2024年 09月 10日
第27回京阪沿線眼科勉強会 頭痛の勉強と・・ (1316)

枚方駅前のカリスマ眼科医主催による勉強会。
今回は眼科臨床を長らくしているものとしては、かなり気になる頭痛の勉強と関西医大眼科の新教授の話。興味津々・・
脳神経内科領域でみられる眼疾患に伴う頭痛・片頭痛の関与
関西医科大学 神経難病医学講座教授 髙橋牧郎
眼科臨床を長らくしていると、頭痛を伴う眼疾患の患者さんを数多く経験する。緑内障患者さんが片頭痛を伴ったりすることもあるし、以前NTGと片頭痛の関係性が話題に上がる機会は多かったが、頭痛の専門家の講演を聴く機会は殆どなかったので、貴重なひとときとなりました。ちょっと難解でしたが。
頭痛の種類は山程あるが、まず片頭痛について。
娘が中・高の頃、しばしば片頭痛に悩まされていた。前兆(チカチカ)のあと、頭痛と悪心・嘔吐(随伴症状)がやってくると、しばらく動けなくなる。手元にあったロキソニンで治まることもあるが治まらない事も多く、少し勉強して、当時、トリプタンを用意し、なるべく前兆の段階で内服させていたが、即効性があまりなく、悪心・嘔吐が始まると内服不可能となるので、皮下注も用意したが、それもあまり著効とはいかず、患者(娘)から信頼が得られなかった思い出がある。今ならレイボー内服させて、もう少し信頼を得られたかも・・
片頭痛
この臨床症状は、いつも参考にしているHPを参照(↓)
この中に、『片頭痛は生活をおびやかすほど強い頭痛。片頭痛の本質は生活の質を犯すことである。Neurology 2000 55: 610-1.』・・とあるが、頭痛の専門医って少ないような。近くに神経内科の先生がおられて重宝しているが、脳神経外科って少しハードルが高いので、低いハードルの頭痛専門医がもっと増えてほしい。
あまり聞いたことのない言葉:Stigmaが出てきた。
これは、『社会の規範から逸脱している属性を有しているとみなされて、信用を失ったり価値が損なわれたりする』ことで、片頭痛持ちは、この傾向が高く、片頭痛に関連したスティグマ (migraine-related stigma) MiRSと呼ばれる。このスコア(Stigma Score)が、てんかんは低いが、慢性片頭痛は高い。何度も何度も片頭痛が原因で仕事を休んでいると、頭痛ぐらいで休んで・・と理解されず、社会的な信用が低下する・・ということか。
三叉神経・自律神経性頭痛(TACs:Trigeminal autonomic cephalalgias)
三叉神経領域の痛みと自律神経症状が同時に出てくる頭痛の総称。眼の周囲痛みや眼窩深部痛、側頭部の頭痛と同時に、鼻水や鼻閉、充血、流涙、眼瞼腫脹・下垂、縮瞳、顔の発汗などの自律神経症状があっても、眼科医は、TACsを鑑別診断の上位に持ってこないのではないだろうか。今更遅いと怒られそうだが、この言葉が、勝手にTake home messageかも。
このTACsには、
① 群発頭痛:15~180分。
群発期と寛解期があり、群発期には毎日のように頭痛(+)。『目の奥がえぐられるような痛みと表現したり、じっとしていられず、転げまわる人もいるほど』。アルコールは誘因となる。
② 発作性片側頭痛:2~30分(群発より短い)。※インドメタシン著効
③ 短時間持続性片側神経痛様頭痛発作:数秒~数分(更に短い)。刺すような痛み。
l SUNCT(サンクト):結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作
l SUNA(スナ):頭部自律神経症状を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作
④ 持続性片側頭痛:1日中 ※インドメタシン著効
などが含まれる。
※この三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)は、眼科医なら知っておかねばならない疾患だろう。
※頭痛ダイアリーの重要性
https://zutsu-online.jp/diary/about.shtml
一般的な頭痛の分類
1) 緊張型頭痛:30分~7日。最も一般的で2000万人ほど
※もっとも一般的な頭痛で、肉体的・精神的ストレスが原因。ストレス解消、リラックス、入浴などで改善が得られたらOK。鎮痛剤の乱用は薬物乱用頭痛に注意。
2) 片頭痛:4~72時間。84万人ほど
3) 群発頭痛:15~180分。重症、耐えられない痛み。12万人ほど。
片頭痛 Migraine

※特殊ケースに『網膜片頭痛』というのがある。通常前兆(脳由来なので)は両眼に来るものだが、片眼だけに前兆がくる場合、そう呼ぶらしい。

今ではあまり問題になることは少ないと思うが、かつて、正常眼圧緑内障との関連が非常に話題になった時代がある。少なくとも現在では、日本において片頭痛の患者さんにNTGが多いと理解していない。
この片頭痛は、『光がチカチカ・キラキラ』、『視野の一部に歯車のようなギザギザしたものがあらわれる』、『視野の一部が欠ける』などの前兆(視覚異常)を伴う場合と伴わない場合がある。脳神経内科の先生は、前兆を伴わない片頭痛が多いと言われるが、多くの眼科医は、前兆だけの患者さんを山程見ている筈。私の少ない経験の中では、閃輝暗点の患者さんのごく一部が頭痛を伴う感じ。多分頭痛がメインの患者さんは、眼科ではなく、神経内科・脳外科を受診しているのだろう。
治療:
① 急性期の治療
軽症であれば、NSAIDsが一応有効とされていて、これで対応。
https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/2/2-2-9.htm
中等度以上なら、NSAIDsが無効ならトリプタン系、ジタン系
※レイボー(ラスミジタン)(5-HT1F受容体作動薬):かつては、トリプタンしか選択肢がなかったが、ジタン系薬剤(レイボー)が登場した。(セロトニン(5-HT)1F受容体をブロックして片頭痛を誘発する物質の放出を止める)。トリプタンのもつ血管収縮作用がない。
https://kuwana-sc.com/brain/2619/
https://www.reyvow-patient.jp/
② 予防:セルフケアによる予防と薬物による予防がある。
良質の睡眠・バランスのいい食事、前兆があればお風呂は避けるなど・・・
薬物:抗てんかん薬、降圧薬、CGRPやCGRP受容体を対象とした薬物
l CGRPに対する抗体:「エムガルティ®︎」「アジョビ®︎」
https://www.emgality-patient.jp/
l CGRP受容体抗体:「アイモビーク®︎」。
https://www.aimovig-pts.jp/about
③ 日常生活の工夫
https://www.henzutsu.info/treatment/ingenuity
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここで、また聞いたことがあるようなないようなワードの登場
大脳皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)
『片頭痛の前兆が出現するメカニズムとしては、一過性の大脳皮質ニューロンの過剰興奮に引き続いておこる電気活動抑制状態が2-3 mm/分の速度で大脳皮質を伝播する皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)と呼ばれる現象』らしいが、このあたりから、ちょっと理解困難になってきた。
※CSDは片頭痛の前兆症状(視覚異常など)の神経生理学的基盤であると考えられている。閃輝暗点の移動速度とCSDに速度が同じ?移動する視覚異常はCSDで説明可能?
※CSDは、脳血管障害・外傷など様々な病的条件下で見られる・・らしい。
一部省略
次の謎ワード:アロディニア
片頭痛を速やかに治療せず、慢性化してしまうと、発生する現象。
主として三叉神経領域の皮膚において、痛みの感受性が高まり、「そよ風が冬の木枯らしの様に頬が痛く感じる」、「髪をとくと、針で刺した様に痛い」、「化粧ブラシでも顔面がビリビリする」・・らしい。皮膚アロディニア(CA)と呼び、中枢性感作が成立したことを示しているらしい。『頭頸部にCAが認められる場合は三叉神経脊髄路核レベルで、上肢などの頭頸部以外の部位でCAが観察された場合は視床レベルでそれぞれ感作が成立したと考えられている』らしい。
https://www.jhsnet.net/zutu_topics_36.html
https://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-fukuchiyama-170331.pdf
※ドライアイが継続していても角膜アロディニアあり?異物感・乾燥感など様々な違和感を訴えるドライアイ患者さんに組織障害が殆どなく、BUT短縮だけのことが多いが、これも中枢性感作なのだろうか・・
片頭痛予防薬
CGRP抗体
https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/CGRP/2.pdf
『片頭痛患者の頸静脈における血中 CGRP 濃度が発作時に有意に高値であることなどが明らかになっている。CGRP が過剰に放出されることにより、血管拡張作用、血漿蛋白の漏出、肥満細胞の脱顆粒により三叉神経血管系に神経原性炎症が惹起され、疼痛シグナルが中枢へ伝達して大脳皮質で痛みとして知覚される。』
CGRPに対する抗体が、「エムガルティ®︎」「アジョビ®︎」で、CGRP受容体抗体が「アイモビーク®︎」。有効だが、結構高価らしい。
※片頭痛の予防薬であるエムガルティの自己負担額は、保険3割負担の場合、初回は約27,000円、2回目以降は約13,500円です。エムガルティは、初回に2本注射して薬の血中濃度を上げた後、翌月から毎月1本を皮下注射します。一般的には3ヶ月かけて効果を判定し、効果があれば6~12ヶ月程度は継続することが多い・・・らしい。最初は高いが、維持治療になれば・・・
※全く関係ないが、加齢黄斑変性治療を含む最近の治療薬は、定期的に長期間投与し続けるタイプが多くないか?製薬会社は儲かって、患者さんの経済的負担は大きい。そして、金の切れ目が・・・。まさかとは思うけど、意図してこのタイプの薬剤開発する傾向はないだろうか・・。もし一発で治る薬剤を開発したら、背任的行為?コロナ騒動以後、どうも最近製薬会社に懐疑的な私^^;
そろそろ疲れてきたので終わりにしようと思うが、気になった疾患を少し・・・
① 一次性穿刺様頭痛(アイスピック頭痛(ice-pick pains)、ジャブ、ジョルト(jabs and jolts)、眼内針症候群、周期性眼痛症、鋭利短時間持続頭痛などと呼ばれた頭痛)
https://kuwana-sc.com/brain/405/
殆どは3秒以内。自律神経症状伴わない。
② 再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー
https://kuwana-sc.com/brain/480/
動眼神経が多いらしいが、頭痛後麻痺を繰り返す疾患。子供に多くて、長時間の頭痛後、麻痺が現れるが通常可逆性。
③ 虚血性眼球運動神経麻痺による頭痛
④ 傍三叉神経交感神経症候群(レーダー症候群)
※三叉神経領域の痛みとホルネル症候群
※眼症状を伴う頭痛・顔面痛は、実に様々な疾患でありうる。通常の眼疾患の知識だけでは解決しない。もう少しこの分野勉強しなければ・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――
網膜硝子体手術 現在できること、これから評価したいこと
関西医科大学 眼科学教室 主任教授 今井尚徳
関西医大の新しい眼科教授の初めての講演だったので、京阪沿線以外の眼科医の参加も多かったかな。手術が好きで、新しい技術を駆使できる環境が楽しそうな若い教授の話。
1) 術中OCT
- 黄斑円孔に網膜移植を行う場合に、移植網膜の前後方向の位置の確認が正確に行えるので、成績向上につながる。
- バックリングによる隆起上に円孔が確実乗っているかどうか確認
- 糖尿病網膜症の硝子体手術も手術しながら、術中OCTでプラン変更
- IOLの強膜固定で傾斜を予防可能
2) DigitalAssisted Vitrectomy (DAV)
デジタル処理によって、見たいものを見やすくしたり、見えないものを見えるようにしたり・・・
l コントラスト感度の調整
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8818890/
- https://www.myalcon.com/professional/cataract-surgery/surgical-equipment/ngenuity-3d-system/
l 術中FA、OCT
- https://www.vrsurgeryonline.com/02-equipment-setup/05-intraoperative-oct/index.php?r=8779
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10659255/