2006年 08月 20日
網膜剥離1
網膜剥離について
網膜(正確には、網膜は神経網膜と網膜色素上皮に分かれます)が、神経網膜が網膜色素上皮と分離する状態を網膜剥離と呼んでいます。
網膜剥離は、その原因によって以下の3つに分類される。
①裂孔原性網膜剥離
網膜の一部が破れて、網膜の裏側に水が回りこんで、網膜が浮き上がった状態

②牽引性網膜剥離
網膜が何かに引っ張られて浮き上がった状態
(原因:糖尿病網膜症、網膜剥離術後、未熟児網膜症など)
③浸出性網膜剥離
網膜の裏側に水が湧き出てきて、網膜が浮き上がった状態
(原因:ぶどう膜炎、MPPE、uveal effusionなど)
このうち、
①の裂孔原性網膜剥離の中にも、まだまだ様々なものが含まれますが、他の疾患(外傷、先天異常、アトピー、白内障術後など)に伴う剥離を除いた、他に何の原因もなく発症した網膜剥離が、通常、一般の人が網膜剥離と呼んでいるものです。
前者(他の疾患に伴う網膜剥離)は、それなりにトピックであり、重要なテーマですが、一緒に話をすると、ややこしくなるので、省きますが、例えば・・・
1)外傷 : 辰吉丈一郎がボカスカ殴られて発症した網膜剥離
2)先天異常 : 先天性脈絡膜欠損というような難しーーい先天性疾患に伴った網膜剥離
3)アトピー性皮膚炎 : 最近増えつつあるアトピー性皮膚炎は、白内障だけでなく、網膜剥離も高率に合併することが知られています。
4)白内障術後 : 最近は術式の改良で少なくなりましたが、かつては、白内障術後は、網膜剥離発症の頻度が結構多かったのです。
などが他の疾患に伴うケースです。
そして、ここから先が、所謂『網膜剥離』の説明になります。
この網膜剥離には、その発症過程・発症年齢が異なる2種類の剥離があるのです。
1)20歳代をピークに発症するもの。(裂孔原性網膜剥離の20%)
2)50歳代をピークに発症するもの。(裂孔原性網膜剥離の45%)
1)20歳代をピークに発症するもの。(裂孔原性網膜剥離の20%)
網膜に格子状変性と呼ばれる薄い部位が出来て、その中に孔があき、その孔を通って、網膜の裏側に少しづつ水(液化硝子体)が回り込み、少しづつ網膜が剥がれていく。この網膜剥離は、急速に進行することなく、ゆっくりと進行する。自覚症状に乏しく、かなり網膜剥離が進行して、大きな視野欠損が発生してはじめて気づくか、たまたま、眼底検査で発見されることが多いのです。
対策:自覚症状に乏しいので、早期発見する為には、近視の強い人に多く発症することは分かっているので、近視の強い人は、10歳代で、一度は、精密な眼底検査を受けてください。
資料:
①網膜格子状変性は、生まれつきあるのではなく、小児期から青年期にしだいに形成されます。全人口の5~6%に存在し、その約半数で両目に生じるといわれています。近視眼では10%、強度近視では20%の頻度で認められるといわれています。
②裂孔原性網膜剥離の3分の1~2分の1は、格子状変性に伴った裂孔が原因といわれています。若年者では、変性巣のなかに萎縮性円孔が10%を超える頻度で合併するとされています。
つまり、若年者の網膜剥離の原因になる孔の発生頻度は、普通の人で0.5%(200人に1人ぐらい)、近視の人で1%(100人に1人)、強度近視の人なら2%(50人に1人)となります。近視の強い人は、眼底検査を受けましょう・・・ということになります。まあ、孔ができても、必ず網膜剥離になる訳ではないですが・・。
※ 通常、飛蚊症は、網膜剥離の前兆とされる有名な症状ですが、この若年層の網膜剥離には殆ど伴わないのです。
2)50歳代をピークに発症するもの。(裂孔原性網膜剥離の45%)
最も一般的な網膜剥離です。中高年において、後部硝子体剥離が発生する際に、網膜と硝子体が癒着している部分が破れて(網膜裂孔)、液化した硝子体が、裂孔を通って、網膜下にまわり、網膜剥離が急速に進行します。
※この網膜裂孔のできる網膜と硝子体が癒着している部分というのも格子状変性であることが6割で、この網膜剥離もやはり近視に多いのです。
対策:この場合、後部硝子体剥離という加齢現象がキーポイント。この現象は、無症状に生じることもあるでしょうが、特徴的な症状を伴うことがあります。
①飛蚊症
突然『虫が飛ぶような・・・』、『墨を流したような・・』と表現される症状。眼を動かすと、フワーフワーっと動きます。
②光視症
周辺視野を走るような閃光(稲光)を自覚する。通常飛蚊症とともに出現し、すぐになくなることもあるが、数週間~数年間続くことも・・・
この、後部硝子体剥離は、一般に中高年(近視が強い場合、20歳代でも)に起こり、(40歳代で8%、50歳代で22%、60歳代で43%、70歳代で71%、80歳代で85%)、その際、『飛蚊症』・『光視症』という特徴的な症状を伴うことがあります。
特に、飛蚊症が新たに発生したか、または急にその数が増加した時には、精密な眼底検査をうけてください。これが早期発見のポイントになります。すると、網膜が破れていても、まだ剥がれていない段階で見つかることも多いですし、網膜剥離になっていても、手術でほぼ100%近く治すことのできる段階で見つかることが多いと言えます。
かつて女優の樹木希林さんが、網膜剥離で手術をしないという選択をされましたが、これは、非常に特異な稀なケースだったと言えます。多少こじれても、手術で治ることが殆どなのですから。
(大学にいるときは、既に剥がれた患者さんばかりでしたが、開業してからは、裂孔が形成されていても、網膜がまだ剥がれていない患者さんに出会うようになりました。近視の強い方は、どんどん来てくださいね。早期発見早期治療が重要ですので。)
ただ、その後の進行が早いので、既に網膜剥離が本格的に発症し、視野欠損を自覚してから受診されることの方が多い。それでも、手術を行なえば、通常のものなら、95%以上の確率で、剥がれた網膜を元に戻すことができます。ただ、発見が遅れて、複雑な状態になったり、他の疾患が合併していたりすると、手術の成功率は、低下します。
※注意して欲しいのは、一旦剥がれた網膜は、元に戻っても、網膜の機能は完全には、元に戻らないということです。(医者が、網膜剥離が治ったと言っても、患者さんは納得できないことがしばしばあるのです・・)
※例えば、網膜の真ん中に黄斑部(直径1.5mm)があり、その真ん中にある中心窩と呼ばれる直径0.36mmの範囲の網膜が、剥がれた瞬間、1.0以上見えていた眼でも、0.1以下の視力になってしまいます。そして、手術で網膜が元に戻っても、通常、1.0に回復することはありません(0.1以下になるのが、35%)。網膜が半分剥がれて、視野欠損があれば、手術して治っても、視野欠損は残ります。網膜剥離の手術は、網膜を元に戻さなければ、最終的に網膜は全部剥がれてしまい、完全失明になってしまいます。元通りにならないのなら、手術をしないという選択をすれば、完全失明になってしまうのです。それを防ぐためと、若干の視力・視野改善を期待して手術する訳です。
長くなったので、治療については、次回紹介します。