近眼連夏季講習会


近眼連夏季講習会 平成18年8月27日 兵庫県医師会館

今日は、神戸は三宮まで足を伸ばし、勉強会に行ってきました。近畿眼科医会連合主催の夏季講習会という名の勉強会です。
目的は、バスと電車で、家から三宮まで何分かかるか計測することと(1時間弱でした)、香川大教授の白神先生の話を聞く為です。演者は、確か、かつてはかなりスリムだった印象がありますが、すっかり中年の貫禄を漂わせ、語り口・声色はベテラン講談師か落語家を感じさせるもので、ただ、話の中身はいつも飛びきり新鮮で、明石の昼網物なみのフレッシュさです。その日も、期待を裏切らない内容の話で、態々行った甲斐がありました。

白神先生の話のタイトルは、『網膜静脈閉塞症の治療戦略』
この網膜静脈閉塞症は、非常にありふれた疾患で、ごく一般的な開業医の私でさえ、しばしば遭遇する疾患なので、しっかりと聞いておかなければいけません。
少し前までの治療戦略は、一般的な教科書(眼科学:文光堂2002)を見ると、
1、薬物
  ①線溶療法   :ウロキナーゼ点滴(新鮮例のみ)
  ②抗凝固療法
・ワーファリン
・パナルジン、ロコルナール、アスピリンなど
  ③その他
     ・止血(血管強化):アドナ
     ・循環改善:ユベラニコチネート、トレンタール
     ・消炎酵素薬:ダーゼン、エンピナース、バリダーゼ
   ④ステロイド:若年者で、血管炎関与が疑われる時
2、レーザー治療
   ①虚血が高度の場合、虹彩血管新生予防の為、汎網膜レーザー光凝固術
   ②黄斑部浮腫に豆まき凝固
   ③無血管野を網膜レーザー光凝固術
3、高圧酸素療法
4、硝子体手術
    硝子体出血、網膜剥離に対して
    黄斑部浮腫に対して
などと書いてあります。2002年の教科書ですが、このうち、今でも、有効だと信じられている治療法がどれほどあるでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・線溶療法のウロキナーゼの点滴は、新鮮例に行われることもあるでしょうが、切迫期以外は行いません。切迫期でもしない人が増えてきているようです。
・抗凝固療法としては、ワーファリンは、かなり少数派で、小児用バファリンだけが、しばしば用いられているようです。私も使います。
・その他の薬剤は、補助的な意味合いしかないようです。
・若年者で、とても動脈硬化が原因と考えられない場合は、血管炎が原因で、ステロイドが有効なことがありますが、稀です。
・高圧酸素療法は、装置の問題もあり、積極利用している施設をあまり知りません。
・硝子体手術は、かつては、出血や網膜剥離、増殖性網膜症のようなケースに行われていましたが、現在は、もっと早期の段階での適応に大きくシフトしています。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このように僅か数年前の教科書が、あまり現状を反映していないほど、治療法は大きく変貌しつつあり、現在もその途中なのです。新しい治療法が出てきては消え、出てきては消え・・を繰り返しています。少しでも勉強しないと乗り遅れるのです。演者の先生も、このことは、言っておられ、半年経てば、また違うことを話しているかもしれないと・・・話は、平成18年8月27日の時点の考えということです。

1)網膜静脈分枝閉塞症
近眼連夏季講習会_f0088231_2242944.jpg

動脈と静脈はその交叉部では(時には併走している部位でも)、同じ鞘に包まれていて、スペースに限りがあり、硬化した動脈は徐々に静脈を圧迫します。圧迫された静脈では、乱流が発生し、これが血管内皮を障害し、血栓を形成して、血管閉塞となります。
この疾患の特徴のひとつに自然経過が結構良いということがあります。
自然経過では、
矯正視力0.5以下のケースで
2段階以上の視力改善が37%
不変    46%
2段階以上の視力低下が17%
※34%が0.5以上
と、BVOスタデイが報告しているそうです。つまり自然経過が結構いいのです。

閉塞した血管のその後ですが、
①まれだが正常に戻る。  
②完全に閉塞する。⇒ 側副血行路形成  
③不完全閉塞状態が続く。  
この3つです。
①②は、浮腫は改善しますが、③は改善しません。つまり、①②に積極的治療をする必要がないのです、だから、演者は3-6ヵ月経過観察と言っているのでしょう。ここは、非常に重要なポイントです。

治療
  合併症対策として
   ①網膜レーザー光凝固術(広範囲に無血管野が形成された場合、既に新生血管が出来ている場合は、これを行う必要があります。)
   ②硝子体手術(硝子体出血や網膜剥離があれば手術をします)
この二つは、昔から同じですが、
黄斑部浮腫に対して(ここが最も重要な部分です)
   ①網膜レーザー光凝固術(網膜静脈閉塞症スタデイでは自然経過より有効)
     ※でもやるとしても、軽くグリッドする程度で、積極的にはやらない。
   ②トリアムシノロン硝子体内投与
     薬効が切れると高頻度に再発する。
一時的には、かなり効くので、非常に流行しましたが、もうピークは過ぎたのでしょうか・・・
   ③硝子体手術
     1)単純硝子体切除
     2)交叉部切開(AV crossing sheathotomy)
     3)内境界膜剥離併用硝子体切除

※この単純硝子体切除と交叉部切開の手術成績にあまり大きな差がないのではないかという疑問があるそうです。Mason J の報告は有効だったとしているが、演者の成績では、平均視力で0.2⇒0.33 この程度しか良くならない。演者は、0.5以下、側副血行路(-)の症例を3ヶ月以上待って手術して、かなり有効で、循環が元に戻ることもあれば、切開後も戻らないこともある。鞘切開すれば圧迫が解除されるのは確かだが、それで、血管内の閉塞が解除されるかどうかは不明なのです。
それと、単純硝子体切除だけでも結構有効なので、鞘切開の成績には、単純切除の効果も含まれていることを考慮する必要がある。実際の鞘切開のみの効果はどの程度なのかは依然未知の部分が残っていると・・。質疑でも出ていたが、切迫期に鞘切開すれば、100%近く有効かもしれないが、まだ、浮腫もなく出血もない状態では手が出せない。閉塞がある程度以上進行してしまうと、鞘切開で圧迫を解除しても、意味がないケースが多い?実際に、圧迫解除が奏効しているのは、それほど多くないかもしれないというのです。(このあたりの話がこの日の話のポイントのひとつでした)

つまり、血管閉塞が発生した場合、元に戻せれば一番いいのだが、なかなかそうは行かない。その場合、閉塞を解除する無駄な努力を続けるよりも?、早く完全閉塞・側副血行路形成に持っていった方がいい?。この側副血行路形成には6ヵ月から24ヶ月かかる。そこで、外科的に側副血行路促進ができないか?という発想の転換。これはかなり魅力的なアプローチだと思いました。術式としては、動脈によって閉塞されている静脈を外科的に完全に切断する(ジアテルミー凝固を併用して、殆ど問題になるような出血はないらしい・・)。かなり高率で、側副血行路が形成され、3段階以上視力改善が91%と良好。他の治療が×の時の選択肢として十分期待できる術式のようです(と術者は、控えめなコメントでしたが、かなり積極的な運用が期待できるのかもしれません・・。)。 症例を増やして、適応を決定させる必要があるでしょうが・・
現時点での方針
網膜静脈分枝閉塞症発症後、6ヵ月は待つ。
(TAやAvastinを投与しながら・・・。)
⇒  視力が0.5以下になり、黄斑部浮腫が原因なら、
⇒  硝子体手術を考慮する。
術式は、
① 側副血行路(-)なら、鞘切開。少ししか適応がないようです。
② 側副血行路(+)なら、静脈切断し、側副血行路形成を促す。
③ それ以外の場合は、内境界膜剥離併用硝子体手術


2)網膜中心静脈閉塞症
近眼連夏季講習会_f0088231_22444776.jpg

視力0.1以下の34眼は、88%が0.1以下に
虚血型は、99%が0.1以下、非虚血型で50%が0.1以下と予後不良。
特に虚血型の予後は不良です。

合併症
1)血管新生緑内障
  広範囲に無血管野が形成されていたら、PRP
2)黄斑部浮腫
  1、網膜レーザー光凝固術は無効
  2、血栓溶解療法も無効
  3、薬物
    ①TAは、一時的効果しかなく、繰り返すと眼圧上昇
    ②tPAは、有効?(不明?報告者によって成績のバラつきが大きい)
    ③Avastin は、まだ不明
  4、硝子体手術
    ①RON (放射状視神経乳頭切開術)
    ②単純硝子体切除
※  RON は、どうやら静脈の圧迫の解除は出来ていない?網脈絡膜の静脈吻合ができるので、出血・浮腫の吸収が単純切除より早いようだが、時間が経てば一緒?RONの当初の目的は達成されていないが、偶発的な結果に左右されて、手術の成績が決まるので、何とも言えない。但し、大した合併症もないので、試みていいかも・・・


抗VEGF抗体
最後に、またもや Avastin
網膜を通過できるように、親分子のAvastin から小さなLucentisを作ったのだが、Avastin でも十分な効果を発揮することが分かった。値段もLucentisの10分の1の値段で、安価なので、使いやすい。
しかも、速効・著効!
翌日には、黄斑部浮腫はすごくひいている。
ただ、1ヶ月位で、リバウンド発生
注射すれば、1ヶ月は効くが、1ヶ月しか効かない。
※糖尿病網膜症と違って、繰り返している間に、本態が良くなれば、そのまま治癒へ向かうことも・・・?
Commented by ティア at 2009-04-25 15:12 x
はじめまして。
初対面で突然私事を話してしまいますが、
家族が「静脈分枝閉塞症」と診断されました。

このブログを見て、
「眼科のごく一般的な病気」
とのフレーズにとてもホッとしております・・・・。

以前から、「視界の一部が見えない」との訴えがあり。
現在は薬物治療で対応しはじめているところです。

完全に視力が改善まではいかずとも、
これ以上患者の視力が悪くならない方法を探しております。

この記事は、2006年の記事との事、
日進月歩で治療法が変化しているのであれば、
現在も治療なども変わった部分もあるかと思いまして、
お話をしたく、今回コメントをさせていただきました。

どうぞ、少しでも有用な情報などありましたら、よろしくお願いします。
Commented by takeuchi-ganka at 2009-04-26 10:08
06年から治療法は、まだそれほど大きく変化していないように思います。一般的な疾患ではありますが、深刻な視力低下を引き起こすこともあります。特別な・画期的な治療法というのは、滅多にありません。地道な通院加療が一番です。しっかり治療してください。
Commented by ティア at 2009-05-11 19:22 x
唐突なコメントに丁寧に対応していただいて
本当にありがとうございました。

地道な通院加療が一番とのこと、
病院嫌いの本人にとってつらいことですが、
こちらもめげずに地道に治療を薦めていこうと思います。

ご助言ありがとうございましたっ!
by takeuchi-ganka | 2006-08-29 22:46 | 学会報告 | Comments(3)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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