第46回大阪眼科セミナー『 iPS細胞を用いた網膜の再生医療』 (1234)

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 満開時に行きそびれた白い萩。来年こそ必ず・・・


iPS細胞を用いた網膜の再生医療

神戸アイセンター 栗本康夫

 

iPS細胞とは、人の皮膚などの普通の細胞から作ることのできる、様々な組織の細胞に分化可能な『多能性幹細胞』の事で、英語ではinduced pluripotent stemcellなので、通常iPS細胞呼ばれています。受精後の胎盤胞から取り出して培養するES細胞と異なり、倫理的問題や拒絶反応の問題がない。

 

このiPS細胞を培養して網膜を構成する細胞(網膜色素上皮、視細胞、中間ニューロン、神経節細胞)に分化させて移植するのですが、移植された細胞がネットワークに組み込まれて機能する必要があり、その意味においては、網膜色素上皮が一番容易で、神経節細胞が最も困難らしい。という事で、初めて行われた治療が網膜色素上皮移植。正常な網膜色素上皮が正しいポジションにあれば、生理的機能を発揮して、加齢黄斑変性の治療につながる筈。加齢黄斑変性の発症は、網膜色素上皮の加齢性変化が大きく関与しているので、自分の体細胞から作り出したiPS細胞由来の元気な網膜色素上皮があれば、根本的な治療になるかもしれない。iPS細胞を使うことで、ヒト胎児網膜色素上皮、自分の網膜色素上皮シート・・などにつきまとう様々な問題をクリアできる。山中教授の京大iPS細胞研究所と理化学研究所が協力して、iPS細胞由来の網膜色素上皮シートを作成して、治療に挑んだ。

 加齢黄斑変性患者さんの皮膚線維芽細胞からiPS細胞を作成して、網膜色素上皮に分化誘導し、シートを作成したら、加齢黄斑変性のCNVを抜去して、そこに網膜色素上皮シートを移植する。最初は、安全性の確認が主目的で、治療効果は二の次?世界が注目する第一例:20149

78歳女性右眼のPCV。抗VEGF注射10回やって、視力は0.09まで低下。CNV抜去して、自分の線維芽細胞から作成したiPS細胞由来の網膜色素上皮シートを移植。

https://www.nature.com/news/japanese-woman-is-first-recipient-of-next-generation-stem-cells-1.15915

 5年の経過の中で、網膜色素上皮シート面積は拡大。黄斑浮腫は、ステロイドで緩解するが再燃繰り返す。またステロイドによる眼圧上昇(+)。視細胞のダメージは強い。脈絡膜は網膜色素上皮のない部位の体積は減少。視力・QOVは安定。

 

あまり関係ないけど、昔サル眼に微量のオルニチンを投与する実験をしたことがあるが、何故か、形態学的には、黄斑外の網膜色素上皮細胞だけが選択的に障害された。その後残存した黄斑部の網膜色素上皮が周辺部に向かって増殖し、再生した網膜色素上皮が存在する部位では、視細胞や脈絡膜毛細血管は保たれたが、網膜色素上皮が再生しなかった部位では、視細胞も脈絡膜毛細血管も萎縮して、所謂網脈絡膜萎縮になった。視細胞・網膜色素上皮・脈絡膜毛細血管板は三位一体で、今回の網膜色素上皮シート移植でも、網膜色素上皮が機能している部位では、網膜の形態や機能を維持していたようです。

 

将来は、今回のような自家移植だけでなく、HLA6座をがマッチした他家移植も。iPS細胞由来網膜色素上皮細胞懸濁液を作って、滲出型加齢黄斑変性病巣に注入(38G針で)し、CNVの活動性を抑える方向へ・・。ヒト2例目(初めての他家iPS細胞治療)は、2017328日に。5例に行われたが、腫瘍形成なく安全に行えて、軽度の拒絶反応もステロイドで対応可能であった。

https://www.nature.com/news/japanese-man-is-first-to-receive-reprogrammed-stem-cells-from-another-person-1.21730 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32668747/ 

 

この他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞懸濁液移植を、加齢黄斑変性だけでなく、網膜色素上皮そのものに元々問題がある網膜疾患(クリスタリン網膜症、ベスト病、スタルガルト病、色素線条症・・・)に行う計画もあるらしい。(※演者は、網膜色素不全症と名付けている。)

 

網膜色素上皮の次は、視細胞。徐々に難しくなるのだが、惜しくも亡くなられた理科研の笹井氏は、ES細胞から眼杯と網膜組織の分化培養技術を開発されていたようで、その技術で、iPS細胞から幼若な網膜組織が分化培養して、視細胞組織片を移植(網膜色素上皮は(-)?)。移植後、ホスト網膜との間にシナプス形成が確認されている。明暗条件を変えるとシナプス形成は促進するらしい。視細胞が生きている(機能している)かどうかは、電気生理学的に、また移植されたマウスの行動で判断し、移植は成功していることが確認された。

 

次は、網膜色素変性症患者さんに、健康なヒトのiPS細胞から作った網膜組織をシートで移植する予定。サル眼の光凝固モデルでは一応上手くいったようで、次はヒト・・


by takeuchi-ganka | 2020-10-13 18:40 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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