2024年 10月 28日
第35回日本緑内障学会 須田記念講演 (1322)

第35回日本緑内障学会 須田記念講演
生理活性脂質から眼圧の謎に迫る! 相原 一(東京大)
最近の大学病院のトップはどこもかしこも網膜硝子体の専門医が多い。恐らく営業的にその方が有利だからなのだろうが、そんな大学ばかりじゃ面白くないなあ。かつて、阪大の眞鍋先生が角膜、大阪医大の東先生が緑内障で、関西医大の宇山先生が網膜だった時代が懐かしい。ただ、東大の緑内障は、三島先生の時代から、緑内障には力を入れておられ、新家先生をへてその伝統が受け継がれている。
難しい話が多い須田記念講演だけど、ちょっと頑張って聴講してみた。
結果としての緑内障性視神経萎縮ではなく、眼圧の謎、眼圧・房水動態を制御しているメカニズムの謎に迫り、新しい眼圧制御方法へ道筋を示してくれる素晴らしい講演だった。いつもの事だけど、情報量が半端なく、怒涛のごとく押し寄せる情報に、ちょっと疲れてしまった^^;
眼圧と脳脊髄圧の圧差で神経線維が前後方向のストレスを受け(GON)、眼軸伸展伴い黄斑部へのシアストレスが加わり(MON)、神経線維障害が発生している。眼圧がどのようにコントロールされているのかは不明だが、すべての脊椎動物の眼圧が10-20らしい。また眼圧は、様々な変動要因があるが、できれば24時間眼圧測定してみたいと。もし3ヶ月に一度のアプラネーションではなく、24時間、真の眼圧がモニタリングできれば、緑内障治療概念が大きく変化するかもしれない・・(気がする)。
眼圧・房水動態メカニズムが解明されていて、どうすれば眼圧が下がると理解の上で、薬物が誕生している訳ではなく、偶々眼圧が下がる薬物が見つかったので、緑内障用薬剤として使用されていることが殆どだが、演者が行った基礎研究の教室が、脂質専門の教室で、結果としてそこで緑内障と関わりの深い研究を行うことができたらしい。
リン脂質から生成される様々な脂質メディエーターがあり、現在緑内障治療第一選択薬となっているラタノプロストも、脂肪酸由来の生理活性物質。
※脂質メディエーターとは、生体内で合成される脂質分子のうち特定の代謝経路を通じて生合成され、細胞外に放出され、特異的受容体を介して比較的低濃度で生理活性を示し、速やかに不活性化されるものを指します。
PGF2α関連物質からラタノプロストが開発された(1986年)。日本発売は1999年。初めてチモロールの眼圧下降を上回る点眼の登場で、非常にセンセーショナルだったのを覚えている。症例によっては、ロトミーと同程度の眼圧下降が得られた。ただ、この時も、作用機序の基礎研究はできていなかった。
ROCK阻害薬の登場。このあたりの話は、以前本庄先生の講演で聞いた記憶がある(難解だったけど・・)
https://takeganka.exblog.jp/32336176/
POAGの病態:線維柱帯・シュレム管における細胞外マトリックスの増加、組織の瘢痕化が原因で眼圧上昇する。POAGでは房水中にTGFβが多い。ROCK阻害薬は経線維柱帯流出路に作用するが、この細胞内Rho-ROCK経路の上流にあるのが、リゾリン脂質で、彼の教室ではこれを研究していたらしい。リゾリン脂質由来の生理活性物質のひとつLPA(リゾフォスファチジン酸)に注目。眼疾患や手術で前房内LPA上昇すると、Rhoが活性化して、ECM上昇、TM細胞骨格変化して、眼圧が上昇する。当時前房内LPAは測定できなかったが、LPA受容体は解明された。
ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロストのプロスト系は代謝型がプロスタノイドFP受容体と結合するだけだが、ビマトプロストは、ブロスタマイドFP受容体と結合し、代謝型はプロスタノイドFP受容体と結合している(その分眼圧下降効果大きい?)。また、PG受容体のEP3受容体も眼圧下降に関与していて、開発中のFP/EP3デュアル作動薬(セペタプロスト)は、ラタノプロストと比較すると、眼圧下降度は同程度だが、より長期間眼圧を下降させることができる。
https://www.santen.com/ja/news/2024/2024_1/20240926
PAP(PG associated periorbitopathy)について⇒PG関連薬が脂肪細胞の脂肪産生抑制。脂肪細胞がなくなるわけではなく、中止すれば回復可能。PG関連薬の中から、EP2受容体作動薬が発売に(オミデネパグイソプロピル:OMDI)。線維柱帯、ぶどう膜強膜両方の流出路に働く。ラタノプロストに非劣性で、PAPが生じない。ラタノからOMDIにチェンジすると、PAP改善する。
生理活性リゾリン脂質LPAとその産生酵素ATXによる眼圧制御
https://takeganka.exblog.jp/32336176/
Rho-ROCK経路が活性化すると、線維柱帯の流出抵抗が上昇する。LPAは、『Rhoアゴニストのひとつ。LPAはすぐに消えて測定困難なので、産生酵素であるATXを調べたら、やはり上昇していて、同時にLPAも上昇していたらしい・・。しかも眼圧が高いと、その数値も高い。』やがて、LPAも測定できるようになり、ATXもLPAも眼圧が高い緑内障では高濃度だった。ATX・LPA活性化は線維柱帯瘢痕化・眼圧上昇に関連。PSSでの急激な眼圧上昇もこの経路が関与。ROCK阻害薬もその一つだが、当然その上流のATX―LPA経路を抑える治療が、線維柱帯流出抵抗増大による眼圧上昇を抑えることに繋がる可能性あり。
ATXをターゲットにした治療の創薬。ATX阻害薬から新薬を見つける作業が始まり、Aiprenon点眼が・・。マウスで眼圧下降、レーザー後眼圧上昇予防効果(+)。ヒト線維芽細胞線維化抑制効果(+)。Rho-ROCK経路抑制して一過性眼圧下降。ECM蓄積抑制による慢性的眼圧上昇抑制。
※ATX-LPA活性高いと、やがて眼圧上昇リスク(+)。ATXは将来の眼圧上昇マーカーになりうるかも。
慢性高眼圧モデルマウスの作成:タモキシフェン点眼でATX過剰誘導され眼圧上昇をきたすモデルマウスが作れた。数カ月間高眼圧持続する。隅角線維柱帯の線維化、RGC減少も確認。
眼圧制御メカニズムの解明:線維柱帯に機械受容体があり、眼圧上昇し、伸展されるとPGE2が出てきて、線維柱帯細胞収縮を抑える(自己調節能)。この自己調節能が壊れると、どんどん眼圧上昇?
※線維柱帯細胞の機械的刺激(伸展刺激)をPiezo1やTRPV4チャンネルを介して、細胞内のシグナルに変換。
※Piezo1:機械刺激―細胞内シグナル変換器として機能するメカノセンサーチャネル
https://www.amed.go.jp/news/release_20181127.html
⇒『細胞の振る舞いが機械的な刺激に影響されることは現在広く知られています。しかしながら、細胞が機械的な刺激を感知する分子メカニズムや機械刺激感知の生体内での寄与についてはまだまだ謎に包まれています。タンパク質PIEZO1/2は近年見つかった機械刺激―細胞内シグナル変換器として機能するメカノセンサーチャネル注1)であり、細胞膜の張力変化に応じて開口し、細胞内に陽イオンを取り入れ、細胞内にその情報を伝えます。』
※TRPV4 : 『TRPV4チャネルは皮膚表皮細胞や骨・筋肉・神経の細胞に発現し、体温近くの温かい温度刺激や機械刺激、細胞膜由来の脂質等で活性化』
https://www.nips.ac.jp/release/2024/04/trpv4_1.html
※難解ではあったが、生理活性脂質から緑内障の眼圧に関するメカニズムを解きほぐされ、少し眼圧について理解が深まった・・・ような気がしてきた。
※もうかなり前になるが、演者と濃霧に包まれた霧島高原ゴルフ場でお会いしたことがあるが、とっても感じのいい人物だったと記憶しているが、気がつけば雲の上の人になっていた^^;
