2022年 01月 30日
新型コロナウイルス感染症 (第4回大阪眼疾患セミナーから) (1238)
感染症と生体反応、そして雑談 ・・・というタイトルの講演は、結構長時間に及び、前半部分は新型コロナウイルス感染症についてでした。まずこれに関する記事から・・
久しぶりに興味深い話だった。
思い起こせば、医師になって初めての集談会発表で、当時大阪労災の部長だった木下先生に質問された記憶がある。35年以上前の話だけど・・。現在の特任講座の教授になられて7年以上たっているので、失礼ながら昔話でもされるのかと思っていたら、登場された先生は、現役教授のような若々しさで、何よりも非常に興味深い話の連続だった。最近聴いた講演の中ではダントツで面白い内容。木下先生恐るべし・・。ただ、『つかみ』はご自身が昨年1月にコロナ感染されて、死にかけた話だったので、ちょっとびっくり・・。
1,プロローグ
・結核菌による肺の空洞形成→感染アレルギー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/91/6/91_6_1710/_pdf/-char/en
※結核の病態は、結核菌の蛋白抗原に対する遅延型アレルギーが関与している。感染症の病態にはアレルギーが深く関わっていることがある。
・ピロリ菌による萎縮性胃炎は、胃がん発症→除菌することで、胃がん予防につなげる。
※ピロリ菌陽性患者において、胃がん発生率が高い。ピロリ菌の除菌は、胃がんや再発を繰り返す胃・十二指腸潰瘍の治療に革命をもたらした。感染症が引き起こす二次的な病変を、元の感染症に対する治療(除菌)で、予防できる事がある。
2,新型コロナウイルス感染症について
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/P11-18.pdf
国際ウイルス分類委員会:SARS-CoV-2
WHO:COVID-19
新型コロナウイルスについては、非常に多くの情報が乱れ飛んでいるので、これを機会に整理してみることにしてみました。コロナウイルスの『229E、NL63、OC43、HKU1』が、従来風邪の原因となっていたウイルス。2002年に中国広東省発で、世界流行したSARS(致死率10%)の原因は、SARSコロナウイルスで、自然宿主はコウモリ。MERSコロナウイルスは、サウジアラビアを中心に流行したMERS(致死率35%)の原因ウイルスで、自然宿主はヒトコブラクダ。 新しく流行したコロナウイルスは、もともと哺乳動物を自然宿主としていたが、哺乳動物から人へ感染するようになった人畜共通感染症。従来のコロナウイルスにしても、元々は人畜共通感染症ウイルスであって、これが定着して風邪ウイルスになったものと考えられている。
l 抗原検査:通常Nタンパクを検出
l エンベロープ(+):石鹸・洗剤・アルコールで用意に破壊可能。
l ゲノム:約30000塩基のRNAで、RNAウイルスとして最大
l ウイルスの侵入は、S抗原と細胞表面のACE2受容体が結合して・・・
l
l SARS-CoV-2の感染は、59%は無症候者からの感染。
l 当初中国でのSARS-CoV-2感染で、重症化したのは、19%。死亡率2.3%(MERS35%、SARS10%)。
l 重症患者において、何が起こっているのか?
新型コロナウイルス感染症の重症とは・・
1. 肺炎増悪による呼吸不全
2. サイトカインストームによるARDS
3. 血栓・塞栓による肺血流障害
新型コロナに特有なのは、血栓形成。血液凝固により形成されるフィブリンの分解産物Dダイマーが高値になってくると重症化の可能性が高い。木下先生も発症後、リンパ球減少、CRPの急激な上昇に伴ってDダイマーも上昇。ちょっと危なかったのかも・・・
※サイトカインストーム⇒血管内皮細胞障害⇒DIC
※血管内皮のACE2に直接作用して、血管内皮障害も・・
新型コロナの治療薬
①ロナプリーブ(抗体カクテル療法):抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体。発症7日以内。
※カシリビマブとイムデビマブの2つのモノクローナル抗体で構成され、混合して使用する。1回分31万円らしい。
②ソトロリマブ(中和抗体薬):新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)モノクローナル抗体。発症7日以内。
③モルヌピラビル:経口抗ウイルス薬、商品名ラゲブリオ。発症5日以内。
https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/2174/
④レムデジビル:元々はエボラ用だが、ウイルスのRNAポリメラーゼの基質として誤って取り込まれ、RNA合成を阻害する。中等症・重症用・・。薬価は1回5日間使用して38万円らしい。
※ごく最近になって、軽症者にも使用可能になったらしい。
⑤デキサメタゾン:重症用
⑥バリシチニブ(オルミエント):JAK阻害薬、アトピー性皮膚炎や関節リウマチに使われている。重症用。
⑦抗凝固剤
⑧アクテムラ(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体):関節リウマチ
⑨イベルメクチンは?非常に安価。猫の手も借りたい時期に、この安価で期待できる薬剤が承認されないのでしょうね?安全性も確率している筈なのに・・。闇を感じるなあ・・
https://kitasato-infection-control.info/swfu/d/ivermectin_20211227.pdf
※木下先生も重症化したので、この中のいつくかが使われたようで。薬以外で気になったのは、ネーザルハイフローと仰臥位。ちょっと調べてみました。
1,ネーザルハイフロー Nasal High Flow™:通常の酸素投与は、数リットル/分で、それ以上は困難であったが、これを用いると30-60リットル/分も可能らしい・・
http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/post_26.html
2,腹臥位療法:何回かそんな体位をとっている患者さんの映像を見たような気がするが、推奨されたポジションのようで、有効らしい。
https://www.mhlw.go.jp/content/000755780.pdf
新型コロナウイルス変異株について
①武漢株(オリジナル):どこで作ったん?武漢P4じゃないよね?
②欧州株:Sタンパクの614がアスパラギン酸(D)⇒グリシン(G)へ。D614G変異。これによりSタンパクの構造が変化して、ACE2への結合能が高くなり、ヒトヒト感染がより起きやすくなった。
その後も様々な変異株が生まれ、置き換わり、現在に至る。現在のオミクロン株について ⇒ 「オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein; RBD; residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。」そして、感染力が強いものの、毒性は非常に低くなり、死亡率もインフルエンザ並の0.1から0.2程度らしい。上気道感染がメインで、肺炎はまれ?もはや従来の風邪ウイルスといってもいいのでは・・?(このあたりは個人の感想です)。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10792-cepr-b11529-2.html
ワクチンの開発
ウイルスを使うワクチン
1, 不活化ワクチン
2, 弱毒ワクチン(生ワクチン)
ウイルスを使わないワクチン
1, 遺伝子ワクチン(DNA,mRNA,ウイルスベクター・・)
2, VLPワクチン(ウイルスのタンパク質で見かけがウイルスに似たものを作る)
3, 遺伝子組み換えワクチン(ウイルスのタンパク質を使う)
l ファイザー、ビオンテック、モデルナ:mRNAワクチン
l ジョンソンアンドジョンソン、アストラゼネカ:ウイルスベクター
l ノバックス、サノフィ:組み換えタンパク
日本で開発中のものは、
l シオノギ:組み換えタンパク
l 第一三共:mRNA
l アンジェス阪大・タカラバイオ:DNA
l KMバイオロジクス:不活化ワクチン(従来の方法のワクチンは、1社のみ)
新型コロナウイルス感染症の眼科的所見は?結膜炎のみで10%程度らしい。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7211077/
この原著の写真を見る限り、何の変哲もない濾胞性結膜炎(他のウイルス性結膜炎と、絶対区別つかない感じ・・)。SARS-CoV-2の感染が成立するには、S蛋白がACE2に結合して、TMRSS2がS蛋白を切断することが必要で、眼表面には、ACE2とTMRSS2はともに存在するようなので、結膜炎は十分おこりうる・・?
https://www.niid.go.jp/niid/images/research_info/vir-2021-6.jpg
COVED-19の重症化は、サイトカインストームが原因。
https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/4565
https://www.qst.go.jp/site/press/40364.html
『①新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症であるCOVID-19に伴う致死的な急性呼吸器不全症候群は、免疫系の過剰な生体防御反応であるサイトカインストームが原因であると考えられる。②サイトカインストームは、遺伝子の転写因子であるNF-kBとSTAT3の協調作用により、免疫関連タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化され、炎症性サイトカインの産生が異常に増加し起こる。③COVID-19にみられる急性呼吸器不全症候群の治療薬の標的としてIL-6 アンプが有望であり、IL-6-STAT3経路の阻害が有効であることを示唆した。』