ちょっと気になる疾患 その3 眼瞼縁炎 (1251)
2022年 05月 13日

この眼瞼縁の炎症性疾患は、しばしばその原因がわかりにくかったり、治療がうまくいかなかったり、治療が長引いて患者・医師双方にとって粘り強い対応が必要だったりするので、開業医にとって厄介な疾患となる。ちょっと文献にあたりつつ、知識を整理してみようと思う。

眼瞼の前側は皮膚で、裏側は結膜だが、その間の眼瞼縁はちょっと特殊なエリアになる。この眼瞼縁の睫毛根部より皮膚側を前部、マイボーム腺開口部付近を後部とよんでいる。どちらも角化重層扁平上皮で、皮膚粘膜移行部があって結膜、つまり角化しない重層扁平上皮となる。前部なら純粋な皮膚疾患もあるだろうし、後部はマイボーム腺開口部なので、このあたりの病態は、当然ながら眼表面疾患と関連してくる筈。マイボーム腺機能不全があって、皮膚粘膜移行部が前進してくると、このあたりは、皮膚から粘膜に置き換わることも多い。
1,前部眼瞼縁炎
ブドウ球菌性眼瞼縁炎:眼瞼縁睫毛根部のブドウ球菌の感染。睫毛根部にフィブリン様付着物(カラレット)が特徴。ブドウ球菌の外毒素の影響で、皮膚びらん・潰瘍・結膜炎・SPK(下方)などが生じる。免疫反応によるカタル性角膜浸潤や角膜フリクテンにも注意。通常、感受性のある抗菌剤の点眼・軟膏、時にステロイド軟膏も併用して対応。
※時に難治のこともあり、毛根や皮脂腺に毛嚢虫が生息していていることもある。治療としては、睫毛根部を中心とした眼瞼清拭をアイシャンプーやティーツリー洗顔フォームで行う。
※睫毛根部の皮脂腺(Zeiss)、汗腺(Moll)の急性化膿性疾患が外麦粒腫で、マイボーム腺の急性化膿性疾患が内麦粒腫。
2,後部眼瞼縁炎(=マイボーム腺炎)
これはマイボーム腺開口部の炎症ということなので、通常マイボーム腺炎。マイボーム腺開口部の所見(発赤腫脹)に注意する。非常に眼表面に近い部位での炎症性疾患なので、眼表面上皮障害を伴うことが多い。これに関連して角膜にSPK,炎症細胞浸潤、そして血管侵入を認める病態がマイボーム腺炎角膜上皮症と呼ぶ。複雑な形をした角膜上皮障害の原因がマイボーム腺炎にあるもので、診断治療が難しい。フリクテン性(若い女性に多い)と非フリクテン性がある。Pアクネスが原因と思われる場合は、セフェム系、その後クラリスロマイシン内服。点眼もセフェム系。ちょっと良くなったと思って治療中断すると再発しやすいようで、長期にわたる治療が必要。私の手には負えないかも。
- https://takeganka.exblog.jp/32563102/
- https://takeganka.exblog.jp/29784232/
- https://takeganka.exblog.jp/27620934/
3,マイボーム腺機能不全(純粋には眼瞼縁炎とは異なるが・・・)
この疾患は、マイボーム腺分泌機能が低下することが多く、症状としては、不快感・異物感・乾燥感・圧迫感など・・・。
マイボーム腺開口部周囲異常所見:として、血管拡張・粘膜皮膚移行部の移動・眼瞼縁不整
マイボーム腺開口部所見:
- plugging :開口部が白く固まった脂で閉鎖されている
- pouting :白い脂が飛び出てる感じ?
- ridge:白い脂が詰まった開口部と隣接する開口部との間が白い脂で繋がっている感じ?
※要するに成分が変化して、固まったマイボーム腺分泌物(脂)が開口部付近に詰まったり、飛び出たりしている所見かな・・。このような症状と所見があればMGDと診断する。
上眼瞼を持ち上げてちょっと押さえると、マイボーム腺から脂が出てくるのが観察できるが、これがグレード分類されている(島田)。グレード2以上を異常と判断するらしい。
- グレード0 透明なmeibumが容易に出てくる
- グレード1 軽く圧迫すると混濁したmeibumが出てくる
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- グレード2 中等度以上の圧迫で混濁したmeibumが出てくる
- グレード3 強く圧迫してもmeibum出て来ない
マイボーム腺機能不全は蒸発亢進型ドライアイの原因となりうるし、マイボーム腺炎(後部眼瞼縁炎)はマイボーム腺機能不全と重なる部分が大きいし(同じものと考える人もいるらしい・・)、MGD・ドライアイ・後部眼瞼縁縁は図のように重なると考えてられている。
https://oscb-berlin.org/overview-on-meibomian-gland-dysfunction-mgd-1
