン)による消毒

(このポピドンヨードの使用が、最も有効な消毒法で、世界中で行われていて、その有用性は確立しているのですが、副作用報告があり、メーカーは眼への使用は適応外と言ってきたのです。これだけ、安全で有用だからこそ、世界中で使われて、その事実が非常に高い安全性を保障しているにも関わらず、リスク回避の理由で、使わないようにと・・・。使うなら、眼科医が責任を負えと・・。でも、まだ、殆どの施設ではイソジンを使っていますが、一部の施設では、リスク回避の為???、PAヨードをに切り替える施設も出てきています。チョット試しましたが、PAヨードは、どろどろして、色も汚くて、使いにくいです。)
 ③ドレーピング
(これで、洗ってもあまりきれいにならない部分、洗いにくい部分、睫毛、眼瞼縁を、被ってしまう。これをうまくやれば、感染予防の観点でかなりのアドバーンテージが生まれると思います。私は、ナースに綿棒で上の眼瞼縁を少し外反させておいて、下の眼瞼縁は自分で外反させつつ、ドレーピングします。これでいつも完璧(;^_^A ?)
 ④グロービング
ポピドンヨードやグルコン酸クロルヘキシジンで手指を消毒し、グロービングしますが、時間が経てば、グローブ内は、汚いのです。 2重に手袋すればいいでしょうが、手術できないかな。1枚を、破らないように注意してやっています。

Ⅱ術中の対策
 ①手術中、器具を創口から出し入れしますが、この抜くときがポイントで、眼球を虚脱させてしまうと、中が陰圧になり、創口付近のそれほどきれいでない?水が眼内へ逆流する。これを防ぐため、創口を変形させないように、水を出しながら、さっと器具を抜くことが肝心!
 ※フェイコチップ、I/Aチップを抜くときは、必ずポジション1で抜く。これは、言われなくても、皆やっているのでは・・・
 ②とにかく洗う
 手術には、CCC、ハイドロ、核の回転、フェイコ・・・など、いつくもの眼内操作があるが、その各操作前に、必ず大量の水で洗う、つまり、眼内に道具を入れる前に、一段階、眼外の清潔度を上げておくということ。これは、簡単で、いつも何となくやっているのですが、意識して積極的に洗うつもりです。
術野に水が溜まるといけないので、私は、いつも吸引付き開瞼器を使っていますが、これは、感染防御の観点からは、非常に優れものと思っています(^ゝ^)

※ここで、耳側角膜切開と強角膜切開の術後感染予防の観点から、コメントがあったが、大鹿氏は、圧倒的に強角膜切開にアドバンテージがあると言われていた(大賛成です。私は、強角膜切開派ですので・・・)。 実際は、大量に手術をしている所謂ボリュームサージャンは、術後の仕上がり、手術時間節約の観点から?、耳側角膜切開を好むようですが、豊富な手術量に支えられたテクニックの優位性から、感染に至るケースが少なく、大規模な調査では差が出なかったが、同レベルの術者で比較すれば、圧倒的に角膜切開は不利であると結論しておられました。安全マージンは低いと! 下手な創口から、眼球の虚脱、逆流を招くことが危惧される。特に、左眼の耳側切開では、サイドポートが下方に作られる為、下方涙液メニスカス付近に溜まる汚い液の逆流も危惧されるので、特に要注意だと。
※ただ、最近は、2.2~2.3mm程度の切開から、全ての操作が出来る器具、IOLが出来つつあり、これなら、耳側角膜切開でもありかな・・・と言われていました。私は、それでも、多少やりにくくて、時間もかかりますが、安全確実な、通常の強角膜切開がいいと思っています。

 ③術中合併症
   後嚢破損が危険なのは、実験で、前房内に50000個細菌を接種して初めて眼内炎を発症したが、硝子体なら5個で発症したという報告があるように、つまり、硝子体は、10000倍眼内炎を起こしやすいので、後嚢破損したら、処理によっては、険は10000倍ということになります。
  これに対する対策としては、もし、後嚢を破損したら、硝子体を十分に切除するのです、言わば、硝子体を前房化する。これで、10000倍を10倍か数倍程度に抑えることができるかもしれない。逆に、硝子体が前房に出たままだと、前房を硝子体化することになり、危険は10000倍以上? つまり、感染対策としても、十分硝子体は切除しましょう。

 ④術中の抗菌薬
  灌流液への添加は、あまり効果的でない。
  術後の結膜下注射、少し期待できる?(これは、先輩の教えに従い、実行しています。)
  術後、眼内以降のよい点眼液を使う。要するクラビット点眼を使えばいいのです。



特別講演2
眼科的微生物学的検査のススメ 市立宇和島病院 鈴木(愛媛大)

眼科医自ら、眼感染症に接したときに、塗沫標本作成、培養検査を行う為のノウハウが講演されましたが、少しマニアックでついて行けませんでしたが、私も、術前にマイボーム腺が汚い時や、涙嚢炎、感染性角膜炎、結膜炎で時に培養することがあるので、もう少し注意してやろうとは思った次第です(^_^;。

特別講演3
眼科における細菌感染症の変遷と問題点 鳥取大 井上幸次

Ⅰクラミジア・トラコマーティスとの戦い。
  トラホームとかトラコーマとか呼ばれる感染症で、我々の世代は、瘢痕病巣しか見たことありませんが、かつて、日本人の24%が罹患したという、恐ろしい感染症でした。やがて、サルファ剤、テトラサイクリン、エリスロマイシンの開発に伴い、駆逐されました。
  ところが、性感染症(STD)として、復活!!
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クラミジアは細菌に分類される微生物(直径300~1000nm)。
不完全ながら物質代謝系あり。抗生物質に対する感受性あり。
細胞内に自身のエネルギー産生系を欠く。
ヒトや動物の細胞内に寄生し分裂増殖する。
⇒偏性細胞寄生性の生物
もう一つの特徴は、その特有なライフサイクルである。
クラミジアは細胞の食菌作用により宿主細胞に取り込まれ、
この段階では感染性のある基本小体 elemental body (EB) と呼ばれる直径約300nmの小粒子である。
これが細胞内で非感染性の増殖型粒子である網様体 reticurate body (RB) となり分裂増殖をし、
再び基本小体(EB) に変化するという独特な増殖環をもっている。
この増殖サイクルは2~3日間。
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抗菌剤は、基本小体(EB)には無効で、網様体(RB)にのみ有効。だから、時間がかかる?
性器クラミジアの治療においても、網様体reticurate body (RB)が増殖する1~2日間に作用するので、クラミジアを完全に消滅させるためには増殖期に3~4回作用し続けなくてはならず、そのため14日間程度の継続投与が必要とされた。しかし、この明確な根拠はなく7日間投与で有効であるとの説もあるが、いずれにしても、通常の細菌よりは、長めに投与することが必要であると言われている。
眼科の場合も、エコリシン、タリビットの眼軟膏と、内服で、じっくり対応することが必要。

Ⅱ、緑膿菌
抗生物質の進歩:エリスロマイシン、テトラサイクリン、ペニシリン・・・などが普及すると、これらが効きにくい細菌が生き残り猛威を振るうようになる。この代表が緑膿菌でした。この緑膿菌対策として、アミノグリコシド系抗生物質が次々と開発されるようになったのです。
 眼科でも、アミノグリコシド系が、トブラシン、ゲンタシン、シセプチン、パニマイシン、サンテマイシンなど多数あるのは、その為です。

Ⅲ、抗菌剤の復習
 基本的な事柄のお勉強です。
  
 抗菌剤の作用機序
・DNA合成阻害  ← ニューキノロン
・蛋白合成阻害  ←AG,マクロライド、CP,TC
・細胞壁合成阻害 ←βラクタム
※抗菌スペクトラムの広さと殺菌力の強さは一致しない。

基本的用語の解説

MIC(minimum inhibitory concentration)最小発育阻止濃度
 その細菌の増殖を阻止する(殺菌ではない)ための抗生物質の必要最小量
 この数値MIC値。すなわち使用する抗生物質の量が少ないほど、その抗生物質の効き目は強いことになります。逆にその数値が多ければ多いほど、その菌の耐性は強いことになります。
菌の種類,菌株の違いによってそれぞれ異なる値を示します。

MIC80 細菌の80%の発育を阻止する最小濃度

Sub MIC  抗菌剤が細菌に対して、in vitro ,in vivoとも何らかの影響を及ぼすMIC以下の濃度範囲(抗菌剤の投与は、十分に行って、一時的にはMICを越えても、多くの時間は、MIC以下の濃度で推移する訳で、その時に、抗菌剤がどの程度役立っているかが重要のようです。細菌に対する影響、細菌と戦うシステムに対する影響など・・・)

PAE (post antibiotic effect) とは,抗菌薬を細菌に一定時間作用させると,血中・組織での抗菌薬が有効濃度以下になっても,細菌の再増殖がある期間抑えられる現象のことである.
     
※これを利用した、AG系抗生物質の初日強化療法というものもあります。他の抗菌剤に加えて、初日にAG系抗生物質を1回投与して、あとは、強いPAEを期待する。当然副作用も少ない。

MBC(minimum bactericidal concentration) 最小殺菌濃度
  最小発育阻止濃度で細菌が育たなかった培地から通常の培地に移したときに細菌が育たない最小濃度

MPC(mutant prevention concentration)
  抗菌薬の血中濃度がMICに到達すると最近の発育を阻止する物と考えられますが、この濃度付近で細菌を完全に殺滅できるとは限りません。MIC付近では細菌が多く死滅しますが、中には突然変異によって耐性菌(mutant:ミュータント)が出現し、ミュータントが生き残る可能性も考えられます。しかし、MICより更に高い濃度では、細菌はミュータントも含め死滅します。このときの濃度をMPCと呼びます。

  MICとMPCに挟まれる領域はMutant Selection Windowと呼ばれ、耐性菌が選択され発育する可能性があるとされています。この意味からMPC/MICが小さい値を取れば、Mutant Selection Windowは小さくなり耐性菌の選択は少なくなります。

T>MIC  ~MICを凌駕する血中濃度を維持している時間はtime above MIC
T>MPC ~MPCを凌駕する血中濃度を維持している時間はtime above MPC

 多くのβラクタム剤ではT>MICが40~50%に達すると有効な治療効果を得られることが示されていますが、T>MPCが一定時間以上得られれば、耐性菌の出現が抑えられると考えられています。
以上の基本的な事柄を踏まえて、対象となる菌に対して適切な抗菌剤を選ぶわけです。その際にMICが選択の参考になるでしょうし、sub-MIC、PAE、MBC、MPCなどを参考に、投与量や投与期間を含めた投与方法を決定することになるのだと思いますが・・・眼科は、まだまだこれからですね。

 Ⅳ、ニューキノロンについて
 ニューキノロンは、
 第一世代 ナリジクス       グラム陰性桿菌に効く
 第二世代 ピヘミド        緑膿菌に効く
 第三世代 ニューキノロン     クラビット、トスフロ
 第四世代 8-メトキシキノロン     耐性を作りにくい。点眼でMPC達成。 千寿のガチフロ

現在眼科では、クラビット点眼を使わない眼科医はいないくらいだが、これは、第3世代ニューキノロンです。下記のような利点の為、使わざるを得ない?

・広い抗菌スペクトル
・上皮障害が少ない。
・前房内移行が良い。
・コンプライアンスがいい。
・PAEが強い(長い)?

※グラム陽性球菌に対する殺菌力は、サルペリン、トブラシン、サンテマイシンなどのほうがニューキノロンより強いが、これらは、残念ながら前房内移行が悪い。

Ⅴ、耐性菌
  MRSAに対して
・バンコマイシン(有効だが、殺菌力弱いので、長期投与が必要。VRSAの存在)
・アルベカシン (強い殺菌力。耐性菌多い?)

・リファンピシン (耐性になりやすい)
・ST合剤
・クロラムフェニコール
・バクタ(スルバクタム/アンピシリン)
ただ、全て点眼製品はないので、点滴用があれば流用して、希釈して点眼を自作するしかないのです。

クラビットは90%以上が無効。眼科だけでなく、全科で同様の結果となっているそうです。クロラムフェニコール点眼が有効なケースが結構あり、その場合はいいですが、手持ちの薬剤が全部耐性ということもしばしばあり、その場合、点眼が作り出す高い局所濃度に期待して、クラビットなどを使います。それで駄目なら、バンコマイシンかアルベカシンの希釈液を自作ということになるでしょうか。
  
※トラコーマの究極治療として、淋菌を接種する方法が行われたことがある。淋菌でクラミジアを駆逐しようとする治療である。その成否は知らないが、 Maggot therapy というMRSA対策があるらしい。これは、無菌化した蛆虫(うじむし)を使って、足壊疽のMRSA感染した部位に蛆虫を這わせて、MRSAを食べさせるらしいのです。『米国で「治療用うじ虫」の生産が倍増』などという記事も見つけました。
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20041005306.html
余談だが、膝の関節炎の治療にジクロフェナックよりも、ヒルを吸い付かせた方が有効というドイツからの報告もあります。どちらも、眼には使えませんが(^^;


薬剤感受性試験について
一般細菌の薬剤感受性試験は、CLSI に基づく微量液体希釈法によりMICを測定しています。CLSIでは菌種ごとに感受性の判定基準が定められており、以下のカテゴリーが付けられます。 
S : sensitive(感性)
I : intermediate(中間)
R : resistant(耐性)
ただ、このIやRの判定は、μg/mlレベルの話で、点眼は、遥かに高い濃度を作り出すので、Rでも、効くことはある!

バイオフィルムについて
 菌自体が病巣において粘液状の鎧を作り、その中で細菌がコロニーを形成した状態をバイオフィルムと呼ぶそうで、これが大量の菌を放出すると急性炎症を引き起こすのだそうです。SCLやIOLや糸などを足場にして、増殖するとされている。治療を難しくしている原因のひとつと言われています。
by takeuchi-ganka | 2006-07-26 07:59 | 学会報告 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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