2022年 07月 17日
目の痛み・・(1257)

年老いた愛犬。散髪してきました・・
たまたまWEBの講演で、気になるテーマの話を聴いたので、田川義晃先生の論文を読みながら、再度知識を整理してみた。気になっているのは、眼の痛み。
以前日眼のシンポジウムでたまたま拝聴した講演の記録がこれ⇒
https://takeganka.exblog.jp/29795689/
l あたらしい眼科 36(6):713-718,2019
l あたらしい眼科 34(3):341-346,2017
l あたらしい眼科 34(3):329-333,2017
患者さんが異物感や痛みを訴えて受診される事は非常に多い。診察して、その原因が見つかれば一安心。痛みが強くて辛いのは、ギザギザの異物が上眼瞼裏の結膜にトラップされて、なかなか取れず、角膜を傷だらけにしてしまった場合かな。これは除去してあげると、かなり感謝されます^^; それ以外にも、よくある原因としては、角膜異物、結膜結石、睫毛乱生、眼瞼縁炎・麦粒腫、ドライアイ・・・・様々だ。ステルス的な原因としては、洗顔フォームに入っているスクラブとか、マイボーム腺開口部に入り込んだ睫毛がの切れ端が少しだけ顔をだしている場合とか・・。ただ、しばしば、原因が見当たらない事もある。この場合、
- ①医師(私)がへぼで見落としている
- ②通常の検査では原因疾患が検出不能
①の場合、何が何でも原因検索に時間を割く必要があるし、①の確率がゼロなら、②の可能性についての説明に時間を割く必要がある。30年以上眼科医をしているせいか、②のケースについての話は非常に興味がでてきた。
痛みの定義とは、『実際に何らかの組織損傷が起こったとき、または組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現される、不快な感覚や不快な情動体験』・・らしい。非常にまどろっこしい・・。眼科領域では、痛い以外に、乾く・ゴロゴロする・しみる・しばしばする・・・など様々な言葉で表現される。これに方言が加わると、実際患者さんがどのような『痛み』にさらされているのか、推定困難なことも多い。私は、いつも『からい』と言われるおばあちゃんに困った経験がある(^^)
予備知識 ―――――――――――――――――――――
代表的痛み受容体
- TRPV1:機械・熱・酸
- TRPM8:冷・浸透圧
- Piezzo2:機械
- 例1:ヘルペス角膜炎後:機械・熱・酸刺激に対する閾値上昇、令刺激閾値不変。
- 例2:ドライアイ:全て閾値上昇
何も異常所見がないのに、眼科愁訴が強いことで有名なのがBUT短縮型ドライアイだが、「BUT短縮型ドライアイと角膜知覚の臨床試験(※Cochet-Bonnetによる判定)」では、なかなか明瞭な結果は得られなかったようだが、どうやら角膜知覚が低下しているとアイペイン症状強いらしい。(本来なら知覚が低下しているので痛みは少ない筈だが・・)。これが・・
⇒神経障害性疼痛 ※代表的ケース:帯状疱疹ヘルペス、眼科手術後、レーシック後など
- ① 痛覚過敏 弱い痛み⇒強い痛み
- ② アロディニア 触覚⇒痛覚
- ③ 自発痛 ゼロ⇒痛み
※ドライアイにおいても、末梢神経障害⇒ 角膜知覚低下 ⇒ 神経障害性疼痛・・というパターンなのか。
再び、痛みの定義:『実際に何らかの組織損傷が起こったとき、または組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現される、不快な感覚や不快な情動体験』 定義というものは、あらゆる方面に齟齬がないように配慮されるものなので、こんなまどろっこしい表現となる。ドライアイに伴う様々な不快な症状も『痛み』の中に入ってくるらしい。だいたいドライアイは、所見が非常に強くても症状が軽微なことも多いし、所見が殆どないのに愁訴だけが強い事もある、とらえどころがない疾患だが、問題になるのは、所見が殆どなくても、所謂ドライアイ症状が強い場合の考え方。一体どうすればいいのか・・・個人的にも長い間の懸念の一つだった。以前、ベンゾジアゼピン眼症(※)に興味をもったのも同じ理由だった。通常の検査所見で何も異常がない場合、『何もありません。心配ないですよ・・・』と言ったところで解決しない。こんな状況で提唱された概念:角膜神経障害性疼痛 (cornealneuropathic pain) の話を聞いてしまったので、非常に興味を惹かれた。
※ https://takeganka.exblog.jp/27705216/
期待される治療薬
- ヒアルロン酸ナトリウム:神経に作用して、直接痛みを抑制する効果あり?1回/日点眼でも有効なこともあるらしい。
- 自己血清点眼:角膜知覚神経を再生する?ただ、非常にハードルの高い治療。
- TRPV1阻害薬:機械・熱・酸刺激の受容体の阻害薬が開発中らしい(SYL1001)。
- プレガバリン:神経障害性疼痛の治療薬。ひょっとしてドライアイにも効くかも・・・
- カルバマゼピン:効くかも・・・
- デュオキセチン:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)。抗うつ作用をもつ、糖尿病の末梢神経障害性疼痛に適応がある薬剤。心因性要素の強い場合、有効かもしれない・・
- 星状神経節ブロック:有効かもしれない・・。
- 認知行動療法:とりあえずじっくり話を聞いてみる?
- l 痛いから動かない
- l 動かないからさらに動かせなくなる
- l 痛みが怖いから動けない
- l 動いて痛い経験をすると更に動くのが怖くなる
※この悪循環からの脱却が慢性疼痛克服への道らしい。ドライアイでも?