2024年 09月 02日
第461回 大阪眼科集談会 特別講演 小児の眼腫瘍 その4(1315)

「小児の眼腫瘍(網膜芽細胞腫を中心に)」
鈴木茂伸 先生(国立がん研究センター中央病院)
意外と言っては失礼だが、興味深い内容だった。日本全国の網膜芽細胞腫の殆どを一人で診ているような先生の発表。私事だが、恩師の宇山先生が眼腫瘍に精通しておられたので、我々もおこぼれで何度か遭遇した経験があり、当時関西医大からも21例28眼の発表をしたことがあった。確か高橋先生も『Trilateral Retinoblastoma 3側性網膜芽細胞腫と思われる1例』という発表をしていたし、私でさえ、『網膜細胞腫retinocytomaの1症例』なんて論文を書いている。全て宇山教授の影響で・・。当時、網膜芽細胞腫を勉強すると、必ず箕田健生先生の名前が頻回に登場したが、今なら鈴木先生なのだろう・・
あれからうん十年。長期間、勉強していない間に、随分状況が変わっていた・・・。網膜芽細胞腫は悪性腫瘍なのだが、診断は臨床診断。眼球摘出しないと病理組織を見ることができないので、眼底検査や画像検査で診断して、治療を行うことになる。子供に、白色の隆起した網膜の腫瘍があり、エコーやCTで石灰化が確認されたら、ほぼ決まり。非常に小さいものだったら、光凝固だけでも治療可能だが、そんなケースは稀で、通常はまず化学療法⇒VEC(ビンクリスチン・エトポシド・カルボプラチン)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/010/pamph/pediatric_cancer/070/index.html
鈴木先生のところだけは、メルファランの選択的眼動脈注入を併用するので、VECは2クール。海外はマイクロカテーテルで眼動脈に直接高濃度のメルファランを入れるので、高度の網脈絡膜萎縮をきたす。国立がん研は、バルーンで内頸動脈を一時的に遮断して眼動脈へ流す方法。
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/ophthalmology/020/index.html

これにより、眼球を温存できて、有効な視力を残せる症例が増えた。硝子体播種した場合は、メルファランの硝子体注入。
※昔行っていた放射線治療は、二次がん、骨成長障害の為しなくなった。ただ、放射線治療は有効なので、以前ならリニアックだが、今は陽子線治療(深部に届かない)。それでもダメなら、眼球摘出。この場合、境界部分での浸潤の有無が重要。
眼球摘出後は、リスクに応じた後療法が必要。ただ、その有効性は明らかではない・・・というか、基本全例することになっている。その方法は統一されてない。
治療方法には、①化学療法:VEC、放射線:陽子線と、②局所療法:選択的眼動脈注入(メルファラン)、TTT、光凝固、クライオ、硝子体内注入・・・がある。比較的少数回の治療で、治ることもあれば、何度も何度も再発して、その後2次癌が発生することも。
ただ、一応治療の流れは、システマチックになっていて、網膜芽細胞腫RBが発見されたら、とりあえず国立がんセンターNCCへ送り、治療方針を決定。
比較的初期で眼球温存できる場合は、
- ①初期化学療法(地元):VEC
- ②局所治療(NCC):選択的眼動脈注入・TTT・光凝固・クライオなど
※この治療中止の判断は、眼底検査で。
- ③経過観察(地元のみ?時々NCCも):RBの再燃・再発のチェック(半年以内は要注意)と、他の眼合併症のチェック。
- ④再発したら追加治療(NCC)
・・・・・こんな感じ。
眼球温存できなかったら、
- ①摘出(NCC)
- ②初期化学療法(地元)
この場合、勿論他眼の経過観察は重要だが、もし眼外に腫瘍が浸潤・転移していたら、眼科より小児科領域の治療が主体となる。
※眼合併症の対応
- 1)白内障:通常通り手術
- 2)網膜剥離:硝子体手術は危ない(眼外へ癌細胞が流出する可能性)ので、バックリンクのみ。それも排液しないで・・
遺伝子検査と遺伝学的検査
RB1遺伝子について
- https://www.falco-genetics.com/retinoblastoma/
- https://jsht-info.jp/general_public/wp/wp-content/uploads/2022/04/about_12.pdf
日本遺伝性腫瘍学会のHPから
『網膜芽細胞腫の原因遺伝子はRB1遺伝子です。1細胞の中に2つのRB1遺伝子があります。両方の遺伝子がうまく働かない状態(変異)になるとがん化します。遺伝性ではない網膜芽細胞腫は、網膜の1細胞で両遺伝子に変異を生じた場合(two-hit)です。他の細胞に変異がないので遺伝しません。遺伝性の網膜芽細胞腫は、親から変異したRB1遺伝子を引き継いだ場合です。複数の細胞でもう一つのRB1遺伝子に変異を生じるため(2ndhit)、多発・両側発症になります(松果体にもできる三側性RBもありうる)。網膜以外の細胞でも、RB1遺伝子の関与する肉腫などの関連腫瘍(二次がん)を発症することがあります(15年で10%ほど)。』
したがって、両眼性は遺伝性。ただ片眼性で遺伝性の場合もあり(1/6ほど)。二次がんについては、特別なチェック体制があるわけではない。注意して経過をみるだけ・・
https://www.falco-genetics.com/retinoblastoma/

Germline mutation⇒
- https://www.rhelixa.com/knowledgebase/germline-mutationandsomatic-mutation/
- https://www.falco-genetics.com/retinoblastoma/
この会社でRB1遺伝子の検査可能。保険適応(+)。ただ肝心の兄弟や近縁の人の検査は自費になる。
出生前診断:日本では触れてはいけない領域?
https://www.kyoto.saiseikai.or.jp/pickup/2023/01/-nipt.html
着床前診断:体外受精させた胚の遺伝子を検査。イギリスでは保険適応。
- https://sph.med.kyoto-u.ac.jp/gccrc/pdf/090918_a1_cyakusyoumae.pdf
- https://www.oakclinic-group.com/pgd/?gad_source=1&gclid=CjwKCAjwxNW2BhAkEiwA24Cm9C_pwMYNp3WHtK39sCDAwPOav7Ta7KRXgxqplMQ19fgPCpkl-JtnzRoC-yUQAvD_BwE
※日本とアメリカでは状況がかなり異なる・・。
※アメリカでは、基本遺伝子検査を行い、リスクに応じた検査。もしくは統計学的リスクに応じた検査を続けることになる。
眼窩腫瘍
1,リンパ管腫
リンパ系脈管奇形とも呼ばれ、出血しなければ、やがて退縮して問題ないのだが、出血すると問題になる。摘出困難で、出血と戦いながら?視機能が保たれているのなら、経過観察がベスト。
https://rapalimus.nobelpark.jp/
mTOR阻害剤のラパリムスがこの病気に使える・・らしい。今後期待される薬物。
2,横紋筋肉腫
世界的に最も歴史が古く大規模な米国横紋筋肉腫治療研究グループ(IRSG)があり、そこの第5世代臨床研究のリスク分類

※眼窩は予後良好部位。
治療:摘出(亜全摘)、化学療法+放射線治療、白内障が出てくるのでそれの手術。
※化学療法+放射線治療は小児科で
3,視神経膠腫
眼科で扱うのは視神経膠腫。視神経だけ、視交叉、視索に及ぶ場合など部位により症状が異なる。治療は薬物治療。放射線治療は有効でない・・・。治療は脳外科・小児腫瘍科が主体に。
- https://www.jsn-o.com/guideline2021/ophg2021.html
- http://jpn-spn.umin.jp/sick/h4.html
- https://youtu.be/QTbQzodz2vg?si=RYg_xXL7uRloHjz3