2023年 09月 21日
特別講演 サギングアイ症候群とスマホ内斜視 第455回 大阪眼科集談会 その3(1262)

<特別講演>「サギングアイ症候群とスマホ内斜視」
後関利明 先生(国際医療福祉大学熱海病院)
少し前から、話題になることが多いサギングアイとスマホ内斜視。まとまって勉強する良い機会。
その前に、斜視手術に関する全国調査の報告。斜視手術をしている施設は、全体の約半数で、年間50症例以上行っている施設(34%)が、全手術の83%を占めている。しかも手術施設は、大都市圏に集中。以前の調査より手術施設は減少するが、多数手術する施設は増加。つまり手術は、大都市圏にある斜視専門施設に更に集中しつつあるようで、手術対象としては、20歳以上の症例、そして内斜視が増加。やはり斜視はどんどん専門化しつつあるのかも・・
サギングアイ症候群
ためしてガッテンの最終回で、取り上げられたので、名前が広まってしまい、専門外の眼科医としては、迷惑な話だが、頑張って勉強しないと・・
高齢者の斜視が増加しているらしい。これは、不謹慎な言い方をするなら、加齢による『緩み』から来るもの?ただ、主訴が斜視らしくない。複視を訴えることもあるが、ボヤける・焦点があわないなど・・斜視らしくない愁訴が多い。高齢者にそう言われて、あまり斜視を念頭に置くことはなかったが、今後はそうもいかないようだ。今では、サギングアイ症候群は、成人斜視原因のトップだと。私のような普通の開業医でも、上斜筋麻痺・滑車神経麻痺のようなケースは、しばしば遭遇するが、それより多いらしい。だとすると、スルーしているなあ・・
プリーのMRI画像所見―LR-SRバンド異常とSaggingEye Syndromeとの関係
神経眼科2015 年 32 巻 3 号 p. 291-295の抄録から
『眼球赤道部をリング状に取り囲むコラーゲンを主体とする眼窩結合組織(これを眼窩プリーと称す,以下プリーと略)は,外眼筋の走行を安定させ,かつ外眼筋の起始部として機能的な役割を担う.とくに密なコラーゲンを主体とする厚みが2~2.5 mmの外直筋と上直筋との間のプリー組織(LR-SRバンドと略)の形態と眼位との関係が注目されている.LR-SRバンドに加えて外直筋のプリー組織も加齢の影響を受けやすく,LR-SRバンドの菲薄化,伸展,断裂,さらに外直筋プリーの下垂が眼位異常を生じさせる可能性が指摘されている.なかでも,sagging eye syndromeと称されるタイプの眼位異常ではbaggy eyelid,superior sulcus deformity,腱膜性眼瞼下垂などの外眼部異常も随伴するのが特徴である.』
Saggingeye syndrome: connective tissue involution as a cause of horizontal andvertical strabismus in older patients. Publishedin JAMA ophthalmology 2013 から

高速スピンエコーT2強調シーケンス準コロナ平面磁気共鳴画像。
- 左:外側直筋(LR)-上直筋(SR)帯を示す若年対照者。球中心を通る水平基準線に対するLR筋の正常形態に注意。
- 中、高齢の対照群では、LR-SRバンドがLR筋のたるみに伴って著しく伸長している。
- 右:サギングアイ症候群(SES)におけるLR-SR筋帯の断裂とそれに伴うLRのたるみ。IRは下直筋、MRは内側直筋、SOは上斜筋を示す。
“Heavy Eye” Syndrome in the Absence of High Myopia: A ConnectiveTissue Degeneration in Elderly Strabismic Patients Publishedonline 2008 Oct 18. doi: 10.1016/j.jaapos.2008.07.008 から

- l A 17ヵ月齢は、LR-SRバンドは厚く、充実している。
- l B 4歳児はLR-SR帯は太く充実している。
- l C 57歳はLR-SR帯は細く、超側方に膨らんでいる。
- l D 93歳は、LR-SR帯は非常に薄く、外側挙筋腱膜とほとんど区別がつかない。
※ LLA(緑矢印)-外側挙筋腱膜、LPS-上唇挙筋、SR-上直筋、LG-涙腺、LR-外側直筋、IO-下斜角筋。
このように、外直筋の下垂が左右眼で同程度なら、遠見内斜視(開散麻痺型)となり、非対称なら上下回旋斜視(外方回旋)になる。
Sunkenupper eyelid(SUE)という、DUESのような上眼瞼の陥凹、腱膜性眼瞼下垂、下眼瞼の脂肪突出を伴う顔をSagginglike faceと呼ぶようです。DUESのようなSunkenupper eyelid(SUE)所見が重要らしい。こんな顔(SUE)は、SESに特徴的で、こんな顔をした患者さんが、最近ボヤける・焦点があわないなどと訴えて来たら、念頭にSESも浮かべるべき。優秀なORTへ橋渡しできるように頑張らないと・・
中高年の斜視に占める割合も、40歳代では殆どないが、徐々に増加し、90歳代では約半分。60歳越えると無視できない割合になるので、専門家でなくても無視できない。ただ、遠見内斜視(開散麻痺)と回旋斜視ともに斜視角は小さいので、診察医がチェック可能だろうか・・。これに対して、Graded vertical rectus tenotomy(GVRT)を行うらしい。ネットで拾った図だが、説明は『上直筋腱膜切開の手技を示す図。患者を中等度の鎮静下に置き、上直筋を露出させ、腱を挿入部付近で焼灼し、Westcottシザーを用いて腱に切り込みを入れる。患者を眼鏡(プリズムなし)で検査し、垂直偏位の矯正が不十分であれば、所望の効果が得られるまで腱膜切開を順次延長する。』
講演では、下直筋を点眼麻酔下で同じように少しずつ切開して、矯正効果を確認しつつ、切開を広げていくらしいが、定量性は乏しいらしい。話を聞けば聞くほど、専門家に任せるしかない疾患のようだが、きちんと診断して、対応可能な専門家送ることができるかどうかが問題かも。
https://www.aao.org/education/annual-meeting-video/topical-marginal-tenotomy
スマホ内斜視
スマートフォンに代表されるデジタルデバイス(DD)を若者が長時間使用することで発生する内斜視。若者に限らず、DD使用時間は、一昔前と比べるととんでもなく増加している筈だが、問題はやはり若者。低矯正眼鏡が原因だったりするので、適切な眼鏡を処方して、症状が消えることもあるが、多くは手術が必要らしい。
若者はテレビを見ない。新聞も読まない。これはとても良いことで、真実を伝えることを放棄した大手メディアを見ないことは、ある種の洗脳を回避できる。ただ、若者はデジタルデバイス、その殆どはスマホだと思うが、殆どそこから情報を得ている。テレビも見ないし、勉強さえ、スマホかPCだとすると、当然視聴時間は長くなる。低矯正の眼鏡・コンタクトでも不自由を感じないのかもしれないが、そんな状況がスマホ内斜視を生み出すようです。
眼鏡・コンタクトを適切な度数に調整して、スマホの時間制限が可能であれば、治ることもあるらしいが、このライフスタイルを変えるのは簡単な事ではない。自分に置き換えてもかなり難しい。それでも、比較的強めの近視のより若い世代(10代)は治りやすく、軽い近視の20-30歳代は治りにくいらしい。学生は治りやすいが、社会人は治りにくい。ライフスタイルに柔軟性のある世代の方が治りやすいのかな・・。
治らなければ手術(両内直筋後転)で、成功率93.8%と良好な成績。
※ 話は元に戻るが増加しているSagging eye syndromeにしてもスマホ内斜視にしても、手術にまで踏み切る施設は、どんどん専門病院に集約されているということなのだろう。