揺さぶられっ子症候群 (1140)

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ゴールデンウィークだから?何故か天穏揃い踏み・・
この出雲の酒は、全てとてもハイレベルです。
決して呑みながら勉強した訳ではありません^^;


何故かわからないけど、ちょっとした相談がきっかけで『揺さぶられっ子症候群』について勉強することになった。あまり経験したこともないのだが・・・^^; まずは、東先生の小児眼科学を読みながら・・・

この『揺さぶられっ子症候群』は、小児虐待のひとつ。小児虐待の定義は、『親や保護者や世話する人により引き起こされた、子どもの健康に有害なあらゆる状態』らしい。医者がそれを見逃すと重症・死亡につながる為、適切な対応が求められる。ただ、眼外傷だけってことはないこともあり、当院のような小さな眼科クリニックに患者さんがやってくることは極めて稀。

児童虐待の分類 

①身体的虐待 

②性的虐待 

③ネグレクト 

④心理的虐待 (①が最も多い)。

ここでは、この身体的虐待の中の非直達外傷について勉強してみます。この非直達外傷(虐待性頭部外傷:abusive head trauma : AHT)の一つの病型が揺さぶられっ子症候群(shakenbaby syndrome : SBS)。つまりAHTの方がSBSを含む少し大きな概念。激しく揺さぶることによる加減速が未熟で髄鞘が不完全な子供の脳神経・網膜・視神経に重篤なダメージを与えるようです。特徴的な所見は、85%に認められるという網膜出血。当然骨折(約13%)を伴う事も多い。この特徴的網膜出血とは、後極部から周辺部まで、斑状・点状のものが無数にあり、出血部位も表層から深層まで多岐にわたる(多層・多発性網膜出血)。出血性網膜分離は特徴的所見とされている(AHT/SBSの約1/3に見られる)。

鑑別診断

①新生児網膜出血(硝子体出血):産道で圧迫されて起こるもので、1-3週間で消える。

Purtscher’s traumatic retinopathy:胸腔内圧上昇で生じるが・・・

③テルソン症候群:クモ膜下出血による急激な頭蓋内圧上昇が原因の網膜硝子体出血。

論文を読んでみた。

Ocular Manifestations andPrognosis of Shaken Baby Syndrome in Two Japanese Children’s Hospitals Jpn JOphthalmol 2009;53:384–388

抄録:目的:日本におけるSBSの患者の状態と眼科所見を見分けて、その予後を明らかにする。方法KCMC(神奈川県立こども医療センター)とNCCHD(国立成育医療研究センター)において、網膜出血を含む児童虐待のカルテが19971月から200711月まで調査。平均経過観察期間は22.2ヶ月(0115ヶ月)。結果:少年21例、少女11例の計32例。初診時の平均年齢7.0ヶ月(4日~17ヶ月)。4人の少年が入院中死亡。硝子体出血1917眼(31%)。816眼(25%)は合併症もなく良好な経過。8例(25%)が未熟児で、母親平均年齢29.9歳で、1959%で母親が加害者だった。結論:臨床像はほぼ西欧の文献と同じだが、日本だけの特徴としては、母親が加害者であることが多く、虐待する親の年齢がアメリカより高い(日本の晩婚傾向を反映?)。

Introduction

身体的虐待はネグレクトによって、先進国において年間3500人(15歳以下)の死者が出ている。同様の報告があり、ドイツやイギリスでは、毎週2人が、フランスでは3人、日本では4人、アメリカでは27人の子供が亡くなっている。

SBSは、3歳以下の乳幼児で特に多い小児虐待の一つのタイプ。1974年に、Craftyが、硬膜下出血、頭蓋内出血、多発骨折を伴う虐待児の報告を行った。それ以降、非常に多くの症例報告、予後の研究、病理組織学的研究などが行われ、西洋、とりわけ米国においてSBSの理解に貢献した。アジア各国は小児虐待を重大な社会問題として認識していたが、日本ではSBSの症例報告は僅かで、我々の知る限り、アジアにおいてSBSの眼科の問題についての報告はない。日本におけるSBSの予後と眼科的所見を明らかにするために、NCCHDKCMCにおいて関連したカルテをレトロスペクティブに調査した。

Patients and Methods

19971月から20074月までにKCMC1420033月から200711月までにNCCHD18SBSSBSと診断された。病歴・眼科的所見を含む臨床所見、脳のCTMRIなどに基づいて小児虐待やネグレクトが疑われた。最近の研究では、以下の診断基準が採用されている。びまん性脳浮腫あるいは硬膜下出血の脳内所見に伴って両眼もしくは片眼網膜出血があり、自動車事故で生じるような故意でない並外れた鈍的外力がない。

 以下の変数が調査された。性・初診時年齢・親の年齢・加害者の性・未熟児の既往・骨折(long bone)の存在、細隙灯顕微鏡、散瞳しての眼底検査、Bモード、眼底カラー写真などの眼科所見、初診時のX線検査所見、最後の検査における眼科的・神経学的状況。5人は初診のみ(うち4人は死亡)、6人は3ヶ月のみのフォロー(転院などで)。平均経過観察期間は残りの21例では27.6ヶ月(11115ヶ月)。

Results

テーブル1は、初診時の人口統計学的所見と眼所見そして予後。男児21人、女児11人(平均7ヶ月、生後4日から17ヶ月)。母親の平均年齢は29,9歳(2140歳)。父親の平均年齢32.2歳(2337歳)。環境から推定されたものと確定したものを含めて、加害者は母親(子供19人、59%)、父親(子供7人、22%)、両親(子供4人、13%)。加害者がベビーシッターが1例、里親が1例。全ての家族が所謂核家族。32の子供の中で、8名(25%)が未熟児として生まれ、4名(12.5%)が眼外あるいは全身の複雑な既往歴あり。

 32名の中で、22名は、両眼網膜出血10名は片眼網膜出血、部位はテーブル2に。様々な形の出血が見られた。点状・斑状・火炎状・網膜前(図1、ケース4)。出血はしばしば無数にあり、後極部から鋸状縁にまで及んでいた(図2、ケース2)。硝子体出血10名(31.3%)中17眼、3眼が片眼のみで、14眼が両眼に。24 眼は重症の網膜硝子体出血だが、裂孔・detachmentがなく、硝子体手術が行われず、その後極網膜は瘢痕化した。しかし、3名(9.3%5眼に見られた後極部の網膜前出血は速やかに吸収され、眼科的予後良好だった。1眼で乳頭浮腫あり。

RRD23眼にあり。1例(ケース14)で、両眼の後極部から周辺部まで無数の裂孔・円孔があり、頭蓋骨骨折を伴っていた。別の症例(ケース29)では、oraに耳側2象限近い巨大裂孔があった。この3眼は2回以上の硝子体手術が必要だった。しかし、術後網膜剥離が生じたのは、最初の患者の1眼のみ。他の2眼では、両眼とも急速にPVRとなり、網膜は復位しなかった。

 急性硬膜下出血24例(75%)に見られ、慢性硬膜下出血9例(28.1%)、頭蓋骨骨折4例(12.5%)、脳浮腫2例(6.3%)、脳挫傷2例(6.3%)、脳損傷2例(6.3%)、脳症1例(3.1%)。長管骨骨折が2例(6.3%)。頭蓋骨骨折・脳損傷のどちらかあるいは両方という重症の頭部外傷のある10例のうち、6例(60%)で硝子体出血、3例(30%)で乳頭出血、7例(70%)で網膜出血。他の重症頭部外傷のない22例においては、硝子体出血は4例(18%)、乳頭出血は2例(9%)、網膜出血は8例(36%)。硝子体出血は、明らかに重症頭部外傷と関連していた。

21例を3ヶ月以上フォローした。硝子体・網膜前出血の後、24眼で後極部網膜の瘢痕化の為、追視ができなくなり、48眼は追視可能に。RRDになった23眼では、22眼で光覚をなくし、1眼で光覚(+)。ケース15の両眼で、網膜出血吸収後、明らかな網膜病変がないのに追視を失った。恐らく、中枢神経の重大が合併症の結果。1323眼では網膜出血のみで、全て追視可能になった。6例の乳幼児が少なくとも2歳mで行きた。最後の検査時点で、5歳で24眼の両眼視力が1.0で、12眼が3歳で0.3だった。

 4例で斜視が確認された。13例の神経学的結果は、てんかん2例、脳萎縮4例、精神発達遅滞7例だった。

Discussion

SBSの主な眼科所見は、網膜出血・乳頭浮腫・硝子体出血RRDだった。前者2つの眼科的予後は良好だったが、後者2つの予後は不良だった。軽度の網膜出血は速やかに吸収され、重度の網膜出血は乳頭浮腫(ケース8)は、吸収に数週間かかった。重症の広範囲の網膜・硝子体出血(ケース2・13・22)では、吸収に4-5ヶ月かかり、網膜瘢痕のような重大な後遺症を残した。

 McCabeDonahueは、硝子体出血は患者の10%と報告し、Kivlinらは、23.1%と報告した。今回のスタデイでは、1032%だった。硝子体出血の存在は、より重大な外傷を示しているので、これらの患者におけるSBSは、以前の報告より比較的重症なのかもしれない。

 網膜剥離のあった23眼では、両眼網膜に多発裂孔があり複雑な頭蓋骨骨折を伴っていた。両眼にある裂孔は、暴力的なゆさぶりと鈍的頭部外傷の両方が加えられていた。10%以下に見られる乳頭浮腫は今回はたった1眼だけ。McCabeDonahueは、SBS70%に硬膜下出血があり、27%に頭蓋骨骨折と報告した。一般的に、SBSの子供の頭蓋骨骨折の頻度は、30から70%とされている。今回、硬膜下出血は90.6%で、頭蓋骨骨折は12.5%だった。述べてきたように、我々の患者は、より重症外傷を示唆する硝子体出血が高頻度だった。にもかかわらず、予想に反して、鈍的な外力による頭蓋骨骨折のような外傷は多くなかった。

今回の死亡率は13%。Fischer and Allasioは、16%と報告し、Duhaimeらは、14%、Kivlinらは29%と報告した。今回の死亡率は過去の報告より少し低いものの、有意差なし。

SBS共通のリスクファクターは、男性・1歳以下、そして未熟児或いは低い生下時体重である。今回のスタデイでは、死亡した4例は全例男児で、32例の中で、男児は65.6%だった。平均年齢は7.0ヶ月。以前の報告や研究では、SBSの乳児の初診時年齢は1歳以下だった。SBSベイビーは、効果的な言葉のコミュニケーションスキルに掛けているらしく、ひっきりなしに泣く傾向にある。SBSベイビーの小さな体重は、比較的大きな加速力で重大な外傷を受けやすい状態にさせている。更に、乳児の頭蓋骨は固くなくて、外力により、簡単に変形する。

アメリカでは、未熟児として生まれると小児虐待のリスクも高くなる。DiScalaらは、故意でない外傷を乳幼児16831名を報告し、0.3%が未熟児で、一方SBSを含むABT1997名のうち、未熟児は2.2%だった。SBS患者の中の未熟児の正確な割合は不明だが・・。Kivlinらは、虐待児はあきらかな精神発達遅滞があると報告した。未熟児の比率は米国10.7%と日本9.1%と実質同じ。しかし、NCCHDでの177例の小児虐待では興味深い比率で、未熟児の比率は3419.2%で、Kivlinらの報告した比率より遥かに高かった。今回のスタデイでは、SBSベイビーの25%が未熟児だった。米国で同じような調査があったなら、この状態は比較的高いと推論する。サンプルは、東京大都市に住む人達に限定されていて、調査は、2つの小児専門病院においてのみ行われたので、今回のスタデイのデータは、サンプリングの偏りの影響を受けている。

 父親や母親のボーイフレンドが外傷の6070%に責任がある米国での比率が6.5%なのと対象的に、今回のスタデイで、母親が加害者として多かった(53%。他の日本のデータでも、SBS以外の虐待を含む小児虐待の41%は母親が加害者で、父は10%。今回、親の平均年齢は、米国が18歳なのと対象的に、30代と高かった。日本のデータは、一般人口における第一子の出産年齢28.6歳に比べて、小児虐待における平均の母親の年齢は35.19歳(出産児)と高い。第二子(30.7%)と比べても高い。現在のサンプルサイズでは決定的な結論を導くのを制限するけれど、日本において虐待の多くの典型例は、比較的高齢だが未産婦の母が子供を叱る時に起こっている。今秋の調査は、日本におけるSBSの患者が西洋諸国と比較できることを示している。同時に、母親が加害者として高率、虐待する親の年齢が高いなど、日本のSBSがちょっと変わった状況は、日本社会の最近の傾向を反映しているのかも。小児虐待の早期発見の為に、眼科的検査は虐待が疑われるすべての乳幼児に行われることが推奨される。これにより虐待児の予後の改善につながる。日本におけるSBSの長期予後はまだ不明である。SBSの臨床像の国レベルでの調査が日本におけるSBS予防を実行するために行われるべき。

ダラダラ訳してたので、長くなったが、眼科的所見としては、網膜出血・乳頭浮腫・硝子体出血と網膜剥離。網膜出血は、部位は後極部から周辺部まで、タイプも点状・斑状、火炎状・網膜前など様々なものが無数に見られる。乳幼児のしっかりした硝子体の存在下で、硝子体出血や網膜剥離が生じるのは、いったいどれほどの外力が加われば起きるのだろうか。硝子体出血があるような強い力が作用したと思われるケースでは、急性硬膜下出血・慢性硬膜下出血・頭蓋骨骨折・脳浮腫・脳挫傷・脳損傷・脳症・・などの合併症が多い。日本では、加害者が母親であることが多く、ちょっと意外だが、その母親の出産年齢もかなり高い。眼科医が積極的に検査をすることで、特徴的な所見を見つけることができれば、虐待児の予後改善に役立つ。

※エキサイトブログの投稿が不安定なので、今後ブログの掲載先を変更するかもしれません。

当面の間、もうひとつのサイトへ二重投稿します。

http://shirokitakoen.blogspot.jp/


by takeuchi-ganka | 2019-05-05 15:07 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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