第5回Abeno Ophthalmic Seminar その3 (1221)
2022年 11月 29日

特別講演
視路疾患と視野:構造と機能は何故乖離するのか?
神戸大 中村誠 教授
いつも興味深い内容の話なのだが難解で、今回も予想通り集中して聴くと非常に疲れる講演だった。
- 視索症候群
- 緑内障性視神経症(GON)
- 視神経炎と非動脈炎性前眼部虚血性視神経症(NAION)
- NAIONとGON
1,視索症候群
※ 左視索症候群⇒同名半盲
完全な同名半盲(例えば下図の4)。左の視索が障害されると、


右眼 左眼
右眼の鼻側線維が障害(耳側視野障害)(⇒RAPD):視神経萎縮(耳側・鼻側の帯状萎縮)
左眼の耳側線維が障害(鼻側視野障害):視神経萎縮(上下の砂時計型萎縮)
※このRAPDは、フィルターを使うことで、定量化可能。
⇒RAPD(相対的瞳孔求心路障害)陽性:暗所でswinging flashlight testで、対光反射を確認.左右交互に光を当て,患眼に光を当てると両眼ともに散瞳し,僚眼に光を当てると縮瞳。
※あまり理解できなかったが、刺激強度と縮瞳量の解析から、機能障害>構造障害と結論。
(同じ縮瞳量になる光刺激強度と交叉神経線維の量を解析して・・・・)
2,緑内障性視神経症
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2110881/
緑内障においては、構造的変化が先行し、その後に機能的な変化が検出されると言われているし、実際にOCTで異常が検出されていても、視野検査で異常が検出されない状況(前視野緑内障)にしばしば遭遇する。これは、構造的変化が、機能的変化に先行している証拠なのだろうか?
RAPD量は視野の左右差と直線回帰、構造の左右差(cpRNFL/GCL)とも直線回帰。もし構造障害が機能障害に先行するなら、直線ではなく、S字状回帰するはず。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1410102616
この論文で(2009)、演者は、この緑内障の常識『緑内障性視神経症は構造障害が機能障害に先行する』に疑問を呈している。これは緑内障以外の視神経障害においては、あり得ないことが前提のようです。
10年後Hoodは、この論文で、中村先生と同じ意見に・・・?
DoesRetinal Ganglion Cell Loss Precede Visual Field Loss in Glaucoma?
Quigleyらの有名な4つの論文を再度チェックして、緑内障において、構造障害が機能障害に先行することは間違いだと指摘。通常使われる視野検査の結果とOCTで検出される構造的変化なら、OCTの結果が先行しているだけ。Quigleyらに騙されてはいけない?
※まあ研究者目線では、そうなのかもしれないけど、現実にOCTで検出される構造的変化(cpRNFLやGCL菲薄化)は、通常の視野検査の異常より早期に検出されるのだから、臨床家としては、Quigleyに騙されたとは思ってませんが・・・
3,視神経炎と非動脈炎性前眼部虚血性視神経症(NAION)
https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/shinryo/shinnai/nmo.html
視神経脊髄炎スペクトラム障害:視神経炎・脊髄炎などを引き起こす中枢性自己免疫疾患
- 抗AQP4抗体陽性(12%):女性に多い、水平性半盲
- 抗MOG抗体陽性(10%):性差なし、中心暗点
- どちらも陰性(77%)
- 症例:抗AQP4抗体陽性視神経炎で、下方水平性半盲を呈する症例のOCT所見:黄斑部網膜内層厚は上下に差がない!
- 症例:抗体陰性視神経炎で、下方視野欠損。治療により回復したが、黄斑部網膜内層は上下に差がなく菲薄化。
- 症例:抗AQP4抗体陰性の視神経炎で、上方視野欠損。治療により回復したが、黄斑部網膜内層は、上下に差がなく菲薄化。
同じ網膜内層の菲薄化があったとしても、神経成分と非神経成分のダメージの比率が異なる。抗AQP4抗体陽性視神経炎の場合は、主として神経成分が障害されるので、網膜が菲薄化すれば、視野は悪化するが、抗AQP4抗体陰性の場合は、非神経成分の障害比率が大きいので、網膜が菲薄化しても、あまり視野は悪化しない。
https://takeganka.exblog.jp/24913929/
https://takeganka.exblog.jp/30421533/
このあと、話は更に複雑で、こっちがノックアウト・・
何故脳内・視交叉に病変が及んでも水平性半盲をきたすのか?
MRI病変局在と視野の乖離とか・・・
視神経炎の炎症の局在と視野変化との関係だが、水平性半盲は、どのあたりの病変で発生するものなのか。結果は、病変の局在にかかわらず、水平性半盲あり。古い教科書的理解では無理で、多分脳内の神経線維走行は、まだまだ未解明な部分あり。
- l NAION
- l 抗AQP4陽性ON:高齢者多い。水平性半盲多い
- l 特発性ON
- l 抗MOG陽性ON
※緑内障は、水平性に近い半盲を呈し、しかも上方の障害が多い。