眼科スタッフ教育講座 近視進行のメカニズムと近視進行抑制治療 その2 (1115)
2019年 01月 20日

ここからが近視予防の話。その昔夢物語のように思っていた近視進行抑制が徐々に現実味を帯びてきました。
光学的予防法による近視進行抑制の手段
1,調節ラグの減弱 2,軸外収差の補正
① 近視抑制レンズ(累進屈折眼鏡PALs)(調節ラグ減弱を狙って)
SVLs vs PALs(add +1.0D,+1.5D)のスタデイでは、あまり差がでなかった(僅かな差のみ)(※Gwiazdaら15%)
② 軸外収差理論に基づく眼鏡として、ツアイスのMyoVisonによるスタデイ(中国)。全体としては有意差僅か(20%抑制?)。サブグループで、両親が近視+6-12歳に絞ると有効。日本では、阪大・筑波大でMyoVisonⅢを用いたスタデイ(二重盲検)を行い、207人エントリーしたが、有意差(-)。日本では無効と判断。
③ 二重焦点コンタクトレンズ(中心が遠用・周辺部が近用)による近視抑制:眼鏡と比べても有効だった(Sankarigurgら34%、Fujikadoら47%)。
④ オルソケラトロジー:そもそも適応が、近視度数-4.0D以下、乱視1.5D以下で、年齢制限もあるはずだが・・・。実態は乖離?周辺で遠視性デフォーカスにならない。平岡ら(筑波)は、1年で50%抑制。徐々に減弱するものの、5年でも29%。
※コンタクトレンズやオルソケラトロジーでは、眼鏡に比べて、眼球運動による影響がない。軸外収差補正効果が常に安定してある。
薬物治療
1)アトロピン点眼:ムスカリン受容体M1-antagonist/ムスカリン受容体M3-antagonist
※ベラドンナアルカロイド:ベラドンナ、ロート、マンダラ、ヒヨスなどのナス科に属する植物から得られるアルカロイド(含窒素化合物に属する塩基性の植物成分)。ベラドンナは、イタリア語で美しい女性。散瞳した女性は美しい?
※ムスカリン受容体でアセチルコチンの競合的阻害、調節麻痺・散瞳・心拍数増加・・
2)ピレンゼピン点眼:ムスカリン受容体M1-antagonist (しみて使いにくい)
①ATOM-1スタデイ(シンガポール)
400人の6-12歳の子供。片眼に1%アトロピン点眼2年。コントロールは、-1.2D近視化するが、アトロピン点眼効果は絶大で、点眼群の眼軸延長(-)。ただ、副作用大(散瞳・眩しい・調節麻痺・・・・)。しかも、中止後のリバウンドが大きい(急激な近視化)。副作用とリバウンドが大問題。
②ATOM-2スタデイ
アトロピン濃度を0.5、0.1、0.01%と3段階に。実は0.01%はコントロールの予定だったが、これでもかなり近視抑制効果があり、リバウンドも少ない事がわかり、0.01%が脚光を浴びることに。ただ、残念ながらコントロールがない。
③ATOM―J
6-12歳の-1~-6Dの近視で、0.01%アトロピンの二重盲検。試験は終了して現在データ解析中。(噂ではあまり有効でない??)
※何故アトロピンが効くのか?ムスカリン受容体を介して、調節麻痺・眼軸延長抑制。或いはドーパミンに影響?、強膜に直接作用?、網脈絡膜循環増加することが・・・・・・など、まだまだ未知の世界。
The Synergistic Effects ofOrthokeratology and Atropine in Slowing the Progression of Myopia. Wan L, J Clin Med.2018 Sep 7;7(9).
アトロピンとオルソケラトロジーを併用すれば更にいいという報告もあり?
現時点でのエビデンスベースでの最善の近視進行抑制治療とは
① 薬物治療:0,01%アトロピン点眼(まだ使えないが・・)
② 光学的治療:オルソケラトロジー(-4.0D以下) または 多焦点SCL(-4.0D以上)
③ 1日2時間以上の屋外活動
この3つの組み合わせがベスト。
現在低濃度アトロピンを使用している人がいるけど、臨床研究法(平成30年4月1日施行)に触れる。1%アトロピンはいいけど、0.01%は未承認薬になる。未承認・適応外使用するなら、特定臨床研究となり高いハードル。勝手にすると罰則あり(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金)。
まとめ
1, 世界的には爆発的に増加していて、強度近視による失明者を防ぐ必要性がある。その為にも近視進行抑制治療が必要。
2, 近視感受性遺伝子の存在
3, 屋外活動の近視進行抑制
4, 遠視性デフォーカス(調節ラグと軸外収差)
5, 多焦点眼鏡よりは、オルソケラトロジーか多焦点SCLが有効
6, 低濃度アトロピン(承認されるといいのだが・・・)