2022年 01月 21日
緑内障薬物治療(第4回大阪眼疾患セミナーから) (1236)
今年最初の講演会『第4回大阪眼疾患セミナー』 もWEBでした。久しぶりに非常に興味深い内容の会でした。最初の講演は、『緑内障薬物治療を再考する』。最近緑内障のメッカになりつつある東北大ですが、膨大な文献を整理したような話なので、それにそってブログを書いてみます。
まずは、
1,緑内障点眼治療にエビデンスがあるのか?という話から。ただ私が緑内障治療に関わった30年以上前は、多分エビデンスなんて言葉さえあまり聞かなかった気がする。なんとか効果的に眼圧を下げる方法がないか。最初エピスタとピロカルピンしか点眼がなくて、それで駄目ならレクトミー。選択肢は非常に少なく、緑内障の評価も、視神経乳頭の詳細なスケッチとゴールドマン視野だけだった。30年以上経過した今、点眼は10成分以上あって、レクトミーは相変わらずだが、ロトミーはinternoがメインとなり、MIGSも多種類、レーザー治療もある。緑内障の診断・進行の判断も、ハンフリー視野が基本で、OCTによるcpRNFLや網膜内層厚の評価が常識となってきた。
話を戻すと、1981年にチモプトールが発売されて、瞳孔径に影響しないこの点眼は、あっという間に圧倒的なシェアを確保した。1984年にミケランが発売され、当時は、チモプトール、ミケラン、そしてもう無くなったベントス。長い間、この3種類のβ遮断剤が基本でした(知らない間にミロルって点眼が出てたけど・・)。ただ、ある程度眼圧は下がるものの、よく効いたとしても、5mmHg以上下がったことはなかった気がする。1993年頃の評価では、点眼治療で眼圧下降は得られるものの、視野を保持する効果まであるかどうかは不明のままでした。つまりエビデンスなし。
1994年にレスキュラが発売され、大して眼圧下降しないのに、一気に大きなシェアを占めた記憶があります。皆、β遮断剤以外の点眼の登場に飢えていたのでしょう。キサラタンの登場は1999年。この点眼の眼圧下降は圧倒的で、トラベクロトミーと同等レベル(症例によってはそれ以上)と感じてました。本当に緑内障治療が視野を維持する効果があるのか。エビデンスがあるのか・・なんてのは、それ以降の話だと思います。エビデンスを得るべく、大規模スタデイも行われました。
l OHTS:眼圧を下げたほうが緑内障になりにくい
l AGIS:眼圧が高い方が緑内障はより進行する。
l CNTGS:NTGも眼圧さげると視野は維持される。
l EMGT:治療群の方が視野進行抑制
l EGPS:ドルゾラミド単独では有効性示せない
l UKGTS:ラタノプロスト単独でも有効性あり。
https://takeganka.exblog.jp/18335955/
これにより、我々末端の眼科医は、少しでも下げる必要があるというエビデンスを突きつけられました。
2,緑内障治療の基本
緑内障点眼作用機序
A,線維柱帯路流出促進(主経路)
- ROCK阻害薬(グラナテック)
- EP2受容体作動薬(エイベリス)
- イオンチャンネル開口薬(ウノプロストン)
- 交感神経刺激薬(ジピベフリン)
- 副交感刺激薬(ピロカルピン)
B,ぶどう膜強膜路流出促進(副経路)
- FP受容体作動薬(ラタノ・トラボ・タフル・ビマト)
- EP2受容体作動薬(エイベリス)
- α1遮断(デタントール)
- α2刺激(アイファガン)
- α1β遮断(ニプラジロール)
C、房水産生抑制
- β遮断剤(チモロール・カルテオロール)
- α1β遮断剤(ニプラジロール)
- 炭酸脱水酵素阻害薬(エイゾプト・トルソプト)
- α2刺激(アイファガン)
※建前としては、こういった作用機序の点眼をふまえつつ、点眼をチョイスしていくわけです。当然、最も眼圧下降作用が強いFP受容体作動薬かEP受容体作動薬がファーストチョイス。その後は意見が分かれるでしょうが、β遮断剤かCAI、あるいはその配合剤でしょうか。ここまではあまり作用機序は意識していませんが、最初がBで、次がCなので、更に追加するなら、A(グラナテック)にするか、神経保護効果を考慮してα2刺激でしょうか(個人の見解)。
まず、緑内障の評価
- 現時点でのダメージの程度
- 進行速度の予想
- ある程度進行速度がわかってきたら、10年、20年、30年後・・・の視野の予想
- 点眼治療強化、手術介入の必要性
※MDスロープは最初ゆっくり(-0.3dB/y)、途中速く(-0.5dB/y)、最後少しゆっくり(-0.4dB/y)。 - 治療目標の設定:眼圧の数字を設定するのか、⊿IOPを目標にするのか・・
Ophthalmology. 2016 Jan;123(1):129-40.
Comparative Effectiveness of First-LineMedications for Primary Open-Angle Glaucoma: A Systematic Review and NetworkMeta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26526633/
眼圧下降ランキング
- . bimatoprost5.61 (4.94; 6.29),
- . latanoprost 4.85 (4.24; 5.46),
- . travoprost4.83 (4.12; 5.54),
- . levobunolol 4.51 (3.85; 5.24),
- . tafluprost4.37 (2.94; 5.83),
- . timolol 3.70 (3.16; 4.24),
- . brimonidine 3.59 (2.89; 4.29),
- . carteolol 3.44 (2.42; 4.46),
- . levobetaxolol2.56 (1.52; 3.62),
- . apraclonidine2.52 (0.94; 4.11),
- . dorzolamide2.49 (1.85; 3.13),
- . brinzolamide2.42 (1.62; 3.23),
- . betaxolol2.24 (1.59; 2.88),
- . unoprostone1.91 (1.15; 2.67).
Ophthalmology. 2016 Jan;123(1):129-40.
Comparative Effectiveness of First-LineMedications for Primary Open-Angle Glaucoma: A Systematic Review and NetworkMeta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32096022/
点眼の有効性の評価もあるが、30年以上だらだらと緑内障診療をしていると、客観的な評価とは別にその点眼に対する印象があり、どうしてもそれに引っ張られてしまう・・・。だって、発売当初、その時代の緑内障学会のリーダー達が、いかにその薬剤が優れているか・・力説していたのか忘れてないのです。加えて、BACを含むかどうか、その濃度がどの程度で、角膜に対する影響とか、視神経保護効果を期待していいのかどうか・・など。或いは、点眼薬そのものの評価とは別に、点眼しやすい点眼なのか(さし心地や点眼瓶の質も)、患者さんは点眼がうまいのか下手なのか、点眼忘れはないのかどうか・・・など、考えることは非常に多い。
前述の如く、点眼(成分)を複数使うにしても、できたら、その作用機序がカブらない方が効率はいいはず。ラタノプロストにニプラジロールを追加するよりは、β遮断剤やCAIの追加が効率的な筈?
副作用も考慮すべきで、ファーストチョイスとして使うことが圧倒的に多いPG製剤は、DUESや充血に悩まされることが多い。β遮断剤は、昔から全身的な副作用(心機能・呼吸機能低下)が言われているが、これは眼科医には見えていないことも多いのが問題。ブリモニジンは好印象で個人的にはよく使うのだけど、濾胞性結膜炎で脱落することも多い。オミデネパグはPG製剤独特の副作用がないのが素晴らしいのだが、個人的な印象としては、やや眼圧下降が弱い気がする。
様々な要因を考慮して、患者さんが長期にわたって、機嫌よく点眼を継続してくれるかどうかが、予後に影響するらしい。
緑内障神経保護治療はエビデンスがあるのか
非常に多くの緑内障点眼にも、それ以外の薬剤にも神経保護を期待する発表は多いのだが、臨床研究での高いエビデンスは殆どなかった。非常に注目を集めたメマンチンも駄目で、初めてその有効性が確認されたのは、アイファガン(ブリモニジン)。チモロールとの比較で、同等の眼圧下降を示すが、チモロールと比較して、視野進行抑制効果があることが確認された。当時から結膜炎で脱落例が多かったので、日本発売はその半分の濃度の0.1%製剤だが、それでも結膜炎脱落例が多いのが難点。ただ、他の点眼アレルギーと異なり、マイルドな結膜炎で患者さんも医師も少し気づきにくい。この程度なら継続します・・と言われて困ったこともある。
ブリモニジン(α2刺激)が魅力的なのは、この点眼が必要な濃度で網膜硝子体に届いていて、網膜にはα2受容体が網膜に確認され、実験研究レベルで神経保護が確認され、そして初めて臨床研究でもその有効性が確認されたから⇒Low- pressure Glaucoma Treatment Study(LoGTS)。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7055936/
日本発売の0.1%製剤を使った東北大の同様のスタデイでは、LoGTSのような明らかな差はなかったが、生命表解析を用いると、何とか有効性あり・・らしい。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7685378/
開発中の新薬はまだまだあります。どれが有望なのかは知りませんが・・
DevelopingIOP-Lowering Drugs
https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2335881