2021年 12月 19日
第445回 大阪眼科集談会 その4 (1235) 特別講演 「実践 角膜クリニック」
講演内容がわかりにくい時は、仕方ないので、キーワードをいくつか勝手に設定して、そこから勝手に膨らますのが、このブログのやり口なのだが、今回は、講演内容には問題ないのだが、設定したキーワードに、ちょっとワクワクしながら勉強できました。
勝手にキーワード
- TGFBI角膜ジストロフィ
- CRISPR-Cas9システム
<特別講演> 座長: 江口 洋 先生(近畿大学)
「実践 角膜クリニック」 臼 井 智 彦 先生(国際医療福祉大学)
前眼部疾患の診療
異常の有無はわかりやすいが、正確な診断・病状把握は難しく、治療手段も限られている。
1,角膜上皮障害
SPK (Superfical Punctate Keratopathy)
これは傷というよりは、最表層上皮の脱落。何故SPKが生じているのかを考える。治療は必要なのか?
抗菌剤は不要ではないのか・・・
点眼毒性:もし、擦過による傷であって、バリア破綻・感染が危惧されるのであれば、抗菌剤やヒアルロン酸製剤が必要なのかもしれないが、そのSPKが点眼毒性であれば、さらなる点眼追加は逆効果で、むしろ点眼は全て中止するか、BACフリー人工涙液のみで経過観察がいいのかもしれない。
ドライアイ:SPKを見たときに、ドライアイを考えがちだが・・・・
涙液を不安定する要因は非常に多い。
- ①涙液分泌減少
- ②水濡れ性低下
- ③蒸発亢進
- ④涙液分布異常
- ⑤摩擦亢進
真のドライアイもあるだろうが、それ以外の要因であることも非常に多い。
涙液減少型ドライアイ
特徴的所見:①涙液メニスカス減少 ②下方にSPK(patchy) ③瞼裂部のCPS (conjunctival punctate staining) 、加えて、シルマーテスト、BUT判定、全身的検索を行う。
ドライアイ+α(頻度の高い状況)
- 結膜弛緩症 →レバミピド
- 点眼毒性(NSAID) →NSAID中止、レバミピド
ドライアイ以外の原因のSPK
- 春季カタル →タクロリムス、ステロイド・・
- フックス角膜内皮ジストロフィ+SS→ステロイド
- 点眼毒性(β遮断剤・NSAID・局所麻酔/抗菌剤・アシクロビル・BAC)→点眼中止
※緑内障治療(点眼)の問題
- 点眼毒性
- アレルギー:接触性皮膚炎
- 慢性炎症:BACによる慢性炎症(+)→濾過手術成功率低下
※PAP(Prostaglandin associated periorbitopathy):1)DUES 2)色素沈着 3)睫毛増生
例1:点眼毒性+下眼瞼後退→遷延性上皮欠損
例2:TS-1
2,角膜ジストロフィ
両眼性・非炎症性・進行性の角膜混濁を呈する遺伝性疾患
角膜ジストロフィの分類(IC3D edition2 (2015))
- https://guchopoi.com/corneal-dystrophy/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25564336/
- https://www.aao.org/bcscsnippetdetail.aspx?id=912dd37c-a66c-4503-9694-ac10d11d6e66
TGFBI角膜ジストロフィ
TGFBI遺伝子(ケラトエピセリン遺伝子)の点変異(pointmutation)により合成される変性した蛋白質の沈着による進行性の角膜混濁を呈する疾患
※特集 タンパク・遺伝子からみた分子病―新しく解明されたメカニズム Transforming growth factor-β induced protein(TGFBI) 「山本 修士」から
『Transforming growthfactor-β induced proteinは,ヒト肺腺癌細胞由来の細胞株をTGFβにより処理した際に誘発される遺伝子beta ig-h3がコードするタンパクであり,1992年,Skonierらにより単離された1)。683アミノ酸から成り,約68KDの細胞外マトリックスのタンパクのひとつである1)。細胞接着を促進させるとか,ケラチノサイトの分化に関与しているとされているが,今日まで詳細なメカニズムは不明のままである2)。しかしながら,beta ig-h3遺伝子の変異により100年以上原因がわからなかった多種類の遺伝性角膜ジストフィがひきおこされることが証明されたため,眼科領域で一躍注目されるようになった3)。
1997年にMunierらは,顆粒状角膜ジストロフィ(GCD),格子状角膜ジストロフィⅠ型(LCD1),Avellino角膜ジストロフィ(ACD),Reis-Bücklers角膜ジストロフィ(RBCD)と臨床診断されていた四つのタイプの角膜ジストロフィが,TGFBI(角膜ではケラトエピセリン;遺伝子はbeta ig-h3)タンパクにおけるアミノ酸配列の変異により発症していることを発見した3)。GCDではTGFBIの555番目のアミノ酸のアルギニンがトリプトファンに変異し(Arg555Trp),このアミノ酸がグルタミンに変異するとRBCDになる(Arg555Gln)。ACDでは124番目のアルギニンがヒスチジンに変異し(Arg124His),LCD1ではやはり124番のアルギニンがシスチン(Arg124Cys)に変異したことが病因であるとされた。これらの知見は世界中で確認され,格子状角膜ジストロフィⅢ型はじめ多くのTGFBI変異による角膜ジストロフィが報告されてきた4)。』
1. 顆粒状角膜ジストロフィ(GCD)(Arg555Trp)
https://webeye.ophth.uiowa.edu/eyeforum/atlas/pages/granular-corneal-dystrophy-type-1.htm
2. 格子状角膜ジストロフィⅠ型(LCD1)(Arg124Cys):アミロイドの沈着、RCE来しやすい。
https://webeye.ophth.uiowa.edu/eyeforum/atlas/pages/lattice-corneal-dystrophy.htm
3. Avellino角膜ジストロフィ(ACD)(Arg124His)
TGFBI遺伝子の124番目のアルギニンがヒスチジンに変異(R124H)し,角膜実質に散在性に,棍棒状や顆粒状,円形様の結晶断片状の白色沈着物を認める.アベリノと呼ばれて、日本人に最も多いタイプ。私でも見たことあります。これは、レーシックすると大変なことになるようです。
https://webeye.ophth.uiowa.edu/eyeforum/atlas/pages/Avellino-dystrophy/index.htm
4. Reis-Bücklers角膜ジストロフィ(RBCD)(Arg555Gln)
https://webeye.ophth.uiowa.edu/eyeforum/atlas/pages/Reis-Bucklers.htm
※塩化ベンザルコニウムはごく低濃度であったとしても(というより低濃度ほど)、角膜ジストロフィの原因となる変異型TGFBIの異常凝集を強烈に促進することを見いだした。すなわち、ごく低濃度であったとしても、塩化ベンザルコニウムを含んだ点眼液は角膜ジストロフィを悪化させる可能性がある。(第25回緑内障学会モーニングセミナー:筑波大 加治先生)。TGFBI角膜ジストロフィに様々な点眼を使用する必要が発生したら、BACフリー点眼をチョイスすべき。
※角膜混濁は消えることもある。翼状片の周囲には混濁が少ない?姉妹で混濁パターンが異なることも。
治療:手術は大変なので、基本エキシマレーザーによるPTKですが、5年で半分は再発する。
根治療法は遺伝子治療?
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https://answers.ten-navi.com/pharmanews/19918/ から転記
2020年ノーベル化学賞:ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9システム」の基礎研究
CRISPR(clustered regularly interspaced shortpalindromic repeats):細菌などの原核生物が持つ獲得免疫システムの一部。細菌はウイルスから身を守るため、侵入してきたウイルスのDNAを切断するタンパク質を持っています。細菌はそうして切断したウイルスのDNA配列の一部を自身のゲノムに取り込み(取り込んだDNA配列を保存しておく場所がCRISPR)(免疫記憶)、それを使って特定のDNAと結合する「ガイドRNA」を作成。再び同じウイルスが侵入してきた時には、ガイドRNAが目的とするDNAと結合し、それを目印に誘導された切断酵素の「Cas9」がウイルスのDNAを切断します。⇒噛み砕いて説明してもらってもよくわからないけど、結局この細菌がもつ機能を応用したゲノム編集システムを、『CRISPR-Cas9』と呼ぶようです。
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『CRISPR-Cas9』は、遺伝子治療にブレイクスルーをもたらしたようで、益々期待は膨らみます。
『第119回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演III』から・・⇒TGFBI遺伝子R124H変異のAvellino角膜ジストロフィ患者の手術サンプルから角膜実質細胞を培養。その細胞の遺伝子編集をして、正常な遺伝子に修復できた。この細胞を患者さんに戻せばいい?
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/hotta/research.html
この技術とiPS細胞を利用すれば、筋ジストロフィー治療も夢ではない・・
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25434822/