第428回大阪眼科集談会 その4 (1123)
2019年 02月 18日

特別講演
視路疾患診療最前線 中村誠 神戸大
GON・ION・MS・圧迫・鼻性・遺伝・中毒・外傷・・など様々なものがあるが、今回の講演は視神経炎・圧迫性・鼻性視神経炎。これらは治療可能なもの。
症例1 80歳女性。IOL眼で、左視力1.2から手動弁にまで急に低下してきた。高度の視野狭窄だが、眼底・OCT異常ない。異常は網膜より後方にあり?ここで重要なのが問診:鼻の病気は?副鼻腔炎の既往あり。鼻性では・・・。診断はCTで十分。治療:耳鼻科で手術。アスペルギルスが見つかり、ブイフェンド投与して視力視野回復。以前は生命予後の悪い疾患だったが・・。※しっかりアスペルギルスの治療が行えたら、視力回復の為にステロイド投与可能。
症例2 65歳男性。副鼻腔嚢胞があり手術してステロイドパルスしたが、あまり改善しないケース。視力低下して数ヶ月放置して、指数弁に落ちてからだったので、あまり回復しなかった。
※鼻性は早期なら治る。物理的波及・炎症の波及・血管炎・・が原因。視神経炎疑って、安易なステロイド投与は危険。問診が重要。
症例3 73歳女性 両眼霧視 最初1.0あったが徐々に低下して、初診時(0.03)/(0.01)。副鼻腔炎の既往あり。両眼とも眼球運動障害(+)。病変は眼窩尖端だろう。CTで異常陰影あり。副鼻腔嚢胞とは異なる。採血して、WBC↑血沈・CRP↑ANCA↑⇒ANCA関連血管炎(GPA、Wegener肉芽腫症を考慮)。治療はステロイド(パルス)・免疫抑制剤(メトトレキセート)で、視力・眼球運動ともに改善。
昔は、こんな分類見たことなかったけど、最近時々目にする。昔の疾患名は、病名から病状を類推しやすいけど、何とも無機質な病名なこと。
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Arthritis Rheum. 2013Jan;65(1):1-11.
2012 revisedInternational Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides. から
原発性血管炎
1)大血管炎(LargeVessel Vasculitis: LVV)
- 高安動脈炎 Takayasu Arteritis: TKA
- 巨細胞性動脈炎 Giant CellArteritis: GCA
- 結節性多発動脈炎Polyarteritis Nodosa: PAN
- 川崎病Kawasaki Disease: KD
3)小血管炎(SmallVessel Vasculitis: SVV)
3-1:ANCA関連血管炎(ANCA Associated Vasculitis: AAV)
MPO(myeloperoxidase)-ANCAやPR3(proteinase 3)-ANCAと関連した壊死性血管炎。免疫複合体の沈着は殆どない。ANCA関連血管炎は、ANCA(anti-neutrophilcytoplasmic antibody、抗好中球細胞質抗体)と関連した毛細血管や細動静脈などの小血管の壊死性血管炎である。4週間以上持続する中小血管炎性疾患で、特徴的組織所見かANCA陽性で診断。ANCAには核周囲が染まるp-ANCA(perinuclear-ANCA)と、細胞質が染まるc-ANCA(cytoplasmic-ANCA)がある。p-ANCAの代表的な抗原はMPO(myeloperoxidase)、c-ANCAの代表的な抗原はPR3(proteinase3)である。(覚えられそうにないなあ・・)
- 顕微鏡的多発血管炎MicroscopicPolyangitis: MPA(日本で多い。腎疾患がメイン)
- 多発血管炎性肉芽腫症(旧Wegener肉芽腫症) Granulomatosis withPolyangitis: GPA(眼科に最も関わりが大きい疾患。欧米で多い。アジア人は、MPO-ANCA多く、眼窩病変多い・・)
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧Churg-Strauss症候群)Eosinophilic Granulomatosiswith Polyangitis: EGPA
3-2:免疫複合体性小血管炎(Immune Complex Small Vessel Vasculitis)
- 抗GBM抗体関連疾患Anti-GBM Disease
- クリオグロブリン血管炎Cryoglobulinemic Vasculitis: CV
- IgA血管炎(旧Henoch-Schonlein紫斑病)IgA Vasculitis: IgAV
- 低補体蕁麻疹様血管炎(抗C1q血管炎)Hypocomplementemic UrticarialVasculitis: HUV(anti-C1q Vasculitis)
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症例4 57歳女性 前医でNTG。視力0.7から0.1へ低下。そのご指数弁に・・・。眼底は乳頭陥凹やや大きい程度、OCT異常なし。視野:悪い方の左眼は、深い中心暗点、視力の良い右眼に上1/4(耳側)に感度低下⇒接合部暗点。(視交叉の手前の部分で障害されると、反対側から来ているWilbrand’s Knee部分が障害を受けている)。視交叉手前の病変の筈。MRIで巨大な内頚動脈瘤で、圧迫性視神経症。(IC-PC動脈瘤の動眼神経麻痺が有名だが、これも覚えておきましょう)
※接合部暗点について考慮すべきポイント⇒ 「交叉線維>非交叉線維」で、また上と下で走行が異なる⇒Wilbrand’s Knee(鼻下方の線維がまっすぐ走らず、視交叉でクロスして反対側の視索へ行く前に、反対側の視神経へ少し回りこんでから視索へ向かっている?)
http://www.neurology.org/content/82/5/459.full.pdf
http://www.neurology.org/content/82/5/459.long
2種類の接合部暗点
1. 接合部の少し手前の限局性障害:鼻側線維だけ障害されて、片側性中心部耳側半盲
2. もう少し奥の視交叉に近い部分だと、反対側から来ているWilbrand’s Knee部分が障害されるので、同側の中心暗点と反対側の上耳側1/4の障害)
視神経脊髄炎 neuromyelitisoptica(NMO)
症例5 10歳女性 AQP4陽性視神経炎。頑固なシャックリに引き続いて、左眼視力低下。延髄しゃっくり中枢。ここも標的にされるので、ともに障害される。シェーグレン症候群も。視力は手動弁まで低下し、ステロイドパルス3回、IVIG、血漿交換も行ったが・・・0.1程度。視神経蒼白。難治・予後不良疾患。
※アクアポリン4は細胞膜に存在する水チャンネルで、中枢神経のアストロサイトに多い。

GFAP:アストロサイトのマーカー。アストロサイトは網膜から視神経まで存在するが、AQP4はなぜか視神経乳頭には存在していない。球後の視神経のアストロサイトには、AQP4沢山あり。①AQP4抗体が何らかの病態で②破綻したBRBを通過してAQP4と結合して③補体活性化・・・・視神経障害。多発性硬化症は脱髄なので回復するが、AQP4陽性視神経炎(視神経脊髄炎)は神経の中から障害されるので重篤。
AQP4陽性視神経炎(視神経脊髄炎)

話が変わり、演者が留学中のテーマ。糖尿病網膜症。
発症前から機能は落ちていることは理解されていて、ERGでb波が落ちていることはわかっていたが、網膜の厚みも?最近は、DM患者のNFLが菲薄化している(糖尿病網膜症がなくても)。糖尿病網膜症モデルマウスの網膜伸展標本を見ると、軸索を染めてみると、細くなっている。それだけじゃなく、ラミニンが明らかに減少している(細胞外マトリックス)。NFLの菲薄化は、神経線維だけじゃなく、細胞外マトリックスの菲薄化も同時に生じている?現時点のOCTでは神経要素と非神経要素を区別することはできない・・・という課題がある。
治療:
1) ステロイドパルスが無効なら、血液浄化療法(①血漿交換療法(PE)、②二重膜濾過法(DFPP)、③免疫吸着法(PA))を行う。腎臓内科と連携して行う必要があって大変。すぐに反応して視力改善するが、また時間が経てば再発することもある。PE・DFPPはPAより有効だが負担大きい。
2) 免疫グロブリン大量静注(IVIG)療法:血漿交換は全身的な負担が大きいので、効率よく抗AQP4抗体を下げる方法として。眼科医としては、この方がやりやすい・・
実験:ラット視神経に患者の血清を暴露。視神経鞘を露出して、直接患者血清を暴露。AQP4抗体陽性の血清を暴露した場合は、神経節細胞・神経線維は強く障害されている。この時に免疫グロブリンを静注しておくと、神経障害を改善した。何故有効なのか?まだ不明?マクロファージ活性化抑制・T細胞B細胞局所の作用を抑制しているから・・・?IVIGの治験の結果が待たれる。