2024年 02月 07日
難治性眼疾患に挑む(第47回大阪市眼科研究会から)(1287)

特別講演
難治性眼疾患に挑む
京大眼科 特定准教授 池田華子
https://takeganka.exblog.jp/32459812/
集談会の特別講演でも少し似た話を聞いているので(かなり忘れているけど・・)復習^^;
- 神経節細胞の変性⇒緑内障
- 視細胞の変性⇒網膜色素変性症
- 網膜色素上皮の変性⇒加齢黄斑変性など
この変性に陥る網膜の神経細胞を保護できれば、これらの疾患の進行抑制が可能に。神経細胞保護の為には何をすればいいのか。

神経細胞の変性を抑制するために
- 細胞内のエネルギー消費を抑える
- 細胞内エネルギー産生を増強させる
この2つが重要なようで、まずは細胞内のエネルギー消費を抑える方法。ATPをADPに分解する過程でエネルギーが発生するのですが、この過程に必要な加水分解酵素(ATPase)を阻害するところから、話が始まります。話が意外にシンプルでとっつきやすい。
Valosin-containing protein(VCP):ATPase(活性を有する)
https://en.wikipedia.org/wiki/Valosin-containing_protein
ちょっと商売の匂いのするすごいネーミングの化合物だが、KUS化合物(Kyoto University Substance)が、VCPのATPase活性を抑制する。発表によると、『研究グループはこれまでに、VCP蛋白質のATP消費(ATPase活性)を抑制する化合物の探索を行い、 KUS剤を新規合成』を達成。
https://www.qlifepro.com/news/20160426/inhibiting-the-progression-of-glaucoma-in-kus-agent.html
- . 例えば低グルコース下で培養した細胞が細胞死に陥るのを、KUSが抑制。
- . 高眼圧モデルマウスにおいて、KUSを投与すると緑内障(神経節細胞死・乳頭陥凹)の進行を抑制。
- . GLAST欠損マウス(世界初のNTGモデル動物)においてもKUSは神経節細胞死を抑制し、網膜電図も維持した。
- . 網膜色素変性症モデルマウスの網膜変性(視細胞死)も抑制
- . 加齢黄斑変性モデルマウスでは、KUS投与でドルーゼン増加抑制
⇒様々なモデル動物において、神経細胞保護効果(+)
このKUSを臨床応用するために、短期間でその効果を確認する必要がある。変性疾患の進行抑制は、効果判定に何年もかかってしまうので、First in human試験として、網膜中心動脈閉塞症を対象疾患とした。
- https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2019documents200214_201.pdf
- https://www.ophthalmol.kuhp.kyoto-u.ac.jp/page_clinical_trial_of_info.html
※ CRAOは様々な治療が行われいるが、有効と確認されている治療はなく、むしろ何もしないほうがいいという報告があるくらい(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26258861/ )。ラットを用いた虚血再灌流モデルでは、KUS投与によって、網膜神経細胞死の抑制効果が確認されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7018138/
抄録: 『京都大学物質(KUS)121は、バロシン含有タンパク質のATPase阻害剤であり、新規の神経保護剤である。我々は、急性網膜中心動脈閉塞症(CRAO)患者におけるKUS121の安全性と有効性を試験した。われわれは、医師主導のヒト初の第1/2相臨床試験を行った。4〜48時間持続する非動脈炎性CRAO症状を有する9人の患者が登録された。これらの患者にはKUS121の硝子体内注射が3日間毎日行われた。最初の3人の患者には25μg(低用量)、次の6人の患者には50μg(高用量)が投与された。主要エンドポイントは薬剤の安全性であった。副次的エンドポイントとして薬物動態が評価された。その他の重要な副次的エンドポイントは、ベースラインから12週目までの早期治療糖尿病網膜症研究チャートを用いて測定された最良矯正視力(BCVA)、視野スコア、網膜感受性の変化、および12週目の小数BCVAであった。KUS121投与による重篤な有害事象は認められなかった。9例全員(100%)にBCVAの有意な改善がみられた。平均可読文字数、視野スコア、網膜感度も改善した。12週目における10進数のBCVAは、4例(44%)で0.1より良好であり、7例(78%)で0.05以上であった。この人類初の臨床試験は、KUS121硝子体内注射の安全性と有効性を裏付けるものである。急性CRAO患者に対する安全性と有効性を立証するためには、さらに大規模な臨床試験が必要である。』
⇒KUS121の有効性と安全性を確認された。自然経過だと視力改善36%ぐらいだが、今回KUS投与で100%視力改善。自然経過だと70%が失明だが、治療により78%が失明を免れた。
網膜中心動脈は、時間の経過とともに血流は再開されるが、KUSを投与して血流再開されるまでの間の神経細胞死を抑制できた。
将来的には注射ではなく、点眼化できたらベスト。RCSラットでは、点眼でも効果があるらしい。
次のステップは、細胞内エネルギー産生増強
分岐鎖アミノ酸:Branched ChainAmino Acid (BCAA)
- https://www.ajinomoto.co.jp/amino/about/classified/bcaa.html
- https://www.otsuka-plus1.com/shop/pages/amino_trivia_bcaa.aspx
『「分岐鎖アミノ酸(BCAA=Branched Chain Amino Acid)とは、骨格が一部分岐した分子構造をもつアミノ酸のことで、バリン、ロイシン、イソロイシンの3つのアミノ酸がそれにあたります。これらのアミノ酸は体内で作り出すことができない必須アミノ酸であるため、食べ物から摂取することが必要です。
分岐鎖アミノ酸は、筋肉中のたんぱく質に含まれる必須アミノ酸のうち約40%を占めており、運動時に重要な役割を果たすアミノ酸です。最近では運動の持久力を高めたり、筋肉痛を軽減する可能性を示す報告もあります。』
培養細胞において、小胞体ストレスを誘導する薬物を投与しておいて、分岐鎖アミノ酸濃度を上げると、ATP濃度減少を抑え、細胞死を抑制する。BCAAは、細胞のグルコース取り込みを増強しているらしい。網膜色素変性症モデルマウスにBCAA与えると視細胞死を抑制。網膜電図の変化も抑制。網膜色素変性症患者さんにBCAAを内服してもらうと、医師主導試験では、視野・OCT(Ellipsoid zone長)とも進行抑制効果確認できなかったが。KUSとの合わせ技で、神経保護効果期待できる?
クリスタリン網膜症
遺伝性の網脈絡膜変性疾患で、治療法なし。この難治性眼疾患の病態を解明して、治療法の開発へ・・
以前の集談会メモから
クリスタリン網膜症 :Bietti Crystalline Dystrophy (BCD)
遺伝性の網脈絡膜変性疾患で、治療法なし。進行するとクリスタリンも消えていく。まず網膜色素上皮が変性して、その後網膜変性へ。原因遺伝子:CYP4V2
BCD患者さんのiPS細胞から網膜色素上皮を分化誘導(BCD iPS-RPE)。大小不同で、六角形を呈しない。やがて変性・細胞死へ。細胞内色素顆粒増加。細胞内のオートファジーの分解系の障害で、細胞内に老廃物蓄積。どうも、リソソームが機能していないらしい。リソソームのアルカリ化で分解系が働かないらしい。最終的にわかった事は、CYP4V2変異⇒⇒・・細胞内コレステロールエステル減少・遊離コレステロール増加⇒オートファジー機能障害⇒網膜色素上皮変性へ・・
治療としては、『遊離コレステロール増加』を抑えること。様々な薬剤でトライしてみた(シクロデキストリンなど)・・・BCD iPS-RPEのリソソーム機能改善(+)。オートファジーも改善。網膜色素上皮変性抑制(+)。ただ、網膜へのドラッグ・デリバリーが問題。
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K16967/