2023年 12月 09日
第34回日本緑内障学会から プリザーフロマイクロシャント手術 (1272)

最近の緑内障手術はMIGSが全盛のようだが、その多くは流出路系手術。ロトミーinternoに分類されるトラベクトーム、谷戸式フック、カフーク、そして糸ロト。多分これらは、達成眼圧が15前後だろう。糸ロトを360度行えばもう少し下がるかも。線維柱帯に差し込むだけのiStentは、15まで下がらないかもしれない。同じメカニズムを期待する手術だが、切開するのと、差し込むだけの手術の違いが、意外とあるのかもしれない・・。緑内障を伴った白内障を手術する場合、これらを併用することで、白内障の単独手術と比較しても、白内障手術のレベルを落とすことなく、より眼圧を下げる(に違いない)手術を行うことができるとされている。ただ、達成眼圧が15前後では満足できない緑内障は多く、リスキーな従来型トラベクレクトミーやExpressよりも、簡単・安全、かつ15以下が達成可能かもしれない手術として、プリザーフロマイクロシャントに期待が集まっている。
結膜切開するが、強膜弁は作らない。ダブルステップナイフで、輪部から3mmの部位から線維柱帯を経由して前房へ達する通路を作成して、そこにプリザーフロマイクロシャントを差し込む。プリザーフロマイクロシャントの近位部長は4.5mmあるので、前房内に1.5mmほど出るのだろうか。また遠位長も3mmあるので、濾過胞は輪部より6mmより後方を中心として作成される筈で、テノンも被っているので、従来の濾過手術に比べるとかなり後方に安全な濾過胞が作成される筈。内径が70μmなので、過剰濾過もありえない?そんな良いことずくめの手術なのだろうか・・・。流出路系MIGSのつもりでトライすると痛い目に遭うかも。
この夏の緑内障学会のプリザーフロマイクロシャントのセッションから・・
O04-1 プリザーフロマイクロシャント術後早期成績 ツカザキ病院
術後早期成績は良好で、術後6ヶ月なら何とか15以下。
質疑:基本耳下側で行っている。虚血性の濾過胞できないので、大丈夫だと・・。虚血性の濾過胞は本当にできないのか、偶にはできてしまうものなのか・・。ここが結構問題かも・・・。過去の反省を踏まえるなら、日本である程度の成績が出揃うまでは、下方でやらない方がいいと思うのだが。テノンの処理は?通常は輪部までテノンもってくるが、余裕のない場合は、なるべく輪部に近いところに縫い付ける・・
O04-2 プリザーフロマイクロシャントを用いた濾過手術における術中OCTの有用性 神戸アイセンター
この手術手技で不確実性があるとすれば、ダブルステップナイフで、理想の通路を作成できるかどうかだが、そのために術中OCTを利用。輪部から3mmの部位から穿刺して、2mmほど少し浅めに入れて、その後虹彩と平行に方向を変えて、4.5mm(プリザーフロマイクロシャントの近位部の長さ)まで入れる。
ZeissのRESCANのライブ映像・リプレイ映像を見て、ダブルステップナイフでの通路作成をチェック。適切な通路出ない場合は、通路を作成し直す(2/12)。シャント挿入後不適切なら、通路を挿入し直した(3/10)。
この手術は挿入路作成がポイントで、意外と難しいのかも。スーパーサージャンY先生の意見が聞いてみたいが、きっと簡単やと言いそう・・。
質疑:ナイフが入っても、デバイスが入らない場合。少し水が漏れて前房が浅くなっている可能性あり。サイドポートから水を入れて前房深くすれば問題ない。また、虹彩・毛様体に当たると痛いので、確認できる。
O04-3 プリザーフロマイクロシャント術後早期における視力と眼球形態への影響 ツカザキ病院
眼圧は15弱まで下がるが、視力はほぼ不変。前房深度も、術直後は若干浅くなるが、すぐ元に戻る。角膜曲率・角膜厚など不変。つまり、レクトミーなんかと異なり、眼球形態への影響が殆どない。強膜を切らない・縫わないことが大きく影響しているようだ。
O04-4 プリザーフロマイクロシャントの初期成績 島根大学
1年弱の間に4施設で159眼に行った成績。過疎地で、そんなに適応症例が多いことにまず驚く。眼圧は術前平均20で、術直後10以下になるも、徐々に上昇して、9ヶ月後約13。特に問題のない成績。前房出血(14%)だが、以前のMIGSの部位(線維柱帯)から術後低眼圧が原因の出血が生じたのでは・・なさそう・・・(多分)。浅前房・脈絡膜剥離は7%。術直後は結構漏れる症例あり?とは言え、術後1年弱で、眼圧13から15ぐらいを目指す濾過手術としては、合併症も少なくて使える手術。目標眼圧が10前後は無理っぽい。
O04-5 プリザーフロマイクロシャント手術後早期の低眼圧と脈絡膜剥離 大阪大学
なんかちょっと普通のPOAGとは異なる背景を感じる・・。全例IOL眼だし、ロトミー後、ビト後、強度近視などが含まれている。術後1ヶ月で眼圧14。脈絡膜剥離や黄斑皺壁に難渋している。ちょっと条件の悪い眼にレクトミーした感じ。複雑な背景の緑内障にやったら、こんな感じ・・?
O04-6 緑内障患者に対するプリザーフロマイクロシャントの有効性と安全性 東京大学
術後3ヶ月の成績だが、術前眼圧別に検討されていて、15.3⇒10.5、26.9⇒12.9、17.0⇒10.7、12.4⇒10.3。術前眼圧レベルに関わらず、安全かつ有効な成績。ただ、術後3ヶ月まで・・(眼圧下降率41%)。さすが相原先生のところは、文句のつけようのない発表。
※いつも思うことだけど、緑内障は、少なくとも1年できれば5年ぐらいの成績が知りたいもの。その長期の結果が出揃う頃、つまり5年以上経過した時、発表された長期成績が惨憺たる結果だったら、既に多施設で多数行われてた症例の未来は暗い^^;
※前房出血は何故?どこから?合併症と言えるものか?ダブルステップナイフが線維柱帯を通ると出血する?もしそうなら正しく挿入ロ作成が作成されている証明?出血の有無と予後は?将来の課題・・
O04-7 プリザーフロマイクロシャント術と線維柱帯切除術の術後短期成績の検討 愛知医大
術翌日はプリザーフロマイクロシャントの方が眼圧低いが、短期的(1ヶ月)には成績ほぼ同等。プリザーフロマイクロシャントは術後介入する余地がなく、成り行き任せで10-15程度。レクとミーは介入する余地があり、頑張れば10以下も可能。やはり少しターゲットが異なるか・・・
O04-7 Preserflo Microshunt後に外科的介入を要する重度の脈絡膜剥離を生じた2例 さだまつ眼科
術後脈絡膜剥離多い(27.5%)のは、患者背景の問題・・?シャントの挿入方法の問題?対策として10-0ナイロンをステントとして入れておいて、術後極端に低眼圧がなければ抜くようにしているが、もっと根本的な問題があるのでは?(桑山先生)
※普通の眼に行うのであれば、多くの場合、何も問題が生じにくい安全な手術なのだろうが、報告する施設によっては、術後低眼圧・脈絡膜剥離に苦しむケースが少なくない。相原先生が言っていたように、術後積極的に介入することによって10以下を達成したりはできないが、特に合併症もなく10-15を達成できる安全な術式なのか、それとも、手技や患者選択を間違うと、通常の濾過手術の合併症を引き起こす危険な部分もありそうで、その辺は今後徐々に解明されていくのかも・・・