第36回大阪市眼科研究会 その3 (1085)
2018年 08月 02日

特別講演
近視の発生機序~最近の知見と病態考察 本田茂 大阪市大教授
1,近視の基礎知識2,近視の遺伝因子 3,近視の環境因子
近視とは・・・定義:平行光線が調節力(-)で網膜手前に焦点を結ぶ(焦点距離<眼軸長)。頻度は?文科省の裸眼視力<0.3の学生の頻度(恐らくこの多くが近視と思われるので代用)
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1979 2010
- 小学生 2.7 ⇒7.6
- 中学生 13.1 ⇒ 22.3
- 高校生 26.3 ⇒ 25.9
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つまり、小中学生の近視頻度は確実に増加している。これは日本だけでなくアジア全体で増加している。これは遺伝?環境?(遺伝的要因だけで、こんなに増加することはありえないはず・・)
近視の分類 (庄司の分類)
- 弱度近視;-3.0D以下の近視
- 中等度近視;-3.0Dを超え-6.0D以下の近視
- 強度近視;-6.0Dを超え-10.0D以下の近視
- 最強度近視;-10.0Dを超え-15.0D以下の近視
- 極度近視;-15.0Dを超える近視
予後による分類
①単純近視vs ②病的近視( with CRA、分離症、MH、MHRD、CNV・・・)
※固定内斜視:眼が大きすぎて動けなくなる⇒横山法(横山連先生)
※屈折度数を決める要素は・・角膜曲率・前房深度・水晶体厚・眼軸長・硝子体長
メカニズムからの分類
調節性近視(仮性近視) vs 軸性近視(殆どの近視)
※演者は(私も)仮性近視なんか殆ど見たことないと。定義上存在するだけ。
近視の発生には、遺伝因子と環境要因(近業・光環境(視環境))がある。民族によって異なり、アジア人に多くて、欧米人に少ない(遺伝要因あり)。遺伝が関与しているのは、①角膜曲率 ②水晶体後面のR ③眼軸長・・・だと。(※関連が疑われる遺伝子は、18番短・12番長・7番長・17番長・・・)
強度近視のゲノムワイド関連解析:GWAS
ゲノムワイド関連解析(GWAS)とは、『GWASは遺伝的多様性を代表するSNPを位置マーカーとして用い、特定の病気と連動する(例えば非患者群よりも患者群で有意に高頻度に認められる)SNPを見つけ出して、その近傍に存在すると推測される感受性遺伝子をリスト化していきます。複数の感受性遺伝子を原因とする病気の場合、相当数の遺伝子の作用が累積することで、それなりの大きさの発症リスクをもたらすと考えられています。こうした遺伝因子の同定により、病気発症のメカニズムの解明や予防、リスクに応じた適切な治療方法の選択が可能となり、さらには新規の治療法開発につながることが期待されています。』
https://mycode.jp/glossary/genome-wide-association-study.html
これにより、近視に関連する遺伝子を見つけてくる・・・・・・BLID遺伝子(京大・中西)
強度近視と近視性黄斑症のGWAS
CCDC102B confers risk oflow vision and blindness in high myopia. Hosoda Y Nat Commun. 2018 May 3;9(1):1782. ⇒ 『8913人の日本人データと331人のアジア人データを解析することによって、近視性黄斑症の発症にCCDC102Bという遺伝子・分子が強く関与していることを発見』。高度近視による合併症の予防への可能性が出てきた?
- http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/0503_2.html
- http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/documents/180503_2/01.pdf
・・・・
ただ、遺伝子に関する研究は、まだまだ研究途上・・・
近視の環境要因
- 眼軸長理論成長曲線と実際の成長曲線の違い:遺伝子のみで制御されているとした時の理論成長曲線と実際nの成長曲線は異なる。
- この30年間の近視頻度の増加は、遺伝要因のみでは説明できない。
- 多治見スタデイ:近視41.8(高度近視8.2)、遠視27.9、不同視15.1(遺伝要因で説明不可能)
- 優位眼と近視性不同視。優位眼の方が近視強い。
⇒ 遺伝要因だけでは説明できない多くの要因が存在する。
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※優位眼≒利き目(⇒ ローゼンバッハ法の紹介。私は右でした。)
現代のヒトにおいては、右手90%(右足80、右眼70、右耳60)なのだが、これが5000年前は右が90% ⇒ 200~250万年前は右が59% ⇒ サル・チンパンジーは右が50%だったらしい。言語野は脳の左側で、左脳の発達とともに利き目が右になった?(※利き手に関するGWAS:PCSK6)
http://www.himeji-du.ac.jp/faculty/dp_pharm/pharm/column/65_yamamoto.html
閑話休題。再び環境要因の話へ。
近視の環境要因
- 毛様体緊張:持続的近業・ストレス(中枢因子)⇒副交感神経亢進
- 眼軸の延長:網膜像のボケ・調節ラグ(局所因子)⇒網膜像ボケ(遠視性)
※COMETスタデイ:二重焦点眼鏡(+2.0D)使用すると、効果あったが弱い。(※調節ラグ大きい人には効果あったらしい。)
焦点ズレをどうやって認識しているのか?オートフォーカスカメラの場合
コントラスト検出方式(安いカメラ) VS 位相差検出方式(高級カメラ)
https://www.photosepia.co.jp/focussing_tech.html
⇒人の眼の場合は?
眼の調節機能
色収差仮説:赤(あまり屈折しない)と青(大きく屈折)、焦点距離が異なる。網膜面での赤の焦点エリアと青の焦点エリアが異なる?遠視性焦点ずれが異なる。副交感神経刺激に・・・?

2つの実験近視モデル
- 形態覚遮断近視モデル(白内障のような・・・):Form-deprived myopia (FDM)
- 屈折負荷モデル(凹レンズ、遠視性焦点ズレ):Lens-induced myopia (LIM)
(恐らく基本的には今後のモデルはLIM)
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2018/2/23/180223-1.pdf
⇒ 網膜内物質代謝に関与
照明の関与
暗黒で寝ると近視になりにくい。薄明かりだと近視になりやすい。明るい方が眼軸伸びる。
※明るい所で寝ている時、瞼閉じているが、ぼやけて見ている感じで、形態遮断モデルのように近視になる?
※戸外活動:近視になりにくい。明るい光を浴びているが・・・?
レンズ誘発近視と形態覚遮断の発生メカニズムは同じ?
- 形態覚遮断:全体的にぼやける。 ⇒網膜内遺伝子発現変化
- レンズ誘発近視:全体的ではないボケ ⇒網膜内タンパク発現量変化(Wu Y)
副交感神経切除
形態覚遮断は大きく影響うけるが、キャンセルされてしまう。レンズ誘発モデルは影響うけず近視化する。つまり、形態覚遮断近視(局所因子<中枢因子) vs レンズ誘発近視(局所因子>中枢因子)
※近視進行の実際は、レンズ誘発近視が問題になるので、局所因子にフォーカスを当てましょう。
光⇒杆体・錐体⇒on双極細胞と伝達されるが、これをノックアウトすると? 『杆体細胞は暗所において光を検知する感度が高く、錐体細胞は明所において光と色彩を識別し、人の視覚は主に錐体細胞が担っている。』で、杆体・錐体ダブルノックアウトで眼軸は更に延長するが、杆体のみノックアウトでは、眼軸は伸びない。錐体の存在が近視抑制に働いている?
錐体の種類:L赤錐体/ M緑錐体/S青錐体 (分布は、赤>緑>青)
一型色覚異常は、赤錐体(-)で眼軸短い(近視少ない)。二型色覚異常は、緑錐体(-)で眼軸は?(有意差なし)。Enhanced S-Cone Syndrome(錐体の90%が青という遺伝病)は、すべての患者が遠視(眼軸短い)。つまり、赤錐体がないか少ないと眼軸は伸びない?また、眼軸長制御モデルでは、青色⇒近視化抑制、赤色⇒近視化促進、白色⇒近視化抑制
※実験モデルで、白色光では光強いほど、近視抑制。青い光なら更に近視抑制。赤い光は逆に眼軸が伸びる。白色光では、『青錐体の活動性>赤錐体の活動性』
色収差の眼軸長調節機構仮説:色収差の為、赤(あまり屈折しない)と青(大きく屈折)、焦点距離が異なる。赤い成分がより後ろの方向へ。遠視性デフォーカスの場合、網膜面での赤の焦点エリアと青の焦点エリアが異なり、赤の照射エリアの方が広い。中心窩には、青錐体(-)。赤錐体が優位なシグナルとなる。これが眼軸延長シグナルに関わっているのでは?

アセチルコリン系 VS ドーパミン系
(赤・緑錐体) (青錐体)
形態覚遮断近視:アセチルコリン発現量増加していない(ムスカリン受容体発現量→)。ドーパミン系発現量は抑制(+)。モデルによっては、ムスカリン受容体発現量増加?
臨床の近視治療として、
1,ドーパミン系促進薬 2,アセチルコリン系抑制薬 3,青色光入射促す 4,赤色光遮断する。
⇒この中では可能なのは?ブロッカーは?ムスカリン受容体ノックアウトマウスの実験では、M1、M4 阻害がいい?実験ではかなりバラツキあり、ムスカリンの特異的なブロックは問題で、非特異的ブロックのアトロピンをすることが妥当。ATOMスタデイが非常に有効だった。COMETが14%なのに、こちらは60%近く抑制。ただし、リバウンド(+)。ATOM2スタデイ:0.01%アトロピンでも有効で、こちらはリバウンド少ない。現在日本でも治験中。
※勝手にしている人はご注意を・・・
バイオレットライト
紫外線カットコンタクトレンズを用いたスタデイ。部分的紫外線カットするコンタクトレンズ用いて・・
紫外線カット(+) 近視進行(眼軸伸びる) vs 紫外線カット(-) 近視抑制(眼軸伸びない)
⇒UV浴びた方がいい?(Violet Light Exposure Can Be a Preventive Strategy Against MyopiaProgression. Torii H, EBioMedicine. 2017 Feb;15:210-219. )
仮説
錐体細胞の活性変化 ⇒ コリン系・ドーパミン系神経伝達の綱引き ⇒ 網膜色素上皮・脈絡膜・強膜
※コラーゲン・線維芽細胞・脈絡膜血流・成長因子・・を介して。
後部ブドウ腫は何故?錐体細胞分布は、中心窩から20°付近まで。杆体細胞は中心窩近くに密度高い。周辺密度低下・・。錐体細胞関連の物質の変化が密度の高いところで。脈絡膜血流低下、眼軸長を伸ばすような物質が後極部に溜まって、ぶどう腫の発生・・・?