角膜痛覚過敏の続き (1059)
2018年 05月 21日

痛覚過敏(続き)
興味が湧いてきたけど、治療手段も知りたいので、演者の論文を参考に話を続けます。
(あたらしい眼科(0910-1810)34巻3号Page341-346(2017.03))
ドライアイ症状を訴えているが他覚的所見がない患者(に含まれるケース?)
- BUT短縮型ドライアイ(角膜専門医)
- 眼の疼痛性障害(神経眼科専門医)
- 眼瞼けいれん(神経眼科専門医)
- Corneal Neuropathic Pain(角膜神経障害性疼痛)
でも、実はこれらの疾患は玉石混交で、まとめて治療するのは、非科学的?対象にすべきは、明らかな②や③ではなく、また頭痛・三叉神経痛でもない患者さん。 この場合の患者さんの訴える疼痛とは、狭義の『痛み』だけでなく、乾燥感・異物感など、不快感を伴うドライアイ症状。
痛みを伝達する神経
- Aβ:触圧覚
- Aγ:局在が明瞭な痛み
- C :局在が不明瞭な痛み
侵害受容器TransientReceptor Potential Cation (TRP) Channel
- TRPV1:代表的痛みレセプター
- TRPM8:乾燥感(低温や浸透圧変化)
- TRPA1:痛み・しびれ(多様な化学的刺激)
※何らか影響で、侵害受容器の閾値が下がれば、通常なにも感じないレベルの刺激で痛みを感じてしまう。帯状疱疹後神経痛は、このパターンで、神経が障害されて受容器の閾値が下がったままとなり、病的な痛みが継続している。こんな事がドライアイで生じている?
痛み刺激が続くと、閾値が下がり、僅かな刺激でも強い痛みを感じるようになる。治療としては、勿論刺激となるものが見つかれば、それを治療すべきだろうが、同時に痛みそのものを感じにくくすることで、閾値を引き上げて正常に戻すことが必要。ペインクリニック的発想による治療として・・・・
1)点眼治療
①ヒアルロン酸ナトリウム:ドライアイ治療の主役が、ジクアスやムコスタに奪われたと思いきや、この点眼が、神経に作用して痛みを抑制する可能性がある。
②自己血清点眼:重症ドライアイに使われる点眼だが、角膜知覚神経に作用して痛みを抑制する可能性がある。(ただ、クリーンベンチが必要で、我々には作成不可能・・)
③Transient Receptor Potential Cation Channel Subfamily V Member 1(TRPV1)阻害薬
痛みそのものをターゲットにした点眼薬。痛覚の代表的レセプターTRPV1を阻害するRNA製剤SYL1001。ヨーロッパで治験中。日本ではまだまだ・・・
- https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/13543784.2018.1457647?journalCode=ieid20
- https://www.eurekalert.org/pub_releases/2018-05/p-sat050318.php
- https://www.sylentis.com/index.php/en/
- https://www.sylentis.com/index.php/en/news/professional-news/136-sylentis-announces-the-clinical-results-of-tivanisiran-for-the-treatment-of-dry-eye-syndrome
※この記事をパラパラと眺めた程度だが、すごく画期的な薬の登場?tivanisiran(SYL1001)というのは、防腐剤フリーの点眼。RNA干渉というのがキーワードなので、少し検索してお勉強。(※東大理学部のHPから ⇒ DNAは二重螺旋構造、RNAは1本鎖というのが常識だったが、実は2本鎖のRNAが遺伝子発現を制御しているらしい。これがRNA干渉? 2本鎖RNAがいくつかのタンパク質と複合体をつくり、相同な塩基配列のメッセンジャーと特異的に対合して、切断したりして遺伝子発現を制御。生体内で、様々な重要な役割を担っている。ここに関わることで、特定のタンパク質の生成を制御する?)tivanisiran(SYL1001)というのは、新規かつ高度に選択的な作用機序を有する小さな合成二本鎖RNAオリゴヌクレオチド(siRNA)で、(TRPV1)の産生を選択的に阻害することで、ドライアイに関連した慢性の疼痛を軽減することが期待されている。
2)内服治療
①プレガバリン(リリカ)
神経障害性疼痛への第一選択薬らしい。そう言えば、最近おくすり手帳でこの薬(リリカ)を眼にすることが非常に多い気がする。愁訴が強いケースにおいては、考慮すべき?
②カルバマゼピン(テグレトール)
三叉神経痛の第一選択薬だが、期待できる?
③デュロキセチン(サインバルタ)
慢性疼痛における第一選択薬らしい。 抗うつ作用もあり、心因性が関わっているようなケースでは、期待していい?
3)神経ブロック
星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB):交感神経のブロック
※慢性化した疼痛の増悪に交感神経が関与?
※三叉神経領域の帯状疱疹後神経痛にSGBが有効なので、ドライアイでも有効かも・・
4)認知行動療法
認知行動療法的アプローチが有効かもしれないらしい。とりあえず、『何にもないよ』『大丈夫』だけじゃなく、じっくり話を聞いてみようかな・・
