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第29回日本緑内障学会 その10 (1100)

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満開のコスモス寺


須田記念講演

New Development for theTreatment of Glaucoma 緑内障治療の新しい展開に向けて 谷原秀信 熊本大

ほぼ同年代の彼が、眼科臨床から退いて、この講演が最後となるらしい。畢生の講演?まだまだ地べたを這いずり回って、診療を継続しないと生きていけない自分としては、複雑な思いで拝聴しました。いつも彼の話は、難しい上に情報量が多いので、平凡な町医者には理解不能なのだが、須田記念講演なので、頑張って拝聴。

京大で本田先生と出会い、天理病理で永田先生と出会った事によって、その後の全てが決定されたようですが、臨床-基礎研究の融合によって、新しい緑内障治療の確立を目指されたようです。緑内障治療の概念としては、眼圧下降治療とそれ以外の神経保護・再生治療。(失明原因疾患:緑内障(眼圧)・糖尿病網膜症(虚血)・網膜色素変性症(遺伝子)全て網膜神経細胞死)について。

1,神経保護

神経保護・再生治療につながる基礎研究。神経細胞は、外的環境の影響下で特定の細胞運命へと分化誘導され、軸索を伸張し、機能的な神経回路を形成していく。その選択を決定する分子機構には、細胞接着分子(カドヘリン・・)や細胞外マトリクス(プロテオグリカン)がある。サルの緑内障モデルで、ストレス応答としてGFAP、神経栄養因子の発現上昇。またグリア細胞が神経保護作用をもつ。神経栄養因子が神経保護薬の候補に・・。多彩な生理活性物質が、神経保護薬の候補となったが、臨床応用は確立できず。

2,房水の主流出路(線維柱帯-シュレム管経路)の臨床研究。

天理病院において、恩師永田誠先生と出会い、トラベクロトミーにであった一人です。同じように、所謂永田門下生を数名存じ上げていますが、雑草のような私にとっては、羨ましい限りです。演者が永田先生に臨床医としての理想像をみたのでしょう。その後の『ロトミー vs レクトミー』論争にも巻き込まれ、ロトミーの限界と成人・小児での成績・同時手術の良好な成績を発表。MIGSが登場しているが、現在でも『安全で眼圧下降効果が限定的な流出路再建術vs大きな眼圧下降が得られるが重篤な副作用のリスクを伴う濾過手術』の問題は残存していると・・・

主流出路をターゲットにした創薬。京大の成宮教授が特異的阻害薬としてY-27632を発見・報告したことからスタート。Rho-ROCK シグナルは、細胞機能を制御し、シグナル伝達経路として多彩な生命現象に関与している。選択的 ROCK 阻害薬が有意な眼圧下降作用を有することを発見し、その奏功機序を解明。世界で初めての市販薬として ROCK 阻害薬点眼液の臨床応用に成功。主流出路に働いていることを証明。細胞骨格を修飾して、線維柱帯細胞の形態を変化させて流出抵抗を減らす。またシュレム管内皮細胞において細胞間結合にも働いている(修飾する)。巨大空胞も増加。

 世界初のROCK阻害薬点眼の市販薬を達成。この主流出路促進に働く薬剤はなかったので、他の緑内障点眼との組み合わせによる相加効果が期待できる。昼夜を問わず有効で、PG製剤・β遮断にadd-on効果あり。長期にわたって有効で、投与前眼圧高いほど効果大。

 ステロイド緑内障について。ロトミー有効ということは、ROCK阻害薬も有効なのでは?ステロイドによる眼圧上昇に、Rho-ROCKシグナルが関与している?シュレム管内皮膜抵抗増加。ROCK阻害薬でキャンセル可能。また逆に、この薬物が有効であれば、主経路に問題あり?

(開発に関わった人たちの思いれは熱いが、偶にこの点眼を使う程度の平凡な眼科医としては、非常に数ある緑内障点眼のひとつに過ぎないし、3番手か4番手ぐらいのポジション?)

3,濾過手術と創傷治癒の修飾

創傷治癒過程の解析。過剰な創傷治癒過程が成績を悪化させる。濾過手術の創傷治癒過程が特殊なのは、ここに房水が関与していること。レクトミー前でも後でも、白内障手術(現在の極小切開でも)すると成績が悪くなる。房水中のサイトカイン:MCP-1, IL-8, IL-6↑が原因。白内障手術後、房水中のMCP-1は術後1年経過しても上昇していて、この高いMCP-1が濾過手術成績を悪くしている。また白内障手術によって、水晶体上皮が房水と接触すると、上皮間葉転換して増殖し、そこからMCP-1が産生され続ける。これで濾過手術成績不良に。レクトミーのフラップから房水が漏出する幅の長さ(濾過裂隙:術後創傷治癒の程度の指標?)とMCP-1濃度が関連していると。結膜炎症細胞の4次元イメージイング処理してみると、MCP-1が関与。創薬のターゲットに。

難治緑内障において

1,血管新生緑内障:抗VEGFを併用するようになっても、まだ成績不良。元の虚血病変次第。十分鎮静化していないと☓。中長期の成績向上も☓。房水中VEGFを短期的には減少させうるが、濾過手術に影響するIL-6IL-8MCP-1は上昇したまま。

2,ぶどう膜炎続発緑内障(特に肉芽腫性で成績不良):ステロイド緑内障との関連があるが、これは手術成績良好。ここでも濾過手術の予後に影響するIL-6IL-8MCP-1は上昇している。(※網脈絡膜疾患による硝子体・房水組成の変化が濾過胞の過剰な創傷治癒に関わることが問題。)

3,家族性アミロイドニューロパチ-(FAP。熊本に多い。眼アミロイド血管症、アミロイド緑内障。レクトミーが半年ぐらいは効くが、ブレブ内に網膜色素上皮由来のアミロイド沈着して、ブレブが消失・・・。網膜色素上皮にPRPを行うことで、アミロイド産生抑制。まだ不十分だが・・

新しい濾過手術、innFocusMicroShunt。レクトミー同等成績?動物実験でMCP-1の値は?大きく変化しない?また、創傷治癒制御する薬物の開発。ROCK阻害薬・エピゲノム修飾薬・MCP-1阻害薬・・

※エピゲノム修飾薬:線維芽細胞・血管内皮・・・・に作用して、濾過手術モデルで手術成績改善。エピゲノム修飾薬?もともとは、副作用の少ない抗がん剤開発の一環?がん細胞を直接叩くのではなく、エピゲノムを修飾して、がん細胞の増殖を抑制する薬剤。そのひとつがDMMTDNAメチル基転移酵素)で、骨髄異形成症候群に適応がるらしいが、これでヒトの線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を抑制。

http://crest-ihec.jp/public/epigenome_medicine.html

 

新しい緑内障治療の確立にあたって、「臨床医の視点で基礎研究を行い、基礎研究者の視点で診療を行う」ことが、今後も有効な研究戦略であり続けると確信していることを最後に強調しておきたい。 


by takeuchi-ganka | 2018-10-22 19:22 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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