2019年 06月 17日
顔面神経麻痺について (1151)

顔面神経麻痺
顔面神経の4つの枝の内、側頭枝の麻痺で眉毛・上眼瞼の下垂が生じ、頬骨枝の麻痺による眼輪筋の麻痺で兎眼、下眼瞼外反が生じるので、この疾患で最初に眼科を受診される方も多いのですが、顔面神経麻痺は、眼科で根本的な治療を行うことはなくて、疑われる患者さんが来られたら、診断確定・根治治療の為に耳鼻科(時に内科)へ紹介しています。眼科では兎眼、つまり完全には閉瞼できない状態が続くと、角膜上皮障害を引き起こすので、点眼・軟膏を処方して、角膜上皮障害改善に努めるだけです。そんなスタンスが長らく続いたこともあり、この疾患についての勉強が若干疎かになっていたので、軽く勉強してみました。ちょっと古いけど、2008年の日本神経治療学会の治療指針を参考に。
特殊ケースで(?)(眼科では)あまり遭遇しない外傷と先天性を除いても、顔面神経麻痺は末梢性と中枢性に分かれる。末梢性はベル麻痺と呼ばれるもので、我々もしばしば経験する。中枢性との鑑別は、教科書には、『中枢性顔面神経麻痺では、下部の顔面神経麻痺のみを来し、上部の顔面筋は機能を保持できる(額のしわ寄せができる)ことで鑑別できる』と記載あり。顔面神経核は、上部と下部で神経支配が異なっていて、上部は両側支配だが、下部は反対側のみの支配。したがって、例えば右側の脳梗塞で左側の顔面神経麻痺が下部に起こっても、上部は左側からの神経支配が残っているので、麻痺にならず、『額のしわ寄せができる』ことになる。つまり『額のしわ寄せができなない⇒ベル麻痺』と覚えましょう。中枢性の原因は、脳血管障害や脳腫瘍などとされているだが、おそらく殆どは脳血管障害かな。
さて、問題の末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)について
顔面神経には4つの枝があり、それぞれの麻痺の症状は
- 側頭枝⇒眉毛・上眼瞼の下垂
- 頬骨枝⇒眼輪筋の麻痺で兎眼、下眼瞼外反
- 頬筋枝⇒口角や上口唇が上がらない。鼻唇溝が消える。食べ物・水がこぼれる・・
- 下顎縁枝⇒口角や下口唇が下がらない。下口唇が反対側へ引っ張られる。
こんな感じで、眼科医がまず気づくのは、頬骨枝の麻痺の症状でしょう。麻痺に伴うその他の症状としては、アブミ骨筋麻痺のため、麻痺側の聴覚が過敏に。
また、広義の顔面神経には狭義の顔面神経(運動神経)の他に、中間神経と呼ばれる唾液腺・涙腺を支配する神経と味覚を伝える神経が含まれていて、中間神経麻痺の為、麻痺側の唾液腺・涙腺の分泌低下、下前2/3の味覚障害も生じる。

このベル麻痺の原因ですが、何となく原因不明で、ステロイドで改善することがある・・・ぐらいの薄い印象しかなかったのですが、上記の治療指針によると、発症早期の神経組織や唾液からHSV-1のDNAが証明されていて、ベル麻痺の多くはHSV-1の再活性化が原因のようです。今日の臨床サポートには、『顔面神経系の膝神経節に潜伏感染したヘルペスウイルスによる再活性化によって生じる。ウイルス性神経炎による神経浮腫と骨性顔面神経管内における神経の圧迫、循環不全により顔面神経の麻痺が起きる状態である。』と明瞭に記載されています。一般的な帯状疱疹と同じようなメカニズムのようで、だとすると問題は再活性化の原因が諸悪の根源?この諸悪の根源に対する研究は色々行われいるようだが、まだ結論は出ていないようです(検索の範囲内では^^;)。疲労とかストレスという漠然としたものが原因と考えられているが、そう言われてもなあ・・・。ただ、HHV-6というヘルペスウイルスは、疲れると再活性化して唾液中に多数出現することが確認されていて、やはり休息は必要なようです(いい加減な〆ですが・・)。
診断が確定すれば、重症度に応じて、ステロイドを中心とした薬物治療。ステロイドは発症1週以内に開始しないと効果が低いので(神経変性が不可逆的ダメージをきたす前に?)、現実的には、病因を探しながらステロイド開始するようです。重症度の評価は、昔から柳原法というのが使われていて、例えば『片目つぶり』とか『頬を膨らます』など10項目を4点満点で評価(40点満点、36点以上が正常)して、20点以上の軽症ならプレドニゾロン30mgの内服だけ、10-18点の中等度ならプレドニゾロン60mg+バラシクロビル1000mg☓5日、8点以下(完全麻痺)の高度ならプレドニゾロン120-200mg点滴+バラシクロビル1000mg☓5日などと大体の基準があるようです。
スコアが悪くて、電気生理学的検査(エレクトロニューロノグラフィー(ENoG))も悪ければ、手術(顔面神経減荷術)も考慮するようです。ただ、ベル麻痺に限れば、70%が自然治癒して、90%が治療により回復するそうで、手術になるケースはそれほど多くない?手術を積極的に行っている施設のHPを見ると、1ヶ月以内なら90%回復するとの記載があり、あまり悩んでいる時間は多くないかも・・。早期に専門医に受診して、重症度判定を行って、薬物治療で行くのか、場合によっては手術も考慮するのか判断が必要のようです。
勉強材料
- https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/bell.pdf
- http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/cranial/cn7.html#0_3
- https://www.jscmfs.org/general/disease13.html
- https://plaza.umin.ac.jp/sawamura/cranialnerve/facialcare/