2023年 01月 15日
第5回大阪眼疾患セミナー その1(1224) 緑内障診療ガイドライン

今年最初に出会ったジョウビタキ♡
講演Ⅰ ガイドラインに基づく緑内障薬物治療戦略と今後の展望 羽入田明子(慶應大)
最近のブログは、講演内容の要約というよりは、講演メモを参考にグダグダと感想を書き連ねることが多いが、特に緑内障関連の講演だと特にそうなってしまい、時間とともに、どんな講演内容だったか定かでなくなる・・

もう15年ぐらい前になるが、講演で聴いた話に触発されて、緑内障『100歳まで安心プラン』を立てようとしたが、なかなか絵に書いた餅は現実にはならない。理想的な視野測定が定期的に行えたとして、進行速度が、1-2年して明らかになったとして、『100歳まで安心プラン』と厳格に守ろうとすれば、点眼がてんこ盛りになったり、非常に多くの患者さんに濾過手術を受けてもらう必要があったりするのではないだろうか。講演だから仕方ないが、若干綺麗事が多い気がするなあ・・
綺麗事ではない悩みとしては、
- フルメディケーションで眼圧は十分に低い(例えば10mmHg前後)けれど、まだ緑内障が進行する場合、濾過手術を受けてもらうのか・・
- 既に点眼が3成分も入っていても、まだ不十分(眼圧が高め、視野が悪化)なら、4成分、5成分と増やすのか・・。その成分の一つ一つは本当に有効に作用しているのか・・
- 若い人でも、信頼できるハンフリー視野が行えない場合もあるが、経験上では85歳あたりから、視野結果の信頼性がかなり低下し、緑内障進行の正確な判定が困難になる。そんな状況下で、85歳の患者さんが、このままだと90歳で危険ゾーンに突入確実な場合、濾過手術は必要なのか。
- 緑内障治療に携わってもうすぐ40年になるが、最初チモプトールとサンピロの2成分しかなかったのが、今では、数え方によっては11成分もある。(現実的には5-6成分ぐらいだが)。手術もロトミー(externo)とレクトミーだけだったのが、今では、新しいレーザー治療やMIGSも加わり、手術の選択肢も増えている。つまり、30年前にレクトミーされた患者さんも、今なら、それ以外の選択肢があったのかもしれないし、今後も更にリスクの少ない選択肢が増える可能性がある。
※ここで愚痴を言っても仕方ないが、流出路手術の適応がある患者さんは幸せだと思う。あまり深刻でない緑内障があって、少し眼圧が高めで白内障が少し出てきた時に白内障+ロトミー(interno)を受けてもらう。よく見えるようになって、眼圧も下がるので、ハッピー確率高い。眼圧がかなり高くて、白内障がないなら、ロトミー(interno)単独を受けてもらっても、あまり不幸にならない。ただ、濾過手術が必要な場合は、ハッピー確率が下がる気がする。術後、浅前房や脈絡膜剥離に苦しめられたり、リークが止まらないとか、感染するとか、濾過胞が小さくなって(消失して)眼圧上昇すると、より成功率の低い濾過胞再建術が必要になる。白内障が出てきて手術したら、更に濾過胞が小さくなったりすることも・・・。最悪感染で失明することも。臨床経験が長くなるほど、嫌な記憶が蓄積されていき、なかなか積極的に濾過手術を勧めることなんかできない。濾過手術を除外してしまうと、『100歳まで安心プラン』の達成はなかなか困難なものになる。
点眼や流出路手術で早め早めの治療介入をして、緑内障悪化速度を極力抑えつつ、どうしても更に眼圧を下げなければ、将来の失明確率が高い場合だけ、その時点で最もレベルの高い濾過手術(術後管理も含めて)してくれる術者のところに送る・・。それがベストかなあ・・・
新しい緑内障ガイドライン(第5版)に基づいた判断は?
- 高眼圧症の治療を始める基準(CQ1)
- 正常眼圧のPPG治療に関して(CQ2)
- 第一選択薬で眼圧降下不十分な時の薬剤追加(FQ1)
- 眼圧下降以外の緑内障治療薬(FQ3)
1,高眼圧症の治療を始める基準(CQ1)
ただ眼圧が高いだけで、視神経所見・視野に異常がない場合に、どんな時に治療するのか。リスクファクターとしては、 ①年齢 ②眼圧 ③CD比 ④PSD ⑤乳頭出血 ⑥角膜厚など・・・と言われるけど、
- 年齢:年齢が高いとリスクが高いと言われるが、私は20歳のOHと80歳のOHなら、前者の方が心配だ。
- 眼圧:眼圧は25より30の方が心配。これは当然かな・・
- 乳頭出血:これはどうなのだろう。DHがあるということの意味は、岩田先生の言葉じゃないけど、乳頭において緑内障性視神経障害が進行していることと同義だとしたら、既に緑内障性変化が始まっていることになる。
- PSDが大きい(これって眼圧の標準偏差のことかなあ):以前から何度も聴いているが、同じ程度の眼圧なら変動が大きい方が、緑内障進行リスク高い。これは真のリスクファクターかも。
- CD比:これも既に視神経乳頭において緑内障性視神経障害が始まっている可能性がある。ただ、篩状板が元々大きければ、陥凹が大きくなる筈で、これが視神経の脆弱性に関連しているなら、リスクファクターだが、違うかな・・。
- CCT薄い:角膜が薄ければ真の眼圧はもっと高い筈で、②と同じリスクかもしれないし、例えばORAのCH値のようにlaminacribrosaの脆弱性につながるリスクファクターかもしれない。
※以下のサイトで、緑内障は発症予測ができるらしい(東洋人には当てはまらないかもしれないが・・・)
https://ohts.wustl.edu/wp-content/uploads/2017/02/Points-System.pdf
2,正常眼圧のPPG治療に関して(CQ2)
PPGをどう扱うか。いつも思うことは、大規模スタデイのPPGと今自分が見ているPPGが同じものなのか・・。PPGは視野に異常がないけれど、例えばOCTで視神経乳頭所見(cpRNFLを含む)やGCC解析結果が緑内障を示している場合だろう。古典的には、乳頭陥凹の一部にノッチがあって、同部に連続してNFLDやDHがある場合かな。これを治療するかと言われたら、迷わず治療すると答える。視野異常が検出されていなくとも、緑内障は発症していると確信できたら。
もちろん、PPG患者さんが、高齢(例えば85歳以上)で、片眼のみの所見なら治療しないし、たとえ40歳でも、PPGから視野変化(+)まで何十年もかかることが明らかであれば治療しない(知らんけど・・)・・という選択肢もあるだろうが、OCT的に明らかに緑内障であれば、たまたま視野異常が検出されていないからと言って、治療しない・・という選択は考えにくい。仮に、治療しない場合5年ぐらいで視野異常が出てくるとして、治療すれば10年は視野異常が出現しないというエビデンスがあったとしても、患者さんが40歳なら治療するだろう。80歳以上なら治療しないと思うけど。
※紙に書かれたある基準に則って、物事を決めるというより、様々な要因を考慮して総合判断している。様々な要因とは、眼圧(絶対値・変動)、緑内障性視神経障害の評価(通常OCT)、年齢・性別・性格・住居・経済状況・・・・実に多くて、紙に書くと混乱しそうだ。そこに登場したガイドライン。これを見ながら治療するとしたら、大変やなあ・・
正常眼圧PPGでも、危険因子があると治療開始の基準になる。DHの出現は、視神経乳頭において緑内障性視神経障害が進行している証拠だとすれば、放置すればその後視野異常の出現確率は高いと予想されるので、治療開始だ。中心視野から障害されやすいとすれば尚更・・。OCT(Temporal raphe sign, MP bundle)や10-2で異常があれば、自分の中では立派な緑内障なので、普通は治療します。
3,第一選択薬で眼圧降下不十分な時の薬剤追加(FQ1)
通常、PG製剤、今の言い方だとプロスタノイド受容体関連薬。ラタノプロストから使い始めることが多いが、DUESが気になるならエイベリスかな。若い人ほど、エイベリスの比率が高いかも。ノンレスポンダーだと仕方なく他の薬剤を使うけど・・。これで不十分な場合は、点眼を強化するのだが、
- ラタノプロスト+β遮断剤の配合薬
- ラタノプロスト+他の点眼薬(β・CAI・α2・ROCK阻害)
※なるべく点眼薬は少ない方が望ましいが、どうしても多くの場合多剤併用になってしまう。配合剤は元々嫌いだったが仕方ない。ただ、長い間患者さんの眼圧をこまめに見てきた印象としては(低いエビデンス)、配合剤よりも別々に点眼した方が、よく眼圧が下がっている印象があるが、複数点眼が歯抜けになるより、配合剤を忘れずしてくれる方がいい。このあたりは、患者さんのキャラクターと相談かも。
※アイファガン(ブリモニジン)点眼は、元々視野障害進行抑制効果(神経保護)が期待された薬物で、使ってみると意外に眼圧も下がったので、お気に入りの点眼だが、好発するアレルギー性結膜炎がネックだった。ただ、配合剤(アイベータ)だと、その発症率が半分以下になるという報告もあるようです。これはチモロールとの配合のお陰のようで、アイラミドやグラアルファはどうなのだろう。
4,眼圧下降以外の緑内障治療薬(FQ3)
薬物による眼圧下降がそろそろ限界に近づいてきたのか、十分眼圧下降しても、緑内障が悪化するケースに対応するためか、神経保護に注目が集まって久しい。徐々に治験も増えているが、まだそれほど有望な薬物はない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8473801/
GlaucomaClinical Research: Trends in Treatment Strategies and Drug Development