第450回 大阪眼科集談会 その4「ぶどう膜炎治療のトピックス」(1217)
2022年 10月 17日

今年は行けてないなあ・・
「ぶどう膜炎治療のトピックス」
南場 研一 先生(北海道大学)
H4年北大卒
- サルコイドーシスの診断に重要なポイント
- マルチモダルイメージング
- 忘れてはいけない感染性ぶどう膜炎
- TNF阻害薬
- 免疫賦活化に伴うぶどう舞う
昔一番多かったベーチェットは激減し、現在はサルコイドーシスが最も多い。まだ若かった頃、病棟にいつも何人かベーチェットの患者さんがおられたし、教授の外来にも、何人も通院しておられたのだが・・・。原田病は昔も今の同じような頻度。現在の三大疾患の順位は、①サルコイドーシス ②原田病 ③ベーチェット病。
1, サルコイドーシスの診断に重要なポイント
眼圧上昇があって、隅角がこんな感じだったらサルコイドーシスほぼ決定かな。当院の隅角鏡は、20年以上使っているローデンストックのRGOです。
リンデロン点眼で眼圧下がり、血液検査で、ACE、KL-6、sIL-2r(可溶性インターロイキン2レセプター)などが上昇していて、BHL陽性なら確定。
演者は、リンデロン点眼は入れないで紹介してほしいと言われるが、眼圧が40や50もあれば、なかなかそうもいかないし、翌日診てもらえるならいいけど、予約いれたら、1-2週間後だったりすると、絶望的。さらに演者は、リンデロンを漸減して、最後1回/日を中止することなく継続せよと・・・。再発予防と通院継続の為?そう言われてもなあ・・
https://www.jssog.com/wp/wp-content/themes/jssog/images/system/guidance/2-2-2.pdf
Suzuki K, Namba K, Mizuuchi K, Iwata D, Ito T,Hase K, Kitaichi N, Ishida S. Validation of systemic parameters for thediagnosis of ocular sarcoidosis. Jpn J Ophthalmol. 2021 Mar;65(2):191-198. doi:10.1007/s10384-020-00793-6. Epub 2021 Jan 9. PMID: 33420542.
サルコイドーシスでは、ACE上昇と胸部X線のBHLが有名だが、この論文だと、『血清 sIL-2R レベルと造影胸部 CT での BHL が眼サルコイドーシスの診断に有用なバイオマーカー』らしい。
※sIL-2R;『可溶性インターロイキン-2レセプターは、活性化したリンパ球等の細胞が発現するインターロイキン-2レセプターのα鎖が血中に遊離したものであり、免疫防御機構の活性化に伴い血中濃度が上昇することが報告されている。保険上は非ホジキンリンパ腫、ATL(成人T細胞白血病)の診断補助及び同疾患と既に確定された患者の経過観察に使用されている。』
2, マルチモダルイメージング
様々な画像診断を駆使して・・
- l FA
- l ICG
- l EDI-OCT
- l FAF
- l LSFG
EDI-OCTやSS-OCTがあれば、脈絡膜が厚くなっている場合の検出が容易。これは、原田病の診断に有用で、特徴的な所見の脈絡膜肥厚・SRDなど容易に検出できる。脈絡膜の厚みは治療効果判定や再発の診断にも有用。
超広角FA(ハイデルベルク)
これを用いると、原田病の特徴的な所見:点状蛍光漏出が多発・そして後期に蛍光貯留や、視神経の過蛍光以外にも周辺部での変化(蛍光漏出)も検出できる。
※同じ器械で、ICGも可能。
LSFG:マニアックな器械だが、これを用いると、原田病で脈絡膜が非常に厚くなっている時に、脈絡膜循環が悪く、脈絡膜厚が薄くなると、循環も改善する状況が観察可能。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25619665/
Hirooka K, Saito W, Namba K, Takemoto Y,Mizuuchi K, Uno T, Tagawa Y, Hashimoto Y, Ishida S. Relationship betweenchoroidal blood flow velocity and choroidal thickness during systemic corticosteroidtherapy for Vogt-Koyanagi-Harada disease. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol.2015 Apr;253(4):609-17. doi: 10.1007/s00417-014-2927-5. Epub 2015 Jan 27. PMID:25619665.
⇒『循環障害と脈絡膜の厚さの増加が VKH 病の病因と相互に関連していることを示唆しています。LSFG は、EDI-OCT と同様に VKH 病の脈絡膜炎活動性を評価する指標として有用』
※原田病で、脈絡膜が厚くなるのは、血管拡張の結果ではなく、細胞浸潤の結果で、当然循環は悪くなるので、MBRは低下。症例 19歳女性、両眼のSRD(+)、脈絡膜肥厚(+)。ただICGで低蛍光斑(+)、FAで低蛍光⇒過蛍光・・・これはVKHではなくて、APMPPE?
※CSCでは、同じように脈絡膜が厚くなって、SRDがあっても、LSFGではVKHと大きく異なり、MBR大きい値(脈絡膜血流亢進)を示すので、容易に鑑別可能。原田病と同じパターン(脈絡膜が厚くなって循環が低下)を示すのが、AZOOR、MEWS、PIC、AMN・・・
3, 忘れてはいけない感染性ぶどう膜炎
CMV網膜炎、ARN、ヘルペス性虹彩炎・・・
症例2:75歳男性。片眼虹彩炎、眼底は網膜出血と血管炎、癒合蛍光のある滲出斑・・・ARN?
ARNとして治療開始したが、前房水PCRではCMVのみ。高血圧・糖尿病・心不全・関節リウマチ・・・などの全身的は背景があって発症。
https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/inspection_dr.html
⇒『活動的なCMV感染は、ウイルス分離、CMV抗原血症(アンチゲネミア)、ウイルスDNAやRNAのPCRなどでの検出、細胞・組織病理学的な感染細胞の検出などをもって診断する。』
眼科においては、CMV抗原血症に加えて、前房水・硝子体のPCRが決め手。
※CMV抗原血症検査⇒『末梢血より分離した好中球を、スライド1枚に対して15万個サイトスピンによりスメアにしたものを用いて、CMVpp65抗原に対するモノクローナル抗体と反応させ、ペルオキシダーゼ法によりCMV抗原陽性細胞を検出する方法で、半日以内に結果が得られる。我国では、モノクローナル抗体の違いから、HRP-C7法とC10/11法があるが、同様な結果が得られる。』 これが陽性なら、全身の治療が必要だが、これが陰性で、前房水・硝子体PCR陽性なら眼の治療(ガンシクロビル硝注)だけでいいらしい。
症例2:55歳男性。軽い虹彩炎、硝子体混濁、白色滲出斑、網脈絡膜萎縮・・ステロイド治療(内服・STTA)に抵抗。ヘルペス属ウイルスPCR陰性、遺伝子再構成モノクローナリティー陰性(リンパ腫・白血病の否定)、結核PCR陰性、IL-10/IL-6比<1、異型細胞(-)・・悪性リンパ腫も否定・・結局は眼トキソプラズマ。滲出斑消炎後に色素性瘢痕となるとトキソプラズマの雰囲気が出てくるが、そうなる前の眼底所見では、わかりにくい・・・・
症例3:48歳男性。片眼虹彩炎で、ステロイドSCI・内服・STTA・・でも悪化。紹介受診時の眼底は、出来上がりのARN。前房水からVZV。フルメディケーション。
※全て、ステロイドで治療しつつも、元の感染源に対する治療が必要(ガンシクロビルだったり、アセチルスピラマイシンだったり、アシクロビルだったり・・・)。
4,TNF阻害薬
ぶどう膜炎の治療は、基本ステロイドで、感染性の場合は、感染源に対する治療を併用するが、非感染性の場合、ステロイドが長期にわたると副作用が回避不可能になるので、ステロイド代わる治療薬が使われる。シクロスポリンやメトトレキサートも一時期使われたが、現在の主流は(?)
① インフリキシマブ(レミケード)
② アダリムマブ(ヒュミラ)
元々関節リウマチ治療に使われだして、眼科領域ではベーチェットから始まり、様々なぶどう膜炎で、単独で、或いはステロイドとの併用で使われている。勿論感染症がないことが条件だが。これによって、難治性・遷延性ぶどう膜炎の治療をステロイドの量をおさえつつ、コントロール可能な例が増えたようです。その分副作用も少ない。遷延性の原田病でのステロイド減量率60%以上。ベーチェットではアダリムマブ単独で治療可能だが、原田・サルコイドーシス・特発性ではステロイドとの併用が基本。
TNFは膠原病・自己免疫疾患の発病に関与するが、感染防御にも重要な役割をしていて、TNF阻害薬は、感染症(肝炎・結核・・)の悪化に配慮しつつ・・
5,免疫賦活化に伴うぶどう膜炎
免疫チェックポイント阻害薬
https://www.immunooncology.jp/medical/io-resources/basic/immune-checkpoint-inhibitor
『免疫チェックポイント分子は、免疫恒常性を保つために自己に対する免疫応答を抑制するとともに、過剰な免疫反応を抑制する分子群』だが、がん細胞は、これを利用して、免疫を抑制することで、増殖していく。がん細胞にこれを利用させないようにするのが、免疫チェックポイント阻害薬ということになる。この免疫チェックポイント分子の代表的なものが、CTLA-4やPD-1。有名になったオプシーボは、T細胞のPD-1と結合して免疫の働きにブレーキがかからないようにする「免疫チェックポイント阻害薬」。このもともと『自己に対する免疫応答を抑制』する薬剤なので、その部分に関連した疾患の発症が考えられる⇒irAE(免疫関連有害事象)非常に多彩なirAEがあるが、その中にぶどう膜炎もあり。
※新型コロナワクチン関連ぶどう膜炎(これも免疫賦活化に伴うもの?)
https://ec9fd949-c894-4a1a-b830-54a6a14acd46.usrfiles.com/ugd/ec9fd9_4eedf51f295845a9b11b30176e285815.pdf
何故か原田病が最も多い。
