第430回 大阪眼科集談会 その2 (1150)
2019年 06月 09日

特別講演
角膜移植と虹彩の深い関係 山口剛史 東亰歯科大市川総合病院
2002年慶応卒
- 角膜移植の最適化と視機能の改善 ※角膜の光学機能解析
- 角膜移植後の長期予後の改善
今日のテーマは2。
前房環境の研究。
きっかけとなった症例は、31歳男性で、アトピー性皮膚炎。右眼失明していて、左眼水疱性角膜症。DSAEKを2回、全層移植を4回行ったが、何度手術してもうまくいかない(graft failure)。拒絶反応はないのに、内皮が減少して、混濁する。何故?移植失敗の原因は、①内皮減少(自然減少) ②拒絶反応 ③感染症・打撲。①が最も重要なファクター。内皮減少で、5年で30%がfailure。何故減少する?急激に減少する症例の原因は?虹彩のダメージと関連?虹彩損傷スコア(0-4点)を作って検討してみると、内皮減少との間に明らかな関連が見られた。内皮移植も全層移植も虹彩損傷スコアと関連明らか。角膜内皮の慢性減少は、正常眼では徐々に減少(0.5%/年)、白内障術後で2.5%/年、角膜移植後は2.7~9.4%/年。
ICE症候群、Irido-Schisisでも内皮減少。外傷性無虹彩で水疱性角膜症になった症例。円錐角膜に有水晶体IOL(トーリック)を入れられた症例で内皮減少(年間100ずつ)。虹彩クリップが問題?
⇒前房内環境が内皮減少の原因では?様々なサイトカインが出て(原疾患でパターンが異なるだろうが)、それ原因?内眼手術、レクトミー、レーザー虹彩切開術・・ではどう?前房内サイトカインレベル上昇と内皮減少と関連ありそう。虹彩損傷と前房内サイトカインレベル上昇も関連あり。昔から虹彩上皮は炎症を抑えると言われていた。内眼手術やレーザー虹彩切開術が虹彩損傷をすると前房内サイトカインが上昇して、内皮細胞が減少して、水疱性角膜症になる。内皮移植しても全層移植しても、その原因を止めないと内皮減少は止まらない。
角膜移植前・術後の前房水のサイトカインの変化を調べた。IL-10, MCP-1, IFNγなどが上昇すると内皮減少。サイトカイン同士もネットワークあり。術前サイトカイン低いと内皮減少しない、術前サイトカイン高いと減少しやすい。また、primary graft failureとなっていた症例は、 Il-6,MCP-1, IFNγが非常に高かった。内皮維持には、良い環境の前房が必要。水疱性角膜症とは、病的虹彩・前房水による角膜内皮変性疾患だと。レーザー虹彩切開術・内眼手術で、BRB破綻、サイトカイン上昇、内皮減少、バリア破綻、サイトカインが実質に入り、角膜浮腫、角膜神経も損傷。さらに上皮バリアも破綻すると眼表面のサイトカインも前房内へ。水疱性角膜症では、涙液と房水サイトカインが相関あり。
※去年聴いたレーザー虹彩切開術後の内皮減少に関する講演⇒(https://takeganka.exblog.jp/30189822/)ちょっと関連ありそう・・
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29051590
- https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2625917
角膜内皮移植術について
- NS-endo inserter(阪大相馬先生の発明)。これにより内皮に優しい手術が可能に。今はこればかり使っていると。※45000円するが価値ありだと。
- 瞳孔形成重要(Stiles Crawford効果の影響で見え方向上)
- DMEKはうまく行けば、侵襲も少なく、視力良好。
- 角膜内皮注入療法(内皮を培養して前房内へ入れるだけ?小泉範子)
水疱性角膜症の内皮細胞はミトコンドリア空胞化。そもそもミトコンドリアに問題?進行性外眼筋麻痺、レーベル遺伝性視神経症、フックス角膜ジストロフィー・・・などとはミトコンドリアが異なる。パーキンソンやミトコンドリア心筋症などでも特有の障害。糖尿病網膜症では近い変化?水疱性角膜症の遺伝子発現は?次世代シーケンサーで調べる。サイトカインレセプター上昇している。サイトカインに反応しやすい内皮になっている?ミトコンドリア関連遺伝子も変化。前房内環境は?水疱性角膜症では補体上昇(正常眼では低い)。虹彩萎縮モデルマウスでは、前房内蛋白上昇、内皮減少、ミトコンドリア障害(ヒトと同じような障害)。若いマウスと高齢マウスの内皮交換。前房水環境が内皮影響していた・・・・
質疑:
- 虹彩からサイトカインの放出を抑える・・・・・うまい方法はないらしい。術前のステロイド点眼でも無効だった。虹彩に優しい手術が一番。
- ※虹彩上皮は消炎効果あるので、瞳孔形成や根部修復も影響あり?
- ※バルベルト(後房法):前房内サイトカイン上昇?内皮減少?
- ※どのサイトカインが一番問題なのかは、まだ不明。