第454回 大阪眼科集談会 その3(1251)
2023年 06月 25日

「【ゆっくり解説】緑内障手術2023」稲 谷 大 先生(福井大学)
1,白内障のある開放隅角緑内障はMIGSがおすすめ。
緑内障を伴った白内障にどんな手術を行うのか。これは、何故手術をするのかによって異なると思う。
緑内障が手術適応で、白内障もあるので、同時手術するのなら、達成したい眼圧レベルが前提としてあって、術式を選ぶことになるはず。ただ、白内障が手術適応で緑内障もある場合には、白内障単独手術よりは、眼圧下がる術式として、+MIGSはありなのだろう。この場合、かつては、トラベクロトミー(externo)が選択されたのだが、最近は圧倒的にMIGSと呼ばれるいくつかの術式が選択される。トラベクトーム、谷戸式マイクロフック、カフーク、糸ロトなどのトラベクロトミー(interno)、或いはiStentなど。
ここで、レクトミー術後の視機能の話。CIGTSの結果を見ると、レクトミーは確かに眼圧は下がり、視野が維持できたとしても、視機能は維持できない?他のスタデイでも、視力低下することが多く、なかなか回復しない。術後白内障が進行して白内障手術を追加して視力回復しても、その後悪化するし、同時手術で一旦視力改善しても、その後徐々に低下する。生涯良好な視力を維持しようとしたら、レクトミーは避けたほうがいい?やはり、MIGSがオススメ?
何か若干レクトミーを悪者にしている感じがする。積極的に行う術式ではないが、どうしても、10前後にまで眼圧下降しなければ、視野進行を押さえられないケースは存在するので、仕方なく選択せざるを得ない場合はあると思う。勿論、限られた術者が、慎重に丁寧に行って、術後のケアもしっかりして、あまり危険でない濾過胞を作るべきで、そんな症例を多数経験している。勿論そうでない場合も多数経験している。だからこそ、MIGSとは異なり、レクトミーは誰でも手を出していい術式ではないと考えます。
2,MIGSラインナップ
MIGSの話。
白内障手術との同時手術としては、初期の緑内障だけでなく、後期の緑内障であっても、MIGSを選択する術者が増えているらしい。
例えば、トラベクトーム、カフーク、谷戸式、iStentなどは、術後ケアは、白内障単独手術とあまり差がないし、入院期間も同様。レクトミーだとそうはいかない。谷戸式は何度も滅菌して使えるスパーテルのようなものを使用するのでコスパ抜群だし、糸ロトは糸の値段だけだが、トラベクトームは本体がそもそも高く、使い捨てのハンドピースも高価(8万以上)、カフークも4万以上、iStentは14万も・・。多分、線維柱帯を切開したい場合は、谷戸式が一番コスパが良くて、白内障手術に簡単にMIGS併用したい場合は、iStent Inject Wかな。元々緑内障手術に慣れてた術者なら、谷戸式を選び、そうでない術者はiStentを選ぶことが多いのかも。
3,プリザーフロマイクロシャント
話題のプリザーフロについて。
通常のレクトミーに代わりうる術式として登場したのが、Ex-PRESS。濾過量が安定しているので、少し安全で、かなり普及しているものの、濾過手術特有の合併症からは逃れられない。徐々に普及しつつある、アーメドやバルベルトはMIGSとは言い難い。そこで登場したのが、より侵襲の少ないプリザーフロマイクロシャント。講習を受けて、ウエットラボ、手術の立会などを経て初めて手術可能となるらしい。枚方のカリスマY眼科も始める予定らしい。
この手術は、一応結膜を切開して、MMC塗布しておいて、特殊なナイフ(ダブルステップナイフ)で強膜から前房へ通路を作り、プリザーフロを挿入する。この特殊なナイフの使い方が若干難しそうだが、Y先生なら、簡単や・・・と言いそう。
所詮、普通の低侵襲の濾過手術だと思っていたら、特殊なのは、このプリザーフロの長さと内径。
https://www.eng-book.com/ebw/HagenPoiseuilleLaw_poiseuille_calculation.do?category=poiseuille
流体力学の基本的な式らしいが、これが、小さな小さな手術で使うチューブにも当てはまるのか・・。上記HPから転記したが、ちょっと講演で出てきた式と違う?すると、このプリザーフロは、生理的房水流出量を流すのに、6.5mmHg。つまりダダ漏れにならず、ちょうといい感じで眼圧下降が期待できる優れもの??
そんな絵に描いた餅のようにいくのだろうか・・。Ex-PRESSが通常のレクトミーより若干濾過量が少ないので、若干安全のようだが、プリザーフロは更に濾過量が少ない?比較的安全な濾過胞が、少し輪部から離れた部位にできる。ただ、現実は、眼圧は若干高めで、最初10以下になっても、徐々に上昇して、14ぐらいに。なんとまあ微妙な眼圧やなあ・・・。
所詮濾過手術。濾過量が少なければ安全だが眼圧下降が不十分。濾過量が多ければ眼圧下降は十分だが危険。東大の三島先生や大阪の湖崎弘先生が生きておられたら、なんと言われるだろう・・。期待は大きいものの、濾過手術の原則は変わりないのかも。流出路手術よりは眼圧下降が大きいが、レクトミーに比べるとマイルドな眼圧下降が、長期にわたって安全・・・という訳にはいかないのかも。枚方のY先生の意見が楽しみだ。
演者の適応は、
- ①眼圧18以上(そりゃあ達成可能が眼圧を考えると、15程度では無理かな)
- ②すでにMIGSが行われている(やはり何回かMIGSしてから。最初からはリスクを考えてちょっと・・)。
- ③初回濾過手術(濾過手術失敗例は適応外)
- ④IOL眼(前房深くてやりやすいから)
※達成眼圧が14程度でも、レクトミーより視機能低下がないのなら、ありなのか・・。濾過手術なのに、その程度の眼圧下降ならありえないのか・・。

