2023年 09月 26日
がんの近赤外光線免疫療法(光免疫療法)@第40回 日本眼腫瘍学会 (1263)

第40回日本眼腫瘍学会
関西医大が主管(会長髙橋寛二)なので、義理と人情で出席してきました。色々な学会に出席しましたが、眼腫瘍学会は初めてです。でも、聴講はノーベル賞候補とも言われる小林先生の特別講演だけ。ちょっと感動して帰ってきたので、報告を・・
※会場は、なんばスカイオ。地下鉄降りてウロウロしていると、道に迷ってしまい、焦りました。なんでミナミやねん。関西医大なのに・・
特別講演
がんの近赤外光線免疫療法(光免疫療法):現状と頭頚部がん以外の腫瘍への適応の可能性
小林 久隆 米国国立がん研究所(NCI)/関西医大・光免疫医学研究所)
癌をやっつけるのには、
- 1,がん細胞を減らす
- 2,免疫を強化する
この2つが必要で、近赤外光免疫療法(near-infrared photoimmunotherapy; NIR-PIT)は、非常に低侵襲で、がん細胞のみを特異的にやっつけることができて、残存しているがん細胞があったとしても、強化された免疫細胞でやっつけることが出来る・・・。そんな夢の治療らしい・・。楽天の三木谷氏が関わっているのは若干心配ですが・・。
近赤外光免疫療法(near-infrared photoimmunotherapy; NIR-PIT)
がんの細胞表面マーカーに結合する抗体と光活性化物質の複合体(antibodyphotoabsorber conjugate; APC)を投与する。
①がん表面の標的膜タンパクに対するモノクローナル抗体
- l EGFR:頭頸部がん・皮膚がん・卵巣がん・乳がん・肺がん・胃がん・膵臓がん・胆管がん・大腸がん・子宮がん・膀胱がんなど
- l HER2:乳がん・胃がん・膵臓がん・胆管がん・膀胱がんなど
※原理的には、抗原によって抗体を変えることで、90%の癌をカバーできる。
②IRDye700DX(IR700):青色の蛍光物質、人工色素。当初の目的は、がん細胞を光らすためのもの。フタロシアニンを水溶性にするために、モディファイしたもの。
※元々はがん細胞を光らせる実験をしていて、光ったと思ったらがん細胞が死んでしまったところからスタートしたらしい。
①と②をくっつけて(ナノダイナマイトと呼んでいる)、これに近赤外線を当てると、①+②は変形して、結合している膜タンパクを引き抜いて孔をあけ、そこから水が細胞内に大量に流入する。同時多発(数万?)的にこれが発生すると、がん細胞は死滅する。空母を小さな無数のドローンでやっつけるイメージ?ナノダイナマイトも、近赤外線があたらなければ、尿中に排泄される無害なもので、、近赤外線も無害(テレビのリモコンの光)。
- ①を色々変えれば、様々な癌に対応できる。
- ①をセツキシマブなら(アキャルックス)、頭頸部がん・・・ https://oncolo.jp/news/200928tm01
- ①をトラスツズマブならHER2陽性型乳がん・・・
- ①をCEA抗体で胆管がん
- ①をDLL3抗体で肺小細胞癌・・・応用は無限に広がる?
- ①は単独でも抗がん剤(分子標的薬)として使えるが、①+②として光免疫療法として使う場合は、①の量は10分の1ぐらいですむらしい。副作用少ないし、値段も安い。
- ①のターゲットをがん細胞ではなく、細菌、異常リンパ球、特定の老化細胞など、様々な応用の可能性あり。
ここまでの話は、がん表面の抗原に対するモノクローナル抗体にIR700をくっつけて、がん表面に結合させた状態で近赤外線をあてて、がん細胞を破壊するまでの話だが、光免疫療法のもうひとつの重要な作用として、破壊されたがん細胞による、患者さんの免疫細胞の活性化がある。放射線治療でも化学療法でもないので、免疫細胞は元気なまま。
光免疫療法による細胞破壊は、膜タンパクを損傷して、細胞内に水が流入して、破裂する(免疫原性細胞死)。しかも同時多発的に免疫原性細胞死が生じるので、細胞内の様々な物質が、フレッシュなまま大量に撒き散らされることになり、これが、免疫細胞に伝えられると、強力な免疫システムが発動しやすい。これによって、残存しているがん細胞も撲滅される?
https://gan911.com/column/1125/
ちょっと上記ホームページから『がん免疫』に関する記述をいただきました。
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がん免疫が機能しているということは、「がん」に対する免疫応答、つまり「がん免疫サイクル」が回り続けることを意味し、その結果としてキラーT細胞が活性化されます。このサイクルは以下の7ステップに。
- ①「がん細胞」から「がん抗原」が放出
- ②その「がん抗原」を樹状細胞が捕獲して、T細胞に提示
- ③この樹状細胞の抗原提示によってキラーT細胞がプライミング(免疫系を賦活するための予備刺激)および活性化
- ④活性化されたキラーT細胞は「がん」へと遊走
- ⑤「がん」へ入り込みます(浸潤)
- ⑥そこで「がん細胞」の存在を認識
- ⑦アポトーシス(プログラムされた細胞死)の誘導などにより「がん細胞」を破壊
これが一連のサイクルであり、このような過程を通して「がん細胞」が排除されます。
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この7つのステップのうち、①②③が特殊事情らしい。
- ①「がん細胞」から「がん抗原」が放出(光免疫療法では、免疫原性細胞死によって行われるので、フレッシュなままのがん抗原が、同時多発的に大量産生されます)
- ②その「がん抗原」を樹状細胞が捕獲して、T細胞に提示
- ③この樹状細胞の抗原提示によってキラーT細胞がプライミング(免疫系を賦活するための予備刺激)および活性化
光免疫療法では、①が特別な状況で、②③が迅速かつ強力に行われる。これがポイントのようです。なおかつ、この免疫システムは、記憶されていて、長い間(一生)機能し続ける可能性があるようで、動物実験では確認されている。
制御性T細胞とは:
https://www.ncc.go.jp/jp/ri/division/cancer_immunology/project/020/20170908150858.html
がん細胞に対する免疫応答のなかでも注目を集めているのが、制御性T細胞と呼ばれる免疫抑制細胞です。制御性T細胞とは、本来は自己免疫病などにならないように、自己に対する免疫応答の抑制(免疫寛容)を司っている細胞で、健康人のCD4+T細胞のなかの約5%を占めています。しかし、がん細胞はこの制御性T細胞を利用して、免疫系からの攻撃を回避しています。実際、悪性黒色腫や肺がんなどの多くのがん微小環境では、活性化して免疫抑制機能が強くなった制御性T細胞が、CD4+T細胞の20から50%に増加しています。
https://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-09/
免疫応答を活性化するアクセル(共刺激分子)と、抑制するブレーキ(共抑制分子)が存在します。後者は「免疫チェックポイント(immune checkpoint)」として機能。T細胞表面に『免疫チェックポイント分子』として存在。その一つがPD-1。がん細胞表面にPD-L1という分子があり、これがT細胞表面のPD-1と結合して無効化してしまうと、がん細胞は異物として認識されない。このPD-1とPD-L1との結合を阻止するのが、あの免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(PD-1抗体)。T細胞機能を正常に戻して、がん細胞を攻撃できる。
ここに光免疫療法の応用。
制御性T細胞表面のCD25に対する抗体にIR700をくっつける。これを投与しておいて、腫瘍周辺に近赤外線あてて、腫瘍周辺の免疫を活性化(正常化)させて、がん細胞を攻撃させる。この治療は、局所のがん細胞だけでなく、全身のがん細胞攻撃も活性化させることもあるらしい・・
https://rakuten-med.com/jp/news/press-releases/2022/06/01/8112/
- 1. EGFR発現している他のがん:乳がん(トリプルネガティブ)、子宮頸がん、大腸がん、非小細胞肺がん ⇒これで、全体の2割。
- ※ EGFRが発現していない膵臓がんにも有効なように、CD44、CEAなどにも
- 2. HER2:乳がん、胃がん、すい臓がん、胆管がん、膀胱がん
- 3. CEA:肺がん、すい臓がん、胆管がんなど
- 4. MUC1:大腸がん、虫垂癌、すい臓がん、胆管がんなど
この4つで、70-80%のがんをカバーできる。
新しい抗体ができたら、IR700をつければOK・・
※楽天メディカル、100施設以上でアキャルックス®とBioBlade®レーザシステムによる頭頸部アルミノックス治療の提供を実現・・。どんどん治療施設は増えているようです。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000043244.html
※例えば、がんが既に多数転移している場合でも、転移巣に対して、この治療を行うと、転移病巣だけでなく、原発巣も免疫は攻撃してれるらしい・・